2020/09/30 のログ
ご案内:「スラム」に虞淵さんが現れました。
■虞淵 >
雨上がりのスラム
大屋根の下で濡れることを免れた木箱に腰掛ける巨躯の男が一人
ふー、と口から白煙を吐き出し、その赤い視線はやや退屈げだった
違反部活の用心棒、という立場で古巣に戻ってきたはいいものの、
どうにも明確な喧嘩相手になりそうなヤツが目立った動きをしてこない
風紀や公安の連中にちょっかいをかける、なんて気も最近は起きず
気になるヤツはいるものの、別段でかい顔をしてノシ歩いてるワケでもない
「──平和。なのかねェ」
男は別に平和が嫌いだというわけではない。それを乱したいというわけでもない
ただ、その平和とやらが『何も起こらない』と同じなら、つまらねえと思うだけである
■虞淵 >
平和、と言えば風の噂で妹がこの街を去ったと聞いた
まァあいつにはよくわからん異能もある。学園で生活するほうが何かと優遇されるだろう
クク、と小さな笑みを漏らす
兄妹でも思いの外、色々と変わるもんだ
此処では正体不明の異能でも、学園の研究区なら正体が掴める可能性もあるだろう。──自分とは違って
──足元の小石を靴先で踏みつけ、加減して圧をくわえる
弾かれた小石は小さなスピンがかかりながら、真上へと飛ぶ
男の目の前に跳ね上がった小石は、ほんの小さな…男の指先の動きで粉々に砕け散る
こんなよくわからん力を持っている人間がいるわけがない
そう考えてこの島へ渡った時のことを思い出す──……
研究区の連中は『異能の力とは認められない』と結論を出した
その時点で、そいつらから見て己は無価値の存在だ
言い方はアレだが、ヤサグレるのも已む無しじゃないか?
■虞淵 >
じゃあ人間じゃあないのか?といえばそんなワケでもない
だったら何者なんだ?と問われれば答えるすべを持たない
人間は自分をこうだと自分自身で肯定することは難しい
往々にして社会の中での立場であるとか、あるいは身分であるとか…
所謂『名刺』を持つことで自分自身が何者かを肯定するだろう
『オレはオレだ』といくら自己肯定しようが無意味だからだ
「──雨はよくねえな。くだらねえコトばかり浮かんでくる」
退屈も手伝って余計に──か
ご案内:「スラム」に龍宮 鋼さんが現れました。
■龍宮 鋼 >
「よォ異能殺し」
ばしゃり、と水たまりを踏み付ける。
雨に降られてずぶぬれの髪をかき上げて。
ダチに会った時のような気軽さで声をかけ、彼の目の前に。
「らしくねぇ顔してんじゃねぇか。妹取られて落ち込んでんのか?」
そんな冗談を言って、歯をむき出しにして笑う。
彼の妹に男が出来て二級学生をやめた、と言う噂は聞いた。
それを聞いた時はどうせ金ヅルでも見付けたのだろう、なんて思っていたのだがどうやらマジらしい。
■虞淵 >
「あン?」
退屈がすぎると考えなくてもイイことまで考えちまうな、なんて思っていると
こいつはまた、濡れ鼠の女が声なんてかけてきやがる
「くだらねえ名前で呼んだ上にくだらねえ話まで投げてくる、ときたもんだ」
「辛気臭え雨に降られりゃ俺様だってナイーヴな気持ちにもなるンだよ」
「人間だからな」
ハハ、と嘲るように笑い、大仰に両手を広げてみせる
「──で、誰だっけな。お前。見覚えはあるが」
■龍宮 鋼 >
「そらァ悪いことしたな」
ポケットに手を突っ込んで、つま先で地面を軽く何度か蹴る。
ザシザシ、と水が跳ねた。
「おいおいそりゃねぇだろう。ケンカした仲じゃねぇか」
とは言え覚えていないのも仕方ないだろう。
ケンカとは言ってもこちらから一方的に仕掛け、しかもボコボコにされたのだから。
「龍宮鋼。まァ見覚えがある程度にゃ覚えててくれただけマシっつーとこか」
■虞淵 >
「ハッ。だったっけか?」
「悪いな。女の顔と名前は抱いたヤツしか覚えてねえンだ」
クク、と笑みを漏らす男
木箱に腰を降ろして尚、交差する視線はそれほど低くない
「ああ…いたなそういう名前のヤツ」
「相変わらずガキ大将気取ってンのかい」
「つーかいつまで濡れてんだ?さっさとコッチに来いヨ」
そう言うとわかりやすく手招き
男の頭上には建物から迫り出した大屋根があり、一雨凌ぐには十分だ
■龍宮 鋼 >
女の顔と名前は抱いたヤツだけ。
なんともらしい。
くはっと笑いが漏れる。
「おかげさんでな。ガキ大将たァご挨拶だな、これでもそれなりに需要はあんだぜ」
落第街でダラダラしてる不良や二級学生の拾い上げ、その人員を使っての自警。
一応それなりに稼いでいるのだ。
そう言う連中の受け皿にはなっている。
「……オマエさんはよ、ケンカに負けたこと、あるかい」
入れ、と言う言葉には応えず、雨に打たれたまま彼の顔を見る。
■虞淵 >
「違うのかい」
ガキ大将呼ばわりに不服そうな女に笑う
「──随分とまた不躾だな」
こちらに来ようとはしない、ずぶ濡れの女
その口から投げかけられる言葉は、それにしては随分とウェットではなかった
「あるさ」
ぷか、と白煙を口元から零しながら、そう答える
「ゲームと同じだぜ鋼ちゃんよ」
「"勝ち"しかなかったら面白くもクソもねェじゃねえか」
「そんなモンなら、とっくに飽きてる」
■龍宮 鋼 >
「いいや、違わねぇよ」
そうだ、ガキ大将だ。
体制側でもない、落第街最大の組織という訳でもない。
正しくガキ大将だ。
「だろうな。俺もそう思ってたよ」
ざし、と。
もう一度つま先で地面を蹴る。
「けど、なんだろうな。アイツに負けたからかね。負けっぱなしのままじゃいられねぇケンカもあるんだなってわかったよ」
ポケットから右手を抜き、拳を作る。
ぎちりとと音が鳴る。
「――オマエ、リベンジマッチは女々しいと思うかい?」
縦に裂けた瞳孔でじっと見据える。
■虞淵 >
「ならイイじゃねェか。ガキ大将、結構なモンだ」
「大人が敷いたレールからはみ出すガキどもをまとめられるのは同じガキだけってことさ」
それは、置き換えれば学園側のルールと落第街の住人にも当てハマる
故に、その存在を男は否定はしない
さて…拳を握り込んだ濡れ鼠の女がのたまうのは、リベンジの是非だ
「俺個人の意見を言うなら、女々しいにも程がある。負けを認められてねェ証拠だ」
「…が、女々しくて悪ィのは"格好だけ"だ。アイツより俺のが強ェんだ、と認められねェならヤるしかねえよなあ…」
「ただし二度目は慎重に、だ。──言い訳が立ちにくいからな。その点オマエ女々しくても別に悪かねェ」
二度負ければ、男なら三度目はそうそうないだろう
■龍宮 鋼 >
この男からガキ大将を肯定されるとは思っていなかった。
一瞬ぽかんとするも、すぐに楽しそうに笑う。
なんと言うか、やはりコイツもこっちの住人なのだろう。
「なるほど、そんなもんか」
女々しくて悪いのは恰好だけ。
自分は女だから女々しくても悪くないと言うのは、もっと女らしい奴に言えることだろう。
どっちみち同じ相手に二度負ければ、組織の頭としては致命的だ。
「――まぁ、俺が負けたくねぇのはオマエもそうなんだけどよ」
一番負けたくない相手は別にいる。
それはそれとして、顔を何となくでしか覚えられていない目の前の男。
自身のことを女として扱ってくるこの男にも。
負けたくない。