2020/08/29 のログ
ご案内:「スラム」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
「――あ、噂の子みーっけ」

 軽やかな音を立てて、バラックの上から少女を見下ろす。
 少し大きめのTシャツにショートパンツというラフないでたちで、少女同様スラムには似合わない小奇麗さ。

「ご機嫌そうね、おじょーさん。
 それとも退屈そうなのかしら?」

 声を掛けるのは、かつてスラムに住み着いていた怪異。
 スラムが静かなのは、『異能殺し』が帰ってきたことや、迦具楽が再び『人喰い』を始めたからというのも理由の一つだろう。
 しかし、当人は何を気にするでもなく、気安いようすで少女に声を掛けた。

フレイヤ >  
「あら」

見上げる。
バラックの上に人の姿。
軽い恰好なのは自身の強さへの絶対的な自身からだろう。
自身もそうだ。
だが、

「――貴女、そのTシャツださいわ」

美的感覚は同じとは言えないようだ。
眉をひそめて口元を浴衣の袖で隠す。
ぶらじる はないだろう。

焔誼迦具楽 >  
「あれ、そう?
 そんなに変かな」

 自分のTシャツを眺めてみて、首をかしげる。

「そういう貴女は、可愛らしい浴衣ね。
 お祭り帰り――ってわけでもなさそうだけど。
 ここにはお散歩かしら?」

 バラックの上、屋根の縁に腰掛けてその上品そうな装いをしげしげと眺める。
 なるほど噂になっていた通り、こんな小奇麗なお嬢さんが鞭を振り回していたら、それはもう目立つだろう。

フレイヤ >  
「なによ ぶらじる って。変だわ」

何故ひらがななのか。
何故ぶらじるなのか。
その疑問は尽きない。
ひらがななので何とか読めた。

「そうよ、お散歩。そう言うあなたは?」

彼女もお散歩、かどうかはわからない。
むしろその格好を見る限り本当にお散歩かもしれない。
ただ彼女の言葉を聞く限り、自分に会うのが目的の一つ、とも取れなくもない。

焔誼迦具楽 >  
「ぶらじるはぶらじるでしょ?
 国の名前。
 知らない?」

 そういう問題ではない。

「私はー、そうだなー。
 最近噂の可愛い女の子に会いに来た、って感じかしら。
 それで、この街に『不適切』だったらちょっと食べちゃおうかなーって」

 品定めするように少女を見つめているが、その気配に不穏な影はない。
 ごく自然に、そうしているのが当たり前のように、赤い瞳が少女を見つめる。

フレイヤ >  
「そう言うことじゃないわ。貴女頭が悪いのね……」

残念そうな子を見た顔。
煽っているとかそう言うことではない。
ないが、そう言うことになってしまっている。

「あら、可愛いって噂になってるのね。嬉しいわ。でも食べられるつもりはないし、ここは私の『庭』だから」

胸を張って自信満々に。
庭とは言うが、単純に自分より強い存在と出くわしたことが無いだけである。
落第街を縄張りだと主張する半鋼龍や異能殺しとは違い、単なる自惚れでしかない。

焔誼迦具楽 >  
「酷いなあ。
 時々抜けてる時があるのは認めるけど――よ、っと」

 とん、っと。
 バラックの上から少女の目の前に飛び降りる。
 そして、顔を覗き込むようにしながら近づいていく。

「庭、ねえ。
 貴女みたいな人間には、あんまり相応しくないと思うけどな」

 随分と自信のある様子だ。
 見た目と違って、凄まじい異能でもあるのだろうか。

 すんすん、と鼻を鳴らす。
 匂いは悪くない。

フレイヤ >  
降りてくる彼女を目で追う。
目の前に着地されてちょっとびっくりして思わず一歩下がった。
それだけで明らかに戦い慣れていないのがわかるだろう。

「――じゃあ貴女なら相応しいの?」

ちょっとムッとした顔。
否定されるのは好きじゃない。
割と至近距離で臭いを嗅がれ、顔を顰めて少し逃げるように距離を取る。

焔誼迦具楽 >  
「んー、私はねー。
 それこそここで生れ育ったからなー」

 立ち振る舞いには、やはり手慣れた様子もない。
 ただ現実が分かっていないだけだろか。

「貴女みたいなお上品なお嬢様は、こんなところに来るべきじゃないわよ。
 そんな綺麗な身なりで歩いてたら――身ぐるみ剥がされて乱暴されても、文句言えないんだから」

 ムッとした顔を見れば、ふふっと声を漏らして面白そうに笑う。
 少し美味しそうになった。
 逃げられれば、さらに距離を詰めるように、顔を近づける。

フレイヤ >  
生まれ育ったから。
だからなんだと言う様な顔。
自分が行きたいところに行って何が悪いと言いたげ。

「そんなことされないわ。みんなこれで叩いてやれば悲鳴を上げて地面に転がるのよ。私が出来るのはそれだけじゃないし」

距離を詰められてもう一歩下がる。
そうして威嚇するように鞭を振ろう。
彼女の横の地面が乾いた音と共に弾ける。

焔誼迦具楽 >  
「ふーん。
 まあ鞭で打たれたら痛いもんね。
 で、他には何ができるの?

 鞭が振るわれても、眉一つ動かすことなく。
 楽しそうにほほ笑んだまま、下がられた分また一歩近づく。

「ねえ、貴女に何が出来るの?
 それで、この街で何をするの?」

 怯えてる――ほどではない。
 警戒は、されているようだけれど。
 それ以上に、不愉快そうな様子がよく見てとれる。

フレイヤ >  
鞭を振るっても微動だにしない。
イライラが募る。

「何って、受けてみればわかるでしょ!」

そうして鞭を今度こそ彼女へ向けて。
異能の力で当たっても怪我をすることはない。
ただ想定される以上の痛みが彼女を襲うだけだ。
しかしそれは大の男が悶絶して地面を転げまわるほどの痛み。
多少自身で肩代わりしているが、それでも普通の人間ならば我慢することなど出来ないだろう。

焔誼迦具楽 >  
「――危ないなあ」

 無造作に、まるで虫をはらうかのように腕を振る。
 特に力を籠めたわけでもない。
 ただ雑に、鞭を除けるために左手を振っただけだ。

 けれどその無造作な腕の振りが、単純に早く――重い。
 鞭よりも早く振られた腕は、周囲の空気を引き裂きながら鞭を振り払う。
 なんの力も特異性もない鞭であれば、発生した衝撃に巻き込まれて鞭はあらぬ方向へと捩れていくだろう。

フレイヤ >  
「――え?」

鞭を無造作に払われた。
確かに鞭は武器としては軽い。
軽いが、そんな簡単に払われるような速度ではないはずだ。
目の前の現実が受け入れられずにしばし茫然。

「っ、なんなのよ!」

しかし正気を取り戻せば、再び敵意を向けて。
さらに距離を取り直し、もう一度鞭を振るった。
今度は彼女に向けてではなく、自身と彼女の間の地面へ。
鞭が地面を捉えれば、そこから棘が生えるように彼女へと向かうだろう。
今度は鞭よりも重く鋭い魔術。

焔誼迦具楽 >  
「ただの、通りすがりでーす」

 ふざけるように答えながら、足元の地面を抉るように蹴る。
 地面が捲れるように砕け、生えたトゲごと衝撃でなぎ倒しながら無数の礫が少女を襲う事になるだろう。
 気の抜けた動作であっても、その動作一つが砲弾の衝撃にすら勝る。

 飛び散った地面の破片は、一つでも当たれば、普通の人間なら即死しないまでも、大怪我は必死だろう。
 それが幾つも、少女が放った魔術を薙ぎ払いながら少女に向かって飛んでいく。
 迦具楽の足元は深く抉れ、吹き荒れる衝撃が周囲を震わせる。

フレイヤ >  
「っ!!」

無茶苦茶な力。
単純だが、それ故に強力。
それでも自分の力を使えばただ痛いだけで済む。
――もちろん、それでもものすごく痛いだろう。
今回もそれでやり過ごそうとしたのだが、

「――、だめっ」

自分が今着ているものを思い出した。
脚を通して地面に魔力を流し込み、自身の前に分厚い壁を作り出す。
その壁を震わせるほどの衝撃と共につぶてを防ぎ切った。
それに驚いてバランスを崩し、尻もちをついてしまう。

焔誼迦具楽 >  
「あら、転んじゃった。
 ごめんね、手加減するのちょっと慣れてないんだ。
 大丈夫ー?」

 ちょっと失敗しちゃった、そんな軽い空気であれた地面をつま先で払いながら。
 尻もちをついた少女の目の前まで近づく。
 そして、気遣いすらするように身をかがめた。

「んー、怪我はしてないかな?
 よかったよかった。
 うっかり殺しちゃったら、勿体ないもんね」

 身を屈めて至近距離で笑いかけながら。
 さっきまで話していたのと、何一つ雰囲気は変わらない。

フレイヤ >  
「な、なによ貴女……」

見た目からは考えられない――いや、そもそも人とは思えない膂力。
理解が及ばない力。
怯えた表情を強がりで隠し、しかし尻もちをついたままあとずさりしつつ睨みつけて。

「もったいない……ですって……?」

何を言っているのか。
会話は出来るのに話が通じないような。
そんな得体の知れなさを感じつつ、じりじりと後退。
下手に立ち上がれば、その隙を狙われそうで。
鞭は転んだ拍子に手から転がり落ち、手の届かないところに転がってしまっている。

焔誼迦具楽 >  
「うんうん、良い感じいい感じ。
 ちょっとは美味しそうになった――あれ?
 さっきの方が美味しそうだったのになあ」

 後退れたら、やはりその分だけ近づく。
 うーん、と首をかしげてから、ふと思いついて。
 少女の着ている浴衣に手を伸ばしてみる。

フレイヤ >  
「何、を……っ! 触らないで!」

尚も訳の分からないことを言う目の前の少女。
しかし浴衣に手を伸ばされれば、それを振り払うように腕を振るう。

「っ――あっ」

その隙に立ち上がり距離を取ろうとしたが、脚がもつれて転んでしまった。
ずしゃあと地面を滑り、はっと自身の浴衣を確認。

「――は、ぁ……」

汚れはしたが破れてはいない。
ほっとしたように息を吐く。

焔誼迦具楽 >  
 ぱしん、という音と共に手が払われる。
 そして慌てて動き出して、転ぶ。
 その必死な様子と、浴衣を気に掛けた様子に目を丸くした。

「おー、そっかそっか。
 ――そっかあ。
 なるほど、そういうことかぁ」

 なにかに合点がいったかのように、迦具楽は頷いて。
 ぱっと、また明るい表情になると転んだ少女に近づいて、顔を近づけていく。

「ねえ、アナタ。
 その浴衣がとーっても大事なのね」

 その表情はとてもうれしそうでもあり、楽しそうでもある。
 それは例えるなら、可愛らしい愛玩動物でも見ているかのような表情だろうか。

「もしも、もしもだけどね?
 私がその浴衣を――バラバラに引き裂いて、ちぎって、燃やして。
 元が何だったかもわからないような、一山の灰に変えたら、アナタはどんな顔をするのかしら」

 その表情は、心底楽しそうで――それだけでなく、優しさすら感じられる微笑みだ。

「ああそれとも、原形が分かる程度に破いて、穴をあけて、目の前でぐちゃぐちゃに汚してあげた方がいいのかなあ。
 ねえ、アナタはどっちの方がいい?」

 そして、目と鼻の先の距離まで顔を近づけて。
 少女に優し気な声で問いかけた。

フレイヤ >  
これはバケモノだ。
どういうものかはわからないが、これはきっとバケモノだと本能が言っている。
どれだけ強くたって人がバケモノに勝てるはずが、

「――なんですって……?」

その言葉を聞いた。
逃げようとしていた動きが止まる。
ゆっくりと顔を上げて、彼女の目を見る。

「どちらがいい、ですって?」

その目を見開き、強い敵意を持って彼女を睨みつける。
抑えきれない怒りで震えた声。

「ボロボロになるのは、貴女の方よ!!」

膝を付いたままだん!と地面を叩く。
途端に、自身の周囲から一斉に彼女へ棘が伸びる。
棘だけではない。
杭だったり柱だったり、とにかく様々なものが伸ばされる。
自身がへたり込む僅かなスペース以外は足の踏み場もないほどに、圧倒的な密度で。

焔誼迦具楽 >  
「そう、どっちがいーい?」

 そう敵意のこもった目に笑いかけながら、自身の身体を変質させる。
 鉛のように重く、鋼のように固く。
 きっとこの気が強い少女は、大切なものに触れればただ怯えて逃げるだけじゃないだろうと期待して。

 ――そして、期待通りに少女は抗おうとしてくれた。

 無数の棘や杭、鋭かったり、質量のある物が殺到してくる。
 普通なら、『人間』なら死んでもおかしくないだろう。
 けれど、そのどれもが、迦具楽の身体を貫くことも、砕くことも、潰すこともできない。

 伸ばされた勢いによって棘は砕け、杭は折れる。
 凄まじい密度で殺到したそれらは、全て迦具楽の身体に触れるところで全て止まっていた。
 特徴的なダサいTシャツやパンツの布地は引き裂かれてぼろぼろになっていたが。

「あはは、うんうん、アナタすっごいいい感じね。
 今のあなた、とっても美味しそう」

 笑いながら周囲の残骸を払い除けながら、少女の頭へと手を伸ばす。

 ――そして、そのままそっと頭の上に手をのせた。

「ふふ、ごめんごめん。
 冗談にしては刺激が強すぎたかな?
 だいじょーぶ、そんな酷い事しないからね」

 そう言いながら、愛でるように撫でる。
 怖がらせた事、怒らせたことを詫びながら、安心させるように。

「その浴衣、本当に大切なのね。
 汚しちゃってごめんなさい。
 とても貴女に似合ってて、うん、すごい可愛いと思うわ」

 そんなふうに語り掛けながら、反対の手でぐっと、親指を立てる。

「でもねー、この街を歩き回るって、こういう事だから。
 私ほどじゃなくたって、きっと貴女をきゅっと一捻りできるくらいの『バケモノ』はたくさんいるのよ。
 ただ、表立って騒ぎ立てないだけでね。
 だから、ちゃんと気を付けないといけないの」

 「わかった?」と聞きながら、顔を近づけていく。

「私だって、今のは冗談だったけど」

 そのまま耳元に口を近づけて、ささやくように。

「――いつでも、ぼろぼろにしてあげられるのよ」

 そう、静かな吐息の混じる声で。

フレイヤ >  
「っ――!」

やはりそれでも彼女を動かすことすらままならない。
それでも、と更に魔力を流し、彼女への攻撃の密度を上げるが、届かない。
異能がどうとか痛みを肩代わりとか、そう言う次元の話ではない。

「バケモノっ……!」

正真正銘、バケモノだ。
まき散らされた残骸を払い、近付いてくるバケモノ。
周囲から攻撃をしたため逃げることも出来ず。

「コーナ、ごめ――っ、?」

目を閉じて浴衣を選んでくれた彼女の名前を呼べば、頭に感触。
恐る恐る目を開いてみれば、自身の頭を撫でるバケモノの姿。

「っ、触らないでって――」

カッとしてその手を払いのけようとするが、

「っ、!!」

吐息交じりの妙に色っぽい声。
体温が下がった様な悪寒。
冗談とか警告とかそう言うものではなく、ただの事実だと理解した故の。
へたり、とその場にすわりこんでしまった。

焔誼迦具楽 >  
「うんうん、いい子いい子。
 ちゃんと自分の立場が分かったみたいね」

 へたり込んだ様子に、満足そうに頷いた。
 とても怖がって、怯えて、無力感に震えながらも怒りすら抱いてる。
 ああ、なんて美味しそうに味付けされたんだろう。

「それじゃ、もう不用意にこのあたりを歩き回ったりはしないって約束できる?
 そうしたら、今回はちょっとした授業料だけで助けてあげるから」

 そう子供に聞くように言葉にする。
 ――が。
 その直後に、迦具楽から気が抜けるほどにまぬけな、お腹の鳴る音が響いた。

フレイヤ >  
きっとここで頷けば助けてくれるのだろう。
授業料が一体何のことかはわからないが、命までは取られない。
それはわかる。

「――、わ、私に、命令、しないで……!」

自分に命令出来るのは彼女ではない。
脚に力が入らなくて逃げられないが、それでも言う通りにはするものかと。
今にも泣きそうな目で彼女を睨みつけて。

焔誼迦具楽 >  
「ええ、命令したつもりはないんだけど。
 えっと、そうだなあ。
 お願い、かしら」

 自分の腹が鳴ったのを誤魔化すように、一度咳払いして。

「ね、お願い。
 約束してくれたら、ちゃんと安全なところまで送り届けてあげるし!」

 と、目の前で両手を合わせて、少女に言った。
 力関係は明白だというのに、それを盾にするのでなく、あくまで話を聞いてもらおうという態度だ。

フレイヤ >  
「お願い、も、一緒よ……!」

絶対に聞くものかと。
命令でもなんでも、自身の行動を縛っていいのは一人だけだ。
彼女ではない。
親でもない。
あの煙草の臭いがするご主人さまだけだ。

「ひ、ひとりで帰れるし! ここ、ここは、私の、遊び場、なんだから!」

焔誼迦具楽 >  
「もー、強情だなぁ。
 それじゃあ、どうしよっかなぁ」

 うーんと唸りながら、首をかしげる。
 どうも本当に困っているように見えるだろう。
 迦具楽は単純に、この少女に大人しくしてほしいだけなのだが。

「んー、ああでもそっか」

 面倒くさいから食べてしまおうかと思ったところで、ふと思いついた。

「じゃあ、これ」

 そう言いながら、少女の目の前で手を握り、開く。
 そこには一枚のカード。

【破壊神の社プライベートプール 責任者
 焔誼迦具楽
 TEL:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇】

「せめてこれだけ受け取ってくれない?
 これからもこの街をうろつくつもりなら、もし困ったことがあった時にいつでも呼んで。
 可及的速やかに、可能な限り全力で助けにくるから」

 と、名刺を目の前に差し出した。

フレイヤ >  
「っ」

差し出された拳にびくっとする。
が、開かれた手に置かれていたのは名刺。
それを見て、彼女の顔を見て。
恐る恐る手を伸ばし、ひったくるようにそれを受け取って。

「――、なに、読めない……」

掛かれているのは漢字ばかり。
辛うじてプライベートプールと言うカタカナと電話番号は読み取れた。
そして彼女の言葉。

「……あ、貴女、私、のことどうにか、するつもりじゃ、なかったの……?」

彼女の言葉から、こちらをぐちゃぐちゃにしようとしていたのではないだろうか、と。

焔誼迦具楽 >  
「え? そりゃあいくらでもできるけど。
 まさかそんな、弱い者いじめみたいなことしないよ。
 私はただ、ここがどんな場所かわかっていないと危ないから、注意しにきただけ」

 心外だなあ、とでも言うように少しだけ眉をしかめて。

「だって貴女、結構うわさになってるのよ?
 それだってわかってないでしょ。
 そんな状況でこの街をうろついてたら、私なんかよりよっぽど『ヒトデナシ』に襲われかねないもの」

 本当に危ないんだから、と繰り返し注意するように言う。
 最初からそうだったように、ただの自然体で、そこには敵意も悪意もない。

「だから、この街に不用意に入らないって約束できないなら。
 代わりにせめて、保険として持っておいてほしいなーって。
 だってほら、貴女お金も持ってそうだし、美味しそうだし」

 腕を組んで、繰り返し頷く。

「つまらない輩に殺させちゃうには勿体ないんだもの。
 だから契約って形でどうかな?
 貴女が雇い主で、私が雇われ」

 そうお互いを指さす。

「報酬は、お金とちょっとしたもの。
 安心して、命に関わるような事はないし、傷つけたりもしない。
 ――まあ、むしろ傷つけてほしい、みたいな変態さんだったら別だけど」

 と、指さした人差し指を上に向けたまま。
 どうかしら、と提案した。

フレイヤ >  
噂になっている。
それはまぁ、確かに自分の目的を考えれば手放しで歓迎、と言うものでもない。
わかっていない、と言うことには少し不満はある――実際わかっていないのだが――が、確かに保険はかけておいた方が良いだろう。

「そういう、ことなら、良いわ。あな、貴女のこと、雇ってあげる」

へたり込んだまま、強がったまま。
彼女の言っていることはよくわからないが、契約と言うことなら良いだろう。

「で、でも、ここで、よ、呼ぶことは、たぶんないわ。わ、わたし、つよいし、もっとつよく、なるもの」

焔誼迦具楽 >  
「やった、それじゃあ契約成立って事で!」

 提案を受け入れてもらえれば、素直に喜ぶ。
 ただ、続く言葉には少しだけ不満顔になるが。

「うんまあ、強くなるのは良い事? なのかもしれないけど。
 できれば、念のためにってくらいに沢山呼んでくれたらうれしいんだけどなー。
 って、言うのもね、今ね、私、お金に困っててね」

 はあ、と項垂れるようにため息を吐く。

「プライベートプールの経営を始めたのはいいんだけど、いまいちこう、売り上げが。
 このままだと大損しちゃうんだぁ。
 だからせめてこう、どこかで補填したいというか。
 あ、もちろんそっちを利用しに来てくれてもいいからね、彼氏とデートとか」

 などと、落ち込みつつも、プールの宣伝は忘れない。

「っと、ともかくそれじゃ、今回の分の授業料だけもらおうかなー。
 ああ、今日はお金はなしでいいよ。
 はい、手をだして」

 そう言いながら、少女に向けて手のひらを差し出す。
 上に手を載せろと言うように。

フレイヤ >  
「……しかた、ないわね」

お金に困っているのなら、仕方ない。
そう、彼女が仕事をくれと言うのだから、仕方ないのだ。
決して怖いからではない。

「ぷらいべーと、ぷーる。じゃ、じゃあ、そっちも使わせてもらうわね。知り合いにも、言っておくわ」

彼氏はいない。
兄みたいな人はいるが、彼は自分よりそれこそ彼の恋人と行く方が良いだろう。
自分が行くならば、海に行くと言って行けなかったペットか、ご主人さまか。

「……、お金、なら、あるけど……」

彼女が別の方が良いと言うのなら良いだろう。
きっと逆らわない方が良いのはわかったので、言われた通りに、しかし恐る恐る手を重ねる。

焔誼迦具楽 >  
「ふふ、ありがと。
 ご利用お待ちしてまーす」

 なんて言いながら、お金も請求すればよかったかな、なんて思いつつ。
 恐る恐る差し出された手を握る。

「それじゃ、いただきます」

 なんて、律義に言って。

 ――少女の熱と魂を『喰らう』。

 少女の身体からは急速に体温が失われていくだろう。
 自分の奥の奥から、何か大切なものが流れ出していくように感じられるかもしれない。
 けれど、それが何かを自覚する事は出来ないだろう。
 自己の魂を認識できる人間など、めったに存在しないのだから。

「――はい、ここまで。
 大丈夫ー?
 意識ある?」

 体温の低下によって、凄まじい寒さを感じる事だろう。
 体温は三十℃を切ったくらいだろうか。
 低体温の症状が出始めているだろう。

 とはいえ、まだまだ命に係わるほどではない。
 当然、放置していれば多少なり苦しい思いはするだろうが。
 幸いこの日も暑い。
 いずれ身体も温まるだろう。

フレイヤ >  
「……ぅ、あ……!?」

何かを奪われるような。
取られてはいけない、大事なものを取られる感覚。
思わず身を捩って逃げようとするが、そんな状態で満足に逃げられるはずもなく。
バランスを崩して無様に地面に転がるだけだ。

「ひ、ぃ……! ぁ、や……は……!!」

寒い。
気温の低下ではなく、自身の中から直接体温が奪われるような、おかしな感覚。
あの人との情事では与えられなかった、恐怖。
怖い。
こわいこわいこわい。
ただひたすら恐怖だけが膨れ上がる。
意識が薄くなり、代わりに近付いてくる――

「っは、あ、はひ、ひぃ……!」

そうして唐突に何かを奪われる感覚が消えた。
残ったのは胸の内にしっかりと刻まれた恐怖と、低い体温。
涙を流してガクガク震えつつ、彼女を恐怖に染まった顔で見つめながら、ずるずると満足に動かない体で這って逃げようと。

焔誼迦具楽 >  
「おお、元気だ元気だ。
 よしよし、暴れないでねー。
 自力じゃろくに動けないでしょ」

 そう言いながら、逃げようとする少女を捕まえて、抱き上げる。
 すっかり冷たくなった少女の身体からは、まだまだ美味しい匂いがする。

「ふふ、ご馳走様。
 貴女、本当に美味しかった。
 ああ大丈夫大丈夫、これくらいじゃまだまだ死なないからね」

 そう言われて安心できるものじゃないだろう。
 けれど、今の状態でどれだけ暴れられようと、迦具楽から逃れる事は出来ない。
 抱き上げたまま、ゆっくりと大通りに出て落第街から離れるように歩いていく。

フレイヤ >  
「ゃ、やぁ、はな、はなし――!!」

呂律が回らない。
わからない。
彼女のすべてがわからない。
わからないから、怖い。
バタバタと手足を振り回すが、力が入らない上に彼女とは力の差があり過ぎて。

「たす、たすけ、マモ、マモ、ル、たすけて……!」

寒い。
寒いのに、肌に張り付くような夏の暑さが気持ち悪い。
暴れるのをやめて、ご主人さまの名前を呼びながら震える。
心をすっかり恐怖で満たされ、ぼろぼろと涙を流しながら、されるがままに運ばれていく。

焔誼迦具楽 >  
「マモルって、ああ、貴女のご主人様ね。
 あと、コーナって言うのはお友達かあ
 友達に選んでもらったなら、大事な浴衣よね。
 ほんと、汚しちゃってごめんね」

 なんて、もがくことも諦めた少女に、平然と話しかける。
 少女を『食べた』時に読み取った表層心理と記憶の断片を思い浮かべながら。

 魂――と、迦具楽が定義しているソレは、人間の人格や精神を構成する根幹。
 それは元より生きている間に、肥大したり摩耗したりするものであり、減ったところで回復する。
 もちろん、生きていればの話だが。

 そして落第街からでて、比較的安全なところまで行く頃には、なんとか動けるようにはなっているだろう。
 通りに面したベンチに少女をそっと降ろして、手を離す。

「それじゃあ、後は自力で帰ってね。
 あ、それともタクシーとか呼んだ方がいい?
 あんまり具合が悪かったら、救急車の方がいいかな」

 などと、少女を降ろすと顔色――非常に悪そうだ。
 を、見ながら念のため声を掛ける。

フレイヤ >  
「ひ、ぃ……!」

何故知っている。
ご主人さまとペットの名前。
言っていないはずだ。
教えていないはずだ。
彼女の「力」を知らない自身には、なおさら恐怖でしかない。
そうして歓楽街まで来た頃には、

「ぅ、ぁ……は、……ひ――」

ずっと腕の中でもがいていたので、体力を消耗してしまった。
下ろされても地面の上でもぞりもぞりと動いているだけだ。
目は虚ろで、焦点が合っていない。
涙の他に、口の端から涎が垂れているが、気付いていないようで。
ここに放置すればそのまま死んでしまうかもしれない。

焔誼迦具楽 >  
「あーあー、これはちょっとまずいかな。
 まってね、救急車呼んであげるから」

 手慣れた調子でハンカチを『創り』、よだれと涙を拭う、
 こんな状態で救急隊に見つかるのも可哀そうだ。

「――あ、すみません、意識が混濁してる重症者がいるんですけど。
 はい、場所は歓楽街の――」

 と、救急に連絡し、もう意識が朦朧として聞こえていないかもしれない少女の頭を撫でる。

「救急呼んだから、もう少し頑張ってね。
 大丈夫、静かにしてたらすぐに回復するから。
 それじゃ、『またね』」

 そう言って、少女を置いて去っていくだろう。
 少女の恐怖に染まった味を想像しながら、弾む足取りで。

フレイヤ >  
「ぅ、あ、……」

誰かが頭を撫でている。
だれだ。
ご主人さまではない。
ペットの誰かでもない。
あたたかい。

「――お、かあ、さま……」

ちがう。
母親は故郷だ。
それに、母親がそんなことしてくれるはずが、

「ぁ。あぁ、ま、って――」

立ち去る影に手を伸ばす――と言うか地面をと這いずる程度だが――も、影は離れて行って。
視界が暗くなっていく。

「ひとり、に、しない、で――」

そうして、意識は沈む――

ご案内:「スラム」からフレイヤさんが去りました。
ご案内:「スラム」から焔誼迦具楽さんが去りました。