2021/02/22 のログ
ご案内:「スラム」に【虚無】さんが現れました。
ご案内:「スラム」から【虚無】さんが去りました。
ご案内:「スラム」に【虚無】さんが現れました。
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ご案内:「スラム」に【虚無】さんが現れました。
■【虚無】 >
スラム。今日ここはかなりの数の人でごった返していた。
昨日の争い。その結果生まれた難民たち。そんな彼らをあえてここに集めた。
この地区のスラムに行けば毛布が手に入る、食料が手に入る。そんな噂を流した。
ではなぜあつめたか。こういう戦争の後に起こる現象を回避するため。
こういう後は高い確率で起こる。こうした難民を狙った違反組織による暴力。そして風紀による過剰ともいえる手入れだ。その結果余計大きな混乱になることも往々にしてある。
だからこうして一つの区画に集め自身が防衛しているのだ。
そんなスラムを見下ろせるスラムビルの屋上。そこから下を見ていた。
「少しは予想していたが……これは」
予想以上だったと内心少し焦る。
一応は毛布や食料は確かに用意はしておいた。だが数が足りるか少し怪しい所がある。
そして災害などに対する対応ということで動いたがこれは果たして自分達の仕事なのだろうかというのも少し疑問に思ったりはする。それこそ風紀とか会社とかの仕事ではなかろうかと。
ご案内:「スラム」に【拷悶の霧姫】さんが現れました。
■【拷悶の霧姫】 >
「――それでも、誰かがやらなくてはいけません」
青年の思考の内に滑ち込ませるかのように、静かに言葉を放つ影がある。
眼下を見やる少女の影。
「誰かが」
【虚無】と呼ばれるこの青年が、きっちりとこなしてくれている仕事。
均衡が崩れぬよう、無駄な波乱を起こさぬよう、できる限りの手を打っている。
何も、不信感があってこの場を訪れた訳ではない。
ただ情報の波の中に居座るのでなく、自分自身の足を向けて、自分自身の瞳で
現状を見ておく必要性を感じたからこそ、彼女はこの場に立っていた。
事実、実際に空気に触れるとまた違った思考の風を得るものである。
「……眼下の光景が予想の外にあるというのなら、それは私も同じです」
何もかも計算尽く。そうであればよかった。
しかしながら、眼下に広がる難民の数は彼女の予想も上回っていた。
過剰な手入れに次ぐ手入れ。落第街にひしめく難民達の居場所。
それが本当の意味で失われた時、何が起きるのか。
「……手は足りていますか?」
要するに手伝いは必要か、と。
すす、と青年の近くによって、静かにそう尋ねる。
彼女の視線は長らく眼下に落とされていたが、そう尋ねる時にだけ、ちらりと隣の影を見やるのだった。
■【虚無】 >
「手は問題ない。今のところはな」
スラム特有の不思議な秩序。その上で今のところは均等にいきわたっている。
だが数が減ればもしかしたら大きな問題があるかもしれない。そうなった時、協力者がいてくれるのはありがたい。
と少しだけそちらに視線を投げかける。幹部に一応聞いておきたい事があった。
「……今回の件。アンタとしては介入するべきだったと思うか?」
自身も悩んだ事。
風紀と違反組織の激突。それ自体は行ってしまえばありふれた事。多少規模が大きくともそれは介入するべきことではないと思っていた。
それに、介入しなかったが故にこうして毛布や食料などが間に合ったともいえるのだから。
「どうするべきか俺も悩んだんだが。今回は俺は介入しないべきだと判断していた。毛布や食料の準備もだが……異能学会の研究者による風紀委員襲撃事件。その犯人もいまだ闇の中だ。もし戦争に乗じてそいつも動きだしたらと警戒してしまってな」
それを隠す事はない。というより裏切りの黒でも共有する案件でもあるだろうし。
だがその結果のこの大混雑だ。少しだけ眉を顰める。
「だがこうしてみると……介入するべきだったのかもしれない。そうも考えてしまってな」
■【拷悶の霧姫】 >
「それでしたら、良いのですが」
案ずる言葉。
しかしその感情は、無色透明のガラス細工である。
形だけはそれらしくなぞっていても、透明な蝶のガラス細工に生命の温もりはない。
「私は」
目を閉じる少女。
まるで自責の念に駆られているかのようにも見える。
或いは迷いに迷って、何かを断ち切らんが為に目を閉じたかのようにも見える。
果たして血の通わぬ人形の心に、如何ほどの温もりがあろうか。
かつての感情をなぞるかのように、少女は静かに目を閉じるのみ。
そうして、少女はぱちりと目を開く。
「今の今まで、己の下した判断を反芻し……改善すべき点はなかったかと、
考えていました。
私もまた、介入すべきだったのではないかと『迷って』いたのです。
昨日のあの時も、今この時までも。
介入していれば、被害をもっと減らせたのではないか、
落第街に住まう多くの人々の場所を、この街の均衡を護れたのではないかと。
しかし貴方も気づいている通り、下手に動けば……
藪蛇を避けられぬのではないかと、そう考えてもいましたから」
あの男――裏切りの黒を立ち上げた彼ならどうしたかと。
人形の思考にノイズは確かに走っていたのである。
いつだってそうだ。彼のことを考えると、思考にノイズが走る。
ありもしない筈の虚ろな感情の波が、僅かに押しては引いていく。
そんな現象を己の内に認識する。
「……何度も思考をしました」
ひしめく難民。彼らの顔に明るさは無い。
感情を失った人形でも無論、それは手に取るように理解できる。
共感はできずとも。
「……ですが、今。
こうして貴方と共に眼下を見下ろして、
決して『間違い』ではなかったと。そう認識しました」
そう口にして、再び眼下から視線を彼の元へ。見上げる形で戻す。
仮面の奥底、闇の向こうで。
紫色の光が確かな色を宿しているように見えるだろうか。
「力を振るうこと。力に力をぶつけること。
力を持つ者であれば、誰でも意志一つで行うことが可能でしょう。
そして力を御する力が必要な時は、必ずあります。
その時の刃もまた、私達の顔の一つ。
血塗れの刃となっても、均衡の為に動くのは私達の……大切な矜持」
それは、かつての男が語った矜持。かつての男が語った理想。
かつての男が語った在り方。
それは、自分たちにとって未だに、柱となっている。
それでも。
「……ですが。此度、落第街に対する信念を持って彼らを護る任は――」
そこで少しだけ間を空けて、人形は口にする。
「――『私達にこそ』、できることではないでしょうか?」
それは、青年と共にこの空気に触れた人形が自分で紡ぎ出した言葉だった。
■【虚無】 > 彼女の放つ言葉をひとつひとつかみしめ聞いていた。
自分はいつも悩んでいた。どうすればより多くの人を救えるのだろうかと。いつも後手に回る自分達は結局は自己満足で終わっているのではないかと。
それに近い悩みを……もっと介入すれば被害を減らせるのではないか。そんな思いを彼女もまた持っていたのだ。
そして結論として言われた言葉。彼らを護る事は自分達にこそできることだということば。それに頷く。
「ああ、俺も……そう思う。他の組織でもできない事はないかもしれない。だが迅速に裏もなく行えるのは自分達だけだと。それは思っている」
だが、同時に不安もある。
眼下の避難民たちを見る。今でこそ、自分達でも守れているだろう。だけど……
「だが……少し、不安もある」
組織として自身達は圧倒的に個人に特化しすぎている。
個人の質。それ以外の分野において見えている脅威に対して無力も良いところなのだ。
「もっと積極的に介入し芽の段階で潰す。それくらいをしないといつか守れなくなるのではないか。そんな不安だ……俺達は個人は強くとも組織単位でみればあまりに脆い」
今回の戦争もそうだ。もし活動初期の段階で徹底的に潰していればこうはならなかった。
だがそれをすれば彼女の言う藪蛇を突き余計な混乱を生む可能性もある。
シュレディンガーの猫。結局蓋を開かなければどうなるかわからない。今回は手を出さないという蓋を開いた。結果はこうなった。
だがもし積極介入をしていたらどうなっていたか。そうも考えてしまう。
「それをした場合。それこそ広報課と同じ動きになってしまうがな。いつかはこの街が消えかねない。それはそれで問題だが」
■【拷悶の霧姫】 >
「抑止力。それもまた一つのやり方でしょう。
それは貴方の言う通り、特務広報部が実践しています」
彼らが厄介な芽を潰す為に一面掘り返した土《ガレキ》の山。
生活委員をはじめ様々な者達がフォローに回っていることは知っている。
彼らの努力はよく見知っている。風紀委員の中にも動いている者は居る。
落第街の中でも、動いている者達は居る。
そうして回っている。それをどれだけ彼らが認識しているかは、知れないが。
空いた穴に土を戻す。地を均す。
その一端を此度、自分たちは担っているだけだ。
「表立った荒療治が必要。その考え方も一概には否定できません。
仲良しこよしの話し合い、和平を尊ぶ働きかけだけで、
多くが解決できるほど均整の取れた街ではありませんから。
分かりやすい力でしか屈しない者たちも居る。
私達はそのことも、よく知っている。
しかし、だからといってこぞって……そのような荒療治を行った先に待っ
ているのは均衡の崩壊。塩梅は、難しい。悩んで当然です」
彼の語る言葉を飲み込む。組織として脆い。
そうだ、随分と脆くなった。
あの男がこの世を去ってからは。
感情の波《ノイズ》が走る。それを、虚ろの砂浜に飲み込ませて、
再び言葉を紡ぐ。
「個の動きでも、情報を共有しつつ、共に動いていけば力となる筈。
特務広報部――特に『鉄火の支配者』に対しては、
私も改めて働きかけてみるつもりです。
貴方も、無理をなさらぬよう。必要があれば、いつでも呼んでください」
そう口にした人形は、外套を翻す。
そのまま去っていくかに思えたが、そこでふと立ち止まり、
外套の内側から取り出した包みを青年の方へと投げた。
中身は既製品ではあるが――チョコレートだ。
「そうそう、世間ではバレンタインデーがあったとか」
人形は、多くを語らず。
ただ『モノ』に乗せて『カンシャ』を伝える。
いつか心があった時には、よくしていたことだ。
そう記憶している。それでも、今はただ。
何もなければ、少女はそのまま青年の元から去っていくことだろう――。
■【虚無】 > 「悩んで当然か、それはその通りかもしれないが……悩む方は色々と大変な事だ。均衡が崩れれば間違いなくこの程度の混乱では済まなくなる……本当に丁度いい落としどころは難しいな」
やはりモヤモヤとしてしまう。
たしかに自分達は悪だ。場合によっては殺しも平然と行い。文字通り裏切りも行う悪党だ。だが、性根を腐らせたつもりはない。結局はこのスラムの人達のような人には笑っていた欲しいのだ。
「ああ、頼む……と、その関連で一つ報告がある」
鉄火の支配者に働きかけるという言葉があればふと思い出すように。
そういえば肝心の事を伝え忘れていた。
「その異能学会の科学者に関しての情報交換。そして一部組織のように俺達が手が出しにくい組織に関する情報の提供先……それが例の鉄火の支配者だ。ああいったある意味でビジネスライクの相手はビジネスパートナーとしては選びやすかったからな」
変に正義感に燃えていたりする相手は本当にやりにくい。その点奴のように正義感もある程度ありながらも仕事としても割り切れる。ある意味清濁併せ持ったタイプは協力者としては本当に選びやすかった。
だが、その後平然と言葉を続けて言い放つ。
「だからといって別に攻撃する事になったらなったで問題ない。契約はその2つだけ……奴らの検挙を妨害しないなんて契約もしていなければ同じくこちらの動きを妨げるという契約もない」
と敵対することも問題ないと続けて言い切った。
といっても、口先だけも良いところ。攻撃しないなど口にしていないだけで当たり前の領分だろう。だが自身達は決して正義ではない。
もし彼らが再びこの街を破壊せんとするのならその時には攻撃を仕掛ける心構えだ。
それから聞こえた言葉に思わず少し笑う。
「ああ、残念ながら俺はひとつももらえず仕舞いだ。別に欲しいわけでもないがな。アンタこそ、もし渡し忘れたなら早めに渡しておけ」
なんて軽く冗談を交え去っていく彼女を送り出す。
そうしてしばらく屋上から眺めていて。下が落ち着けば自身もまた闇の中へと溶けていく事だろう。
■【拷悶の霧姫】 >
「……情報をいただいたのです、無駄にはしない。
そのつもりで私も動きます」
最後にその言葉だけ風に乗せて彼女は闇へと消えゆく。
両者が去った後、屋上には静かに風が吹き抜けるのみ。
闇は、ただ静かに爪痕を見守っている。
今は、ただ。
ご案内:「スラム」から【拷悶の霧姫】さんが去りました。
ご案内:「スラム」から【虚無】さんが去りました。