2020/06/22 のログ
■群千鳥 睡蓮 > 「だいじょうぶ」
わかるよ、と。肩に手を置いた。優しく包む。
そこにある過日の血、これよりの血が見えなければいい。
「そうだろうさ……少なくとも、あたしにとっての普通は、だけど、
どこから来て、どうして此処に居るのか、それをわきまえてる連中が大半。
そうじゃない奴もまぁ……ぼちぼちここには居るだろうけど…
だから、ににななのことがわからないんだ。 どうして、って。
……でも、そうだよな、おまえがいちばん『どうして』だよな」
ぶつけられた疑問は、夏天に似合わぬ雪の如くに、
彼女の胸のおくに、降り積もっていったのか。
野の獣。雨に降られても、百年後も変わらずにそこに居る自然。
そう捉えるには、その肩はあまりに細い。けど、その脚は?
「すべては必然だ。 そこで、そうして、そうなるように、そうある。
おまえがここに居た理由は、どっかにちゃんとある。
親御さんもいるかもな。ににろくやににはちもいるかもしれない。
……でもそれは、食い物みたいに、もらって嬉しいものとは限らない。
すぐ答えを出す必要はねーさ。 またゴロゴロして寝て起きて。
それでも外に漕ぎ出す気になったら、あたしを頼れ」
包んでいた肩を、そっと叩く。言葉には責を負う。自分の言ったことには負けない。
「友達だろ。にになな」
■227番 > 「わたしは、ここには、……えっと……ふさわしく?ない、のかな」
落第街、ましてやこの島のルールもよく知らない。知る機会がない。
自分が居るこの場所が、ルールからこぼれた存在の場所だとは知らない。
……もっとも、正規の方法で来たとは思えない227もまた、ルールの外の存在なのだが。
「すべては、ひつぜん……」
言われた通り、焦る必要はないのだろう。
ちょっと遅くなったところで、なにも変わらない。
それに、掛けられた言葉は、なんだか安心できるもので。
外に目を向けるきっかけをくれた人だから、頼っていいような気がした。
「……わかった。……えっと……」
覚えられるかは別だが、この人の名前は覚えておきたい。
しかし、名前を聞いていなかった。
■群千鳥 睡蓮 > 「なんだよ、おまえ……急におりこうさんぶったこと言いやがったな……?
どうだろうな。ここが相応しいから、おまえはここにいたのかもしれない。
どこかが相応しくないから、おまえはここに来たのかも」
自分のように、島外がふさわしくない、と判断されたことを、
みずからわきまえてここに居るわけではないだろう、と。
苦笑しながら、肩をぽん、ぽん、と二度叩いて。
「ひとりひとりに、いまいるそこが相応しいかどうかなんて問うほど。
この世はせまくないんじゃねえの。地図より広いんだから。
色々知って、それを受け止めて、それから考えることだよ。
外に出ても、ここにはまた来れる。……来よう。
外に、おまえが、相応しくありたいと思う場所が、見つかっても」
笑い話かなんかにはなるかもな。そう笑って。
さて、余計なことを言って惑わすのは良くない。
猫のあたまに、どれくらい詰め込んでいいものか。
これからもっと詰め込むことになる空白に。
さてと立ち上がるなり、彼女を見て首をかしいで、そして察した。
「……あたしは、睡蓮。 群千鳥睡蓮。
声でも、匂いでも、ちゃんと覚えて。
おまえを、ともだちとして相応しい奴だと思ってる、
おまえのともだちであり、……この世で最も強き者だ」
自覚の問題。下の名前も含めて名乗ってやる。
そして、自分の前髪を手櫛で下ろした。いつものメカクレが完成。
「外ではこんなだから。 見つけにくいとは思うけどな」
■227番 > 「……よくわからない、かも……今は」
問いかけておいて、自分には難しい話だったと反省する。
それでも、これからわかって行けばいい、ということは理解できた。
小さく頷いて、しっかりと記憶に留める。
「すいれん」
反芻するように呟いて、覚えようと努力をする。
227は名前を覚えるのは苦手だが、それが必要にならなかったからであり、
これから覚える名前は、いずれ必要になるものだから、きっと覚えられる。
仮に忘れても、その時に思い出せるはずだ。
「すいれんは、ともだち……」
言い直した所で、また、見た目の年相応の笑顔で無邪気に笑う。
記号として認識していた目を隠されても、もう大丈夫だろう。
知らない人、見覚えがあるだけの人、ではないのだから。
■群千鳥 睡蓮 > 「ああもうクドクドと……悪ぃ癖だな。 うん、ゆっくりでいい。
ただ、要らないことで不安がる必要はないよ。
おまえは、必然的に、ここに居るんだから。 あたしと同じ」
在る世界に居るのではない。そこに居るから世界は在るのだ。
真っ直ぐな微笑みだ。目の前に居るのが殺人鬼とは知らない、まっさらな。
しかし罪悪感はない。すべては必然。この出会いも、こうなったのも。
とはいえ……言ってしまってむずがゆい。赤くした顔を逸して。
「……ちょっとガラじゃなかったかな……いいけど。
そうだよ、にになな。 ちゃんとわかって、えらい。
……ともだちで、いちばんつよい、な?」
だから頼っていいんだよ、と。
『それ』にはふれないように。手をそっと。
顔の前に、ゆっくりかざしてから、フードの上から頭を撫でてやる。
そして、自分の前髪を再びかきあげる。
「じゃ、また来る。 ちゃんと、元気してろよ、にになな」
そして笑顔を向けてから。フードを被り直して、もと来た道を帰っていく。
奇妙な出会い。しかし必然。無責任なる安請け合い。すべて必然。
斬って殺すも縁なら、袖振り合うも多生の縁。
縁に敗けるあたしではない。彼女の道行きに何があろうと、友として勝利するのみ。
■227番 > 相手の経歴を推測できるほどの教養も、親切な人を疑うような精神もない。
食べ物をくれて、外に目を向けさせた人。227にとっては、それだけだ。
「いちばんつよい、ともだち、すいれん。おぼえるの、がんばる」
赤くした表情を不思議そうに見上げるが、特になにも言わない。
頭を撫でられれば、ふるふると体を揺する。
「えっと。帰り、気を付けて。」
顔の高さで手をふって、見送ろう。
……話していたら、結構な時間が経ってしまった。
自分も拠点に戻って、一休みしよう。自分も来た道を戻っていく。
外の世界はどんな所なのだろうと思いを馳せながら、しばらくはこの街を歩くのだろう。
自身の過去に、内に潜むなにかには、まだ気付いていない。
ご案内:「スラム」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。
ご案内:「スラム」から227番さんが去りました。
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 > 常世島の最果て。堕ちた先が此の場所なら、此処は最果ての吹き溜まりとでも言うべきだろうか。
かつては舗装されていたであろう道路は罅割れ、所々雑草が強い生命力を以て生い茂っている。
曲がりなりにも裏社会の繁栄を謳歌する落第街の大通りとは違い、一歩裏路地から進んだ先の此の場所には、常に鼻を衝く様な死臭と、不愉快な迄の絶望が可視化されている様な気さえする。
「…何時訪れても不愉快な場所だ。制服が汚れる」
違反部活の摘発任務に当たっていた別の風紀委員から、構成員の一部がスラムに逃げ込んだとの通報を受け、落第街の巡視に当たっていた己を含む風紀委員達に捜索の任が下りた。
とはいえ、スラムの住民からの視線は決して好意的なものではない。先ず何よりは、スラムの住民にとって忌むべき風紀の制服と――
「威圧感があるのは良いが、是では風紀委員が此処にいます、と言っている様なものだな」
巨大な砲身を背に生やし、不格好な多脚で大地を踏みしめる金属の異形。数体の異形を引き連れてスラムを闊歩する己に向けられるのは、憎悪と恐怖の入り混じった様な住民からの視線。
■神代理央 > とはいえ、身を晒し、自己の存在を殊更に主張しながらの行動も一概に悪い事ばかりではない。
少なくとも、余程敵が無謀か。或いは何かしら策を持っているという状況で無ければ、己の前に姿を現す事はしないだろう。
必然的に、捜索エリアは絞られる。"己が巡回していないところ"を基準にしていけば良いのだ。
とはいえ、バラックや崩れかけたアパートの様な建物が密集するスラムにおいては、気休め程度のメリットでしかない事も事実。
「……捜索状況は芳しくない、か。多少揺さ振ってやれば、炙り出す事も可能やもしれぬが…」
ふむ、と敢えて周囲に聞こえる様な独り言と共に辺りを見渡せば、ぎょっとした様な顔をして住民達は慌てて駆け出していく。
掠れた金属音と共に異形の砲身がゆっくりと傾き始めれば、駆け出す住民の数は加速度的に増えていく。
■神代理央 > 砲身を軋ませただけで、周囲の雑踏は掻き消え辺りは静寂に包まれる。
暢気な程ゆったりとした動きで懐から端末を取り出すと、手慣れた仕草で捜索中の同僚に連絡を取る。
「攻撃エリアを送信した。適当に網を張っておけ。死んでなければ、何処からか沸いて来るだろう」
何か言いかけた同僚の言葉を待たずに通信を切ると、僅かに首を動かして異形に視線を向ける。
「最近は色々と煩い連中もいるでな。余りやり過ぎるな」
そんな主の声に応えるかの様に、鋼鉄の異形は背中から突き出した砲身を軋ませる。
刹那、轟音と共に放たれる数発の砲弾。そして一瞬の沈黙の後――そこかしこで、着弾音が響く。
ご案内:「スラム」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
■神代理央 > 端末に走るノイズ。吹き上がる爆炎。遠くから聞こえる逃げ惑う人々の声。
「……うん?そうか、其方の方に現れたのか。援護が必要なら――分かった分かった。そう怒るな。目的は達成しているのだ、別に構わんだろう」
やいのやいの、と言わんばかりに端末から響く同僚の声に顔を顰めると、半ば打ち切る様に通信を切断した。
追跡していた構成員達は、砲撃が命中した区画の一つに潜んでいたらしい。這う這うの体で現れた彼等と鉢合わせた同僚が交戦を開始したとのこと。
まあ、交戦と言う程の事にもならないだろう。砲撃に怯えて飛び出した先が風紀委員の目の前では、どうしようもあるまい。
「此方への被害が出なかったのは幸いか。時間ばかりかかってしまったが…」
制服についた埃をぱたぱたと払いながら、ポケットから取り出したチョコレートを口に放り込んだ。
■日ノ岡 あかね > 「こんばんは」
そんな鉄火場に。
女は、現れた。
常世学園制服に身を包んだ、ウェーブのセミロング。
黒いチョーカー。黒い瞳。
まるで野良猫のように、音もなく現れたその女。
「お久しぶり、リオ君。仕事中かしら?」
日ノ岡あかねは、場の空気なんてこれっぽっちも読まず。
ただ、当たり前のように……久闊を序した。
「変わった同僚さん達ね?」
■神代理央 > 投げかけられた声に、怪訝そうな表情と共に視線を向ける。
僅かな動作しか見せない己よりも過剰に反応したのは、主を守る事だけが至上目的となっている自我の無い鋼鉄の化け物たち。
金属が軋む様な甲高い音を立て、少女に向けられる無数の砲身。
「…今晩は。また随分な場所で再会するものだな。此処には、パンケーキもパフェも無い筈だが」
緩く肩を竦めると、そのまま彼女へと向き直り。
「見てくれは悪いが、使い勝手の良い"同僚"だよ。
貴様はこんな場所に散歩か?それとも、首輪を新しいものに付け替えたくなったのかね」
彼女に返す言葉に敵意は無い。向けられた砲身は時が止まったかの様に動かない。
遠くに響く悲鳴と建物が崩れ落ちる音。それ以外の音も、人も存在しないスラムの一角で、二人は向かい合っているのだろう。
■日ノ岡 あかね > 「お散歩よ、何だかんだで勝手知ったる庭だもの」
くすくすとあかねは笑って、当たり前のように理央の隣まで歩いてくる。
針山のような無数の砲身も……気にした様子はない。
「お仕事の邪魔になるなら退散するけど、同僚さんに任せてるなら多分大丈夫よね?」
小首を傾げる。
周囲の惨劇もまた、あかねは気にも留めない。
夜のような黒い瞳が、理央の目を覗き込んだ。
■神代理央 > 「…成程?とはいえ、補修を受けた生徒が訪れるには些か相応しくない場所だな。火のない所に煙は立たぬというし、あらぬ疑いをかけられても文句は言えぬと思うがね」
此方に歩み寄る彼女を追いかける様に、ぎし、ぎし、と砲身が歪む。
それはまるで、赤絨毯を闊歩する女優を追うレンズの様にも見えるだろうか。
「私の大まかな仕事は終わった故な。話し相手にくらいはなってやるとも。それとも、もう一度補導される方が好みかね?落第街の散策は、褒められたものでは無いぞ。反省文くらいは書いて欲しいものだが」
此方を覗き込むのは、宵闇よりも尚暗い夜の色を灯す瞳。
その瞳を見返しながら、高慢な口調で言葉を返すだろう。突如現れた少女を探る――という訳でも無く。唯々高慢と慢心と僅かな少年らしさを含んだ視線が、彼女に向けられる。
■日ノ岡 あかね > 「あら、エスコートしてくれるなら嬉しいわね? 実はそのつもりだったから」
そういって、右手を差し出す。
真っ白な手。恐らくは一年間の『補習』の間……月の光すら触れなかった手。
死人のような白い手を差し出して……あかねは笑う。
「一人歩きも嫌いじゃないけれど、やっぱり話し相手がいるほうが楽しいわ」
少年らしい視線を返す理央をみて、むしろ満足そうにあかねは笑みを深くする。
微かに頬が紅潮しているようにすら見える。
「ねぇ、リオ君」
遠くで揺れる砲火の明かりが、仄かにその横顔を照らした。
そして、日ノ岡あかねは。
「どうしてリオ君は進んで『嫌われよう』とするの?」
何でもないように。
それこそ、明日の天気でも尋ねるかのように。
「良かったら……聞かせてくれない?」
静かに……尋ねた。
■神代理央 > 「相変わらず調子の良い女だ。とはいえ、一般生徒の保護も仕事の内だ。それが例え元違反部活生だろうとな」
差し出された彼女の右手に視線を落とす。
彼女の瞳が夜の帳ならば、その手は宛ら満月の様な純白。彼女は本当に生者であるのかすら疑わしい程の、真っ白な手。
その手を割れ物に触れるかの様に丁寧に、静かに取って緩く握り返す。
そんな彼女が己に何を告げるのか。まさか甘味の話ではあるまい、と下らない思考を巡らせていれば、その口から零れ落ちたのは予想外の問い掛け。
「………何?何故嫌われようと…だと?」
予想だにし得ない問い掛けに、浮かべるのは疑問符と僅かな警戒心を混ぜ合わせた様な表情。
暫しの沈黙の後、その表情の儘口を開いて――
「……別に、嫌われようとしている訳では無い。唯、嫌悪感を向けられる事に抵抗が無いだけだ。物事を円滑に進める為なら、媚も売るし朗らかにもなる。唯、それだけの事でしかない」
フン、と横暴な色を滲ませた吐息を吐き出した後。
彼女の問い掛けに対し、相も変わらず尊大な口調で答えるだろう。