2023/07/16 のログ
ご案内:「落第街 路地裏」にフロッグ・ディスペアーさんが現れました。
フロッグ・ディスペアー >  
路地裏に追い詰められた男。
彼は二級学生だった。
だからといって、こんなところで黒い外套の男に追われる謂れはないが。

「鬼ごっこはやめようぜ、俺ぁこう見えても足が疾いほうなんだ」
「ああ、それとも土地勘があるから上手く撒けるとか思ったか?」
「残念だ、俺たちは鼻が利く個体も多い」

妙に饒舌なその黒い外套の男は。
これまた奇妙に生臭い………悪臭と言って差し障りのない体臭を撒き散らして。

「悪いようにはしねぇからさ、ちょっと付き合ってよニイちゃんヨ」

フロッグ・ディスペアー >  
ブヨブヨした緑色の太い指を左右に振り。

「見ての通り治安が良くない場所だ、夜でもある」
「お前一人いなくなったって誰も気付きはしないサ」

外套の下で粘着質な声で嗤う怪人。

「俺は紳士なんだ、乱暴は好まない……」
「よっぽどのことが起きない限りはナ」

言っている間に後ろから覆面をした、“組織”の構成員がやってくる。
大勢に追い詰められた形になる二級学生の男。

フロッグ・ディスペアー >  
「お前……パイロキネシス系の能力なんだって?」
「でもその異能を好んでないし、使いたがらない」

ゆっくりと二級学生の男に近づきながら語りかける。

「それはお前の中の倫理観がブレーキをかけてるんだヨ」

鼻孔を刺す悪臭を漂わせながら語る。
語る、語る、語る。
無聊を託つ旧知の仲でそうするかのように。

「倫理を捨てるところからだな……お前はきっと“良く”なる」
「素晴らしくなるんだ、その時には俺とお前は同士だ」

二級学生の男 >  
多勢に無勢。
オマケに戦い慣れていない自分にこの場を切り抜けることはできないだろう。

でも。

「何を言われようと!」
「誰かを傷つけるために異能は使わない!!」

袋小路に追い詰められたまま、それでも気丈に叫んだ。

フロッグ・ディスペアー >  
「……そうかぁ」
「でもま、この際オマエ自身の話はいいやぁ」

「爬虫類の遺伝子を組み込む人体操作の実験がうちの組織のトレンドでさぁ」
「炎を使う爬虫類怪人なんてすっげぇ映えると思うゼ」

「そうなるんだよ。お前が。これからナ」

7月16日。月齢にして月明かり、無し。
こんな夜には悲劇が似合う。

ご案内:「落第街 路地裏」に五百森 伽怜さんが現れました。
五百森 伽怜 >  
『ここ何処ッスか……』

そんな風にぼやいていたのも、最早数十分ほど前になろうか。
落第街の暗闇の中を、
ささっと足早に――極力誰からも目立たないようにしながら、走る影があった。

五百森 伽怜、新聞同好会一年生。
現在は廃部寸前の同好会を救うため、
かつて出会った『不思議な男』を探して、
歓楽街を歩き回っていたのだが……。

それがいつの間にやら、このザマだ。
完全に道に迷ってしまっていた。

そうして、何とか見覚えのある場所にやって来て、
ようやくこの街を出られる――と。

そんな希望に胸を震わせていた時に、
とんでもない現場に出くわしたのだった。

――何なんスか、あれは。
特撮の撮影……って言いたいところッスけど、
落第街でわざわざそんなことが起きている訳もないッス。


もしや、これは近頃風紀委員の間でも情報が入っているという、あの――。

近場の壁に背を預け、ポラロイドカメラを手に男達の方を見やる。
何やら、揉め事が起きているらしい。
全員が仲間ではないのか。追い詰められている学生が居るように見えるが……。

一旦、静かに様子を見るべきか――。

と、その時。

五百森 伽怜 >  
 
 
ピロロンポンポロポン♪


重苦しい空気の中、あまりに場違いな――可愛らしい端末の着信音が鳴った。 
 
 
 
 

フロッグ・ディスペアー >  
「お喋りはここまでにしておこうかぁ」
「連れていけ、丁重にな」

構成員たちに指示を出す。
そういえば先日、謎の黒い戦士に抹殺された
スパイダー・ディスペアーは。

女ひとり拐うのに手間取って接敵を許したと聞いた。

俺はそんなヘマはしない。
拘束具を部下には多めに……

その時、携帯デバイスから鳴るタイプの電子音が響いた。
場違いで、不釣り合いなそれ。

「可愛らしい音と、随分といい匂いがするなぁ……」

構成員にその場に待機を命じて音の方向へと歩く。
少女の元へ、粘着質な足音と悪臭が近づいていく。

五百森 伽怜 >  
――やばいッス……!

慌てて端末を操作して音を止めるが、もう遅い。

なるほど、彼らの様子、壁の向こうから聞こえてきた
黒い外套を纏った男の言葉。
人拐いの現場に出くわしてしまったらしい。

近づく足音と、悪臭。

どうすべきか。

このまま適当にポラロイドのシャッターを押して
全力でダッシュしてしまえば、
何とか逃げきれるかもしれない。

しかし、それではあの、詰め寄られている男が――。

逡巡に次ぐ逡巡。
しかし、時を刻む靴音は待ってくれる筈もなく、
少女にねっとりと決断を迫る。

ならば。

「……」

胸元から一枚の写真を取り出す。
虚空実録《アカシックコラージュ》。
彼女の異能は、物体を写真から自在に出し入れする能力。

彼女が取り出したのは、戦う意志――つまりは、木の杖だ。

やって来た相手と鉢合わせになる瞬間を狙い、
思い切り振りかぶった杖叩きつけんと、振るう。

一撃で倒せるとは思っていない。
寧ろ、どうやったって自分じゃ倒せないかもしれない。
それでも、あの男の子を助けるだけの時間は稼げるかもしれない。

――なら、やるしかないッス!

風を切る、杖――!

フロッグ・ディスペアー >  
「この匂いでカワイい女の子じゃなかったら困っちゃうナ」
「俺って自分の嗅覚に絶対の自信がある方だからさ……」

喋りながら近づいていく。
次の瞬間。

顔面にブチ当たる、杖。
杖術─────!!

「いってぇ………っ」

顔を両手で押さえる。
然程深刻な痛みではないが、驚きと両目を涙液が滲ませることで怯む。

構成員たちが突然の闖入者に一瞬、覆面の下で視線を交錯させる。

五百森 伽怜 >  
「や、やったッス……!」

顔面へクリーンヒットさせたことに安堵をしつつ、
それでも少し申し訳ない気持ちになりながら。

視線をあちらこちらで交わす覆面達。
今がチャンスだ。おそらく、最初にして最後の。

「そこのキミ、早く逃げるッスよ!」

地を蹴り、一直線に向かうのは詰め寄られていた学生の所だ。
多勢に無勢。足には自信があるが、大勢に詰め寄られれば、
足や手を掴まれて簡単に拘束されてしまうだろう。

だが、五百森には力がある。

駆け出しながら、胸元から取り出したもう一枚の写真。

此度、取り出すのは木の棒ではない。
缶コーヒーでも、手帳でもない。

これは、大技だ。
だから、気合を入れて、己の能力《ちから》を叫ぶ。

「虚空実録《アカシックコラージュ》……!」

刹那の内。
何もなかった筈の暗闇の中に、視界を遮る濃煙が現出する。
写真に収められていた煙を、この場に取り出したのだ。
ただで狭まっていた視界が、更に狭まるだろうか。

詰め寄られていた学生が眼前に迫る。
この男が、まともな人間なのかどうかは分からない。実のところは。
それでも、先にこの学生が口にしていた言葉。
『誰かを傷つけるために異能は使わない!!』
それが、確かに胸を打った。それを聞いて、何とかしたいと思った。
だから。

「さあ、一緒に行くッスよ……!」

そのまま捕らえられなければ、詰め寄られていた男の手をとって、
一緒に駆け出すのだが――。

二級学生の男 >  
広がる濃煙。
千載一遇のチャンスにして。
自分が人間でいられるかどうかの分水嶺。

「ああ!」

と短く叫んで彼女と一緒に逃げ出していく。

フロッグ・ディスペアー >  
よくもまぁやってくれたものだ。
可愛い女の子かどうかすら確かめてないのに。
ここまでしてやられると爽快ですらある。

「逃がすな」

濃煙には僅かに匂いもあった。
それが相手を追う嗅覚を一時的に麻痺させた。

狭い路地だが、ここまで視界がないと……

「やれやれだ」

そう嘆息して袋小路を出る。

「お前とお前はこっち、お前ら三人はあっち」
「俺はこっちだ、連絡は密にな」

そう短く指示を出して走り出す。
月がない夜は当然ながら相手の姿も見えにくい。

五百森 伽怜 >  
何とか合流できれば、内心胸を撫で下ろす。
我ながら危険な橋を渡っているものだが、放っておけなかったのだから仕方がない。

――手札《しゃしん》はあと3枚。

予備の杖が一本と、みんなに手にとって貰えなかった大量の、同好会の新聞紙。

それから――食べかけのブロックチョコレートが半分。

それだけだ。

要するに、奥の手は切ってしまった状況だ。

それでも、煙の中で僅かに見えるその学生に対し、
力強く微笑みを見せた。憧れの風紀委員の人たちなら、きっとこうする筈だ。
正直怖い気持ちが強いけれど、一人よりはずっとマシだ。

「ところで、道分かるッスか……? この辺りの道は自信がなくて……」

二人で走りながら。
風に流れて聞こえてくる、男の指示に内心冷や汗をかきつつ、学生に問いかける。
多分、今走っている方向が出口だと思うのだけれど。多分。多分ッス。

二級学生の男 >  
「大丈夫、こっちからリバティストリートに出られる」
「さっきの男は鼻が利くと言った」
「クチナシが咲いている場所を通れば…」

クチナシはとても香りが強い花だ。
自分たちの匂いを追うなんてとてもできないほどに。

フロッグ・ディスペアー >  
相手はどっちかが相当、知的で。
器用な立ち回りで逃げてるらしい。
スマートじゃないやり方をするか。

「聞こえるかいお嬢ちゃん。今、男を離せば何もしない」
「誓ってもいい、俺はこう見えて信心深い」

「ただ、手を繋いだままこの鬼ごっこに負けたら」
「アンタはパーツ取りに使わせてもらうぜ」

本当にスマートじゃなくて笑ってしまう。
だが取り逃がして上に空振りの報告をするよりはいい。

「この言葉が聞こえるってことは追える範囲ってことだぜお嬢ちゃん」

落第街に脅しの声が響き渡る。