2020/09/03 のログ
ご案内:「スラム」に虞淵さんが現れました。
虞淵 >  
夏にも終わりが近づき、此処スラムにもやや喧騒が戻ってきたか
こんな場所は季節の移り変わりなんざ無縁だと思っていたが、長く住んでいるとそうでもないということがわかる

──といっても、男が此処に姿を現すのは今になってみれば稀も稀
まともな喧嘩相手がいなくなって久しいからだ

「ふー……」

煙草の白煙を吐き出す
雨の後、気温はさがったが逆にじっとりと蒸し暑い
整備されていない道路、あちこちに水貯まりができる中、男は悠然と歩を進める

虞淵 >  
──いつまでこんなことを続ける

知らん。楽しいことだけを続けろ
それに飽きなきゃ、人生はそれで勝ちだ

──そうやって遊び相手がいなくなっていくんだろう

ああ、その通りだな

周辺からはスラムらしい喧騒が聞こえたり、途切れたり
それでも我が歩みを阻むものは現れない
そんな中で、雨上がりの道は男にくだらない自問自答を投げかけていた

ご案内:「スラム」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
「――みーつけた!」

 スラムのバラックの上、そこに腰掛けた少女が男に声を掛けた。
 スラムには似合わない、小奇麗に見える外見。
 少女――迦具楽は、嬉しそうな表情を浮かべていた。

「ねえ、異能殺し、ってアナタの事よね?」

 そんなふうに、どこか弾んだ声音で訊ねた。

虞淵 >  
 
お前の進む道は間違っているのだと喚く輩がいた
正義の名の元に裁くのだと息巻く輩がいた
結局そのどれもが、神から授かった力を以って道を止めようとした誰もが、いなくなった

雨というものは不思議なもので、男ですら感傷的にさせるらしい

馬鹿らしい、と一蹴し新しい煙草に火を点ける、と……

「…ああ?」

降りかかる声に視線を上げる
その先には…少女の姿だ

「何だ、お前は」

足を止め、見上げて

焔誼迦具楽 >  
「私が何か、って問いの答えは、私が一番知りたいところかな。
 よ、っと」

 軽い調子で、バラックの上から男の目の前に飛び降りる。
 体格差は一目瞭然。
 前に立てば、見上げなければ顔も見えない。

「わー、本当にすごい身体してるのね。
 話に聞いていた通り、筋骨隆々ってやつかしら?」

 言いながら、匂いを嗅ぐように鼻を数度鳴らす。

「うん、それに素敵な匂い。
 本当にびっくりするくらい、素敵な人間」

 などと、一人納得しながら頷いている。
 が、再び顔を上げた。

「一度、アナタに会ってみたかったのよ。
 私がこの街に居たころは会えなかったし、アナタもしばらくいなくなってたし。
 簡単に言えば――そう、ファンみたいなモノかしら?」

 と、男に向けてそう答えた。

虞淵 >  
「ほう」

すぱ、と煙草を吹かし
目の前に降り立った少女を見下ろす

「──で、サインが欲しいってワケでもねェだろ
 "会いたかった"それだけか?」

物言いや佇まい、雰囲気
どこかスラムの住人としては異質なものを感じる
まぁ、少なくともその出自は、この島の人間というわけではないだろう
此処では、珍しいものでもないが

「俺のことを知ってるようだが、
 だったら尚の事、関わらねェほうがいいってコトはわかるだろうよ」

いつ誰かが仕掛けてきてもおかしくはない、そうなれば男の周囲は全てが危険地帯化する
──もっとも、最近は不意打ち気味に来る者はほとんどいなくなったが

焔誼迦具楽 >  
 関わらない方がいいと言われれば、その通りなのだろう。
 それだけ、目の前の男の力は強大で、危険だ。
 ――けれど、見境のないような相手でもない。

「別に自分の身くらいは守れるもの。
 そう、アナタに会いたかった理由なのだけど」

 人差し指を立ててぐるぐると回しながら。

「アナタ、どうしてこの街に戻ってきたの?
 私、アナタが居なくなったって聞いたとき、この街に飽きちゃったのかなーって思ったんだけど」

 そう不思議そうにたずねる。

「もうこの街に、アナタと正面から喧嘩できるようなヒトなんて、残っていないんじゃない?
 私ですら、遊び相手が居なくてつまらないくらいなんだから、アナタくらいになったら、ねえ」

虞淵 >  
「そりゃ結構」

自分の身は自分で守るとはっきり口にする少女にニヤリと嗤う
まぁ、こんな街で単独行動をするくらいだ。バカか強かかのどちらかだろう

少女はつらつらと並べ立てる
その一言一句、相違ない
ロストサインのグランドマスターが行方を晦まし、此処落第街から大きな火種が消えた
やりがいのあるだろう相手と目をつけた連中が尽くいなくなった──
それがこの男が落第街から姿を消し、金持ちどもの地下格闘技に身を窶した理由である

なぜ戻ってきたか、それは…火種が再び見えたからに他ならない

「とある違反部活が、俺を用心棒として雇いたいって話があってな」

ふう、と白煙を吹かす
もちろんそれのみに惹かれたわけではない
まぁ、そこまで込み入った話まではせんでも良いだろうと

そして…

「──喧嘩相手がいねェってのは、どうかな」

最後まで意地を貫き通し闘志を失わなかった風紀委員の顔を思い出す
──ああ、アイツは、良かった。高慢な風紀の文句を並び立てるだけの男ではなく…
そう、久しぶりに、期待外れでない男だった

焔誼迦具楽 >  
 嗤った男に応えるように、迦具楽も微笑む。
 けれど返答を聞けば怪訝そうな顔をした。

「アナタを、用心棒に?
 アナタを必要にするなんて、一体何をするつもりなのかしら」

 そう言いながら、眉をしかめた。

「――ああ、そう言えばこの間、喧嘩をしたって聞いたわ!
 ええっと、『鉄火の支配者』だっけ、風紀委員の。
 そのヒトは、アナタが楽しめるくらいイイ相手だったの?」

 その風紀委員には迦具楽もあってみたかった。
 その理由は喧嘩相手がどうという理由ではないが。

「もし、アナタが喧嘩相手として認めるような相手なんだったら。
 真面目に倒さないとダメかしらね。
 そうじゃないと、ちょっとバランスが悪いわ」

 そう、眉をしかめたまま何かを考えるように腕を組む。
 迦具楽の目的は、この落第街の『維持』だ。
 目の前の男がずっとこの街に留まるのならともかく、風紀委員とのパワーバランスを考えれば、強力過ぎる存在は叩いておかなければならなかった。

虞淵 >  
「知らん。命が惜しいんだろうが、今更もっと深く潜るわけにもいかンってとこだろ」

フィルタ近くまで燃え尽きた煙草を捨て、踏み消して

「ああいう相手だとどうしても派手になっちまうからな。
 まぁ、知られてんのは別にイイが…──」

さて、楽しめるくらいの相手だったのかと問われれば

「そういう御大層な名前の持ち主だったか、そういや。
 まァ、機転は良かったがあの程度がアイツの最大火力だとしたら──次はねェな」

喧嘩相手として認める…というよりも、男が気に入ったのは最後の瞬間に見せたあの獰猛なまでの気高さである
逃げず、命を賭してでも一矢報いて見せるという確固たる決意を感じるに十分な姿だった
──が、現実問題として決意や覚悟でアップグレードされる戦力などたかが知れている
異能者ならばその性質にも寄る、だろうが──

「気になるならちょっかいかけてみたらどうだ?
 俺ァあいつともっぺんやりあうかどうかは微妙だぜ。
 魔術や魔法の類まで使われるとどうにもな。やりづれえ」

焔誼迦具楽 >  
 『鉄火の支配者』への、男の評価を聞けば。
 ふうん、と意外そうに見上げた。

「気になるところではあるけど、好んで戦いたいわけでもないのが悩みどころなのよね。
 私としては、この街がこの街らしく、混沌とした秩序で維持されればそれでいいの。
 あるじゃない、ここにはここの、ルールっていうのが」

 少々不愉快そうにまた指を立てる。

「アナタが居なくなって、大きな組織も軒並み消えちゃって。
 その結果、ルールを守らないおバカさんが増えちゃったの。
 その上、だからこそかな、風紀委員が大きな顔してこの街を歩き回ってる」

 思わず、悩ましい息が漏れる。

「それは、私の好きなこの街のカタチじゃないの。
 変化は良い――けど、この街の在り方を変えられるのは面白くない。
 なんて、アナタに言っても興味ない話かしら」

 などと、肩を竦めて言葉にする。
 本当なら――この男がこの街にとどまってくれれば、それだけでバランスはとれるのだ。
 風紀委員にだって、昔ほどのバケモノは居なくなっているのだから、『異能殺し』一人でおつりがくる。

 しかし、それで大人しく留まってくれるような相手ではないだろう。
 この男は本来、一つ所に留まるような器の人間じゃないはずなのだから。

虞淵 >  
「クッ、御大層なこと言わんでもソレでいいじゃねえか」

ルールだなんだと抜かした後に出た、それが本音だろう
今の落第街・スラムの状況が好きではない──ということが

「ルールだとか掟なんてモンは究極的にはそこに住んでる連中が勝手に決めるモンだ。
 今この街がそういう状態で続いてンなら、それはそれで正しいカタチなンだよ。
 それが気に入らない、ってンなら──」

ぐじ、と潰れた煙草を踏み躙る

「お前がお前の好きな形に、この街を変えればいいじゃねェか」

興味の有無といった話はどうでも良い
自分が気に入らないならそうするべきだ
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ我儘を通せばいい
それを通す力がないなら、意欲がないならば…諦め、迎合し、泣き寝入りすればいい
生きる上ではどこでも変わらない、シンプルな図式だ

「──ま、しばらくは出入りはするぜ。ビジネスのある内はな」

焔誼迦具楽 >  
「私が変える、かあ。
 アナタ、本当に格好いい事言うのね。
 まったく、男らしいっていうか」

 そう単純に突き通せるのなら、どれだけ簡単だろうか。
 気に入らない相手を喰らいつくして、好きな形に叩きなおす。
 それができないとは思わない――けれど。

「――昔だったら、そうしてたかも。
 今はこの街の住人でもないし、ただのお節介でしかないのよね。
 でも放っておきたくないから、出来る範囲で、やり過ぎない程度でやってみようかしらね」

 ふう、とため息が漏れて。
 自然と笑みが浮かんだ。

「少しの間でも、アナタが留まってくれるなら随分違うと思うわ。
 それに、ありがと、アナタの言葉でちょっと頭がすっきりした」

 そうして嬉しそうに、『大きな』男を見上げる。

「なにかお礼をしたいくらいだけれど、アナタが喜びそうなものってわからないの。
 喧嘩相手になってあげられたらいいのだけど――本気でやりあったら、大変でしょう?
 少しは楽しませてあげられるとは、思うのだけど」

 そう、残念そうに苦笑する。

虞淵 >  
「別にやり方も一つってワケじゃねェだろう?
 影で動いて誰かを操って変えていくも良し。
 大きな力を持つ誰かを利用するも良し、だが──。
 まァ得手して人間ってのは自分より頭の悪ィ人間しか操れねェもンだ」

「ヤれる力があンなら、自分でやったほうが手っ取り早いがな」

トントン、と自身のこめかみを指で叩く
力、は何も腕力、暴力だけではない
策略、計略…キレる頭脳というのも立派な力なのだ

「道端でたかだか数分言葉ァ交した程度で別に何ンもいらねェよ。こう見えて金にも困ってねェしな」

お礼を、などと言ってくる少女には肩を小さくあげてリアクション
こんな程度のことで律儀に何をいってやがるんだと

「喧嘩ァ?お前が?俺と?バカ言ってるぜ
 例えお前が異能者の特異体質でイイ殴り合いが出来たとしても、俺が格好つかねェだろうが」

「いくら俺が三度の飯より人殴るのが好きっても恥も外聞もないわけじゃねェんだぞ」

焔誼迦具楽 >  
「そうそう、そう言うところ。
 アナタがただ強いだけじゃなくて、素敵なところ。
 やっぱり会えてよかったわ、素敵な人間に会うと、気分がいいもの」

 メンタルもフィジカルも、並じゃない。
 頭もよくて、男らしくたくましい――完璧じゃなかろうか。
 その上、これだけ『美味しそう』なのだから、目の前にいるだけでお腹が減りそうだ。

 ――言ってるそばから、腹の虫が鳴きだした。

「――えっと」

 咳払い一つ。

「そうね、私とアナタが殴り合ってたら、見栄えがどうにも悪いわ。
 ただ、そう、うっかり。
 もしかしたら我慢できなくて、アナタを襲っちゃう事があるかもしれないけど」

 そう、どこか恥ずかしそうに、照れ臭そうに頬を掻きながら。

「まあその時はその時、って事で、ね?
 その時は思う存分やりあいましょ。
 そうなったら、恥も外聞も関係ないくらい、楽しませられるように頑張るわ」

 朗らかにはにかみながら、男を見上げて。

「最後に名前、聞いてもいい?
 私は迦具楽。
 今は異邦人街に住んでる、落第街産まれの人間の出来損ないよ」

虞淵 >  
「そうかい。そりゃ良かったな」

いつのまにか雨上がりの曇天は晴れ、陽光が差し込んでいた
スラムと言えど、通りにはそこそこ日が通る

「──あァ、お前がフツーじゃねェってのはなんとなく理解してるがな。
 その時はその時だナ。はしたない女は別に嫌いじゃねェよ」

こちらに微笑む少女の脇をすり抜け、歩いてゆく

その背に少女の名と、男の名を問う言葉を受ければ振り返ることはなく…

「虞淵<グエン>だ」

そう一言だけ残し、男は悠然と歩き去るのだった

ご案内:「スラム」から虞淵さんが去りました。
焔誼迦具楽 >  
 すれ違い、立ち去る相手には振り向かない。
 すがすがしい顔で、迦具楽もまた歩き出す。

「グエン――グエンか。
 ふふ、本当に美味しそうなヒト」

 その足取りは弾むようで。
 どこか、想い焦がれるような表情になりながら、迦具楽はスラムを後にする――。

ご案内:「スラム」から焔誼迦具楽さんが去りました。