2020/09/01 のログ
龍宮 鋼 >  
「ッ!」

力ではない、技で御される。
あっという間に体勢を崩され、宙へ浮かされた。

「っ、メてんじゃねぇぞ!」

空中で叩き落され、しかし途中で動きが一瞬止まる。
自分自身の速度を奪い、それを彼女へ流す。
こちらの身体を下に叩き付ける速度がそのまま彼女の身体を地面へと叩き伏せるように襲い掛かる。
その一瞬速度が鈍った間に身体を捻って着地、前髪をかき上げるように腕を振るえば、顔を半分覆う様な仮面のような鋼の甲殻が生えてきた。

水無月 沙羅 > 「なるほど。」

リミッターの解除段階を上げる。
無理やりな力によって、下へから向く自分の体を支える。
重圧によって潰れた内臓によって血を吐くが、それも一瞬にして元に戻った。

「面白い力をお持ちなんですね。 あぁ、資料で確かに読みました。
 確か、奪う力でしたっけ? なるほど、『チンピラ』らしい。
 でも確か、魔術相手には効果が薄いんでしたっけ。」

埋もれた脚を無理やりに引き抜いた。
唯の小さい筈の少女から、全身にあふれる魔力が可視化できるほどに付与されている。
ゆっくりと、鋼に向かって歩んでくる。

その姿は何処か。

『異能殺し』

『鉄火』を下した男を彷彿とさせるのだろうか。

龍宮 鋼 >  
「クソが、どいつもこいつも――!」

先日ケンカ――自分はそれをケンカとカウントしていないが――した相手も不死身だった。
風紀委員はバケモノばかりか。
普段ならば笑いの一つでも浮かべるところだが、今はとてもそんな気分にならない。

「資料資料と――馬鹿にしてんじゃねェぞ……!」

縦に大きく裂けた瞳孔で彼女を睨みつけ、盾のように左手を顔の前に構え、突進。
砲弾のような速度で彼女へ突撃し、――直前で彼女の向かって左側に回り込むように起動を変える。
力で無理矢理軌道を捻じ曲げ、左手で彼女の脇腹――肝臓を思い切りブッ叩くリバーブロー。

水無月 沙羅 > 「フェイント……」

魔術の流れは、同時に気の流れと呼ばれることもある。
それはその人物がどう動くか、というのを如実に流れによってあらわしてしまう。
故に、少女の目論見は沙羅にとっては筒抜けで。

「バカに何てしていませんよ。 私はただ、どうしたらあなたに『参った』と言わせられるか、それを考えているだけです。
 しりませんか? 知識は武器っていうんですよ。」

龍の如き力によってなされる突撃も、そのフェイントも、己の身体の犠牲をいとわぬ彼女の強化された肉体と瞳にとっては、決して捉えられぬものではない。
もちろん、その無理な挙動によって激しい痛みと体内の損傷によって声は苦悶に淀んでいる。

跳ぶように足元を蹴り、小さなクレーターを残して鋼の真後ろに回り込んで背中に触れた。

「貴方のすべての魔力って、奪う事は出来るのでしょうか。
 魔力が空になった時点で、動けなくなるんですけれどね。」

触れた個所から急速に魔力の流れを操作しようと試みる。
それは本来、己に施す治癒魔術の魔力暴走のプロセス。
魔術の流れを意図的に暴走させ、肉体を破壊する『沙羅』オリジナルの魔術。
人に使う事を想定しない、危険な代物。
それを爆発寸前まで、魔力を乱そうと。
一瞬で終わるような工程では決してないが、強烈な不快感が鋼を襲うのだろうか。

龍宮 鋼 >  
「――ッ!!」

あっさりと後ろを取られる。
同時に乱される魔力の流れ。
身体の中をぐちゃぐちゃにされるような不快感。

「言うかよッ!」

その程度で止まるものか。
後ろ脚で彼女の足を踏み抜こうと思い切り地面に突き立て、その目論見の成否に関わらずそのまま背中をブチ当てる。
鉄山靠。
血反吐を吐き散らして身に着けた一級品と言っても過言ではない技術に、人外の力を乗せて放つ。
乱された魔力では地面の重さは乗らないが、それでも肉体を強化した彼女でも脅威となる威力。

水無月 沙羅 > 「避けられない……かな。」

ここまで近くなると、どんな反応速度をもってしても避けられるような代物でもない。
武術とはここまで人を強くさせるのか、素直に称賛する他なかった。
脚を踏み抜かれ、避けられないままに体ごと飛ばされるような威力が沙羅に襲い掛かる。

肋骨が砕け、肺に刺さる感触がする。
内臓が潰れ、肺で呼吸ができなくなる。
今にも意識が飛んでしまいそうな痛みに、然しそれすらもいつかの日常であった彼女には、まだ足りない。

「ごめんなさい。」

それを使うほどに追い込まれるとは思っていなかった、無論、数秒で完治する負傷ではあるが。
無傷のままでは彼女を止められない。
なら、もう使わざるを得ない。

「アヴェスター・ザラシュストラ。」

鋼の生み出した痛みが、肉体を強化することによって生み出された痛みが。
鋼を貫いた。

龍宮 鋼 >  
手ごたえあり。
背中にズシリと彼女の身体を捉えた重み。
そのまま踏み抜いた足を軸に身体を反転させ、更に肘による追撃をぶち込もうとしたが、

「――ッ、が、ァああぁッ!?」

肺と内臓がつぶれるような痛み。
回転の軸がぶれ、横合いへと放り出されるようによろめく。
そのまま地面へと倒れ

「――の程度ォ゛ォ゛!!」

ない。
地面を思い切り踏み付け無理矢理立て直す。
痛みがなんだ。
苦痛がなんだ。

そんなものあの地獄でとうに慣れた。

苦痛を無視して再び砲弾のような速度で彼女へ迫る。

水無月 沙羅 > 「……おど、ろいた。」

その痛みに耐える人間が、自分以外に存在することに。
意識を失ったとしてもおかしくはない、ショック症状で死ぬことだってある。
それでも彼女は倒れない。
沙羅自身の不死の異能によって、その痛みも数秒で消え去る。
沙羅のダメージは回復する。

倒れない少女を見つめる。

彼女に伝わっている痛みは、今は己のリミッター解除による持続的な物だけだ。

「いい加減に……っ!」

足を踏ん張らせる、全力を振り絞る、『殴りつける』という姿勢を取る、フェイントも何も存在しない。

「とまれ……!!」

全てのリミッターを振り切って、砲弾の如く迫る龍に向かって拳を振り抜く。

龍宮 鋼 >  
痛みが薄くなる。
知ったことか。
そんなことよりこいつをぶっ飛ばす。
知ったふうな口を利くコイツをぶちのめす。
まともな居場所が欲しいと叫んでまともな居場所を得られたと言う、恵まれたコイツをボコボコに叩きのめす。
その考えしか頭にない。

「ッ、ぐ……ッ!!」

ズドン、と、自身の顔に彼女の拳が突き刺さる。
首が折れそうな衝撃。
ねじ切れそうな首を、膂力のみで無理矢理抑えつけ。

「――ッがあああァァァアアあああ!!」

構うものかとそのままクロスカウンターのように腕をぶん回す。
その腕は、鋼のように硬く硬く押し固められたその拳は、ハンマーのような風切り音を立てて彼女へと迫り、

ぶうん、と空を切る。

「――ッ、ぐ、――ぁ」

視界が揺れ、膝が折れる。
自身の砲弾のような速度にカウンターで人間離れした一撃をぶち込まれれば、そうもなるだろう。
彼女の拳からこちらの顔がずるりと滑り落ち、しかし膝を付くことだけは拒否。
よたよたと数歩後ろへよろめき、ぐらぐらと揺れながらも、その目はまだ繊維を失っていない。

水無月 沙羅 > 「……がっ……あぁぁっ!」

息が上がる、当然の如くリミッターを外した腕は砕け墜ち、根元からずり落ちた。
打たれた鋼よりも、打った沙羅のほうがダメージが多きというのは皮肉な話だ。
強烈な痛みによって膝をつく、肩から千切れた傷口を抑える。
多量に流れる血液も、異能によって時間が巻き戻る様に、腕を復元しながら『なかった事』になってゆく。

未だ戦意の衰えない様子の少女に、己の回復を待たぬまま両足をばねの様にして、タックルを仕掛ける様に飛び込んだ。

「この……頑固者っ!!」

龍宮 鋼 >  
未だ回復しない身体では抵抗が出来ない。
当然タックルを避けることなど出来るわけもなく、そのまま押し倒される。

「――メェに、テメェに、だけは……」

それでも尚、腕をぶん回す。
密着してきたのをいいことに、倒れざま彼女の顎を狙って肘をブチかます。

「テメェだけには、負けられねェ!!」

それが当たろうが当たるまいが、押し倒されてとにかく目の前の彼女をしこたまぶん殴る。
倒れた時に後頭部を地面に強打した。
視界は揺れるし狭いし、もう距離感もクソもない。
とにかく固めた拳を、感触を頼りに振り回すだけだ。

水無月 沙羅 > 「ぐっ……ぶっ……このっ……助けてほしいなら、助けてほしいって、何度だって、諦めないで叫んでみなさいよ!!」

何度も顔を殴られながら、押し倒した少女の胸ぐらをつかみ、そのまま。
殴られる度に血を吐きながら、泥だらけになりながら。

身体強化の魔術を解いて、素の少女のまま。
相手をひきつけ、自分の頭を大きく振って、ヘッドバット。

助けを求める様にしか見えない少女に、思いの丈を訴えながらそれを叩きつけた。

龍宮 鋼 >  
「うるせェ! うるせ――ッが――」

運よく助けられただけのくせに。
ただ運がよかっただけのくせに。
助けられたものが、助けられなかったものの気持ちがわかるものか。
頭突きを喰らって動きが止まる。
が、それも一瞬。
左手でこちらも彼女の服を引っ掴み、右手で何度も顔――らしき場所――を殴る。

「テメェに、テメェには――!!」

彼女が自分の上から退くまで、何度も、何度も。

水無月 沙羅 > 「……っ。」

もう、意識を刈り取るほかない。
それ以外の方法は無い。
これいじょう、人を殴りたくはない。

「大馬鹿……!」

もう一度身体強化を施した。
腕を掴み引きずるように持ち上げて、持ち上がった首筋をはかり知れない膂力で締め上げようと動くいた。
呼吸を止めさせ、脳内の酸素を奪うべく
意識が落ちるまで、その形を崩そうとはしないだろう。

龍宮 鋼 >  
「ッガ――」

首を締め上げられる。
呼吸が出来ない。
それでもまだ殴るのをやめない。
左手でその首を掴み、彼女と同じように全力で締め上げる。
その間も彼女の顔を殴る右手の動きを止めない。

「っ、ぁ……メ、ェ……ッ、そ……!」

視界が狭まる。
殴るのはやめない。
少しずつ動きは鈍くなるが、それでも彼女の顔をぶん殴る右腕は止めない。

最後の最後まで、絶対に。

水無月 沙羅 > 「グッ――」

未だ知り得ぬ、自分以外の人間を超える力によって首を締めあげられる。
決して自分の肉体は強靭なものではない、ただ再生を繰り返すだけだ。
呼吸を止められながら、何度も何度も顔を殴られる。

「ガ……こ、のっ……!」

視界が暗くなる、流血が目に入って視界も赤くなる。
酸素が足りずに、力も鈍く、動きも弱くなりつつある。

最後の力を振り絞って、拳を握りしめた。
呼吸は奪ったままに、全力のボディブロウを叩きこむ。

これで彼女が終わらないのなら、その時は自分の意識は零れ落ちるだろう。

龍宮 鋼 >  
「テ、メ……ェ……ッ――」

もう視界は殆ど真っ暗だ。
彼女を殴る拳も剛腕が見る影もないほどの弱弱しさ。
それでもべちん、べちんと右腕を動かし続ける。
それでもギリギリと左腕で首を締め上げる。

「――メ、ェ、……け、には――ッ!!!」

ずどん、と。
腹へ衝撃。
少し前に喰った晩飯を吐き出しそうになるが、それを無理矢理押し込めて。
釣られたサンドバッグを殴った時のような動きで吊り上げられた身体が揺れ、

「――ッ、――!」

ぶうん、と弱弱しい右拳を振る。
それが彼女の頬をぺしりと叩いた直後に、両手がだらんと力を失った。

水無月 沙羅 > 「……ガハッ……はぁっ、なんて、タフネス……ッ」

少女の両腕が力を失うのとほぼ同時に、沙羅もまた膝から崩れ落ちた。
意識が遠くなりかけた脳に酸素が供給されてゆく。
今誰かに背後から襲われれば、たまったものではないだろう。
簡単に連れ去られてしまうと断言できる。
不死とはいえ、それほどにぎりぎりの戦いだった。

「……救われなかった者、か。」

少女をそのまま連行する気にもなれずに。
自身の呼吸が安定したころ、手元に持っていた冷や水を龍宮 鋼の顔に向かってぶちまけた。

龍宮 鋼 >  
「――ァあ!」

顔に水を掛けられ、意識を取り戻す。
と同時に跳ね起き、右腕をぶん回すもそこには誰もいない。
自分の右腕に振り回されるように身体が泳ぐ。

「……、あ……?」

何が起きたかわからない、と言う様な顔。
頭が痛い。
腹も痛いし、と言うか全身そこかしことにかく痛い。

「、……クソが!!」

立ってこちらを見降ろす彼女に気付き、その彼女を見てやっと自分が負けたことを理解した。
叫び、地面をぶん殴る。
重い音と共に、拳が半分ほど地面に埋まった。

コイツにだけは、負けたくなかった。

水無月 沙羅 > 「……ん」

何も言わずに手を伸ばした。
その手が意味するところを、沙羅は語らない。
言うべきことは、この争いの中ですべて口にした。

それでなおこの手を振り払うのなら、それは彼女の選択だ。
自分に其れ以上干渉する理由は無い。
強いて言うなら、風紀委員に連行するかを迷うことぐらいだ。

龍宮 鋼 >  
差し出される手。
それを見て縦に裂ける瞳孔を開く。
反射的に振り払おうとしたが、振り上げたところで動きを止めた。
ケンカで負け、情けを掛けられ、それも振り払うのはあまりにも。

「……」

だからその手を無視して自分で立ち上がった。
少しよろけるが、この程度は問題ない。
地面を睨みつけ、量の拳を手が白くなるほどに握りしめて。

ぎちり、と噛み締めた唇から血が流れる。

水無月 沙羅 > 「私も、わかるよ。
 助けられなかった痛みと、絶望は。」

其れだけ呟いて。

「だから、諦めないでよ。 まだ、私達、始まったばかりなんだから。」

其れだけ言い残して、背中を向けた。
これ以上の問答は必要ないだろう。
少女が何かを聞きたいというのなら、今この場所は相応しくない。
そう思った。

「私は、水無月沙羅。 『鉄火』の隣に立つ者。
 何か用があったら、風紀委員を尋ねてくれていい。
 もしくは、此処に。」

自分の連絡先を手帳に書いて、破いて放る。
鋼が呼び止めさえしなければ、その場を立ち去るだろう。

龍宮 鋼 >  
諦めるな。
簡単に言いやがって。
どれだけの地獄だったと思ってる。
どれだけ助けを求めたと思ってる。
地獄を見続け、助けを求め、それでも何もかもをすり潰されて、それでも尚諦めるなと言うのか。
あとどれだけすり潰せと言うのか。
もう手遅れで何もかも終わったことなのに。

「――ッそがァ!!!」

手近な壁をぶん殴る。
廃屋はそれだけであっさり崩れ落ちた。

「水無月沙羅ァァァァ!!! テメェだけは、テメェにだけは!! 二度と、もう二度と負けねェからな!!!」

吠える。
恐らくは、似た境遇だったのだろう。
彼女も彼女なりに地獄を見てきたのだろう。
違いは、助けられたかそうでないかの違いでしかない。

だからこそ。
誰に負けてもいい。
彼女だけには、絶対に負けたくない。

次に負けたら自分の全てが間違っていたことになってしまうから。

ご案内:「スラム」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「スラム」から龍宮 鋼さんが去りました。