2020/10/28 のログ
■神代理央 >
「……作戦開始時間を確認。此れより、該当エリアを"清掃"する」
短く告げた言葉と共に――背後の異形が、轟音と共に鉄火の暴風を撒き散らす。
破壊力に特化した榴弾砲。爆炎と業火が、次々とスラムの一区画を焼き払っていく。
「……対象は自動車で移動しているのか。大通りから順に焼き払っていれば、出てきそうなものだが…」
紅蓮の焔に焼かれていくスラムをドローンからの映像で確認しつつ、獣を追い立てる狩りの様にポイントを絞って砲弾を撃ち込んでいく。
120㎜砲の榴弾はバラックを一撃で吹き飛ばし、朽ち果てるに任せた儘の廃ビルが巨大な蝋燭の様にスラムを照らすだろう。
ご案内:「スラム」に虚無さんが現れました。
■虚無 > 乱れ飛ぶ鉄火の暴風。それらのうち一つ。今にもバラックを消し飛ばそうとしたそれは甲高い金属音と共に明後日の方向。すでに瓦礫と化したそこに命中する。
「……獣狩りをするにしても。あまりに過剰だろう。それにもう十分追い込んだはずだ」
本来爆心地になるであろうそこにいたのは一人の青年。仮面をつけているなど明らかに”正義”には見えない。しかし。
「手を引け鉄火の支配者……これ以上の破壊をすれば彼らの行く当てがなくなる」
まだ避難が完了していない二級学生やここにしか住む場所のない人々。それらを背に立つ姿は完全な”悪”にも見えないかもしれない。
■神代理央 >
着弾地点に立つ仮面の男。
スラムを業火に包むはずだった砲弾は、その役割を果たす事なく明後日の方向へと消え去っていく。
「……此方とて、無益な破壊を好む訳では無い。しかし、逃げ回る獣が何時までも網にかからぬのでは、追い立てるより仕方あるまい?」
投げかけられた言葉に、小さく肩を竦めながらもゆっくりと片手を振れば砲撃を停止する。
それは、彼の要望に応えた――というよりも、話をしている間五月蠅いから止めただけではあるのだが。
「…風紀委員会としては、正規の居住届を出されていない者達の住居に考慮する必要を感じられない。
まして、私の仕事は未だ達成されてはいない。逃走中の違反組織の構成員は、此の区域に逃げ込んだところまでは確認されている」
「此処で私が手を引く事は、犯罪者を見逃すと同義。それは、出来ぬ相談だな?」
天高く掲げられた異形達の砲身は、未だスラムへと向けられた儘。
■虚無 > 「好むわけではないか……学のない俺でもわかる。追い立てるだけならば歩兵戦力で追い立てる事は可能なはずだ。このような大規模な破壊をせずともな。別の思惑があるか好んでいるか。もしくは楽だから……といったところだろう」
他の避難者たちは逃げるのに必死でこちらなど見てもいないだろう。だがそれでいい、こちらとしてはその方が都合が良い。
「もちろんそちらの都合も理解はしている、犯罪者の逮捕を止めるつもりはない。だが……勧告から攻撃までが早すぎる。あれでは逃げる時間すら作れない」
砲身は向けられたまま。それならば身を低くし構えを取る。拳法の構え。
「だから避難が終わるまでの間遊んでもらうぞ……安心しろ。スラムの連中は足が速い。犯人が逃げ終わる前にはお前を自由にするし。なによりこの騒動だ。犯人も簡単には逃げれないだろうさ」
そうは言うが踏み込まない。というより踏み込めない。スラムに砲身が向いている以上。これ以上前に出ればスラムに飛ぶ砲弾を打ち落とせないからだ。
■神代理央 >
「……ふむ。要するに、スラムの住民を完全に避難させたい。
その為に、此方の動きを止めておきたい。しかし、犯罪者の逮捕を止めるつもりはない。此れで、間違えてはいないかね?」
半分程灰になった煙草を咥え、ぷかぷかと甘ったるい紫煙を吐き出しながら。
スラムという雑多な場所に似合わぬ、小綺麗な風紀委員の制服を纏った少年は、小さく首を傾げた。
「しかし、スラムの住民を気にして迂闊に此方に手が出せない、と。
しかしそれは此方も同じ事でな。流石の私とて、攻撃を受けた訳でも無いのに此方から手を出す訳にも行かぬでな」
そんな事微塵も思っていないが、と言わんばかりの傲慢な態度ではあるが、確かに彼に砲弾が飛んでくる事は無い。
燃え盛るスラムの火焔に照らされる異形達は、未だ沈黙を保った儘。
「であれば――貴様が逃げ回る溝鼠を捕えれば話が早いのだがな。目標を捕える事が出来れば、私も此れ以上スラムに手を出す理由はない」
「しかし、風紀委員会に手など貸せぬ、と矜持を貫くなら――」
ギシリ、と不愉快な金属音と共に異形の砲身が揺れる。
彼の返答次第では、スラムに無数の砲弾が直ぐにでも放たれるのだろうと言わんばかりに、身動ぎする異形達。
■虚無 > 「綺麗ごとを。構わずに俺を撃てばいい。それともお前にとって話してもいないスラムの人間は人ですらないゴミだとでもいうつもりか?」
手を出していないのに攻撃はできない。といっておきながらスラムは焼き払っているだろう。
そう皮肉を言い放ち前に居座る。退くつもりはない。そう構えから明言している。
「……協力すれば。破壊をしないと?」
首を傾げたのち……構えを外す。こちらはいったん武装を解除した形だ。
「俺個人が捕らえるというのは難しいだろうな。規模としても時間としても……だが、現地には現地人しか知らないルートというのはいくらでもある。相手の数、逃走手段。それらをこちらに渡せば……使用するであろうルートの絞り込み程度ならできる」
壊れたラジオのようなくぐもった声。それ越しであってもため息をつきながらと伝わるような声を出し。
「それならば態々追い立てなくともそこを先回りすればいい……交渉としてそれでどうだ風紀委員。断るのなら」
このまま開戦するだけ。声には出さずとも手元に走る紫電がそれを明確に伝える。
■神代理央 >
「ゴミ、という表現は適切ではないな。書類上庇護すべき存在では無いから、被害を考慮するに値しないだけだ。
とはいえ、規則上彼等を見殺しにする訳にもいかないから、避難勧告は規定に沿って行っている。それだけの事でしかない。
まあ、風紀委員の前に対峙した時点で大概は公務執行妨害ではあるのだが…まあ、その辺りも色々と五月蠅い連中がいるでな」
小さく肩を竦め、やれやれと言わんばかりの溜息。
無駄に殺す様な事はしたくないが、被害を出さない様に考慮するつもりもない。
そう言い放った己の口調は、『体制側』としての傲慢さに満ちたものだろうか。
「目的を果たせば、此れ以上破壊活動を行う必要が無い、というだけだ。其処に至るまでの経緯も手段も、私は問わぬ」
敢えて、明言は避けた。
協力すれば破壊はしない、とは決して言わない。
しかし、己がこうしてスラムを砲撃する理由は逃亡中の違反組織構成員の"処理"。
それが済めば――無意味な破壊を撒き散らす必要も無いと。
「数は3人。移動手段は最後に確認した時は大型のSUV。落第街のメインストリートから、此方へ向かっていたところまでは確認している」
情報を渡せば、との言葉にはあっけない程素直に追い求める犯罪者の情報を彼に告げるだろう。
秘匿する様な事でも無し。それがあれば協力出来るというのなら、開示してしまっても構わない。
彼が助力するのなら重畳。助太刀出来ないのであれば――先程と同じ事をするだけだ。
「私は構わぬよ。貴様がきちんと鼠を追い立てられるというならな。
……それに、戦いたいというのならそれも止めぬ。しかし、私の異能の性質上……此の区域は、大分綺麗に片付いてしまうだろうな?」
愉快そうに笑いながら、背後に控えた異形をコンコンと軽く叩く。
異形の背中から無数に生えた砲身は、暴力の化身さながらにスラムへと未だ向けられたまま。
■虚無 > 「言い方の違いでしかないだろう……やはり嫌いだ。正義だなんだと言いながら破壊をするような連中は」
自身の昔がそうだった。だからこそそういう行為は通常の悪より苦手だ。
相手が情報を言えば自身を覆う紫電は消える。
「言っただろう。俺が協力するのは無理だと。先回りはそっちでやれ……その通信機は飾りではないのだろう」
顎で通信機を指す。
そして目線を東側へ。
「ここからでお前の破壊を考えれば……あの廃ビル。そこを超えた先にあるもう一つのバラック地区。本来なら車で通るのは難しい地区だろうが、避難勧告と砲撃で今なら道も空いた。間違いなくそこから奥に抜けるはずだ」
というとそちらへと体を向けなおす。
手を鋼鉄の砲身へと向ける。
「こちらは対価を払った。後はそっちが見せる番だ。必要以上に出しているそいつらをしまえ、自分の身を守るのにそれだけはいらないだろう」
■神代理央 >
「しかし、我々の破壊は公的なものだ。溝鼠共の犯罪行為とは違い、体制側にそうあれかしと望まれた行為だ。
故に、我等の破壊は世間が望むものであり――許されたものだ」
詭弁極まりないが、風紀委員という権力がそれを保証する、と言わんばかり。
とはいえ、紫電を霧散させた彼に視線を向ければ、その態度はほんの僅かにではあるが、軟化するだろうか。
「手厳しい事だ。其処まで風紀に肩入れするのが嫌かね。
…とはいえ、まあ貴様の言わんとするところも理解出来る。
元々は、我々風紀委員の任務であるしな」
小さく肩を竦めると、端末を操作して手早く彼の目線の先――東側へ展開する様に指示を出すだろうか。
「………成程。地図に無い道、というのも厄介なものよな。
了解した。包囲している委員にも連絡して――」
其処で、彼の言葉に僅かに思案する様に言葉を途切れさせる。
ふむ、と考える様に。或いは彼を見定める様に、じっと視線を向けた後――
「………そうだな。対価としての情報は得た。成功するかどうかは兎も角、先ずは此方の誠意も見せねばなるまいな。
良いだろう。逃走ルートへの砲撃用のモノ以外は、撤収しよう」
パチリ、と軽く指を鳴らせば無数に展開していた異形達は霞の様に消え失せていく。
後に残ったのは、未だ砲身を掲げた儘ではあるが攻撃の意思を見せない二体の異形だけ。
■虚無 > 「詭弁だな。その体制側というのは……光を受けて生きられる者の事だ。光を浴びられないない奴などいくらでもいる。悪党でなくとも、灰色の世界でしか生きる場所がない奴らがな……そいつらは自身の居場所を破壊されることを許しはしない」
それがこの地区だ。そういわんばかりに言い放った。
戦闘の構えは取ってはいない。それでも態度は敵だと言わんばかりに貫き続けている。
「当然だ、そもそも俺はお前たちの敵ではないが……味方になったつもりもない。必要だから手を貸した。それだけだ」
肩入れするのが嫌というわけではない。だが彼にここで協力することはできない。
連絡したのを見届け、そして砲塔が消えればしばし沈黙し。
「……協力感謝する。これで無駄に争わなくて済む。俺としても風紀委員を相手に敵対行動はとりたくはない」
本格的に自身が敵対してしまえばそれは自身の組織にも狙われる事になりかねない。
息をふぅと軽く吐き出すと少し顔を上げる。フードの中からわずかに黒い瞳が見えるだろう。
「噂に聞いていたお前ならば俺ごと迷わず焼き払うかと思ったが。少し意外だった」
■神代理央 >
「だが、光を受けて生きる者が世の中では"多数派"だ。それに、此の地区の住民が学生に危害を加えずとも、此の地区の存在そのものが犯罪者の温床になっている一面も、確かにある。
故に、落第街そのものを燃やし尽くす事はせぬが、伸びすぎた雑草を除草する事は必要だ」
「光を浴びて生きられないのなら、浴びられる努力をすれば良い。
少なくとも此の島は、此の学園は、そういった者に寛容である筈だ。
それでも此処を居場所とするのなら、奪われる危険性も受け入れた上で此の場所に居て欲しいものだがね」
所詮は自己責任でしかない、と弱者を切り捨てる。
"少数派"を切り捨て、多数派の秩序の為に力を振るう。
それが己だと、高らかに言い切った。
「それで構わないさ。臨機応変に、状況に応じて。
私は迅速な任務の完遂の為に。貴様は、スラムの住民の為に。
一時的に手を組んだ。それだけの事だ」
ほぼ燃え尽きた煙草を、燃え盛る瓦礫の中に放り投げながら小さく笑う。
それで構わないのだと。必要な時に、互いを利用し合う関係で構わないのだと。
「私も、不必要な戦闘は避けたいところではあるしな。御互いの利害が一致したというところで、良い取引が出来たという事にしようじゃないか」
フードから覗く彼の瞳を、愉快そうに笑いながら見つめる。
残存した異形達は、彼に教えられた砲撃ポイントへ移動する為にがなり立てる様な金属音と共に歩き出すだろうか。
その異形を見送る様に視線を向けていたが――彼から告げられた言葉に、視線を向け直し。僅かに、己の瞳を細めて――
「………勘違いしないで欲しいものだな。『スラムの住民を守る為に現れた男』を、私が討伐したところで、それが風紀委員会の誉れになるものか。
貴様が私に手を出していればまだしも、理性を以て此方に応対する者には、私だって相応の態度で臨む。それだけの事」
「…そもそも、私の目的は或る程度達成されてはいるでな。
『違反組織がある限り、落第街の無辜の住民も風紀委員会の作戦行動に巻き込まれる』
という事実を、此の街に知らしめればそれで良い。そしてそれは、此の燃え盛るスラムの映像を流せば、それで事足りる」
そして、言いたい事だけ言ってしまうと、動き出した異形と共にゆっくりと歩きだす。
「ではな、名も知らぬ英雄よ。
私の名は…もう知っているやも知れぬが、風紀委員の神代理央。
特務広報部の部長を勤める二年生だ。以後、宜しく」
にっこりと、気味が悪い程に礼儀正しく名を名乗る。
しかしその笑みは。その声色は。
尊大さと傲慢さと、獣の様な獰猛さが滲んでいる事だろう。
「……今日は、此れ以上此の区域には手は出さぬ。
鬼ごっこの続きをしに行かねばならんからな。
貴様は精々、住民達のケアにでも回ると良い」
最後にそう言い残して。
燃え盛る業火と硝煙の中に、少年は消えていくのだろうか。
■虚無 > 「……そうだな、そちらの言い分も最もだ。つまりこれは所詮が詭弁と詭弁のぶつけ合い。それ以上でもそれ以下でもない」
彼の言い分には反論などできようはずもない。まさしくその通りなのだから。
だがそれですべてが救えるというわけでもない。そういう意味で結局は詭弁と詭弁のぶつかり合いでしかないのだろう。溜息を吐き出すように言い切った。
「ああ、そういうことにしておこう……毎回同じような取引になれば俺としても仕事が減るのだがな」
彼の言い分である良い取引という言葉にこちらも同意した。間違いなく良い取引であることに間違いはなかった。
もっとも、こちらとしては風紀に肩入れというのは少し危うい駆け引きではあったが。
「流した所で結果は変わらないさ風紀委員。むしろ違反組織は増える……光が強ければ強いほど闇は深く濃くなる。事実その破壊活動に恨みを持った犯罪者というのも……一人は二人ではないはずだ。やり方は考えた方がいい」
と警告だけ言う。彼の名乗りに対しては一笑した。
「英雄などではない……光にも闇にもなり切れない灰色のただの悪党だよ。鉄火の支配者……名前は名乗り返さない。協力した以上報告されると面倒だ」
それだけ言うと彼を見送るその背が見えなくなったころ合いで。
「……風紀委員の攻撃により延焼し”偶然にもここが焼け落ちて火は広まらなかった”というシナリオだ。自然だろう」
そういうと誰もいないバラックの一つを吹き飛ばす。結果それ以上の火の燃焼は食い止められる。
そしてその作業だけ行えば自身もまた闇の中へと消えていくだろう。
ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「スラム」から虚無さんが去りました。