2021/03/28 のログ
ご案内:「スラム」に【沈黙】さんが現れました。
■【沈黙】 > ――スラムの一角。とある瓦礫ばかりの一角にある古びた建物。…が、それは巧妙な隠れ蓑。
偽装魔術によるカモフラージュ…実際は数階建てのスラムでも比較的高い建造物の一角だ。
「………。」
もっとも、その建物も今となっては偽装の意味も無くなるくらいの酷い有様だ。
上半分はフロアごとまるで”喰い散らかされた”かのように壁も天井も床もズタボロ。
そんな建物のフロアの真ん中で一人、目深にフードを被った黒ずくめが淡々と周囲の確認をする。
(……偽装魔術は中々だったが、それが仇になったな…違和感がむしろ分かり易い)
ここはとある違反組織…主に人身売買をしている中堅クラスの組織の一つだった。
それをたった今、この男が一人で丸ごと潰し終えた――生存者は居ない。一人残らず――の腹の中、だ。
■【沈黙】 > 男は別に好き好んで襲撃した訳じゃない…それに、潰すのは人身売買や人体実験を主として行う組織・部活だけと決めている。
もっとも、人殺しには違いないし、復讐心、といえば聞こえはマシだが――…
(…ああ、こんなのはただの”八つ当たり”にしかならない。分かってるさ、とっくに。)
どれだけ捻り潰そうが、後から後から沸いてくる…キリが無く終わりも見えない。
そもそも、終わりなんてあるのだろうか?――まぁ、考えても仕方ない事だろうが。
中堅規模の組織にしては、セキュリティ管理や人員の質はあまりよろしくは無かった。
もっとも、だからこそ単独で根こそぎ潰せたのだろう。手練れが居たら流石にこう易々とは行かない。
■【沈黙】 > 特定の組織や部活に限定されるとはいえ、立て続けに潰し過ぎると他の組織などから警戒される。
よって、ある程度の間を空けつつのこの組織潰しだが、矢張りちらほら目は付けられ始めているようだ。
(――まぁ、こっちは後ろ盾も何も無いただの単独犯。目の上のタンコブ程度の扱いだろうが)
その方がこちらとしても都合が良い。変に大物組織に目を付けられても面倒な事になる。
それに、潰す時は予め最低限の確認はしている――つまり、”スラムの住人に迷惑が被らない”範囲、だ。
(…あまり”バランス”を崩しすぎると、本腰を入れて潰されかねないからな)
所詮は人間ベースの怪異の偽物、模造品だ。質はそこそこでも数も質も揃えた大手の組織力には敵わない。
フロアの一角にあった既にボロボロのデスクに腰を預ける。
かろうじて残っている物の一つだ。殆どは自分の異能の一部が”喰って”しまったから。
■【沈黙】 > スラムの住人達に仲間意識や連帯感がある、という訳ではない。
それでも、どんなにどん底で劣悪な環境でもそこで生まれそこで幼少期を生き抜いた。
肥溜めに等しくても故郷みたいなものだ。愛着、と言うには歪だが思う所はある。
「………。」
嗚呼、矢張り中途半端に表の世界を見るべきでは無かったか、と些かの後悔。
だが、表に関してはほぼ無知に等しい己には、あの世界は新鮮で平和で――自分にはとても届かないものだったから。
(…まぁ、後悔は確かにあるが…実際にあちら側を体感できたのは良い経験にはなった、か)
そもそも、もう二度と訪れる事は無いかもしれない。
仮にあるとしても気軽に行ける訳も無い。自分は偽物とはいえ所詮は怪異だ。
――そして、ただの八つ当たりの復讐心で殺し壊す中途半端な化け物だ。
それに、”声”を出せない自分はコミュニケーションというものが難しい。
手話や読唇術、念話などを使える相手なら意志の疎通は行えるが…。
(…最低限、筆談用に紙とペンくらいは持ち歩くしかない、か)
■【沈黙】 > さて、あまり長居は無用だ。ゆっくりとデスクから立ち上がる。
自分に繋がる痕跡は異能に喰わせたが、この建物自体消しておいた方が確実か。
(…あまり力を使いすぎると反動がしんどいが…。)
とはいえ、痕跡はなるべく消しておいかないと”足跡”を辿られかねない。
そのまま、フロアから窓際へと歩み寄れば無造作に飛び降りて着地。
未だ偽装魔術だけは機能しているようだが、ついでにその魔力も頂いていこうか。
(……本当、ただの殺し屋みたいだな。)
実際の殺し屋に遭遇した経験は無いのだが、何となくそんな風に思いながら。建物に無造作に右手を向けて。
――数分後、後には偽装魔術ごと喰らい尽くされて何も無くなった一角が新たに生まれていた。
ご案内:「スラム」から【沈黙】さんが去りました。