2021/03/15 のログ
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
この日のスラムは、異様な空気に包まれている…様に見える。
砂埃と共にスラムへと現れたのは、装甲車と大型トラックの群れ。
装甲車から降り立つのは、漆黒の装甲服にガスマスク。
落第街の住民が忌み嫌う、風紀委員の一派。
そんな彼等が、トラックを護衛するかの様に周囲に拡がる。
何事かと物陰に隠れる住民達が見守る中、ゆっくりとトラックのウイングが開かれていき――
■特務広報部隊員 >
「支援物資の配給を行う!希望する者から、此方に並べ!」
■神代理央 >
装甲服の一人が、声高に叫んだ。
他の隊員達が、せっせと段ボール箱をトラックから降ろし始める。
呆気にとられたかの様に遠巻きに見守る住民達。
近付く者は、今のところいない。
「……まあ、それが普通だろうな。我々から施しなぞ、毒が入っている程度に思われていればマシな方だろうし」
そんな光景を少し離れたビルの屋上から見守る風紀委員の少年。
苦笑いと共に、小さく溜息を吐き出した。
こうなるだろう、ということは分かっていたのだし。
■神代理央 >
とはいえ、想定していたのなら対策もしてある。
支援を――施しを受け難いというのなら、受ける姿を見せてやればいい。
元々、生活に困窮しており、今回の物流統制で少なからず影響を受ける者達だ。
物資は欲しいが、特務広報部が配る物など――とでも思っているのだろう。
「気持ちは分かるが、背に腹は代えられぬという言葉を連中は知らないのかな。それとも、武士は食わねど高楊枝、とでも思い上がっているのかな」
まあ、それならそれで。
最初の一歩を、此方から押してやればいいだけの話。
ふらふら、とトラックに近付くみすぼらしい姿の男達。
その男達を一瞥した隊員達は、何も咎めず、何も語らず。
――黙って、食料や医薬品の入った段ボール箱を渡した。
喜び勇んで大事そうに箱を抱えて物陰へと走り去っていく男達。
その姿を眺めていた住民達は、一人、また一人と。
おっかなびっくり、と言う様子でトラックの周りに集まり始める。
そんな住民達に、無機質に。事務的に。
漆黒の装甲服が、黙々と物資を渡し続ける。
気付けば、周囲は人だかり。
ビルの屋上から眺めていても分かる程、大勢の住民が列を成していた。
■神代理央 >
「こういう役回りは本意では無いんだけどな」
取り敢えず回り始めた支援物資。
こういう活動は、生活委員会や風紀委員会のそういう部署に任せておきたかったのだが。
物は試しにやってみましょう、という隊員達の意見を無碍にも出来ず
こうして武骨な集団が支援活動に当たるという奇妙な光景が生まれる事になった。
「出来れば、恐怖の対象としてのアイコンであっておきたかったが…アイツらも此処の出身が多い。
人は感情で動くものだ。それを抑制し過ぎるのも考え物か」
まあ勿論。上手くいく為の手段はきちんととった。
護衛に関しては万全。
現状、この人数の武装集団を動員出来る風紀委員会の下部組織は中々無いだろう。
またトラックに満載した物資の出所は押収品。此方の懐は全く痛まない。
最初に支援物資を受け取った男達に至っては、特務広報部の隊員達。
いうなればサクラだ。普段ガスマスクで素顔を隠しており
此処の出身である隊員達はこういう時に役に立つ。
「……余り此処に情を持たれても困るんだけどな」
それでも、この作戦を認可してしまった自分も甘いのだろうかと。
煙草を咥え、火を付け乍らもう一度溜息を吐き出した。
■神代理央 >
今のところ、支援活動に邪魔が入る様子も無い。
流石に自分が居たら空気も悪くなるだろう、と遠くから様子を見るに留めていたが
今のところ異形を出す様な場面でも無い。
列の整理にまごつく隊員達の姿には、少し笑ってしまうが。
「……何事も無く終わってくれても良いし、何か起こっても良い。
そう言う点では、確かに意義のある作戦だったかも知れんな」
どちらに転んでも美味しい、とは言わないが。
少なくとも損は無い。
酷いマッチポンプではあるが、それはそれ。
紫煙を燻らせつつ、ちょこまかと動き回る部下達やスラムの住民達を見下ろしながら
くぁ、と小さく欠伸を零す。
■神代理央 >
そんな喜劇の様な一幕も、トラックの中身が空になれば終幕。
撤収を始めた部下達を眺めながら、吸い殻を携帯灰皿へ放り込む。
「…次は、もう少し適材適所な連中に任せたいものだがな」
これが落第街やスラムにどんな影響を及ぼすのか、と問われれば
大して変化は無いだろう…とは思う。
何せ、未だ物流の締め上げを止めている訳では無い。
ほんの少し、物資を流しただけ。
「我々は、戦場にあってこそ輝くのだからな」
我々とは、自分と誰のことなのか。
ふと浮かんだ小さな疑問を掻き消す様に、少年は踵を返してその場を立ち去るのだろう。
ご案内:「スラム」から神代理央さんが去りました。