2020/10/13 のログ
焔誼迦具楽 >  
「物事には適切な『程度』と『バランス』。
 それがある」

 その場で棒立ちしたまま、自分の身体を変性させる。
 表皮と肌肉を強靭な鋼のように、筋肉や骨を衝撃吸収素材へ。
 さらに重量を重く、イリジウムのように。

 回避の動作も、防御の素振りも見せることなく、その体は砲弾に晒される。
 直撃、爆発、燃焼。
 爆風が吹き荒れるが――伴うはずの熱風は、周囲に散る事はなかった。

「――アナタはそれを逸脱している。
 その行いは『不適切』だわ」

 煙の中から声が届く。
 そして一歩――同時に超重量物が動くかのような地響きが鳴った。

「それで、終わりかしら」

 衝撃で引き裂かれた衣服を、元通りに『創造』し、煙の中から現れるのは砲弾を受ける前と寸分変わらない姿。
 

神代理央 >  
「…物理攻撃は余り効果が無い、か。全く、つくづく私を護衛する前衛職がいないことを嘆くばかりだな」

小さく肩を竦めるも、嘆いてばかりもいられない。
榴弾の効果が無いのであれば、残存する異形達は戦力としての能力は望めないだろう。
となれば、新たな戦力を召喚しつつ――今いる異形達には、まあ無駄死にしてもらうしかないだろう。

「…となれば、下準備くらいはしたいものだな。
Gutsherrschaft展開。収奪対象、周囲の熱・電気エネルギー。
収奪エネルギーを魔力へ変換し、一時保管」

起動するのは、周囲のあらゆるエネルギーを収奪し、魔力へと変換する魔術。
古代欧羅巴より脈々と受け継がれて来た魔術師の造り上げたソレは、彼女以外の熱と電気エネルギーを吸収し、魔力へと変換し――

「異能同調。収奪エネルギーの譲渡先を、魔導砲台型へと指定」

新たに現れた異形は、過剰なまでに巨大な砲身を一つだけ生やした多脚の異形。
収奪したエネルギーが魔力となり、新たに召喚された異形へと収束していく。
膨大な魔力を、純粋な魔術エネルギーとして斉射する為の一手。
しかしその間、彼女への攻撃は全て停止している。
元々召喚されていた異形達は、何かを待つ様にじっと、不動を保っているだろうか。

焔誼迦具楽 >  
「――エネルギーの簒奪?
 ふうん、味な真似してくれるじゃない」

 周囲から熱が奪われていく。
 ただでさえ冷えていた空気は、二つの存在から熱を奪われ急激な温度の低下を起こす。
 両者の周囲には、うっすらと霜すら降りるだろう。

「アァ、サムイナ」

 即座に悪影響があるわけではないが、外気温の極端な低下は、体温維持のために多大なエネルギーロスを起こす。
 複数人の人間を食したため、収支ではそれだけでマイナスになるほどではないが。
 視線を新たな多脚砲に向けて、眉をしかめる。

 周囲のエネルギーを魔力へと変換しているのだろう。
 収束した魔力が膨れ上がっていくのが分かる。
 ――ただそれも、友人ほどの暴力ではない。

「《検索》――《読込》――《最適化》――《創造》」

 手元に小さなナイフを作り出し、性質を元に戻した手の平を深く切りつける。
 そのまま腕を振り、周囲に血をまき散らした。

「スペル:マーキング――セット」

 血を媒介に、周辺に魔術的な目印を設置。
 そして、それだけ行うと、身構える様子もなく、向けられる砲口を眺めた。
 

神代理央 >  
さて、魔力による砲撃の動作を見せても、彼女は特に此方の動きを止める訳では無い。
自らの掌を傷付け、血をばら撒いた。彼女が行った動作は、それだけ。
という事は、それで"対処出来る"と彼女は踏んだのだろう。
そして実際、その通りになるのだろう。
であれば。

「……Gehe vorwärts!」

収奪する熱と電力を、更に拡大していく。
唯でさえ、インフラの乏しいスラム街。二人が対峙する区域は、みるみるうちに科学の灯が消え、暗闇に閉ざされていく。
制服を纏う己ですら、身を切る様な寒さに見舞われているのだ。体力の少ないスラムの住民は、下手をすれば凍死か衰弱死してしまうのでは無いか、と思われる程、エネルギーが奪われていく。

その一方で。
不動を保っていた残存する異形達が、大きく脚を踏み出して前進を開始する。
その向かう先は――彼女がばら撒いた血の滲んだ大地。
魔術学は齧った程度ではあるが、知識が無い訳でも無い。
まして、こうもあからさまに"準備"されたのだ。
何も、此方が手札を切り続けるだけが、戦いでは無い。
彼女の血が滲んだ大地に砲弾を放ちながら、その金属の脚で踏み荒らそうと迫る多脚。
純粋な装甲戦力を以て、魔術に対抗しようと言わんばかりの挙動を見せるだろうか。

焔誼迦具楽 >  
 砲弾が物理的に目印を破壊されていく。
 それでも意味が失われるわけではない、破片や塵となったモノにも魔術は宿っている。
 とはいえ、そう行動を見せられたのなら、返礼すべきだろう。

「《創造》」

 手元に複数のタングステンナイフを作り出し、それを周囲の異形へとばらまくように放り投げる。
 砲台の異形には深くまで貫通し、防ごうと動くなら盾持ちの盾にも突き立つだろう。
 なお、おまけのように少年に向けてもナイフは飛んでいく。

「――セット」

 そして同様に、そのナイフを基点に魔術を宿らせる。
 物理的に破壊されようと、魔術的干渉でないのなら十分に、目印としての役目は果たす。
 

神代理央 > セーブ!
ご案内:「スラム」から焔誼迦具楽さんが去りました。
ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
ご案内:「スラム」に焔誼迦具楽さんが現れました。
神代理央 >  
残存する異形に対して放たれたナイフ。
受けたダメージは異形によってまちまち、という所ではあるが行動不能になったものもちらほらと見受けられる。
異形への投擲には動かなかった大楯の異形は、己へと投擲されたナイフに機敏に反応し、一体の大楯が駆けよれば大楯を振るいナイフを弾くだろう。

しかし、それらの行動も全て前座に過ぎない。
本命は、それらの間延々と充填され続けていた魔導砲台。
熱を吸収し、電力を取り込み、スラムの住民の生活基盤すら破壊しながら。
溜め込んだ膨大な魔力を、純粋なエネルギーの収束物として変成させて――

「…Brennen!」

己が鋭く放った一声と共に、ソレは放たれた。

焔誼迦具楽 >  
 砲口から放たれたのは、圧縮された魔力――高エネルギーの収束砲。
 収束されたエネルギーは、ヒト一人を蒸発させるには十分。
 周囲のスラムだってただじゃすまないだろう。

 ――ただ、想定以下だ。

「――アウェイク・トランスファ」

 収束砲が放たれる直前に、短い言霊を紡ぐ。
 周囲に散らばった破片、そしてナイフと、それが刺さった異形達に連鎖して魔術が発動した。

 収束砲が放たれる。
 エネルギーの奔流に、迦具楽の小さな体が飲み込まれた。

 それと同時に、周囲の異形やナイフ、瓦礫が微塵に消し飛んでいく。
 エネルギーの光が止むと、それまでとまるで変わらない姿の迦具楽が、微動だにせず立っている。
 受けるはずだったダメージの全てを、目印を刻んだものに肩代わりさせて。
 

神代理央 >  
確かに魔導砲は命中した――かに見えたが、代わりに消し飛んだのは周囲の瓦礫や己の異形達。
似た様な異能を持つ少女達が頭を過る。ダメージの肩代わり、或いは転送。それが、魔術として行使されたという事だろうか。
嘗ての黄泉の穴の様に、周囲のエネルギーが十分であれば。
或いは、エネルギーを充填する為の時間や護衛の前衛が居れば――と思っても、それは無いものねだりでしかない。

「火力が足りない…というよりは、有効打を作る為の手段に欠けると言ったところか。しかし――」

己には、英雄願望も無ければ個人の武を誇る趣味も無い。
"戦術的な勝利"を此の場において得られればそれで良いのだ。
となれば、素直に撤退しても良いのだが――風紀委員会に売られた喧嘩を、其の侭にしておく訳にもいくまい。

新たな多脚の異形を召喚しながら、懐の通信機に手を伸ばす。
呼びだされた多脚は、先程と寸分変わらぬ姿。巨大な砲身をその背に宿した、大口径の砲身を背負う殲滅型。

「……密集し、弾幕を形成。質量と物量で押し潰せ」

宛ら、巨大な砲塔が寄り添って要塞を築城するかの如く。
巨大な金属の異形が列を成し、密集したその姿は戦艦の砲台の様でもある。
其処から放たれた砲弾。先程の榴弾とは違い、貫徹力を重視した徹甲弾を中心とした砲撃。密集する事で火線を集中させようとする陣形。

その一方で、通信機から送信するのは単調な救援要請。
しかし、そのコードは所謂『重度戦闘中』である事を示すもの。
対処困難な相手と交戦中であること。それに見合った救援要請。

時間は此方の味方である。風紀委員会には、己よりも遥かにこういった手合いと戦うに相応しい者達がいるのだから。

焔誼迦具楽 >  
 威力は想定より低い、が。
 その性質は――相性が良かった。

「なるほどね――『覚えた』」

 酷似する記憶を《検索》、4件ヒット。
 それらを《読込》、インストール。
 さらに、扱うのに適した形へ《最適化》。

「――こんな感じかしら」

 振り注ぐ徹甲弾にもひるまず。
 超重量物になった体は衝撃にも動じず、表皮は剛性と靭性を持ち、弾を弾き流す。
 内部へ響く衝撃は、変性した筋肉と骨が吸収し、無力化した。

 だから、悠然と少年に向けて左手の人差し指を向ける。
 そして、そこに今しがた放出されたエネルギーが、再び収束されていった。

「『Gutsherrschaft』」

 これ見よがしに、同じ言霊を放ち。
 砲弾の着弾により生じた熱すらも奪い、指先へ収束。
 その密度と速度は――少年が見せたモノよりも格段に速く。

 ビー玉程度の大きさに圧縮されるエネルギーは、必滅の威力を赤く煌めかせる。
 すでにいつでも放てるだろうに、それを見せつけるように、収束を続けながら少年の居るだろう位置に、精確に指先を合わせ。

「『性質は同じモノなんだから、アナタだって当然防げるわよね』」

 扱えるのだから対処も出来るだろう?
 砲弾の雨に身をさらしながら、なぜか頭の奥へと響くような聲で、そう嘲笑う。
 

神代理央 >  
同じ言霊と同じ現象。
しかして、恐らく複製といったものではない。
エネルギーの収奪という点において、同系統の魔術を同じ発動言語で利用したのだろう。
レーヴェンタールの魔術の本質は、奪う事では無いのだから。

とはいえ、厄介な相手である事は事実。
相手に収束された魔力は『Gutsherrschaft』のカウンターで対処出来るだろうが――

「…どちらにせよ、熱エネルギーを与える訳にはいかぬか」

短く手を上げて、異形達の砲撃を停止させる。
激しい戦闘音が響くスラムに、ほんの一瞬ではあるが――奇妙な静寂が訪れるだろうか。

焔誼迦具楽 >  
 少年の収束砲よりも遥かに高密度、高エネルギーの圧縮。
 極端に小さな点へと圧縮されたエネルギーは、暴走する直前で維持。

 そして狙いを定める。

「――Fire」

 打ち出されたのは、光速に迫る圧縮弾。
 砲に比べて、糸のように細い線が、少年へと赤い直線を描き放たれる。
 

神代理央 >  
放たれたエネルギーの圧縮体。
それ自体は脅威であるが『Gutsherrschaft』の能力であれば、そのエネルギーを収奪すれば良いだけ。
――その、筈だった。

「――『Gutsherrschaft』起動。此方の魔力を加算して、前方のエネルギー、を――」

発動する魔術に、己が持つ魔力を加算して威力を底上げしようとした。
其処に、吸収した異界の魔力が含まれている事に、気付かぬ儘。

「――……ま、これ、はっ………!」

発動はしたものの、それは不完全なモノ。
正確には、発動した瞬間精神を浸食した魔力によって、集中力が乱れたというべきか。

何方にせよ――純然たる結果として、彼女の攻撃を防ぎきれなかった。それだけ。
放たれたエネルギー弾は辛うじてその威力を減衰させる事には成功したものの――致死の一撃となって、己の躰を貫いた。

貫いた、という表現は生易しいものだろう。
正確に表現するならば。
己を守ろうとした大楯を貫通し、胸部から腹部にかけて命中したエネルギー弾は、文字通りその部位を消し飛ばした。
辛うじて心臓は残ったが、逆に言えばそれだけ。

言葉も無く、大地に倒れ伏した。
こんなになっても、まだ生きているものなのだなと。
一気に霞む思考で、感動すら覚えながら。