2020/09/07 のログ
ご案内:「スラム」にアストロさんが現れました。
ご案内:「スラム」にクロロさんが現れました。
アストロ >  
「あは、お兄さんよっわ~」

浮浪者に近い様相の男を蹴飛ばす朱い髪の少女。
男の手にはナイフが握られていたが、すでに取り落している。

「そんなちっちゃなナイフで何しようとしたのぉ?」

男は呼吸を取り戻そうと必死になっており、声を出せない。

「ねぇ?答えてくれないと死んじゃうよぉ?」

クロロ >  
「ア~ス~ト~ロォ~……!!」

少女の背後から響くのは怒気を含んだ男の声。
スラムの暗がりを照らす明かりは紅蓮の炎。
迷彩柄の男の腕がまるで焼けるように噴き出る炎は
暗がりを照らし合わせる篝火のようにくすぶっている。

「随分とまァ、つまンねェ事してンなァ。アァ……?
 "弱いもの"虐めはその辺にしとけや。ケリィ、もうついてンだろ……」

腕を振り払えば、くすぶる炎は消え失せる。
暗闇の中でも、煌々と輝く金の瞳が少女を睨みつけていた。

「それで"しまい"だ。ソレ以上やるッてンなら、オレ様がその喧嘩買ッてやるよ……!」

アストロ >  
「なぁに?クロロ君は正義の味方?」

声を聞くなり、その名前をよんで。
男の近くに魔術の氷を放おって、くるりと振り返る。

「えぇ~?このお兄さんが遊んでくれるっていうから答えてあげたのにぃ」

いつもの挑発的な顔の少女の、金の瞳が、金の瞳と向き合う。

「あは、じゃあ私を止めてみてよ。
 時間は……あの氷が成長しきるまでかな?」

転がる氷が少しずつ大きくなり、倒れた男の足を捕まえていた。

クロロ >  
「ハッ、笑わせンな水ガキ。オレ様が正義の味方だァ?
 違ェな、テメェの行動が気に入らねェからイチャモン付けにきてンだよ」

そんなものとは程遠い存在だ。
コキ、と首を慣らせば僅かに瞳孔が細くなる。

「"ケリ"ついた喧嘩に、必要以上に相手痛めつけンのは"スジ"が通らねェ……」

そこに如何なる約束事が在ろうと、己の"矜持"にそぐわなければ介入する。
正義ではない、全て己の決め事。其処に出くわした相手の不運。


─────"止めてみてよ"。


少女の言葉に、再びスラムの闇を照らす炎が
クロロの足元から荒れ狂い噴き出した。

「────上等だクソガキ。ホテルみてェに加減はしねェ……」

二本指がピッ、と空を切る。
クロロの周囲に現れる六芒星を模した三つの魔法陣。

「"泣いて謝るまで、許してやらねェ"。灰になッても文句なしだぜッ!」

吠える怒声に合わせて、地面を踏み抜く震脚。
迸る亀裂に合わせ、噴き出した炎がうねり、さながら触手ようにアストロに迫りくる。
魔力を帯びた生ける炎。振れればたちまち、肉体も精神にも燃え移る危険な炎だ。

アストロ >  
「それはクロロ君の正義じゃなぁい?ま、どうでもいっか」

実際どうでもいい。
これから楽しい時間が待っている。そっちのほうが重要だ。


「私は手加減してあげよっかなぁ~」

そんなつもりはないが。いつもの挑発だ。
パチンと指を鳴らすと、地中の配管が弾けて水が噴き出す。
吹き出した水を偏向させ、辺りを水浸しにする。
まずは場を整える、それがアストロのやり方。

「へぇ、やっぱり炎かぁ」

続いて迫りくる炎に対抗しよう。

《ウォーターフォール》

指を上から下に落とすと、アストロのすぐ前に、
数メートル上から滝の様に水が降ってくる。
それは炎を収めるないし、弱めることはできるだろうか。

クロロ >  
迫る炎は水の壁へと激突に、熱気と冷気がぶつかり合い
けたたましい音と共に周囲に蒸気の煙幕が吹き荒れる。
ぶつかった炎は幾ら魔力を帯びてようが、所詮は炎。
その水の勢いを蒸発させることは出来ず、アストロの目の前で消えてしまう。

「…………」

両腕を組んだまま、クロロの金色の瞳は、アストロの動きを見ていた。
魔術の流れを、行動を。魔術師の戦いは、《計算》だ。
相手の能力を看破し、先読みし、それに合わせて弱点を徹底させる。
それを踏まえると"やはり"アストロとの相性は……。

「……チッ」

"最悪"だ。
自在に操る水は、己の体質を加味すれば全てが"一撃必殺"になりかねない。

「(ガラじゃねェが、まずは下準備だ……)」

二本指が素早く暗闇の宙を切る。
緑の魔力が暗闇に軌道を描き、二つの魔法陣がクロロの前面に展開される。

「『名状しがたき者<The Unspeakable>』」

「『心の触媒毒<Emerald Lama>─────!』」

言霊に乗せられた魔力に合わせて
正面二つの魔法陣、先んじて出しておいた三つの魔法陣から"突風"が吹き荒れる。
可視化出来る、緑色の風。それ自体に威力はない。
"水除の加護"。先日、彼女に教えて貰った"傘要らずの術"を自分流にアレンジした防護魔術。
ある程度の水量であれば、自動で"水が避ける"術だが
あのウォーターフォール以上の水が来たら、全てを防げないだろう。
飽く迄、応急処置だ。当然詠唱のこの合間にクロロは動けない。
アストロが何か行動を起こすには、十分な時間がある────。

アストロ >  
「あは」

すんなりかき消せた炎に小さく笑う。
とはいえ吹き付ける蒸気はあまり好ましいものではない。致命的なものでもないが。
滝の流れを変えて蒸気を巻き込ませ、地面に落とす。

「クロロ君の魔術、かっこいいねぇ」

滝によってもたらされた水が足元半径2メートル程度に広がっている。
それは流れ出ること無くそこに押し止められている。
その水面に立って、余裕の表情で相手を見据える。

「次は何を見せてくれるのぉ?」

言いながら、指を真上に向ける。

《ドリズル》

ぱらぱらと雨が振り始める。
それは非常に小粒で、いうなれば霧雨。
水除の加護でそれらが弾かれるのを見れば、

「へぇ、もうばっちり覚えたんだ、すごーい。
 でもこれはどうかなぁ?」

《フリージングレイン》

降りかかる雨が、氷の針に変質し襲いかかる。

クロロ >  
「ヘッ、そう言うテメェはチンケな術しか使えねェみてェだな」

降り注ぐ霧雨を弾くエメラルドの様に美しい緑の風。
クロロの周囲を取り巻く突風の中でクロロは鼻で笑い飛ばしてやったが……。

「……(ちと、まずいか……?)」

降りしきる霧雨に胸の焦燥感が滲み出る。
クロロは決して、相手を侮らない。
"これ位降らせれるなら、豪雨にする事だってわけないはずだ"。
アストロならばそれ位出来ると踏んでいる。
おまけに、彼女の足元に広がる水たまり。
"あれもダメだ"。近づけない。近づいたら、あの水が襲い掛かってきてもおかしくない。
クロロは、嘘を吐けない馬鹿だ。その焦燥感が表情に滲み出ていた。

「チッ……!ンな米粒……!」

上に切り上げる二本指。暗がりを照らす緑色の魔力の軌跡。

「("水が多すぎる"。"俺の炎"じゃァ弱くなッて使えねェ……なら……!)」

「『潜伏する者<The Hermit>』」

「『忌まわしき双子<Lloigor>─────!』」

周囲を取り巻く緑の風とは別に、クロロの左右に吹き荒れる二対の竜巻。
さながら双子の様に取り巻く竜巻は、"粘着性"の魔力を持っており
襲い来る氷の針の数々を瞬く間に吸引していくが、この取り囲む霧雨、全てを吸いきれない。

「…………」

吸いきれない針が、クロロの体をいくつも掠める。
瞬間、"蒸発"するのが分かるだろう。生ける炎の体。
氷程度ならわけもないが、受けた部位が"抉れている"。
氷と衝突する事により、体の一部が、炎が文字通り蒸発して霧散したのだ。

「……ッてェな……"返す"ぞ……!」

見開く金色と共に、暴風が牙を向く。
吹きすさぶ双子の竜巻から、お返しと言わんばかりに蓄えた氷の針を竜巻ごと飛ばした。

アストロ >  
「魔術は大小よりも使い方が大事だからねぇ。
 クロロ君も知ってるでしょ~?」

あれ程の炎の魔術が使えるのであれば、この程度では死なない。
そういった加減を行っている。
"殺してしまってはもったいないから"

そして、氷の雨がもたらした結果を観測する。
まずは体に到達してから蒸発する氷。恐らく高熱に起因している。
体がものすごい熱を発しているか、あるいは体そのものにそういう特性があるか。
服装が特に影響を受けていないのを見れば、後者である可能性が高い。
極端に水を嫌がったのも、納得できるというもの。

「なるほどぉ。そういう体なんだぁ」

次に風の魔術だ。
あの魔術には独特な特性がある。氷の針も吸い込む強い風。
水と風は強調すると強い力を生むとされ──

「おおっ?」

考察をしていれば、風がアストロに襲いかかる。
慌てて左手を突き出して。

《アイスシール……

間に合わない。とっさに水面を滑るように移動して回避行動。
自らが作った氷の針に切り刻まれ、風に吹き飛ばされ、
逃げ遅れた左腕が肩から持っていかれる。
血は出ない。致命的なダメージになる前に、水化して切り離している。

「あっははは、いったいなぁ……っ!」

いつかの暗い目つきで、歯を見せて笑う。
この瞬間も、少女は"楽しんでいる"。

クロロ >  
此方の方が一手、速かった。
確かにお返ししたものは少女の体を切り刻んだが、"血は出ない"。
ダメージがかさむ前に、水となった体を見て露骨に顔を顰めた。

「おいおい、何処まで似てやがンだコイツ……。
 テメェこそ、大概"ろくでもない"体してやがンな」

恐らくその体は自分と同じ、人間のものとは言い難い。
水の特性を持った……とは、違うかもしれない。
全く以て因果な出会いだ。おまけに、あの笑顔は楽しんでいる。
オモチャを見つけた子どもが、オモチャを壊さないように、弄ばれている。

「……気に入らねェな」

コイツにとって自分以外は、多分そういうものだ。
そこで甚振ってた男も、そういうオモチャでしかないのか。
大概、悪党と言ってしまえば安っぽいが、その気持ちを幾何か"理解出来てしまう"。
今回ばかりは、そんな自分に嫌気が差して、溜息を吐いた。
クロロの全身から炎が噴き出せば、抉れた部分は治っていた。

「オレ様も喧嘩は好きだが、お前程"悪趣味"じゃねェ。
 テメェ、一体全体マジで何者なンだ?いや、いい……言わずとも……」

五つの魔法陣が、クロロの周囲で円を描く。

「オレ様流に"わからせて"言わせる」

……要するに力づく。

「おうよ。使い方次第だ。……だからそろそろ終わらせてやるぜ」

どのみちこのままでは嬲られて終わりだ。
火遊びしたら火傷をすると言う事を教えてやる。
金色を見開き、右手と左手、青と赤の光が十字に交差する。

「『極地の極光<The Light from the Pole>』」

「『冷たき炎<Aphoom=Zhah>─────!』」

右手の払う動作と同時に、青い炎の波が地面を這う。
名前通りの凍てつく炎。水と炎の魔力を合わせた炎魔術。
水の魔術は"相性的"に得意ではない。だから、此れが使えるのは一度切だ。
うねる炎が、周囲の霧雨を凍らせ、アストロへと襲い掛かる。
狙いはその周囲の水を凍らせてしまう目算だ。
クロロも凍てつく炎の陰に隠れるように駆け出し、一気に距離を詰めて跳び上がった。
例え如何なる見た目だろうと、容赦はしない。
その場を動かなければ、強烈な飛び膝蹴りが青い炎から飛び出してくる。

アストロ >  
「ふふ、私は"変えられる"だけだよ~」

切り離されて飛んでいった半透明の腕を水で引っ張って回収、
元の位置に戻して、ぐー、ぱー。ぐるぐると腕を回す。
腕以外の切り刻まれた部分も、半透明の腕の色もあっという間に元通り。

「私は気に入ってるけどねぇ?ふふ」

そう、遊んでくれる相手を探しに来た。
この島では遊んでくれそうな人がたくさんいる。
最高だ。だがまだまだ少女は満たされることはない。

「何者って、ただの小さな女の子」

当然ながら、そんなことを聞いているわけではないのは、わかっている。
つまるところ、語るつもりはない。
知りたければ、力ずくで。

「おいで?受け止めてあげる」

何をしてくるかなどわからない。そこまで手の内は把握していない。
ならば真っ向からぶつかり合ってみるのが一番楽しい。
負けたら、その時はその時だ。

『深海に眠る一柱よ その力を貸し与えたまえ』

アストロの足元から直径50cmほどの水の球が一つ浮き上がり、正面に展開される。
直後、足元の水は全て青い炎によって凍りついた。足も巻き込まれて凍る。
痛みはあるが、たじろぎもしなければ、もともと避けるつもりもない。

「こういうのは、どうかなぁ?」

《Grasp of Cthulhu》

水に関する魔術なら幅広く知っている。
水の神にちなむ魔術もまた、その一つ──。

水の球を基点に巨大な異形の掌が出現し、相手の体を握りしめようと伸びる──。

クロロ >  
「オレ様は"気に入らねェ"。こンな体も、こンな場所も、真ッ平だッ!!」

楽しむ少女と、憤る青年。
炎と水。何処までもそこだけは交わらない。
少女と違い、青年の張り上げた声は隠しようのない本音だ。
燃え盛る炎が、青年の憤りが、その胸の内に何時でも燃え盛っている。
そんなクソッタレな世の中でも"矜持"を貫くのが、己の生き様。

「受け止めてみせろよ、アストロォ──────ッ!!」

ただ、そんな中である種、奇妙な"信頼"はそこにあった。
或いは、少女の狂喜に当てられたのか、青い炎から飛び出したクロロの表情は"笑っていた"。

「……!」

"その名"は確実に、己の脳内に存在した。
自分もそれは、きっと使える。
いや、覚えてはいないが、"なんとなく"だ。
やろうと思えばそれは使える。飛び出すクロロ。
今更止まりはしない。水球目掛けて、五つの魔法陣がすべて正面に重なる。


─────ほんの一時だけでもいい、もう水は全て凍り付いた。後は─────


「『極光の星<Fomalhaut>』……、……!?」

巨大な異形の、掌。
それが視界に入った途端、突如頭痛に苛まれた。
詠唱が途切れ、全身から嫌な汗が噴き出す。

「ッ!?う、が……ッ!?」

頭痛。内側から何かが飛び出すような、痛み。
耐えがたい痛みにクロロの表情が苦痛に歪む。
得も知れぬ映像が、脳裏にフラッシュバックする。
……自分の知らない、何か。


だが、戦いのうちにその"静止"は一瞬の隙。
その体は、異形の掌に掌握されてしまった。

アストロ >  
「そういうトコも好きだよぉ、私!」

自分の意志で来た少女と、連れてこられた青年。
炎と水。それは喰らい尽くす如く包み込む。
少女だって本音だ。こちらに刃が届く相手なんてそれほど居ない。
このときばかりは暗い目ではなく、心底楽しそうに笑う少女。

そしてまもなく力がぶつかり合う。きっと大きな衝撃がある。
両腕で顔を覆って衝撃に備える。

そして、それは。

来なかった。

「クロロ君?」

相手にとっても予想外のことが起きたのだろう。
アストロはクロロがそんなところで手を抜かないという"信頼"をしている。
少女が次にするのは……心配だ。

パチン。指を鳴らせば掌は相手を握りつぶそうとはせず水蒸気となって蒸発する。
本来は水に戻るのだが、それでは相手が困るだろうから、1工程挟んだ。

まだ足は凍りついて動けない。
水流を用いて足を解凍しながら、その場から心配そうに覗き込む。

クロロ >  
「──────ッ、オォ…アァ……!?」

頭の中になかったはずの何かが悶えている。
恐らく、知っていた事だ。暗がりから、それが頭の中で暴れている。
これは、"恐怖"か?わからない。唯一つ、わかる事は……。


──────これが出てきた時、自分は自分でなくなる確信がある。


苦痛を漏らし、異形の掌で悶える最中……。

「……!」

それを取り払ったのは、思いがけない少女の声だった。
霞となって消えた異形から、投げ出された体が地面へと放り出される。
脂汗に滲む体。気づけば頭痛は消えていた。

「ハッ…!ハッ…!……アス、トロ……?」

恐る恐る、少女の顔を見上げた。
人に見せることなかっただろう、青年の引きつった表情。
呼吸を必死に整え、状況をとにかく確認する。
落ち着け、落ち着けと言い聞かせ、次第に落ち着きを取り戻した。


……何だったんだ、あれは……。


もう、何も思い出せない。
ただ、あの異形を見た瞬間、得も知れぬ何かが自分の中で暴れた。
あれは……いや、それよりも、それよりも今は……。
静かに首を振り、ばつが悪そうに、視線を外す。

「……悪ィ、急に"アレ"を見てから頭が痛くなッて、
 ……や、言い訳だわ。すまン、余計なタイミングで……」

最初に出てきたのは、謝罪の言葉だった。
あれほどまでに感情を丸出しにしてぶつかり合っていたが
結局人のいい事に、相手の"楽しさ"に水を差してしまった事に責任感を感じているのだ。

「……トドメ差すンなら今だぞ?」

アストロ >  
「大丈夫?クロロ君」

いつもの余裕そうな声ではない声だ。マジで心配している。
相変わらず足は凍って動けない。
使えるのは水だけだ。しかし水では相手に触れる事はできない。
何かに苛まれ、息を切らす相手の姿を、
焦燥に必死に抗う相手の姿を、見ているしかない。


やがて自分を取り戻す相手。
その様子に安堵したのか、いつもの調子に戻る。

「どうしたの……って聞いてもわかんないみたいねぇ。
 いいよぉ、何かあるみたいだし」

少女はこの相手が楽しめると分かっただけで十分収穫だ。勝負は次にお預け。
相手に何が会ったかは知ったことではないが、
自分は全力で遊びたいのだ。
弱っちい相手をひねるのはともかく、楽しめるはずの相手を不調の間に潰しても面白くない。

「そっちこそ、私まだ動けないよ~?」

かわらず流水でゆっくりと解凍している。自然解凍ほどじゃないが時間はかかる。

クロロ >  
「オレ様はまァ……アー……」

もう済んでしまって、何もわからない。
大丈夫と言えば、大丈夫だ。
しかし、折角の喧嘩を穢してしまった。尾を引いている。
凍り付いた足元を見れば、ばつが悪そうに頬を掻いた。

「『退散<カエレ>』」

解除の呪紋。随分と適当だが、自分の編み出した術であれば
その辺りもわかりやすく設定するのは当たり前だ。
その言葉を最後に、己の魔力は霧散し、少女の足元を氷も誘拐する。
ハァ、とため息交じりに立ち上がれば後頭部掻いた。

「アー、まァ。オレ様もよくわからン。
 あの腕を見たら、急にこの有様だ」

多分、此の白紙の記憶に関係があるのは間違いないのだろう。
ただ、それを差し引いても、それを"悍ましい"と感じてしまった。
この記憶が白紙でなくなった時、どうなってしまうのか。
……考えたくない事だ。振り払うように、力強く首を振った。

「や、マジで悪ィ。情けねェ所見せたわ。
 ま、オレ様がこのまま勝ッてもしょうがねェし、今回は引き分けだな」

因みにどうなってたかは知らないけど勝つ自信はありありだった。

アストロ >  
「おお」

あっという間に氷が解けていく。
形を保てなくなった水が広がりそうになるので、慌ててコントロールを取り戻す。
一通り解けたところで、パチン、指を鳴らせば水は何処かに消えていく。
そこには小さな水たまりだけが残る。

足の組織が凍ったことで壊死しているのが分かったので、
一度スライムに戻して再構成する。便利な体だ。

「さっきの腕のこと、知りたい?
 知ってる範囲でいいなら、特別に教えてあげてもいいよぉ?」

名前を言おうとしたが、何がきっかけになるかわからない。
向き合えるほど、精神的な余裕があるかどうかも。
とりあえず本人の意思がどうかを確認する。

「しょうがないなぁ~。そういうことにしといてあげるねぇ」

因みにどうなってたかは知らないけど勝つ自信はありありだった。

クロロ >  
「アー……知りたいッちゃ知りたいけど……」

魔術師としても、自らの記憶としても
興味がない訳がない。寧ろ知りたかった。
だが、躊躇いがあった。それを今知って、どうなるのか。
何が起こるのか。両腕を組んで、唸り声を上げながら思考を巡らした。
出した結論は、一つだ。

「"今はいいや"。オレ様はオレ様のまま、お前と殺し合ッてバカやッてる方が"今はいい"」

記憶に頓着は元々薄いが、彼が記憶喪失でも不便していない理由の一つだ。
今に生きる青年は、今が楽しいからそれでいい。
アストロの表情を見ながら、ニヤリと笑みを浮かべた。

「次はキチッとケリつけてやるよ、アストロ。
 とりあえず、今日もホテル行くか?」

アストロ >  
「はーい。また今度ねぇ」

水の一柱に関することはいつでも教えられる。
他の柱については……あまり知らないが。
いつか話してあげよう。彼が望む時に。

「あは、楽しみにしてるね」

いつもどおりの返事をして、にっと笑う。

「わーい。ホテルいきたーい。」

さっきの男からはした金をもらおうと思ったが、それはできなくなった。
実は戦闘が始まった時点で氷は解けているし、男は逃げおおせている。

クロロ >  
「おう」

世の中は知らない事のままのがいいものがあるという。
それが自分の記憶にも当てはまるかは分からない。
危機感を感じていないと言えばそうだ。
所詮裏の人間と言えど、その中で生まれたこの"縁"は
クロロ自身にとっても大事なものになっている。

「今度はお前床で寝ろよ。……アレ?……まァいいか」

あの男は何処行ったのかな、と思ったがこの様子じゃ逃げたのか。
そう解釈すればジャケットの両ポケットに手を突っ込み
気だるそうに歩き始める。

「つーか、お前いい加減金稼ぐ手段見つけたらどうだ?
 オレ様の仕事ぐれェーなら手伝わせてやッてもいいけど……」

アストロ >  
「えぇ~ベッドがいい~」

当然わがままを言う。
言ってもいいと思っているから。

「お金を稼ぐ手段っていっても、何処の施設も学生証?が要るらしいしー。
 歓楽街でおじさんでも捕まえて貰っちゃおうかな?」

違反部活に所属してるわけでもないので、
カツアゲする他は、そういう稼ぎ方ぐらいしか出来ない。
もちろん、言っている意味が伝わるとは思ってない。

クロロ >  
「ウルセェぞ水ガキ。いい加減床で寝ろ、欲しけりゃ力づくで奪ッてみな」

こういうクロロだが、現在二敗済み。
何とは言わない。

「マァジか。オレ様は拾ッたの持ッてて良かッたー」

流石に学園のシステムを全て把握しているわけではない。
如何やら、あの小遣い稼ぎはこの偽造学生証のおかげのようだ。
名前も知らない誰のとも知らない偽造学生証に今は感謝しておこう。

「ア?その辺のおッさン学生証もッてンの?
 じゃァ、オレ様がホテルの道すがらぶちのめすか」

当然伝わらなかった。肩をぐるぐる回して無駄にやる気を示してるぞ!

アストロ >  
「あは。また負かされたいんだぁ」

対するアストロの余裕っぷり。
何とは言わない。

「あ、いいなー。私も足がつかないのほしいな~」

偽造学生証。正規発行でないから、
紛失の再発行もされずにそのまま使えるのだろう。

「ダメだよぉ、ちゃんとしたやつだと使えなくなっちゃう」

なので、歓楽街にいる裕福そうな人が持ってるものは、きっと使い物にならない。
お金の話のつもりだったが、学生証の話になってしまった。
相変わらずクロロ君は面白いなぁと笑うアストロであった。

なにはともあれ、いつものところまで向かっていくことになるのだろう。

クロロ >  
「ア!?負けンが!?なンならオレが勝つが!?」

クリエイト:フラグ

「ンだよ、違ェのか?まァいいや……」

よくわからないが、アストロが言うからには使えないらしい。
意気込んで損した。まぁいいか、と後頭部を掻けば、既に何時ものホテルの前。

「足つかねェのな……なァ、アストロ」

自動ドアが開くタイミングで、声をかける。

「そう言うの、心当たりあるからもッてきてやろうか?
 便利なンだろ。そういうの?今日の詫びッて訳じゃねェけど……持ッてて便利ならよ」

少なくとも今日、自分は彼女に迷惑をかけた。
なら、それを濯ぐのが"スジ"を通すという事だ。
その偽造学生証がどれだけ便利かは、クロロは知らない。
少なくとも彼女に迷惑かけた分の穴埋めにはなると思った。
ただ、相手の為と成る行為に気恥ずかしさが勝ったのか、すぐに肩を竦めた。

「オラ、とッとと行くぞ」

照れ隠しで、何時ものように。
何時もと同じホテルの部屋へと向かうのだった。

アストロ >  
「ほんと?っていってもホ代出してもらってるし……、
 別に無理は言わないよぉ。ほしいけどね?」

アストロは別に悪くは思っていない。
決着がつかず拍子抜けしたとは言え、十分楽しかったのだ。
それでも、偽造学生証1枚あれば、各種施設が利用できる。
それはとても便利なものになるだろう。

「はぁい」

お互い手慣れた様子で部屋を決めて1日が終わっていく。

ご案内:「スラム」からアストロさんが去りました。
ご案内:「スラム」からクロロさんが去りました。