2020/09/20 のログ
■黒いフードの少女 >
唐突に、スラム街にか細い悲鳴が響いた。
しかしここの連中は気にも留めていない。
その方向にちらりと目線が行くか行かないか、その程度の反応がほとんどだ。
自分もそちらに目をやると、女性が男性に殴られ、金をむしり取られている、そういう状況だった。
スラムでなくても珍しくもない光景、このスラムでもやはり、『力の強い者』が正義であることに変わりは無いらしい。
「ムナクソ悪い光景だ事。」
しかし、少女がそこから動く事は無かった。
金を取り戻してやる儀理もなければ、そう言った自治機構としてここに立っているわけでもない。
どこに行っても、やはり人間というのは腐っているなと実感するだけだ。
そんな人たちばかりではない、とは、口が裂けても言えないかった。
人間とはそういう生き物だ。
力が無くては生きていけない悲しい生き物だ。
しかし力をひけらかせば、出た杭は打たれ、二度とは這いあがれなくなることもある。
そんな光景を幾度となく見てきた。
もはや、この心はそんなことでは動かない。
ご案内:「スラム」に園刃 華霧さんが現れました。
■園刃 華霧 >
「はーい、オマエラなー。なー二やってンだ?」
はいはい、いつもの胸糞な光景ですコト。
見慣れた光景じゃあるんだけど、この制服を着てるからには無視していいわきゃないな。
ってことで、男どもに蹴りをくれてやる。
「風紀屋さんのお通リだッテことデね? 悪いナ。
出会ッチまっタのが運悪かッタってことデな?」
急に体を沈めて足を払う。そのまま別の男を蹴り上げながら起き上がる。
トドメとばかりに倒れた男は踏みつける。
およそマトモな格闘術ではない、奇妙な動きを見せつける。
「……と。こンなカ?」
ふむ、と周りを見回す。
視界の端にフードの誰かさんが見える。
……ま、ここじゃ弱者を虐げられても無視するなんざ普通だもんな。
■黒いフードの少女 >
「……。」
認識阻害の魔術を施してあるフードを被りなおす。
まさか風紀委員が目の前に現れるとは思っていなかった。
其れも見知った顔で、それなりに仲が良いと思っている人物とは。
このスラムにやってきてまで警邏している、理央やレイチェルが抜けた穴を埋める人間はやはり存在していた。
男達はいとも簡単に取り押さえられ、事態は収束する。
辺りにほとんど人はいなくなった。
女は逃げ、今ここに居るのは自分と彼女だけだ。
「……。」
自分もさっさと逃げてしまえばよかったと後悔する。
無駄な心配をして危なくなったら手を貸そうなんて思考が過ったのがよろしくなかった。
微妙な空気の間にこの場から離れるべきだろうかと逡巡して、風紀委員の少女に背を向けた。
何も口にはしなかったが、その光景を見つめている。
■園刃 華霧 >
「ン―……?」
さて……ただガン無視されるんだったら、まあよくあること、だった。
もしくは、あからさまに逃げをうつのもまあおかしなことじゃない。
けれど
こう、視線をそらすっていうのは……ちょっと流石に気になる。
「……ヨー、そこの……んー……誰かさん?
どう景気はドーよ。っテーのモ変かネ。
こんナとこで、何してンのさ?」
とりあえず、声をかけて様子を見ることにする。
■黒いフードの少女 >
「……。」
認識阻害の魔術は働いているはずだ。
たとえ知っている人物であっても、自分を自分だとは認識できない。
そのはずだ。
だから会話をしたところで困る事は無い。
「好景気には見えないね、こんな場所だし。
何……って言わてると、そう、人探し、かな。」
どちらにしても間違ってはいない答えを紡ぐ。
ディープブルーを探し、その黒幕を探し、それを行なうためにクロロと名乗った少年を探している。
だから人探しは嘘ではなく真実だ。
ごまかしているというわけでもない。
ここに自分が居るというのは少々ほの暗いものがあるが、知られたら困るというだけのことだ。
■園刃 華霧 >
「ハー、ナーるほド。人探しネ?
その"こンな場所"で探しテんのナ。そリャたいへんネ。」
こんなところで人探し、となれば後ろ暗いことが多いハズ。
それなのにこう、すんなり口にするってことは……うーん?
「そレを口にスるってこター、アレだ。
じゃあ、アタシが言うのは一つ。
ソりゃ、どンなヤツ? 手助ケしてヤるよ、だ」
きひひ、と笑う。
目の前の、誰かはいまいちわからない誰か。
その意図はまだ読めないけれど。
だから、アタシはそういうだろう。
■黒いフードの少女 >
「そう、大変も大変。
何しろ顔もわからなければ声もわからない。
わかっているのは、しでかしたことぐらい。
見つけ出すのだって方法がね。」
面倒くさいし、大変だ。
しかし其れを見つけない限りは彼女が安心できない。
いや、そんなことをしても問題の根本解決にはならないのだけれど。
今は対処療法くらいしか出来る事が無いのも確かなのだ。
「まぁ、それを見つけるための人探しでもあるというか。
人探しが二重三重になってるのよね。
あ、ってだめだめ、流石に風紀委員に手伝ってもらうわけにはいかないの。
言わなくてもわかるでしょう?
こんな場所で探し人、探し人事態だって『良い者』とは限らないし、ねぇ?」
言うまで言ってから、これはしくじったなぁと思う。
本来、目の前の少女と知り合いである『あの子』ならもう少しうまくやるというか、此処まで喋らないのだろうけど。
生憎自分はおしゃべりで、そこまで考えも回らない。
というかあまり考えてない。
目的が達成できればそれでいいとすら思っていたが、そういうわけにも行かないと思い出すくらいの理性はあった。
手遅れではあるが。
■園刃 華霧 >
「ふーン……」
顔も何も分からない。分かるのはしでかしたことくらい。
その上、こんなところで探している。
それで予想がつくのは、探しものは違反部活とかその手のたぐいの悪党だろうってことだ。
「二重三重の探しもの……ナーるほド。
手ガかりの手がカり探しっテとこナ。
デ……ひひ、その慌てよう、ナ」
まあ、だいたいビンゴってところだろう。
言わなくてもわかるでしょ、ときたもんだ。
語るに落ちると言うかなんというか……
「っテことは、キナ臭ーい案件っテわケ?
なラなオさら見過ごせナいな……ってナんだケドさ。」
けたけたと笑って答える。
本来なら、むしろ笑って見過ごすところではあるんだろうけれど。
なんだかちょっと気になったりする。
だから、本気か冗句かわからないラインで話を続ける。
「ソれとモ、風紀っテ肩書、忘れトく?」
ひょいっと特徴的な紅い上着を抜いで見せる。
■黒いフードの少女 >
「あら、脱いでよかったの?
確か着用義務とかあるんじゃなかったっけ?
まぁ、貴方がその『肩書き』を忘れてくれるっていうなら、ありがたいけど。」
けれど、自分で言っておいてなんだが気になることが一つ。
「職務質問で引っ張って行かれるとかならわかるけど、どういう腹積もり?」
根っからの善人、というならそもそもこんなところに居る事の方がおかしいだろう。
こんな場所がある事自体が耐えられないのがそういう連中だ。
風紀委員としての使命感にあふれているというなら、手を貸すよりも連行して聞き出すが正しいだろう。
風紀の肩書を捨てて、彼女に何の得があるのか。
黒いローブの奥から、金色の瞳がちらりと覘く。
■園刃 華霧 >
「ンー……別に、へーきへーき。
『仕事中』じゃナきゃ、着てナくても良いンだゾ?」
へらへらと適当な笑いを浮かべる。
素行の悪い人種のいい加減なごまかし笑いのような、それ
「ァ―……まー、ソーね。そウ思うノが普通カ。
ぶっちゃケ、腹づモりトか、ナいんダよネー。 基本的に、感覚デ生きテるし。
だカら……こラ、アタシの思いツきってイうカ……
ナーんカ、気にナんの。個人的に」
なにがどう、と言われるととても困る。
正直言って、別にスルーしたっていいと思わないでもない。
ただ、なんか引っかかる。たったそれだけのこと。
そうとなれば、もう風紀の案件ではなく
ただただ、自分の事情の話になる。
だから、制服は特に要らない。それだけの話。
■黒いフードの少女 >
「ふーん、『悪い子』なんだ? 良いけどね、好都合だし。」
自分の都合の為ならいい加減なことだってする、そういう人間は嫌いではない。
我儘すぎるというのなら考え物だが、機転の良さというものは美徳だ。
「感覚、思い付き、個人的に気になる。
なんともこう、曖昧模糊って感じの言葉が並んでる感じ。
正直それで話すのは相当なおバカだと思うんだけど。」
まぁ、自分は利口な方ではないし、相手も『お利口さん』ではないだろう。
それに、彼女に何かを話したところで解決する問題でも、何かが障害になるとも考えにくかった。
もし答えたら彼女は何というのか、興味の方が勝っている。
「『ディープブルー』、と、その黒幕を探してるって言ったら?」
相手が自分の事情で動くというなら、己も自分の都合で動くだけだ。
■園刃 華霧 >
「そ。『ワルイコ』。お互い様ネ」
ひひひ、と笑う。
こんなところで、そんな捜し物してる相手が『良い子』なわけもない。
まあ、お互い様な方が話が早くていい。
「そりゃ。説得力、なンて期待しテないモん。
たダ、こウいう時は馬鹿正直ナほーが上手くいったリするシね。
実際……ほラ」
誰かさんは、その曖昧模糊に答えたでしょ?
そんなもんそんなもん。
駄目なら駄目で、縁がなかった話だったし。
「『ディープブルー』……ね。ナーるホど?」
してみると、例のマルレーネ、とかいう聖女サンの関係者か。
はたまた、別の被害者の関係者か。
「ソいつハ……ちょイ、アタシも気にナるヤツだネ。
色んな理由で思うトこあルし。……アー、一応聞くダけ聞くけド。
復讐、とカそんナ感じ?」
同僚の二人と知り合い一人。それがまとめて怪我させられたって話。
まあ、喧嘩したら怪我はつきものだけども。
少なくとも並の戦力ではない連中にかなり痛手を与えた辺り、油断ならない。
他にもなにか妙に作為的な気もするし……引っかかることは多い。
で。そんな奴らがやってたのは人体実験ってやつだ。
他に復讐を目論む連中がいてもおかしくはない。
なので、返事は期待してないけれど聞くだけ聞いておく。
■黒いフードの少女 >
「復讐? あはは、ないない。
いや、どうなのかな? 復讐……いや、やっぱり違うかな。
『あの子』ならその理由もあるだろうけど、私がするのならそれは復讐じゃない。
なぁんていうんだろうね、こういうの。
んーと、そうだな。
たぶん、人助けだよ。」
人助け、なんて空虚な言葉だろうか。
これほど口にしていて胡散臭い単語もなかなかない。
実際、誰かの為ではある、けれど自分の為ともいえる。
人間というのはエゴイスティックな生き物だが、自分達ほどエゴの強い生き物もいないだろう。
特にあの子は、エゴの塊になりつつある。
自分が抱えているものに耐えきれなくなって、つぶれてしまうそうになると私を呼ぶのだから。
理不尽と嘆いてもいいのではないだろうか。
「自分の為にする人助け。 さすがにちょっと、おかしいかな。」
■園刃 華霧 >
「……ふぅン?
人助け、カ。それハ……悪くナいナ。」
『あの子』、とちょっと気になる言葉は出てきた。
でもちょっとそこはスルー。多分、そこは今触れることではない気がする。
しかし、人助け、か。
さて、それで助けられるのは一体誰か……
少なくとも『あの子』ではなさそうだ。
「うンにゃ。人助け、なンて結局は大体自分のたメ、なトコあるでショ。
なンだっけ……『情けは人の為ならず』だッケ。
むっかーシっから、そンなモンなんじゃナいの?」
本当に、誰かのためだけに人助けをするとすれば。
それはむしろ、ぶっ壊れた人間ではなかろうか。
回り回れば最終的には自分のためっていうのが多分健全なんだ。
「ま、とりアえず……『ディープブルー』ってお調子者集団ノ親玉。
そノ辺の情報がアれば、おまえサンってーか、オマエさんの知る誰か、が助かるっテとこカ。
じゃ。わかッタことアレば、教えル? 」
それがなにかよくないことに通じる可能性もないとはいえない。
ただまあ……どっちに転んでも悪だけが得するってことにはならない……だろう、多分。うん。
■黒いフードの少女 >
「教えるって言ってもねぇ。 ほら、お互い連絡とる手段もないし。
それ、『今は何もわからない』ってことよね。
たぶんこれからもわかる事は無い。」
風紀の彼女に分かる事なら、そのほぼすべてを自分も知っている。
だからこそ、そうしてスラムや落第街なんぞ繰り出しているのだし、そしてなにより。
「それにさ、たぶん、教えるのは貴方にとってよろしくない結果になると思うよ?
『おねーさん』。」
少しの悪ふざけ、そして忠告の様なもの。
自分に手を貸すのはよしたほうが良い、後悔することになる、そんな意味を込めた言葉。
おねーさんに深い意味はない。
あの子は、おねえちゃんと呼んでいたけれど。
「私の得が貴方の得になるとは限らないし、ね。
気持ちだけ受け取っておくわ。」
少し肩をすくめてそう言った。
あの子に関係するものを巻き込むと、あの子が悲しむことになる。
そういう未来が見えた気がする。
■園刃 華霧 >
「あぁ、チョッとそこは痛いトコだナ。ごもっとも。
じゃア、連絡先でも交換スる? っと。
けド一個だけ訂正……多分、いズれ、わカるヨ。それダけは、間違い、ナい。」
わかることはない。それは普通に考えればそのとおりなのだろうと思う。
けれど……あの組織を調べ上げ、けじめをつける、と。
そういった男がいる。アイツがたどり着けない、とは思わない。
まあ最も、あの男がその話を簡単に教えるとも思えないけど……
……ああ、そうか。そうだ。
気がついてしまった。 ああ……それは、よくない。
「……へェ?」
――よろしくない結果になる
それをわざわざ言ってくるわけだ。
それは……興味をそそる。
ソレ以外にも引っかかるところがないわけでもない、が。
「マ、そりゃナ? そっちの得がアタシの得にナるかわカらないノは、そりゃソう。
けド、よクない結果ってノはちょっといたダけないナ。
な二か、知ってンのカな?」
へらっと笑う。
ただ職務上の問題、というだけの話ではなさそな感じがある。
ま、此処で満足行く結果が得られるかは別だけど。
■黒いフードの少女 >
「ふぅん……あの組織がそこまで必死になるようには見えないけど、ねぇ。
連絡先かぁ、どうしよっかなぁ。」
自分用のデバイスなんて持ってないし、いつものデバイスしか持ってないんだよなぁと思いながら少しごまかす。
たいして食いつくこともなく、これで終わりだろうと思っていたがあまかったらしい。
「うぅん、そう……ね。
あんまりヒントを出すのって趣味じゃないんだけど。
貴方は特別だから、教えてあげても、いいかなぁ。」
彼女の立ち位置は、今回の事件において決して無関係ではいられない位置に居る、そう見ている。
あの男が、たぶんそれを許さないのだろう。
何よりも恐れていた『デッドブルー』をためらいなく行った彼もまた、因縁深かったはずだ。
なら、彼女もまた、己に似た立ち位置だ。
そういう意味では、特別だろう。
「私は貴方を知っている、貴方は私を、知っているのかな、どうかな。
ううん、報告ぐらいなら、聞いてるんじゃないかしら。
たとえば、アフロの君とかから。」
其れだけ答えて、くすりと笑った。
■園刃 華霧 >
「……あァ」
たったそれだけで。全部が繋がった。
なるほど、それは……
「ナーるほ、ド……うーン……
そりゃ、確かに……ァー、つまり、そウいうコと」
よくない結果になったり、後悔することになるかもしれないな。
そりゃ困った。
それどころか。多分、この子を此処から連行でもしたほうが正しいんだろう。
「アー……けド、なー……ン―……アー……
アタシの大事な『妹たち』だモんなー……ンー……」
久しぶりに頭を抱える。
色々な倫理とかを吹き飛ばして……大事なものはある。
「……ァー。なァ、ヤっぱ今日のコトって『向こう』は覚えテないノかナ?」
多分、お互い死ぬほど気まずくなるだろう、という危惧はある。
知らないほうが多分、いい。
……けれど、それはそれで不健全なんだよなあ。
なるほど、これがあの子の……
それに、この子の…
■黒いフードの少女 >
「……そう、そういう事。」
これだけのヒントで全部わかるなら、彼女はおとぼけたふりをした利口者だ。
何でもないふりをして、心の奥底では山の様に情報を抱えている。
きっとそういうタイプの人間だ。
だから、悩みもする。
「早速『妹』扱いとはね、まぁ、良いけど。」
妹なのは『あの子』であって私じゃない、とは言いにくい感じだ。
何せ頭を抱えて悩んでいるのだから。
真剣に、『あの子』ではなくて、此方の事さえも考えている。
関わったものは捨てきれない、そんな感じだろうか。
「今日の事は、そうね。 きっと覚えてないわ。
偶に表に浮いてくるときもあるけど、基本的には閉じこもっているもの。
いつまでも閉じこもっているわけにも行かないってわかってるはずなんだけどね。
それすらも、『見て見ぬふり』なのかなぁ。」
肩をすくめて、少々呆れる様に。
「ねぇ、『おねーさん』止めなくていいの?」
認識阻害の魔術を緩めて、彼女だけに見える様に。
少しだけこまったように微笑んだ。
■園刃 華霧 >
「正直、ナ。すッゲー、悩ム。
ってイうか……その感じダと、アイツがヤりたくテもでキないこトを……
オマエが代わリにシてる、カ……下手スりゃ、サせらレてるってトコか?」
――閉じこもっている
――『見て見ぬふり』
とすれば、彼女が動いているのは……肩代わりか。
仮面、とはまた違うのだろうけれどそんな感じだろうか。
「もし。そう、なラ……アタシは……」
顔を見せられる。
そこに見えたのは……なぜ今まで気が付かなかったのか、不思議なほどに。
よく見知った顔。
静かに歩み寄って、目の前に立つ。
「……アタシは『止める』、かナ」
じっと困ったような微笑みを見つめながら……こちらも困ったような微笑みを浮かべる。
■黒いフードの少女 >
「ちょっと違うわ。
あの子は確かに心のどこかでは考えたかもしれない。
でも本気じゃない、そこまであの子は残酷になれない。
でも、怖いのは確かなのよ。
失うことも、放置することも怖くて、だから逃げ出すの。
逃げ出して、解決されるのを待ってる。
わたしが、これしか知らないだけ。」
全てを灰にしてでも、殺してでも。
自分とその周囲を守る、手段を択ばない何者か。
あの子の怒りが体現したものが私というものの筈だ。
そうして、自分はここへやってきたのだから。
「でも、止められないわ。
貴方じゃ、無理よ。
昔の貴方なら、ひょっとしたらできたかもしれないけど。
今の貴方には、無理よ。」
トゥルーバイツの一件以前の彼女なら或いは、それができたかもしれない。
けれど、今の彼女にはその意思があったとしても力はない。
困った顔に答える様に、もう一度魔術をかけなおし、フードを深くかぶった。
■園刃 華霧 >
「……そッカ。
アイツが逃げテ。代わリに出てくルのナ。
で、オマエが解決のたメに動くノな。
しンどいナぁ……」
当の本人はそうは思っていないのかもしれない。
けれど、代打ちで、暴れることしか知らない……なんて。
そんなのは……
「力づく、ナんテのはサ。昔のアタシだっテ多分、無理。
そンなのハ、わかリきってンの。だカら……」
あのエイジを軽く振り回す力の持ち主。
エイジが本気を出してなかったにしても驚異的なものだ。
そんなもの、そんな凄い力量があったわけでもない自分にはいつのときだろうと、留められないだろう。
できるのは、たった一つ。
腕をひろげ……抱きしめようとする。
■黒いフードの少女 >
「貴方もそういうのね。
私、そんなにつらそうに見えるのかしら。
まぁ、でもそうなのかもね。
あの子がそういう時にしか、現れないのだから。」
辛いことを全て押し付けられている人間が、辛くないわけがない。
それは通りだ。
たとえ自分がいかに狂っていたとしても、心があるというのなら。
「あ、ちょっとまって、それはずるいって、ダメだって。
そういうのはナーシ、だめだめ。
そんなもの力づくと変わらないわ?」
抱きしめられそうになるところを、一歩二歩逃げ出した。
以前の様に病院送りになる様にしてしまうのは簡単だが、それはそれであの子がまた閉じこもる理由が増えるだけだ。
けど、そう簡単に止められるわけにも行かない。
だが、止まる理由がない、止まれる理由がない。
「ちょっと受け入れそうになるのがずるいところよねそれ。
わたし、そういうのしてもらったことないもの。」
「って、それはどうでもいいの、どうでも。
それで一時的に止まったとして、それは根本解決にはならないわ。
ごまかしているだけで済むなら、私なんて出てこない。
だからさ、提案があるの、聴く気はある?」
■園刃 華霧 >
「ンー……そこハ、アタシの勝手な感想ダかンな。
押し付けカもシんないケド……そレでも、ナ。」
気になってしまう性質なのだ、と。
言外にそう言っていた。
「……って。
あ、逃げタ。」
それで簡単に止められたら苦労はない。
そもそも、単純な話でもないことはわかっている。
とはいえ。するりと逃げられては、それはそれでちょっと寂しそうにする。
冗談じみたり、真面目ぶったりする中では珍しく、しゅん、とした感じ。
とはいえ、提案、と言われればちょっと表情も変わる。
「提案? 当然、聞くに決まってる。
本人の口からなら、尚更だ。」
居住まいを正す……そんな雰囲気で相手に臨む。
こればっかりは真面目に聞くしかない。
非力で知恵もない自分が、最大限できることはそれだけだからだ。
■黒いフードの少女 >
「あなたのそういう所、あざといっていうんでしょうね。
そんな子犬みたいな顔してもだめったらダメ。」
やれやれと首を振って、仕方ないなと髪を撫でる。
心を傷つけるのは本意ではない。
「今ね、裏の住人……クロロってやつにいろいろ教えてもらって、いろいろ調べてみるつもりなの。
ディープブルーまでは辿りつけないかもしれない、でも、無法以外のやり方を教えてくれるって、そいつが言うから、少しだけ付き合うつもりなの。
だから、私がそうして自分の『殺意』をごまかしていられる間に、『あの子』を安心させてあげてほしい。」
誰も傷つかずに、何もなくて良かったねで済ませられる方法は無い。
結局誰かは傷つくし、教訓もない問題の解決に意味なんてない。
痛みがあってこそ人間は学ぶものだ。
「あの子にとって大事なのはそこなのよ。
『貴方達』が居なくなるのが怖いだけなの。
難しいことだと思うわ、でも、何もしないよりはいい。
と、思わない?
私も出来る事は協力するから、さ。」
こうして放浪しているのも、彼女の生活を守るために、仕事の合間にしかしていない。
あの子の生活を壊すことは本意ではない。
ただ、それ以外の方法を知らないし、そうすることが正しいと思っていた。
敵は全て滅ぼすしかない、それ以外の方法があるというのなら。
誰かに協力を頼むのも悪くはない。
■園刃 華霧 >
「まァ……ソれで止めラれるカってッタら、無理か、
一時しのぎダろーナ、とは思ってタけどサ。
そレはそれトして、寂しイのヨ、これ。」
虚しく宙を抱いてみせる。
冗談めかしているところもあるが、割と本気でもある。
「……やめろっても聞かないだろーし。
わーった。この辺でそんな提案するよーなのはどーせお人好しの類だカら、ま、平気だろ。
……それに。言うまでもなく、本当にヤバい無茶はしないよな?」
エイジを振り回したのが無茶といえば無茶ではあるが。
それでも一線を超えることはないだろう、という信頼はある。
変にこじらせるよりは、ある程度任せてしまったもいいだろう。
そして――
「ぁ……」
――『貴方達』が居なくなるのが怖いだけなの。
「そう、か……うん。
それは……たいへん、だ、な……」
そう あなたが のぞみは それ なのね
わかったよ さら
「……ああ、それなら。 そういうことなら。
アタシは、全力で協力するよ。」
その言葉を迷うことはなかった。
迷う理由が見当たらなかった。
「ところで……多分、この会話自体は、広めないほうがいいよな?」
■黒いフードの少女 >
「まったく、貴方意外と子供みたいなところがるのね?
まぁ、いいか。 じゃぁ私がしてあげるわ。」
拒否されなければ、そっと壊れ物を扱うように抱きしめようとするのだろうか。
沙羅とはちがい、それはとてもたどたどしい。
「死ぬようなことはしないつもりよ。
あの子を生かすことが第一だしね。」
そういう意味では前回の、あの水に変わる少女は大敵だった。
ああいう戦いはもうしないほうが良いかもしれない。
「貴方の動揺って、けっこう露骨ね。」
すこし苦笑して、少しのため息。
「……そうね、余り広げないほうが良い。
特に、神代理央には、ね。
あいつ、どうせ無茶して余計に心配かけるし。」
そうでなければわざわざこんな装備をすることもないというのに。
あの男は平気で死にに行きそうで困るのだ。
■園刃 華霧 >
「……ぁれー? これちがくないー?」
とはいうけれど、素直に抱きしめられる。
こそっと手を回して抱きしめ返そうとしたりもする。
やはり主従逆転ではちょっと意味が違う。
「ン……ァー……まァ、ちっとナ……
アッチには見せなイよーに気をつケるよ。」
そっか、動揺が露骨にわかっちゃうか……
うーん、向こうと接する時は多分そんなことにはならないと思うけれど。
気をつけておくに越したことはないよな。
「ああ、理央ね。うん、わかる。
あのワーカホリック馬鹿、アタシがさんざ言ってるのになかなか改まらないからな……
大事にする気持ちは間違いなくあるんだけど。どっかずれてんだよなあ、アイツも。」
デートしろ、とか言ったのにそれからだいぶ経ってたからな。
入院中の今もどこまでちゃんとデート計画とかねっているのやら……
「じゃあ当面はアタシが可愛がるとして……後は、母とかその辺か?
特に事情は言わんでも、優しくしてやって、とかそういうくらいはいいだろ?」
■黒いフードの少女 >
「あら違った?
まぁいいじゃない? 空気を抱くよりは幾分ましでしょ。」
背中をぽんぽんと叩きながら、だき返されるのを許容した。
華霧の動揺が心配になったから、というのもあるが。
……何を一丁前に人の心配をしているんだ自分は。
「別にいいんじゃない?
あの子、結構隠されるの嫌いな方だし。
いや、貴方に対しては……どうなのかな。
結構信頼、してるように見えるのよね。
なんでかは、まぁ本人に聞いてよ。」
動揺が目に見えたところで、あの子ならそれも含めて包み込もうとするんだろう。
それで抱えきれなくなっては元も子もないのだけれど。
そういう性分だから仕方がない。
「そう……ね、それくらいならいいわ。
どうしても隠し切れないようなら、教えてもいい。
その時は私で対応するし。」
そうして一歩二歩離れて。
「『おねーさん』も抱え過ぎないようにね、『私達』が言えた義理じゃないけどさ。
あなた、すごく不安定に見えて危なっかしいわ。」
「それじゃぁ、私はそろそろ行くね。
また公安に見つかったら面倒だし。」
ほんの少し別れを惜しむようにしてから、背中を向ける。
■園刃 華霧 >
「ァ―……ま、ネ。
悪くはナい。」
本当のところ……抱きしめられる方、はあまり得意ではない。
ないけれど、この相手ならいい。
そう、思うから素直に受け入れてる。
「あー、まあ、そうだろうなあ…… っても……まあ、うん。
隠してるっていうか……まあ、それは……機会があればってとこかな……
信頼、か……そう、か。その辺……それこそ、機会があれば、だ」
自分でもなかなか言語化できなかったり、
意識的ではない、というか……そういうことはある。
いや、薄々分かっているところもあるんだけど……それこそ説明が難しい。
向こうの信頼もそういうところ、あるんじゃないだろうか。
案外、そうでもないかもしれないけれど。
「アタシ? ああ……そっか。アタシの心配、してくれるんだな」
にへら、と笑う。
「なーんだ。『殺意』だけじゃ、ないじゃん。オッケー。
『妹』に心配されちゃ、な。アタシも気をつけなきゃな。」
自分はそういう解決しか知らない、といった相手が。
そういう心配をできるなら、まだまだ捨てたものじゃない。
未来はまだまだ色々に変わる可能性はある。
ソレだけで十分だ。
「そうだね。アタシが言うのもなんだけど……
気をつけて、な。ツバキ」
背中を向ける相手に、そういって手をふる。
たとえ、見えていようがいなかろうが。気持ちは大事だ。
■黒いフードの少女 >
「……えぇ、『また』が無いほうが良いけれど。
さよなら、カギリ。」
少女は最後に微笑んで、スラム街を後にした。
ご案内:「スラム」から黒いフードの少女さんが去りました。
ご案内:「スラム」から園刃 華霧さんが去りました。