2020/11/12 のログ
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
特務広報部の活動と、それを切っ掛けとした様な落第街の住民達の過剰な反応。
結果として、特務広報部の――ひいては、神宮司蒼太朗の思惑通りに初動は進んでいると言っても過言では無いのだろう。
『風紀委員会の武を見せつける』という目的は、此れ以上なく果たされた。
では、その次は。
見せつけた後は。
示した武に対する反応と、それらへの対応は。
それらの回答の一つとして、己が示すものは。
落第街の果て。島に受け入れられぬ者達の最期の揺り籠。
劣悪な環境だけが我が物顔で露わになった貧民街。
それらを全て踏み潰す――砲声によるものだった。
「――此方は、風紀委員会特務広報部である。
此の地域に不法に在住する者達への一斉摘発を開始する」
スラムに朗々と響き渡る、少年の声。
拡声器によって増幅された涼やかな少年の声が、寒空に震えながら眠る貧民達を叩き起こす。
「抵抗は無意味である。
学生証、及びそれに類する島内在住許可証の類を持つ者は、速やかに提示せよ。
居住の証を示せぬ者は――」
吹けば飛ぶ様なバラックや掘っ立て小屋の密集する通りを駆ける、漆黒の群れ。
防弾仕様のガスマスクとパワードスーツに身を包み、大口径の機関銃を構えた特務広報部の隊員達が、スラムを浸食していく。
「――常世学園への身の証を立てられぬ者は、此の地域より排除する。抵抗する者には、風紀委員会による保護は保証しない」
「――では、溝鼠諸君。良い夢を」
かくして、蹂躙が始まった。
■神代理央 >
元々、その日の生活にすら難儀する様な者達の集う場所。
家は脆く、壁は弱く、ヒトは脆弱な街。
其処に投入された、余りにも過剰な暴力。
話にならない、というのは、今の惨状の事を言うのだろう。
視点主は、スラムの住民だろうが。
「……さてさて。連中も多少は学習………出来ていない者もいる様だが」
特務広報部の突入に対して、住民達の反応は二つに分かれた。
一つは、なりふり構わぬ逃走。重装備の隊員達は、パワードスーツで補強しているとはいえ俊敏に動けるわけではない。
栄養失調寸前の者でも、文字通り死ぬ気でひた走れば。
或いは、地の利を活かして駆けていれば、まあ捕まる事は無い。
生活の拠点を失う代わりに、命が助かると思えば安い物だろう。
現状では最適解だろうと、狩る側からすれば思う次第だ。
そして、もう一つは――
「小石一つ。拳一つでも。
反抗した者に容赦する必要は無い。
抵抗された、と判断次第、引き金を引け。
貴様達の仕事は、唯暴力を撒き散らす事だけだ」
それは蛮勇。無鉄砲な正義感。無策な抵抗。
武装した隊員達へ、貧弱な"道具"で抵抗を試みようとする者は、少なからず存在した。
勝ち目のない戦いに挑む事を止めはしない。
しかし、その結果は受け入れて貰わねばならない。
断続的に響く銃声。悲鳴。破砕音。
スラムの一角に、暴力と死が吹き荒れる。
■神代理央 >
逃げきれず、抵抗せず、隊員に捕縛された住民は生気を失った瞳で連行されていく。
彼等が向かう先は、少し遠くに止められた移送用のトラック。
行先は、常世港であったり転移荒野であったり。
其処は、彼等の身分や境遇によってまちまちだ。
それを決めるのは、移送される迄の短い質疑応答であるのだが。
「……しかし、もう少し歯ごたえのある抵抗が欲しかったところではあるが。
まあ、此の場所で致し方ないという所もあるか」
背後に控えた数体の異形に視線を向けた後、懐から取り出した煙草を咥えて火を付ける。
暴力の化身といった様に、背中から生やした30㎜機関砲をスラム街に掲げながら佇む多脚の異形達。
もう少し派手な抵抗があれば『鉄火の支配者』として力を振るっても良かったのだが――今夜は、その機会には恵まれなさそうだ。
ご案内:「スラム」に『拷悶の霧姫』さんが現れました。
■『拷悶の霧姫』 >
「…………」
朽ちたビルの上に揺らめくのは漆黒の影。
認識阻害の魔術を刻み込んだ狐の仮面は、彼女の存在を覆い隠す。
今は、まだ。
仮面の奥底に光る瞳は、風紀を名乗る者達の行いをただただ、
波一つ立たぬ湖面の如く静かに見つめるのみ。
■スラムの少年 >
背後に異形を控えさせた神代理央の頭部目掛けて、
飛来するものがある。
貧弱な"道具"。
否、道具ですらない。
それはただただ原始的で、小さな暴力だった。
ただの『小石一つ』。
神代理央――そして特務広報部の武力を前にして、
取るに足らぬ小さな波紋だった。
それを放ったのは、神代理央の視界の端、今にも連れ去られようとする者達の中に居た、
黒髪の少年だった。
痩せこけたその身体は、皮と骨ばかりに見える。
衣服なのか、布切れを肩にかけているだけなのか。
それすらも区別がつかない。
生まれ持った顔立ちは、恐らく悪くない。
育った場所さえ違えば、可愛らしい少年と言えたのだろう。
少年は小刻みに震えているその右手――先ほどまで石が握られていた手だ――をそのままに、
力の象徴たる彼らを睨みつけていた。
少年は何も言葉を発していない。
それでも、彼が生み出した静寂は、濡れた視線と共に多くを語りかけていたことだろうか。