2021/03/01 のログ
ご案内:「スラム」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
落第街の一角、スラム。常世学園の闇の吹き溜り。
大通りより輪をかけて『持たざる者』が多い区域。
公的に存在を認められていない、見捨てられたこの
街では、小競り合いなど日常茶飯事。
人目を避けた物陰に蹲るのは、そんないざこざに
巻き込まれて疲弊した1人の違反学生だった。
「……ほんと、サイアク……」
『持つ者』が『持たざる者』に目を付けられると
大抵の場合ロクなことにならない。故に手持ちは
出来るだけ少なく、宵越しの銭は持たない方が良い。
『たまたま今だけ手持ちがある』は何の言い訳にも
なってくれない。
■黛 薫 >
スラムは落第街の中でも疲弊した街だ。
普段なら他者を気にする余裕など持たない。
トラブルの種になるのは力を持っているか、
自分に力があると錯覚している与太者の類。
或いは本当に追い詰められた者の悪足掻き。
場所さえ選べば秩序に代わって諦観と絶望が
擬似的な平穏を与えてくれる、歪な街。
だから、大人しくしていれば問題ないはずだった。
誤算があるとしたら、この異様な人の多さか。
風の噂で何か諍いがあったと聞いたくらいで、
興味を持たなかったのが災いしたのだろうか。
なんて、今更反省しても遅きに失している。
■黛 薫 >
嫌な『視線』を感じていたのは事実だ。
ただ、普段よりあまりに人目が多かったから
自分個人に向けられていたとは思わなかった。
もしかしたら、久し振りに人の優しさに触れて
油断していたのもあったかもしれない。
切っ掛けは些細な言いがかりだった。
袖から見えた手にある手当の跡を見咎められ、
清潔な包帯と消毒液を手に入れられる立場を
僻まれて難癖をつけられた。
正直なところ、あの程度の騒ぎは日常茶飯事。
どうしてああも『視線』を集めてしまったのか
未だに理解が及ばない。
医薬品がスラムで貴重なのは事実だが……
ここまで僻まれるほどのモノだったろうか?
■黛 薫 >
堂々としていれば良かったものの、『視線』に
精神を乱されて下手に言い返したのがまずかった。
相手が引くに引けなくなっただけならセーフだったが、
どうも周りにも同じ不満を抱えていた人がいたらしく、
アウェイの立場になってしまった。
状況というものは、一度転がり出すと底/最悪に
行き着くまでどうも止まってはくれないらしい。
最終的に揉み合いの喧嘩にまで発展し、不幸にも
ポケットから1枚の紙幣が落ちるに至った。
その結果が、これだ。
『持たざる者』の顰蹙を買って痛い目を見た。
ご案内:「スラム」に【虚無】さんが現れました。
■黛 薫 >
「女の子にここまでやるかって、フツー……」
口の中に溜まった血と一緒に不満を吐き捨てる。
せっかく傷の手当をしたのに全てが台無しだ。
ボロボロの布地でそこら中に付けられたヘドロの
靴跡を拭う。アザについてはもう諦めた。
しかしまあ、あそこまで騒ぎが大きくなったのは
却って悪くなかったのかもしれない。風紀委員か
公安か、どちらかは分からないが騒ぎを聞きつけて
介入してきた輩がいてくれたから助かった。
あの状況で身包みを剥がされなかったのは奇跡と
言っても良い。普段は厄介者としか思えない連中の
介入がなければ、手持ちどころか命すら残ったか
怪しかったかもしれない。
■【虚無】 >
例の締め上げの余波。最も被害が出るであろうスラム街に足を運ぶ。
顔はマスクで隠し歩いていた。マスクというだけでも疎まれる原因になりかねないが……喧嘩を売る者はいても発展はしない。
そもそも買わないというのもそうだが。一方的に攻撃したところで全ていなされ疲弊して喧嘩という形にすらならないからだ。
とりあえずわかったのは……ここにはやはりかなり早い段階で影響が出ているということ。今は医薬品で済んでいるが食料などもダメージを受け始めればこの程度では済まない。
ふと視界の端を見る。血の跡だろうか。多量ではないが……
「誰かいるのか?」
物陰に声をかける。マスクに能力を発動させるので声はくぐもって聞こえるだろうか。
もし覗き見るのならいるのか? と聞いておきながら確実にいるのはわかっているという視線を感じるだろう。
最も、そこに敵意も悪意もないが。
■黛 薫 >
とはいえ、だ。ああやって人に難癖をつけてしか
喧嘩も出来ないような連中はタカが知れている。
パーカーのポケットの中の紙幣は取られたものの、
万が一に備えて分けておいた紙幣……内ポケットと
靴の中にあった2枚分は死守することができた。
「ざまーみろ、だし」
コンクリートの壁にもたれかかって呟く。
でも、煙草は取られたか。まだ残っていたのに。
いずれにせよ今の口の中の惨状を思えば吸えない。
■黛 薫 >
不意に、声が届いた。さっきの連中のお礼参りかと
警戒したものの、少なくとも『視線』に敵意はない。
「ぁー?別に、誰ぁれもいませんが?」
いると分かっているのに『いるのか』と聞かれたから
いなければ返って来ないはずの返事で『いない』と
答える。小粋なジョークのつもりだったが、自分で
想定していたより不機嫌な声が出てしまった。
■【虚無】 >
「そうか、誰もいないか。ならそっちに行っても問題はないな」
誰もいないなら問題ないだろうとズカズカと歩きだす。
物陰の裏が見える位置につけば相手を見る。感じる視線は観察、というよりむしろ医者などの診察が近いだろうか。
服装の汚れ、状態。それらを見れば少しだけ納得した声を出す。
「さっきの騒ぎの関係者か。子供がどっかいったとかどうのこうの騒いでいたが」
風紀とスラム住人のもみ合い。原因はひとりの少女。おそらくその”少女”だろうと当たりをつける。
「治療ができる場所まで案内してやる。立てるか?」
いるならと手を差し出す。
騙そうとする悪意などは視線には混じっていない。もし視線すらをごまかせるほどの人物ならば話は別だが。少なくとも視線からは嘘は感じないだろう。
■黛 薫 >
「へぇ、耳が早……あー、ぃや。騒ぎが大きく
なり過ぎた感じ?すかねー……マジでサイアク……」
『視線』と反応から、直接の目撃者ではないと推測。
先の騒ぎの最中、周囲からこうも冷静な『視線』は
感じていなかったが、自分も頭に血が上っていたため
確証には至らない。
「何すか、あーた。風紀とか公安には見ぇないと
思うんすけど。今あーしを連れてるトコ見られたら
めんどーなコトになると思いません?」
肌には未だ突き刺さるような『悪意の視線』の感触が
痺れるほどに強く残っている。それだけに一切の
悪意がない視線は却って不気味にすら感じられた。
■【虚無】 >
「事情聴取しなければとかいって風紀が走りまわっているからな。それなりにデカい騒ぎだ」
スラム相手にどっちか片方だけを被害者にしてはい終わり。となるのなら今頃こんな街は出来てなどいないわけで。
場合によってはどっちも容疑者で終わりだろう。風紀的にもその方が処理が楽だ。
面倒な事にという言葉には特に感情に動きはない。
「なったところで簡単に処理できるし。それに怪我した奴を放置はできないだろう……それとこの街で相手に何者だと尋ねるのはお前が風紀じゃないならやめた方が良いと思わないか」
少なくともマスクで顔を隠した上に声をなんらかの手段でごまかした男。
視線などから読み取るまでもなく、少なくとも持たざる者……つまりは違反組織などに所属していない人物ではなく持つ者であるとは思い至るだろうか。
「まぁ無理にとは言わないが。風紀に捕まるともっと面倒な事になるぞ……特に今の風紀はな。そもそも今の混乱が風紀委員のせいで起きている状態だ。まともな扱いなんて期待しない方がいい」
■黛 薫 >
「ま、あーしも藪蛇はゴメンですし。そっすね。
余計なコト聞ぃたのは言う通りす。ケドそっちも
そっちで、この街で怪我人を放置できないとか?
かなーり変なコト言ってんな、って。あーしは
そう思ぃますが、どーっすかね」
警戒を解いて、ぎこちない動きで立ち上がる。
心を許したつもりはないが、大騒ぎに発展した
面倒事を『簡単に処理できる』と言い切る相手に
下手に逆らう気は起きなかった。
「風紀、なーん……ホント、いい迷惑。
悪気が無いっつか、正義とかそーゆーの嫌すね。
あーしも捕まりたくないのは事実だし、はぁ」
踵を壁に打ち付けて靴の履き心地を調整し、
特に抵抗することなく貴方に付いていく構え。
昨日今日とその『正義』に助けられているので、
悪口を言うにも多少心が痛むが、それでもやはり
嫌いなものは嫌いだ。
■【虚無】 > 「同意する。たしかにかなり変な言葉だ……まぁ、変な人にでも捕まったと思っておけ」
はじめの冗談に対してお返しをするようにこちらも冗談を返す。
手を取らないのなら先に先行。影から少しだけ道の先を見通す。
風紀の姿はない。来て良いぞと合図。
「……正義か。言ってしまえばそうかもしれないが……これはやりかたを間違えすぎだ。物資の締め上げなんてすれば先に住民が痛手を負うなんてわかっているはずなのに」
目的が見えんとこちらはバッサリ切り捨てる。別に恩があるわけでもない。むしろ一時協力する案件はあれど基本スタンスとして風紀は敵なのだから。
そもそも個人的に目的が見えないというのは本音だ。もちろん違反組織も少なからずダメージは受けるだろう。だがやはり1番直撃を受けるのはここに住んでいるような弱者たちなのだ。
まぁここには”人などいない”が外の人間のスタンスで。だからこそ食料がなくなっても問題ない。と言われればその通りなのだが。
「これだけの騒動を起こした切欠を聞いても構わないか? 見たところ喧嘩を仕掛けるって性格と体格には見えないが。何かやらかしたか」
スリとかそういう系統かと予想とつけて相手に尋ねる。
まぁだとしても別にスリ程度で自分が動く必要は皆無なのでただの話のネタ程度だ。
視線でもそれは同様で特に問い詰めるとかそういった所謂敵意のような物は混ざっていない。
■黛 薫 >
「締め……ぁー、はー???そーゆーコトか?
うわマジで、マジでサイアクじゃん……じゃあ
アレもコレも大体風紀が原因かぁ、うげぇ」
一瞬言葉の意味を計りかねていたものの、
理解が及ぶと同時、露骨な嫌悪を吐き捨てた。
「あーしは悪ぃコトしてねっす。手の傷見られて
清潔な包帯と消毒液が手に入るのがズルいとか?
そーゆー下んなぃ理由で売り言葉に買い言葉。
あーしがケンカ売られた側なのにアウェイすよ。
酷くね?要は、締め上げで薬が無くなったのが
原因っしょ、八つ当たりにも程があるっつーの」
苛立たしげに足元の石を蹴り飛ばす。
「ま、騒ぎが大きくなったのはあーしがたまたま
カネ持ってたからなんすけど。みーんな目の色
変えちゃって。女の子相手に集団強盗?みたいな?
恥ずかしくなぃんかって。あー、恥とかあったら
こんなトコで生きてなぃか、キモっ」
■【虚無】 >
「包帯……金。あぁ、そういうことか」
一部始終を聞く。内容は大体理解した。
もちろん眼前の少女が嘘を言っている可能性も0ではないが。正直この状態で嘘をつくメリットというのが全くない。
自分が風紀委員というのなら話は別だが、同じこの街の住人に嘘を吐く理由が思いつかない。よって本当の事だろう。
「それは災難だったな。だが全員が全員そうだとは思わないでやってくれ。スラムだからこそ周りにやさしくしている人間というのも大勢いる……まぁ、今の状態ではどうしても難しいかもしれないが」
スラムだからこそ優しくする。そんな人物は確かにいる。
だが締め上げのせいで余裕がなくなっているのだろう。
「ただでさえ戦争で色々と物資が少ない所にこれだからな……本当に、今回の件に関しては風紀に対して失望しかできないのが本音だ」
曲がり角や道などでちょくちょく曲がったり止まったりする。
曲がり先に人や風紀委員がいた場合にやり過ごしたり違う道を選んだりしているだけである。
■黛 薫 >
「全員がそぅじゃねーって理屈で憎まず嫌わずに
いられるなら、あーしは今頃蹴られてねーんすよ。
風紀が悪ぃ奴らばっかじゃなくても、組織としての
行動が合わなきゃ失望すんのも変わんなぃっしょ。
あーしは散々踏まれたから今はあいつらがキライ。
ま、幸いおめでたぃ頭なんで?傷が治ったらさっぱり
忘れてやりますとも」
口調は乱暴だが、声は潜めている。
少なくとも貴方が警戒しなければならない程度に
風紀の目は行き届いており、そんな環境で大声を
出すような無謀な行為はできないと理解していた。
「何でしたっけ、失感情?ヒトって傷付きすぎると
痛いとか苦しいとか分かんなくなる、みたいなの?
あーし医者から聞いてんすよ。スラムの優しさなんざ
そんなんじゃなぃんすか?優しいとかじゃなくて、
もぅ怒れないんしょ」
■【虚無】 >
「それは否定できない。だから全員が全員ではないとは言うが……恨むな、なんてことは言わないさ。そういうどうしょうもない奴というのはどこにでもいる」
それは事実だ、彼女だってそんな人によって痛い目にあっているのだからそれを許してやれなんていうことはできない。
「でもありがとう。綺麗さっぱり忘れてやってくれ……ああ、悪人は別だ。そいつらに関しては忘れずに近寄らないようにしないといけないからな」
そこは別。
悪人は悪人、それは変わらないのだ。
「……それもあるかもしれないが。逆にこの街だからこそというのもある。痛みを知っているからこそ他人に痛みを与えたくない。そうしてスラムそのものが大きな家族のような形になっている場所もある位だ」
もちろんそれは極一部だろうが。確かにそういう場所もあるのだ。
そうしているうちに一つのバラックの前にたどり着く。特にノックもなくそこをくぐる。
中にいるのは見るからに酔っぱらい。
「俺だ、薬と包帯……ああ、ごまかしは頼む」
というと酔っぱらいは奥に。出てきたのは包帯……ではあるがパッと見少し汚れている。
近くの椅子を引っ張る。
「座れ、腕とか程度なら巻く……他の部分は自分で巻けよ。俺にやられるのは嫌だろう。後これは綺麗だから大丈夫だ。襲われないように見た目だけ汚しているだけで本当に汚れてるわけじゃない」
■黛 薫 >
「……そーゆーもん、すかねぇ」
俯くように視線を逸らす。落第街にもスラムにも、
優しさがあることくらい……本当は理解している。
そもそも優しさがない世界だったら、何の力もない
自分は今日まで生き延びていない。
でも、例えば『痛みを知れば優しくなれる』とか。
『苦しくても思いやりを忘れないことはできる』とか。
そんな使い古された言葉は、耳に入れたくない。
だって自分は誰かを思いやる余裕も、優しくする
心も持ち合わせてはいないから。自分より恵まれず、
それでも誰かに優しく出来るような人を見ると……
どうしようもなく自分が不出来に見えて苦しくなる。
例えばこんな街で怪我の手当てを『当たり前』と
言ってのける、目の前のマスクの人とか。
尤も彼は『持つ側』の人間かもしれないが。
「は、こんな貧相な身体見られても困ったりなんか
しませんが?ま、あーしも一応年頃の乙女ですし、
そーゆー気遣いはしょーじきぁりがたいすけど。
……てか、最初から汚してぉけば良かったのか。
あーしもアホだったか、考えとけばなー……」
気にしていない風を装うが、実際は助かっている。
布越しでも他人の『視線』は気持ち悪くて堪らない。
直接見られるのは考えるだけで気が狂いそうだ。
■【虚無】 >
「ああ、まぁそれも本当にごくわずかだろうし……まぁ、必ずとも平和な場所じゃない。みんなにやさしいと言ってしまえばいいが。逆に言えばそこでおかしな事をやればその地区全員が敵に回る。だから本当にそれが平和と言えるかは少し考え所だな」
それは自分達にも言える事。
自分達はこの街を護る者であると同時に行き過ぎた人物を始末する処刑人としての形もあるのだから。
彼女には優しいと映っていても実態はどうしょうもない悪人なのだ。だからこそ少しでも優しくできる時にしたいというだけなのだ。
「普通は出来ないし……そもそも技術もないのにそんなことやるなよ。傷口から菌が入って普通に死ぬぞ」
汚すのも技術や薬品があってこそ成立する事。
それも無しに汚せば破傷風などになって終わりである。
「ああ、言っておくが……痛くないなんてことはないからな。別に技術はあっても俺は医者じゃない。肝心の医者はあれだからな。俺より危ない」
と後ろの酔っ払い陽気に笑う。
はぁと溜息を吐き出すと自分も椅子に座る。
「とりあえず袖まくってくれ。もしくは上着だけ脱ぐかどっちかで頼む。手元が見えないと流石に巻けん」
■黛 薫 >
「あー……あーしも袋叩きはゴメンっすねぇ。
つーか今やられたばっかだし?そーゆー目に
逢いたくなぃなら大人しくしとかないと、か」
ジョークのつもりで己の惨状を口にしてみるも、
この状況では洒落にすらならない。自分でも
笑えなかったので、溜息で誤魔化す。
「普通に手当すれば叩かれて、素人じゃ小細工も
できやしないってほんっっとめんどくさ……。
ま、今回はそーゆー技術?持ってる人に会ぇたし、
サイアクからちょっとくらいは脱出?できてんな
とか思っ は?アレ医者??マ???」
上着を脱ぎかけたところで衝撃的な事実を聞かされ
唖然とした様子で硬直する。だぼだぼのパーカーで
身体の線は見えにくかったが、脱いでみると本人の
評通り、栄養の足りない貧相な身体が露わになる。
しかし、栄養状態より目立つのは腕につけられた
浅く、しかし数の多い切り傷の方だろう。
一応の手当はされているが、明らかに自傷の痕だ。
■【虚無】 >
「まぁそのスラムなら歩いているだけで襲われる何てことは無い。あくまで袋叩きにあうのはその街で悪事をすればだ」
そう基本は優しいスラムなのだ。敵対者に容赦がないだけで。
あれが医者と言われれば少しだけ苦笑い。
「もっとしっかり泥酔すれば良い腕の闇医者だよ。酒だけでこういう薬品を融通してくれるからありがたい相手なんだが……明後日には持ってくる。種類は受け付けないぞ」
と医者に告げると医者は奥へ。そして自分は治療を始める。
目に着いたのは自傷の跡。彼女にも一瞬それに対して気にしたという視線を受けるかもしれないが。
「随分とこっぴどくやられたな。折れてなくて幸いって所だな……こっちの傷も併せてついでに治療しておく」
打撲した跡に視線を移す。まずは治療をするべきだと思ったから。
巻く包帯は優しくやろうとはしているが。やはり少しは痛むだろうか。
「……傷に染みるかもしれないからな」
消毒液も塗っておく。自傷の後にそれは染みるかもしれないが放置もできるわけではない。
そうして処置を進めていくだろう。
■黛 薫 >
「『酔えば』良ぃ医者って……おかしくね……?
そこは『酔わなければ』じゃねーんですか……。
アレすか、なんか……古ぃチャイナの映画の?
酔ぇば強い拳法みてーな……」
この街ではおかしな人の話題には事欠かない。
疑問こそ浮かんだものの、そういうものだろうと
納得できてしまう自分も随分毒されている。
「……っ、つ……」
手当てをすれば傷が痛むのは道理。
至極当然なので、彼女も文句は言わなかったが……
どうも痛みを訴えるタイミングが腑に落ちない。
消毒液を塗布した直後や包帯を巻いている最中に
痛むのは自然だが、その直前……手当のために傷を
観察しているだけでも痛みに身体を震わせている。
本人は意図してそれを押し殺そうとしているように
見えるが、身体の反射運動は隠せない。
■【虚無】 >
「酔いきらないと怖くてメス握れないらしい。で、今はまだ少し酔ってるだけだから恐怖もある上にフラフラって事らしい。興味があるなら深夜に来てみればいい。その時のあいつは本当に名医だ」
本当に変わった医者だが腕だけは認めている。
自分も何度もお世話になっている人物だ。
「……見ただけで別に変な事はしていないはずだが?」
なぜか痛みを訴えた場所。
触った感じ別に折れているとかそういうこともなかった。だがまぁ見た目には出て居なくても打撲だ。痛かったということはあるのかもしれない。
そうして治療を進めていく。
「これでよし、動かしにくくないか? 一応動きは阻害しないように巻いたつもりだが」
自分がいつもやっているようにきつく、だが動きは邪魔しないように巻いてあるつもりである。
「とりあえず打撲とかに関してはこれでいいはずだし。擦り傷とか……他の傷に関しても数日もすればふさがるはずだ。あぁ……」
少しだけ言いにくそうに種瀬を反らす。
悩むこと数分。ふぅと息を吐き出し。
「だからあれだ。その間……これ、我慢できるか? 包帯をはがしてまでやったら治る物も治らないし。なにより……してほしいとはあまり思えない」
と包帯の上から切り傷。つまりは自傷の跡を指しそう尋ねた。
■黛 薫 >
「あー……なるほどなーん?アルコールで怖いの
忘れないとダメな人すか。手とか震えね?って
気はすっけど、言ぃたいコトは少し分かるすね」
包帯を巻き終えた手を軽く動かしてみる。
少しきつめだが、緩いよりはずっと良い。
自分でやると強く巻くのは難しいし。
気付かれなかったのか、見逃してもらえたのかは
分からないが、反応に言及されなかったことには
内心胸を撫で下ろす。
「少し動かしにくぃすけど、許容範囲すね。
あーしはそんな頻繁に身体動かさなぃですし?
その、まあ……礼くらいは言ってぉきます。
代金は……足りたら、払いますし」
やや気まずそうに視線を泳がせ、頰をかく。
「……しょーじき、約束は出来ないっす。
コレ、自分で止めようと思って止めれるやつじゃ
ないってーか、頭ん中ぐるぐるして、どぅにも
なんないとき、気付いたらって感じなんで……。
ぁー、でも?あーしも一応気ぃつけますし?
ケチなんで、新しい包帯勿体なぃなとかで?
思い留まるかもだし?まー、何とか……」
大分自信がないらしく、声が萎んでいく。
■【虚無】 >
「そういうことらしい。何があったかは知らないが……まぁ、言いたくないんだろうな」
理由はわからないし、深く聞く事はしない。
もし言いたいなら相手から言ってきてくれると思っているから。
代金と言われれば苦笑い。
「子供から取るわけがないだろう。と言いたいが……おそらくだが一方的に恩を受けたりとかはあんまり得意じゃないだろう。だから……そうだな、払いたいだけ払えばいい。1円だろうと0だろうと文句はいわん」
スラムでは時折そういうタイプの人間もいる。
一方的な恩を受けるのが嫌いというよりそれが帰って怖いと思えてしまうタイプだ。だから相手に払いたいだけ払えばいいと告げてこちらから具体的に金額は指定しない。
そしてその後の言葉にはそうだろうなと。
「まぁわかっていたよ。止められるならだれもやりはしない……まぁだから無理にとは言わないが。心配していた変な人がいた。と言うことだけ覚えておいてくれればそれでいい」
やはり子供が自傷しなければならないというのはいい気持ちではない。
だからそういうにとどめた。
■黛 薫 >
「……ズルい大人っすね。いや大人か?
背はあーしよりかなり高いすけど、あー、いや。
余計なコト聞かないって話っしたね、黙ります」
言いたくないことは聞かない。当たり前のようで
実践できる人は存外少ない。医者にも、自分にも。
スラムで出会うには不自然なほどに人が出来ていて、
嫉妬と羨望、何より助けてくれた相手にそんな感情を
抱いてしまう自分への悪感情が胸の内で澱んでいく。
或いはそんな感情までお見通しで、だから適当な
金額では済ませないはずと見越しての提案だったら、
自分はこの気持ちを多少なりとも正当化できるのか。
醜い感情を飲み干して、内ポケットを探る。
出てきたのは高額紙幣が1枚。
「お釣りとか考えるのめんどぃんで、これ1枚で。
薬代に手間賃足しても、多いくらいだと思ぃます。
つまり、今後もあーしはヤバそうなときとか?
この辺使わせてもらぃますよって話、っすね。
駆け込み寺のアテは、まー実は他にもぁりますが。
多いに越したコトはなぃすからね」
■【虚無】 >
「さぁな、自分の年齢なんて知らないからわからない。20は行っていないと思っているがな」
年齢なんてしっかりとは覚えていない。気が付いた時には戦い方を覚えていて。知らない間に殺しは済ませていたのだから。
そうして出された紙幣。流石に多いと返そうとしたが、その後に言われた言葉で少しだけ笑った。
「なるほど、上手い子供だ。傭兵として俺を雇う形か」
頭が回ると笑っていてから息を吐き出す。
「西にあるスラムビル。そこを拠点の一つにしている……もし何かあるならそこに来い。匿うくらいはしてやる」
と紙幣のおつりとしてそんな情報を渡す。
別に話しても悪い事はないし下に広がるスラムは比較的治安も良い地区だ。別に来たところで問題はない地区だろう。
「で、ついでだ安全地帯までは護衛してやる。せっかく治したのにいきなり怪我しましたとか風紀につかまりました。なんて笑い話にもならないだろう」
■黛 薫 >
己の歳を知らない者など、スラムでは珍しくない。
年齢を把握していて、かつ一定の年齢までは平穏に
育った自分は、落伍した後の境遇を考慮してもなお
恵まれている方。
そう……『恵まれているのに』落ちぶれている。
もっと苦労している人もいるのに自分はこの始末。
そんな自分が堪らなく嫌いだ。
「お褒めに預かり恐悦地獄、なんつって」
話の流れで受け取った、本気かどうかも分からない
褒め言葉にさえ縋らなければ自分を保てない。
自嘲気味に笑いながら、ビルの位置を頭に刻む。
「オプションとしては随分豪華なこって。
ま、あーしにとってはありがたい話ですし?
ここまで連れてきてもらった過程であーたの
ルート選びの腕も信用してますからね。
お言葉に甘えさせてもらいましょーか」
先導は任せる形だが、貴方に先立ってバラックから
出る。『仮設医院/人を助けるための施設』よりも、
こんな自分にはスラムの澱んだ空の下がお似合いだ。
■【虚無】 >
「豪華ではないだろう。この街でこれだけの金は大金だと思うぞ」
とピラッと指でつかみ軽く振るうともらった紙幣をポケットに入れる。
そうして自分も立ち上がる。
「ああ、ルートは任せておいてくれ。落第街は俺の庭のような物だ」
どうしても職業上ルートというのは無数に確保してある。
人にバレないように。人に見つからないように。そうして動く自分にとっては風紀を避けて歩く程度ならば簡単だった。
「とはいっても……そんなに遠い道ではないんだがな」
それからしばらくも歩けば街の雰囲気も変わる。
スラムといえばスラムだが。さっきまで居た場所は空気も荒いといった所だが、ここはそんなことは無い。
もちろん物資が豊富というわけではないが。ドラム缶に火がともされその周りで暖を取りながら雑談をしている集団などが見つかるだろうか。
「ここまでくれば問題ない。さっき言っていたコミュニティの強い地区だ。悪事をしなければ安全だ。風紀が来ても追い返されるだろうしな」
そういえば壁にもたれる。
「もし歓楽街だとかに出るならこの街を東に進めば良い。一見暗いが危険はない……逆に北には出るなよ。明るく見えるが違反組織が幅を利かせてる地区だ。まぁあれだ。外に出るなら暗い方へ進めって覚えておけばいい。この地区ではな」
■黛 薫 >
「なるほどなーん、此処なら余計コトしなければ
多少は安全、と。スラムって落第街の中でも特に
危なぃイメージっしたけど、どこも場所によるって
コトなんすね」
示された方角、東と北の方向を確認する。
危険な方角として示された北に足が向きそうに
なったが、思い留まった。気分が落ち込むほど
余計に悪い方に行きたくなる、自業自得の目に
遭って自傷の代用としたくなるのは悪い癖だ。
東の方角に明かりが少なくて良かったと思う。
『暗い方』に向かっている気分になれるだけでも
今は幾分ありがたい。
「じゃ、今日はありがとうございました。
駆け込みに来るのはあーしが何かやらかしたとき
でしょーし、頼らずに済む方がイイっすけど。
またご縁があったら、逢いましょ」
軽口染みた挨拶だが、足を揃えてきちんと礼を
する仕草は、スラムでは珍しいほど礼儀正しい。
フードを深く被り直して顔を隠すと、東の方角、
歓楽街に向けて駆けて行った。
ご案内:「スラム」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「スラム」から【虚無】さんが去りました。
ご案内:「スラム」に【虚無】さんが現れました。
■【虚無】 >
「ああ、余計な事をするとトップクラスで危険だがな。俺でも生きて出られるかわからん」
ルールを破り地区その物を破壊するともなれば話は別だが。
そうなると色々な意味で結局は生きては帰れない。つまりは無理なのだ。
道を北に取りそうになるのには少しだけ苦笑いをするが振れはしない。
「ああ、だが駆け込み寺に来るにしても助けられるかはわからないからな。できるだけは動くが」
自分の都合では殺しなどは出来ないのだから。
そうして相手の礼に軽く手を振るう。そのやり取りだけ見れば闇の住人とは思えずまるで高校生のように見える事だろう。
そうして彼女を見送れば自身は北へ。
危険と言われる地区。違反組織が幅をきかせる地区へと。一見明るいそこには真っ暗な闇が広がる。その闇の中こそが自分の居場所。
そうしてそんな影の中へと……溶けていった。
ご案内:「スラム」から【虚無】さんが去りました。