2020/07/20 のログ
■神代理央 > 「…それでも、だ。此の辺りは、冒険心で訪れて良い場所じゃない。歓楽街辺りならまだしも、落第街と呼ばれる区域や此処――スラムの周辺は、本当に危険なんだからな」
はあ、と溜息交じりに小言を漏らすが、己とて自身の異能への自信を以て任務に励んでいる身。
余り強くは言えないな、と困った様に頬をかく。
「当たり前だ。お前に何かあったらと思えば、まだ小言が足りないくらいだ。子供が平気で銃を構えて此方を狙ってくる様な場所だ。油断して良い場所じゃないんだぞ」
頬を膨らませる少女に小さく苦笑いを浮かべながらも。
兄貴分として言うべき事は言っておかねばならない。少女に何かあってからでは遅いのだから。
「……この子達、か。まるで、ペットか何かの様に連中を呼ぶのだな、フレイヤ。随分と入れ込んでいる様だが…」
ふむ、と考え込む様な素振り。
少女の嗜虐性を目の当たりにしたことはない。唯、彼女の両親から相談を受けていた程度。しかし、彼女が手に持つ鞭と、不良三人に対する呼び名。それらは、どうにも嫌な方向へと結びつく。
何せ、己も同じ。同族の類なのだから。
「……フレイヤ。その鞭で彼等を打つのは、楽しかったか?」
世間話の延長の様に。妹に勉強の進捗を尋ねる兄の様に。
穏やかな口調と言葉で、彼女に尋ねてみせるだろう。
■フレイヤ >
「むう。なによ、リオだって来てるくせに」
ぷい、とそっぽを向いてしまう。
彼は仕事で来ているのだが、自分にはそんなこと関係ない。
彼が良くて自分が駄目な理由に納得がいっていない、そんな感じ。
「大丈夫よ、私怪我しないもの」
異能で怪我を痛みに変えれば何も問題ない。
痛みは増すけれど、痛みには耐性があるのだから。
「――」
彼等をペットと呼ばれ、表情が消える。
すう、と目を細め、口を真一文字に引き結び、ただ黙って彼の顔を見て。
「――リオ。私は、「この子たちを正規学生にしてあげて」って言ったのよ。この子たちを正規学生にするのに、その質問は関係あるの?」
あからさまに不機嫌な様子を見せる。
先ほどまでコロコロ変わっていた表情は消え失せ、ただ不機嫌さだけがこもった瞳で彼をまっすぐ見つめる。
■神代理央 > 「私は仕事だからな。此れでも、風紀委員として真面目に職務に当たっていると評判なんだぞ?」
どんな評判かはさておいて。
そっぽを向く彼女の気持ちも分からなくは無いので、浮かべる苦笑いは色を濃くするばかり。
「そういう問題じゃなくてだな…。せめて訪れる時は、腕の立つ護衛を連れてくるとか、もう少し自衛の手段を取って欲しいんだけどな」
確かに、彼女の異能であれば怪我はしないのだろうが。
年頃の娘や妹を持つとはこういうものなのだろうか、と全国の父親や兄達の苦労を偲ぶばかり。
「……いや?全く関係は無いさ。単なる私の興味。好奇心だ。久し振りにあった可愛い妹分の趣味嗜好を、知っておきたいという老婆心さ」
己が投げかけた質問に、目に見えて機嫌が急降下する少女。
それは、少女の父親の話題を出した時の比では無いだろう。しかして、それに焦る様子は無い。寧ろ、不機嫌そうな少女を眺めて、くすりと小さく笑みを浮かべる。
「しかし、否定はしないのだな、フレイヤ。念の為に言っておくが、私は別にお前がどんな趣味を持とうと、怒るつもりは無いよ」
組んでいた腕を解き、小さく肩を竦める。
向ける視線は、少女を子供だと、妹だと侮る様なものではない。
「何せ、私とお前は同類だからな。良いんじゃないか、別に。そういう楽しみ方があっても」
■フレイヤ >
「――ふふ、あはは、あははははっ」
彼の告白?を聞き、腹を抱えて笑い出す。
腰を折り曲げ、涙を流しながら。
「――っふふ、やっぱりリオもそうなのね。昔からそうじゃないかって思ってたわ」
涙を指で拭いながら、そう口にする。
なんというかこう、同類のような匂いがしていたのだ。
それを直接彼の口から聞けてなんだか嬉しかった。
「えぇ、とっても。でもそれは躾だからよ。この子たちがちゃぁんと言うことを聞いていればそんなことはしないわ」
現に彼らはずっとそこで「主人」が立ち話しているのを大人しく待っている。
逆らえば鞭が飛んでくるし、逆らわなければいい思いを出来る、とわかっているから。
「――じゃあ、リオもサラのこと「躾」してるの?」
先日会った彼の友人。
自分と同じなら、彼も彼女にそういうことをしているのだろうか。
■神代理央 > 楽しそうに笑いだす少女を、緩やかな笑みを浮かべながら見つめる。
嗚呼、やはり。幼い頃に出会った少女は、随分と歪んだ嗜好を持ち合わせていた様だ。
「おや、そうだったのか?まあ私は、お前と違って鞭で打ったりはしにがね。手が疲れる」
持つ者が、持たざる者を統べる傲慢。
それが許される立場の二人だからこそ、酷く物騒な内容の会話を、まるで世間話の様に楽し気に続ける事が出来るのだろうか。
「物事を教え込むには、先ず痛みから始めなければなるまいからな。お前の教育方針は、間違っていないと思うよ」
ちらりと少女の【従僕】に視線を向けた後、その言葉に同意する様に頷いた。
しかしそう考えると、彼等も中々に難儀な事だなと思考を巡らせかけて――
「……沙羅に会っていたのか。成程、な。……彼女には、そういう事はせぬ。アイツは、ペットじゃない。恋人、パートナーだからな」
まさか恋人と少女が出逢っているとは、と大きく息を吐き出す。
しかし、特段隠す様な事でも無いか――恋人の方が隠そうと努力していた事など知らず――と、緩く首を振って『躾』を否定する。
■フレイヤ >
「ふふ、ありがとうリオ」
褒められて嬉しそうに笑う。
持たぬ者である男たちは、持つ者である二人の会話にうんざりした表情を見せるが、声には出さない。
そのくらいの知恵は回るようだ。
「ふぅん……リオなら恋人もそうやって躾すると思っていたのだけれど」
唇に人差し指を当て、意外だと言うように。
彼の僅かな変化はまだ知らずにいる。
「あっ、だったらリオ」
良いことを思いついた、と言う顔で、
■フレイヤ >
「リオが出来ないんなら、私が躾してあげるわ! リオの言うことならなんでも聞く、リオにぴったりのかわいい恋人にしてあげる! ね、良い考えでしょう!?」
■神代理央 > 「ペットに対する躾を、家族にはせぬだろう?似た様なものだ。躾に振るう鞭は、振るう相手を選ぶからこそ昂るというものだ」
誰彼構わず振るったところで、それで愉しめるものでもないだろう、と緩く唇を歪める。
甚振る者同士の、穏やかな井戸端会議。
「…だったら?一体何を――」
何を言い出すのだろうかと首を傾げかけて。少女が紡いだ言葉を耳にすれば。
コツリ、と革靴を鳴らして少女に歩み寄る。その表情は、今迄の様に穏やかで――
「……ふざけるな。アイツは、俺のものだ。俺以外の者に、鞭を振るわれる等、誰が許すものか。お前がそのつもりなら、その御大層な鞭を、俺が代わりにお前に振るってやっても良いのだぞ、フレイヤ?」
少女の眼前で立ち止まれば、己よりも小柄な少女を見下ろして、低く、低く、唸る様に囁いた。
■フレイヤ >
「――なんだ、リオ、私と同じだと思ったのに」
烈火のごとく怒る彼。
見降ろされて、つまらなさそうな顔をして見せる。
「私は家族だろうとペットだろうと、私のものなら誰にだって鞭を振るうわ。だって愛しているんだもの」
とん、と後ろに跳んで、両手を広げてくるくると回って見せる。
「この子たちも他の子たちも、未来の旦那様も。私のものは鞭で叩いてあげるの。愛しているなら、愛されているなら、きっとどんな痛みでも耐えられるでしょう?」
そうしていきなり鞭を振るう。
空気か弾けるような音。
三人の男は叫び、その場で転げまわる。
「だから私は私のものを鞭で叩くわ。――でも、安心して。人のものに手を出すほど私は卑しい女じゃないもの」
くすり、と無邪気な笑みを向ける。
■神代理央 > 「…お前がお前のモノに鞭を振るう分には、特段構わぬさ。それに口出しするつもりなど無いとも」
つまらなさそうに表情を曇らせる少女に、小さく溜息を一つ。
「……愛しているから、か。ああ、成程。それが、お前の振るう鞭の理由か」
優雅にくるくると回る少女。こんな場所でなければ、こましゃくれたバレリーナの様に見えたかもしれない。
「そうだな。お前を愛する者なら。お前が愛されているなら。きっとその痛みに耐えるだろうさ」
痛みに喘ぎ、転げまわる男達を一瞥し、再び少女に視線を向ける。
痛みによる恐怖。恐怖による従属。勿論、少女はそれも理解した上で鞭を振るっているのだろう。その上で、愛を語るのだろう。
それを否定するつもりはない。
「…だが、お前に必要だったのは。お前に与えられるべきだったのは。お前を愛するが故に振るわれる鞭だったのかも知れないな。
或いは、今からそういう相手を見つける事が出来るのかも知れないが」
「…それを聞いて安心したよ。可愛い妹分に、手を上げたくはなかったからな」
両親からの愛に餓えた少女。その気持ちが痛い程理解出来るが故に、鞭を振るう理由も。少女に与えられるべきだった愛情も、全てを察して深い溜息を吐き出した。
無邪気な笑みを浮かべる少女に、善き出会いがあればと願うばかり。
■フレイヤ >
「そうよ。愛しているから、私は苦痛を与えるの。愛のない鞭なんて、そんなの耐えられないわ」
だって自分は耐えられなかったから。
鞭こそ振るわれていないが、家族からの厳しい接し方に自分は耐えられなかった。
だから自分は愛されていないのだ。
だから自分は自身の所有物を愛するのだ。
「違うわリオ。私に必要なのは愛よ。愛されていれば私はどんな苦痛だって耐えられるわ」
だから、それを理解していない。
彼らが鞭で打たれても、恐怖を与えられても、苦痛を与えられても、それでも尚彼女に付き従うのは、愛なんて何の役にも立たない者ではない。
金。
立場。
そう言った実利的な理由でしかない。
それを、理解していない。
「ありがとう、リオ。私もリオに嫌われたくはないもの。――それじゃリオ、この子たちのこと、よろしくね」
そうして自身は彼らを置いてスラムの奥へ歩を進める。
「心配しなくて大丈夫よ。私、結構強いんだから」
根拠のない自信を口にし、加虐の令嬢は闇へと消える。
うめき声を上げて地面に転がる三人の男を残して。
ご案内:「スラム」からフレイヤさんが去りました。
■神代理央 > 「……そうだな。お前が振るう鞭には、確かに愛があるのだろうさ」
しかし、一方的な愛情は暴力の様なもの。
彼女の場合、実際に鞭を振るっているのだから尚の事ではあるが。
幼い少女を歪めた環境と、それに気付かぬ純粋な少女に、苦悩の色を濃くした溜息が零れる。
「…私もそう思うよ。心から、お前に必要なものは愛情であると。そう思う。それに、初めて出会った時に気付けなかった事を、悔やむばかりだ」
嗜虐の嗜好を同じくしても、彼女と己の決定的な違いは其処にある。
己は、先ず情だの愛だのといった不確定なモノを信用しなかった。
金、立場、実利。そういった物に群がる者達に、望む物を与える代わりに鞭を振るって従僕としてきた。
目に見える価値のあるものが無ければ、他者はついてこないのだと思っていた。
謂わば、少女とは対極の思考で鞭を振るってきたのが己なのだ。
愛情が与えられないが故に、それを信じ、求めた少女と。
愛情が与えられないが故に、それを否定し、拒絶した少年。
「……お前を嫌いになる事など無いさ。お前は、可愛い妹の様なものなのだから。だから――」
だから、真っ当に幸せになって欲しいと思うのは、きっと己の我儘。傲慢。
小さく溜息を吐き出すと、端末を操作して応援を要請する。
「……子守代を請求させて頂きますよ。アースガルズ家には、それなりに恩を売っておきたいところではあるし」
三人組の収用手続きと、一般生徒が迷い込んだとの報告を入れながら、何度目かの溜息と共にスラムの奥へと視線を向ける。
もう少し、妹分との接し方を考えるべきだろうか。今度恋人に相談するべきだろうか。そんな悩みを抱えながら――
ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「スラム」に妃淵さんが現れました。
■妃淵 >
「──…ヒマだな」
スラムの広場、その隅でパーカー姿の少女が独りごちる
特に大きな意味もなく、そのままの意味で、退屈だった
生きるのに必死…なんてヒリついた感覚が、最近乏しい
退屈してるなら、このスラムなんて遊び相手はいくらでもいるのだけど
「…暇つぶしに歩いてくる」
広場のスラムの住人達にそう告げて、路地へと入ってゆく──
■妃淵 >
刺激が欲しい、というわけでもなく。妙に時間が長く感じる昨今
そういえば黄泉の穴あたりでなんか騒ぎがあった、と聞いても
別に見物にいくような気も起きず。ただダラダラと、日々を過ごしていた
兄貴がこの街からいなくなったとはいえ、元からスラムに住む住人にとっては少女はアンタッチャブルな存在である
このアタリだと喧嘩を売られるなんてイベントもそうそう起きない
いや刺激は別にいらないんだけど──と、自答しつつ、ぶらぶらと路地を歩いていた
ご案内:「スラム」に水無月 沙羅さんが現れました。
■水無月 沙羅 > 「暇ですね……。」
今日は任務外、上からの秘密の任務があるわけでもない、ちょっとした、そうちょっとした暇つぶし。
どこぞの令嬢が変にこのあたりをうろついて居ないとかいうそういうものでは決してない。
流石に制服だと目立つし、この間買ったばかり私服で、腕章は置いてきた。
其れでも目立つのがこのスラムという場所ではあるのだが……。
実のことを言えば、最近沙羅は少々退屈していた、というのもある。
平和すぎる日常に微睡んでいたともいえるのかもしれない。
刺激が欲しくなった、というのが的を得ているのだろう。
戦いをしたいわけではないが、ちょっとした出会いが欲しかった、変な意味ではなく。
目の前をパーカー姿の少女が歩いていく。
何だか同じく、退屈そうな。 通り過ぎそうになって、目が合った。
■妃淵 >
歩いていると、見慣れない少女の前を通り過ぎた
スラムのほうでは少なくとも見たことがない
あまりこんな場所には似つかわしくないというか、そんな印象の少女
そう思って視線を向けると、眼が合う
ぴた、と少女の足が止まった
「何見てんだテメー」
そして少女の口から飛び出したのは
余りにも二級学生らしい、粗野な言葉
■水無月 沙羅 > 「んぇ? あぁ……、すみません。 なんだか退屈そうだなと、そう見えたもので。 私もなんですよ。」
如何にも、二級学生らしいセリフ。 存在しない筈の学生達。
今の自分は風紀委員ではない、それに彼女が何をしたというわけではないし、ちょっと口が悪いだけ。
少し乱暴だな、とは思うが。
「その格好でこんな場所、危なくないですか? あぁいえ、ある種私の方が危ないかもしれませんが、何というか、女の子でしょう?」
スラム街というなら、彼女のなんというか、男性を誘っているような、脚の出ている服は何とも、沙羅にとっても若干の目の毒だ。
鍛えてあるんだろうか、と思うすらっと伸びた脚。
何を考えているのやらと自分の頬をペチペチと叩いた。
■妃淵 >
「…お前、この辺のやつじゃねーだろ」
暇そう、私もそう、という言葉はまるで無視しながら、すたすたと歩いてくる
フードの奥から覗く赤い眼が値踏みするように少女、沙羅を見つめて
「初対面の相手に随分よけーな世話っつーか…、何なのお前。何処から来たヤツ?」
格好のことを指摘されれば放っとけよ、と言わんばかりに見上げながら──接近してみたら自分より相手のほうが大分大きかった──そう、言葉をぶつける
■水無月 沙羅 > 「えぇ、まぁ。 普段は向こうに居ますから。」
指を差すのは学園地区のある方向。
私はここの住人ではない、という事をアピールする。
それがこの区域でどれほど危険なことであるのかを、知らないわけではない。
ただ、嘘をつくのはよくいないかな、と思った。
「なんなの、って聞かれると、ちょっと困りますね。 余計なお節介が好きな学生、じゃいけませんか?
あぁ、名前。 水無月 沙羅って言います。」
あの鉄火の支配者ほど名が通っているわけでもないし、名前を出しても問題はないだろう。
目の前の少女は誰かれ構わず襲ってくるようなタイプではなさそうだし。
「……余計な事、言っちゃいましたかね?」
気に入っている服だとしたら、怒らせたかもしれない。
バッドコミュニケーション?
■妃淵 >
向こう、と指を差す方向は歓楽街、ひいては学園都市である
なんでそんなやつがこんなところをヒマそうに歩いているのか…
「ふーん。まぁいいや、怪我しないうちに帰れヨ。
お前みたいのがこんなトコ歩いてっと路地に引きずり込まれて丸裸にされるじゃ済まねーぞ」
親切心で言っているとは思えない口調
実際に『何も知らずこんなところにいるんだろう』としか思っておらず、
言葉の雰囲気からは目の前の少女がそうなっても我関せずで去ってゆくだろう、冷たさも感じる
「ヨケーだよ。大きなお世話。
これでもお気に入りの一張羅なんだ。……──ン、水無月…?」
聞いたことがある名字に眉を潜める
今まさに出たその名前のヤツに買ってもらった服である
まぁ、でも同じ名字ノヤツなんて、たくさんいるか…と脳内で自己完結する
■水無月 沙羅 > 「そうですね、怪我しないうちに……ですか。
私に怪我を負わせられるとしたら……うん、兄さん、斬鬼丸くんくらいかな。
まぁ、今のあの人じゃそれもできないでしょうけど。」
くすり、と笑う。 いくらスラムでも、その可能性は低いだろう。
不死の異能と、痛みを与える異能、二つのこの異能を軽々しく突破できるとしたら、私へのアンチテーゼのような存在の、彼位のものだ。
似た様な能力の人間が居れば、話は別だけれど。
「最近、書類仕事ばかりで退屈だったんです、お目こぼししてほしいんですけどね。」
できればもう少し眺めていたい、とスリルを求める愚かな自分に少しだけおかしな気分になった。
まるで自分が二級学生になったかの様じゃないか。 風紀委員の癖に。
「……それは失礼。 えぇ、水無月沙羅ですよ。」
疑問符に首をかしげる、はて、スラムにも似たような苗字の人物でもいただろうか。
■妃淵 >
妙に自信たっぷりの様子に、ああコイツは異能者なんだということがわかる
正規の学生で異能の持ち主
存在すらいないとされている自分達二級学生とは、根本から違う
とまぁそんな思考をぶったぎるように、よく知った名前が出てきた
「今ザンキマルって言った?」
ずい、と顔を前に突き出す
フードで隠れてはいるものの、大陸系の整った顔つきであることがよくわかる
そして……
「お目溢しとか、そういうのいいんだけどさ。
それってコイツのこと?」
ポケットからスマホ(盗品)を取り出して、画像を表示させる
寝ている斬鬼丸が映っている。どこで撮られたものかはわからないが
上に毛布がかかっていることから、宿泊できる場所で撮影されたもののようだ
■水無月 沙羅 > 「はい? えぇ、確かに言いましたけど……。」
いきなり目の前に詰め寄られたらいくらなんでも驚く。
そしてザンキマルの名前に反応する?
うーん、兄さんがまさかスラムに来るはずが、まさか、まさかね。
ひょっとしたら他人の空似かもしれないし。
そう思いながらスマホを覗き込んだ。
―――あ、この子結構美人さんだな。
一瞬過った思考は隅に置いておこう。
寝ている従兄の姿、毛布がかかってる、宿泊施設。
彼女が持っている写真。
んーーーーーー???
「あ、はい、確かにこのザンキマルくんですけど、って、あの、なんでこの写真。」
事実に思考が追い付かないとはこのことか。
え、え? という風に、口をパクパクさせてしまう。
■妃淵 >
「……………」
なんとも言えない表情になる少女
半目で口も半開き、うわー…、とか、うへぇー…とか
なんかそういった、妙に遣る瀬ないような…複雑な感情が混じった顔
「アイツ…妹いたの…?」
似てねえ───────────────
という叫びは表に出さず、飲み込んだ
「いや、まぁ写真の出どころはいい、いいんだけど……」
ネカフェでえっちした後こっそり撮ったヤツ、なんて身内に説明するのはさすがのスラム住人でも気が引けるのだった
■水無月 沙羅 > 「あ、あー……妹、というわけではないんです。 親戚、えっと、従妹っていえば通じますよね?
いまじゃ、唯一の肉親みたいなものなんで、兄さんって呼んでるんですけど。」
少女の顔を見て、なんといか、自分も同じような顔をしているんだろうなと思うと。
ぷっ……と思わず笑いが零れた。
「す、すみません、つい。 あはは、ちょっと可笑しくって。」
お腹と口を抑えてなんとか笑いを堪えようとする。
うん、結構ツボに入ったらしくてなかなか止まらない。
「えっと、ひょっとして……兄さんのお知合い、あー……彼女さん、とかですか?
良ければ、名前とか聞いても。」
零れそうになる涙を拭ってから、尋ねてみる。
これで肯定が返されたらまぁ、あの写真はきっとそういう事なんだろう。
■妃淵 >
「はー…従妹ね……まぁ身内には違わねーわけだ…」
今では唯一の肉親、と名乗る沙羅
思えばあいつの家庭事情とか聞いたこともなかったな、と
スラムでそんなことを聞くヤツなんて、まずいないから──
「いーよ笑えよ。変なカオになってんのは自覚してるから」
まったく、とパーカーのフードを脱ぎ去る
くすんだ黒髪に紅の瞳、その顔がはっきりと見えるようになって
「…まぁ、ちょっとした知り合いみたいなモン…。
カノジョ?かどーかは、まぁアイツに聞いたらいいんじゃね」
やや困ったようにその質問を受けると視線を外し、言葉の端切れも悪くなる
そして続いた、名前の問いかけに対しては…
「……妃淵<フェイエン>」
ぼそりと、無愛想にそう答えた
■水無月 沙羅 > 「彼女じゃないのに……寝顔写真? まぁ、そうですね。 いろいろあるんでしょう。」
男女のあれそれに首を突っ込むのも失礼かな、と思い口を閉ざした。
歯切れの悪くなるからには、後ろめたさか何かがあるのか、それとも。
案外本当に脈でもあるのかもしれませんよ、兄さん。
「フェイエン……きれいな名前ですね。」
なんとなく、名前から焔をイメージした。
自分によく似た、真紅の瞳からのイメージからかもしれないが、たぶん、エンあたりからそんなイメージが来るんだろう。
大陸……中国あたりの出身だろうか。
―――きれいな……と口に出たのは無意識だったが。
「フードを取ってくれたのは、信用してもらえた、と取っていいんでしょうか。」
妙にぎこちなくなった彼女に、ほほえましいなと思いながら笑みを浮かべる。
年上だったらだいぶ失礼だが。
■妃淵 >
スラム住まいの二級学生が自分のカノジョだ、なんてアイツも声高に身内に言いたくはないだろ
──なんとなく思っていたのは、そんなこと
「きれい?…まぁ名前がきれいでもな…汚いよりは、いいけど」
妙に調子を狂わされる
アイツの身内だからだろうか
それともスラムの真っ只中でも堂々としているこの少女の雰囲気にアテられているのか…
「別に、ただ喋りづらいだろってだけ。
まぁお前がわざわざウソついてるようにも見えないし、理由もないだろうし」
フードを脱いだ理由についてはそっけなく、そう応える
■水無月 沙羅 > 「え? あぁぁ、すみません、声に出てましたか?
あはは、なんだか、炎の蝶みたいなイメージを勝手に、すみません。」
あははと苦笑いをしながら、頬を爪先で少しだけかく。
妙に気恥ずかしくなるのはきっと目の前にいる、年齢以上に大人びて見える少女のせい。
蝶、なんて表現したのは多分、どことなく見える、捕まえても逃げていく魅惑の蝶みたいな、そんな雰囲気からだろう。
いや、どっちかというと猫かもしれない。
「そうですね、嘘をつくのはあまり好きじゃないんです。 付かれるのも好きじゃないですけど、あ、これは大体の人がそうか。
とにかく、よろしくフェイさん。 兄さんをこれからもよろしくお願いしますね。」
なんのけ無しに、手を差し出す。 あの兄が、腰抜けではあるけれども人の良い兄が心を許しているのなら、悪い人ではないだろう。
立場の違いなんて些細なものだ。
少なくとも私にとっては。
■妃淵 >
「(これはあれか…話に聞く中二病ってやつ…)」
突然炎の蝶というイメージをもらったフェイエンの頭の中に去来した言葉は、これだった
スラム街の炎の蝶、なんて呼ばれるところをちょっと想像したら鳥肌が立った
「──…なあ」
バツが悪そうに、差し伸べられた手をそのままに頭をがりがりと掻いて
「スラムに住んでるような二級学生が、お前の兄貴…あー、まぁ身内でいいや。
そいつにコナかけてるって聞いてソレどうにも思わねえの?」
学園からはいない存在として扱われる二級学生
つまり人間として扱われない、そんな劣等人種として見られている
そんなモノが、身内を誑かしている…なんてことになれば、普通は猛抗議だろう
■水無月 沙羅 > 「ん? あぁ、そんな話ですか。」
差し述べられた手が受け取られなくて少し残念そうに、しゅんっとする。
「……本当に、貴方がすごく悪い人で、今も私と殴り合ったり、喧嘩してるような人だったら、まぁ確かに思うところもあったかもしれませんけど。」
ゴホンと咳ばらいを一つ。 あぁ、この人になら教えておいた方がいいかもしれない。
あの人は、ヌルセクターと呼ばれたあの女性は威圧になるから使うな、と言っていたけど。
「私だって、過激派って呼ばれてる風紀のやばい人の部下ですから。
でもそんな肩書だけで人を疑うのって、バカみたいに思いませんか?
私は、つい最近そう思うようになったんです。」
目の前の少女が、自分の兄に遠慮してそんなことを言っている。
多分、言わせてしまったのは私だ。
身分の違いというものを、これでもかと象徴するような対照的な自分の存在が、彼女を卑屈にさせている。
それは何というか、嫌だった。
「人間はどこに住んでいようと、どんな風に生きていようと人間です。
これ、上司に聴かれると絶対怒られるんでオフレコでお願いしますよ?」
■妃淵 >
「あー……あぁ、わかったよ。うん」
帰ってきた返答は、やや淡白なもの
気の抜けていた表情は元の鋭さをもった顔へと、戻っていた
「二級学生だなんだ、風紀だ過激派だ。
なんで、そんな他人をグループ化するような、肩書なんてものがあると思う?」
淡々とした語り口で、スラムの壁を背に凭れ掛かる
「予防だよ、予防。
少なくともそんな肩書のヤツと関わらないでおけば、
自分が危険に晒される、所謂リスクってやつが大幅に減るんだ。
一つ踏み違えれば、俺らは殺されても事件にすらならない。
此処じゃそれができないヤツから死んでく。
肩書で人を疑って警戒する。バカどころか賢いじゃねーか」
肩を小さくあげ、言葉を終えれば視線を沙羅へと、真っ直ぐに向けて
「身内と知り合いだからって理由だけで俺がその差し出された手に何もしねーってタカをくくってるなら、
どんな異能があろーが、此処には来ないほうがいいぜ。もちろん斬鬼丸もだ」
饒舌に、どこか苛烈な雰囲気を纏わせつつ、刃のように、言葉を突き刺してゆく
■水無月 沙羅 > 「……言っていることは、わからなくもありません。」
差し伸ばしていた手は降ろされて、真っすぐ見返した。
「予防、線引きは確かに今のこの学園には必要なんでしょうね。
お互いを縛る不文律、そうしなければ己の身すら守れない。
そういう人が居るのは確かです。
それは必要なものだと理解しています。
ですが……それを言うならあなたも、同じことでしょう?」
真紅の瞳は交差して、言葉の刃でつばぜり合いをするように。
「その不文律におびえて、人のご機嫌伺ってろくに男を自分のものだと主張できない。
そんなか弱いお人だとは思いませんでした。」
「なにもされないからとタカをくくっている? いいえ、貴方には私をどうすることもできないと思っているだけですよ。」
売り言葉に買い言葉、とはこのことか。
苛烈には苛烈さを、この人には、負けたくないと思ってしまったのはどうしてだろう。
■妃淵 >
「…へぇ」
驚いた、といったような表情を一瞬浮かべて、次の瞬間には、口を笑みに歪める
トン、と壁を背で押して、まっすぐに立ちながら
「お前すげえな、ほんとにアイツの従妹?」
あの斬鬼丸の身内にしては、あまりにも"強か"そう感じざるを得ない
「──同じかどうかは、これからのアイツを見てけばわかると思うぜー?
沙羅っつったな。お前みたいな考えのヤツばっかりが周りにいればそれでいいよ。
二級学生なんて見えもしない。"ゴミと同じようにしか思ってない奴ら"。
心配しなくても、オマエラの周りにもそういうヤツ、ちらほらいるよ。
見えてるリスクを踏みに行くのは勇気とは言わねーって、学園では習わねえ?」
沙羅の言葉には、確かな意思と闘志を感じる
なにか揺らがないものがその胸中にあるのだと
心の機微に疎いフェイエンでも、それを知ることができるくらいには
「あと、そうだな──俺がお前をどうすることもできない、ってのは…まぁ大体当たってるから、そこはいいや」
最初から何もするつもりもない
此処が何処で、どういう場所なのか理解を問うたのみ
何かしようとすればどうとでも出来る、とも思ってはいるが、わざわざそれを口にする意味もない
斬鬼丸の身内、であるなら余計に