2023/07/17 のログ
■五百森 伽怜 >
「いやぁ、助けた人が頭脳派で助かったッス」
大分格好がつかないが、土地勘が全くないのだから仕方がない。
五百森は、『適材適所』の言葉を思い浮かべて良しとすることとした。
そうして駆けていく中で、聞こえてくる男の声。
あの覆面達を従えていたらしい、先程の声の主だ。
「そんなことする訳ないッスよ! お断りッス!」
聞こえるか分からないが、それだけ口にして一緒に走り続ける。
ここでこの生徒を見捨てるようでは、
もう風紀の人たちに憧れの目を向けることすらできなくなってしまうだろう。
それに何より、自分自身を許せなくなってしまう。
問題ない。学生のアドバイスに従って、匂いが強い道を選んで走れば、
追跡は簡単にできない筈だ。
この状況を覆し得る異能や魔術を、あの男が持っていなければの話だが。
■二級学生の男 >
「土地勘と花の知識だけじゃどうしようもない場面もあるさ」
彼女と手を繋いだまま逃げて。
そして名前も知らない人に力強く見捨てないと言われたことに。
どうしてだろう。
まだ助かったわけでもないのに涙が滲んだ。
「ここを右に曲がれば大通りだ、そこで別れよう」
「その前に言っておく、ありがとう」
「例え空が枯れ落ちても、この恩は決して忘れない」
■フロッグ・ディスペアー >
「度胸があるな、お嬢ちゃん」
だが声が聞こえる方向はもう既に大通りだ。
緊急交戦時以外、能力を出す許可は出ていない。
完全に撒かれた形になる。
「だがいつかその度胸でアンタは命を落とすだろう」
「これは予言だ」
呪いの言葉をかけてから、通信機を手に取る。
「もういい、引き上げだ」
「ここで“異能”を使ったらお叱りじゃあ済まないぜ」
そう言って全員に引き上げの合図を出してから。
「俺もあんな女の子に助けられたかったねぇ」
フロッギー
外套の下の、“殺人蛙”フェイスが。
そう小さく嘆息して闇に紛れていった。
■五百森 伽怜 >
『いつかその度胸でアンタは命を落とすだろう』
男の声が深く、胸の内を掻きむしるように五百森の体の中に響いた。
柳眉をひそめ、思わず男の言葉に心が引っぱられそうになった時――隣に居る
男の子の声が響いた。それで、現実に引き戻される。
「ん、いよいよ出口ッスね!」
その瞬間。
ふと差し込んだ光。
その時に見せた五百森の柔和な笑みが、一瞬だけ、大通りを照らす街灯で露わになる。
大通りから吹き込んだ風で、紫色の髪が揺れる。
「それはお互い様ッスよ」
しっかりと顔を合わせたのは、ほんの一瞬のことだった。
学生の礼へそれだけを返せば、五百森は学生と分かれるように大通りの中へ
紛れ込んでいくだろう。
大通りに戻り、日常の空気をたっぷり胸に吸い込みながら、五百森は想う。
あの学生と、また会うことがあるのだろうか。
この広い学園の中で、再び顔を合わせることがあるのだろうか。
もしかしたら、二度と会うことはないのかもしれない。
それでも、『覚えている限りは』、確かな縁がある。
それは胸の内にしまわれたもので、誰にも見えないし、聞こえもしないものだけれど。
それでもきっと、この二人の内には、そうした縁は残るのだろう。
男の言葉に、思うところはあったけれど。
それでも、今日の行動は無駄ではなかった。自分に、大きなものを与えてくれた。
「ただいまッスよ」
鹿撃ち帽の下の、まだ幼さをたっぷり残した少女の顔が。
そう小さく呟いて、夜の街の光に紛れていった。
ご案内:「落第街 路地裏」から五百森 伽怜さんが去りました。
ご案内:「落第街 路地裏」からフロッグ・ディスペアーさんが去りました。