2021/10/15 のログ
ご案内:「スラム」にさんが現れました。
>  
光在る所に影が在り。
闇に影が潜むのもまた必定。
即ち、此処に罷りこすは影そのもの也。
群成す建物の屋根上に、闇夜の天蓋に見下ろされる影一人。
跳梁跋扈する落第街にて、己が使命を遂行する為の有象無象。

「…………」

影の本質は戦人成れど、外法を知らぬ訳ではない。
目には目を、外法には外法を心得ていた。
故に今は戦人では無く、影を身に纏い聞き耳を、闇夜に目を張る外法の存在。
面皰の奥に隠れた表情は、月明りに陰るも酷く顰められているのがわかる。

「……出遅れた、と言うよりは何かしらの"事故"と見るべきか」

影は、苦言をぼやく。

>  
するりと、影の足元を動く一匹の獣。
夜風に影と同じくして、闇色の毛並みを揺らす鼬也。
是成る畜生は影の目。影の耳。影の鼻。
自らの血を用いて造られた模造品。戦闘力は斯様、獣と相違無き。
然れど、影としては実に優秀な手足也。
とある情報屋の絡繰りより着想を得た術だが、思いの外役に立つ。

「…………」

故に、鼬から送られてきたものは些か頭を抱えたくなった。
先ず、集めていた標的はとある違反組織。
友を攫い、今も何処かで身を顰める無法者達。
人質を取られた以上、表立って動けば何をされてもおかしくは無い。
然るに、己が影と成りて動向を探る手はずであったが……。
何が起きたのか。随分と手痛い打撃を受けていたようだ。

「……風紀が動いたか?否、まさかな……」

あの鉄火の支配者が裏で手を回したか。
其れにしては手口が余りにも大胆、素直に申せば"杜撰"という印象であった。
影が入手した情報によれば、組織は少人数。
経験則だが、そう言った輩は結束力が高い。
多少の被害が入れば、如何なる報復が起きるか想像するに容易い。

「……更には、頭目は良き慧眼を持っていると見る」

戦の引き際、其れこそ鮮やかなのは天晴だ。
死に戦を望む訳でも無し。そう、其処まで慎重な相手だからこそ、下手な刺激は避けたかった。

「思ったより、時間は無いのかもしれん……」

真偽以前に、是を理由に"人質"に手を加える。
外法に正法等通じない。是を理由に、如何なる暴威も震えるだろう。
唯一つ、信じれるのは敵の冷静さだが、黙っていられるか否かもわからない。
結束力が、推察通り高いものであれば然もありなん、だ。

「……さて……」

如何するべきか。
影は頭を悩ませる。
鼬も首を傾げていた。

ご案内:「スラム」に『虚無』さんが現れました。
『虚無』 >  
 見下ろされるスラム。見た目だけで言えば普通の男と何も変わらないだろう。目深にかぶったフード。誰もそれを気に留める相手もいない。しかし。それは周りとは明らかに違う挙動を見せる。
 ふと足を止めると、まっすぐに屋根の上こちらを見下ろしている影を見据える。つまり目があった形だ。

「……さて、どうかな」

 その男の姿が突如として消える。否、見破れるだろう。それは空中を蹴りだすようにしてまっすぐに屋上へと飛んできていた。そして同じ位置に降り立つ。

「……視線には敏感でな。異様な存在にもだ……最近この街である事件があった。体に変な模様が浮かんだ奴らが発狂して死んだり殺し合ったりしたらしい。さて」

 ジジジと手に紫電を帯びる。それと同時にその手の周辺の空間が不自然にゆがむ。
 見据えるその目には怒りとも悲しみとも。なんともつかない光だけが宿っている。

「そんな場にそんな怪しまれる格好で何の用だ? もしやその事件はその体の影を張りつけた結果。ということではないな?」

>  
────蜥蜴。
富と知恵を象徴する足付きの小蛇。
数だけで言えば、大きな脅威とは言えない。
然れど、複数の下部組織を抱え、其れを統一する統率力。
頭目を信頼し揺らがぬ一人物としての魅力。
其の全て、特に深層も目的も入手した訳では無い。
然れど、着実に勢力を伸ばす手腕、此度の拉致事件。
是以上は捨て置けぬ。

「力技で行くのは得策では無いな……今は人質の救出のみに専念したいが……」

力で終わる事成れば、当に鉄火が地を燃やしていた。
ともすれば、潜入か。危険は承知の上だが、虎穴に入らずば虎児を得れまい。
然れど、其れも今や難しい手段になったかもしれない。
昨晩の出来事により、恐らく相手も相当警戒を高めたはずだ。

「尻尾切りをされる以前だが……、……」

見下ろす視線の中に、人影一つ。
不意に消えたと思えば、同じく天蓋を背に降り立つ孤狼が一匹。
影の足元の鼬は、きゅぅ、と吠えて一目散に逃げだした。
影は振り返る事も無く、迸る聞きなれた音と孤狼の声に耳を向ける。

「然り。斯様な場所でも、痛ましい惨事で在ったと記憶している」

如何なる存在で言えど、無碍に命が奪われるのは許される事ではない。
確かに影の声音には、憂いを帯びていた。

「……異な事を申す。天道に外れた闇故に、影を纏う者などごまんといる
 ……孤狼よ。其方とて、其の一つでは無いだろうか?」

慌てふためく事も無く、影は言葉を連ねる。

「……私を首謀者と見るので在れば、間違いだ。
 呪術の心得は持っておらぬ。信用するか否かは其方次第だが……」

ゆるりと振り返る、鋭い黒の眼が孤狼を射抜く。

「────此処で争えば、互いに無事では済むまい。悪戯に、闇の静寂を破りたい訳では無い」

無血で済めば其れが最善。
言葉に嘘偽りはない。
影の者以前に、其の本質は静寂を好む。
例えそこが、打ち捨てられた吹き溜まりでもだ。

『虚無』 >  
「比喩として影を纏う者はいても物理的に影を纏っている奴など稀だ。この街で力を誇示するという意味を知らないわけではないだろう」

 無法地帯では力を誇示するというのは存在を示す。つまりはそれ以上の存在に狩ってくれと言っているようなものだ。
 事実、今回こちらが発見できたのもそのお陰なのだから。
 さて、そうして見つめ合う事しばし、相手の目をそして言葉の紡ぎ方を見極める。
 その様子は極めて落ち着いていて冷静だ。こちらの威嚇にも一切動じる事なく。しばし時が過ぎれば。

「……すまないな。無礼を働いた」

 そう謝罪をすると手からは紫電が消滅する。
 嘘である。その可能性とて0ではない。しかし、その場合彼が犯人という事になる。だとすればここまで落ち着いて言い返せるだろうか。その可能性は低い。
 恐れて動揺するか、もしくは力を誇示したいが為に攻撃を仕掛けてくるか……そのどちらでもないという事はおそらくは違うのだろうと。

「だが、だとすれば余計に奇妙だがな。こんな場所に何の用だ。組織が来て有益な場所でもないだろうに……下で薬をばらまくなどをするわけでもないのならな」

 と目線を眼下のスラムへ。組織の人間がスラムをただ眺めるというのも中々に考えにくい。人探しというのならばあり得るが……それはあえて言わない。言うのなら相手から言わせようという算段だ。

>  
影が微動だにせず、影より深き双眸が孤狼を見据える。
刃の如き、鋭い視線だが、静寂を好むといった其の居住まいは影に不釣り合いな穏やかさだった。

「……心得ている。然れど、無法には無法で応じるのみ。
 血が流れようと、気に留める者のが少なかろう」

「無論、諸行無常ばかりでは無い事も、知っている」

確かに無法故に此処で血が流れようが、利無くば動かぬものも多い。
然れど、無法故に自由。人助けに身を費やすものもいるはずだ。
恐らく、今も何処かで苦しむ人々を、助けを得られぬ
仕方なく闇に身を費やしたような人間か、或いは身分を省みず奔走する者も居よう。

「然るに、気にするな。無礼を詫びるので在れば
 其方にもまた、理由あっての行動。咎める気は毛頭無い」

此の獣もまた、故合って力を誇示したので在ろう。
如何なる理由かは問わない。
然れど、是を無礼と謝るのであれば、唯の無法者では無いと見た。
無法の中にも礼節を弁えている。唯の賊と言うには違う。

「申した通り、静寂を破る訳では無い。然るに、壁に耳在り。
 斯様な場所だからこそ、耳を立てる。目を光らせる」

此処にしかない情報を探りに来た。
無論、詳細など口にしない。
腐っても暗部の刃。諜報活動をする身として、おいそれと
しかも、斯様な地域に身を置く者には口は割れない。

「何も珍しい事ではあるまい。人の噂に耳を立てるのに、表も裏も無い。
 ……そう言う其方は、仕置き人か?かの惨状の報復を目論む……」

「……犠牲者に仲間でも?」

影もまた、静かに問いかける。

『虚無』 >  
「感謝する」

 咎めないと言われれば素直にそう感謝の意を述べる。こちらとしても無駄に戦いを仕掛けたいわけでもないのだから。
 そうして眼下を眺めていたが、仲間でもと言われればそちらに視線を向ける。

「仲間、ではないな。だがそうだな」

 と少しだけ考えるように上を見上げる。
 仲間ではないといえばその通りだ。言ってしまえば名前も知らないような相手がほとんどなのだから。

「……だが、俺もこの世界でしか生きられない人間だ。そういう意味では仲間と言えるのかもしれない。同じ穴の狢という意味でな」

 と少しだけ目を閉じる。

「それに、今回の事件の対象は……放置できる手合いじゃない。だからこそこうして調べている。たしかに仕置き人というのも間違いではないかもしれないな。お前も似たようなものだろう。犯人ではないとすれば何かを見定めているようにも見えたが?」

>  
「名も知らぬ同胞、か……確かにな」

如何に民草と言えど、小さな花にも名前は在る。
郷に入れば郷に従え。無法の中にも法が在ると言う事か。
或いは、無法であるが故に秩序を齎さんとするのか。
真意は如何なるものかが想像に難い。
然れど、相応の信念を持ち獣に成ったと見る。
秩序の獣か。ともすれば、孤狼も随分と数奇者と言える。

「如何にも。此度の惨事は……推察では在るが、無差別……。
 何処となく、愉快犯めいた犯行にも見える」

組織の手合いのものとは思えない。
闇に紛れた辻斬りめいた存在。
或いは、其れを誰かが囃し立てたか。
……其れを仮定すれば、脳裏にかの鉄火の支配者が浮かぶがまさか。
雌伏の時と、其の意味を理解している以上
斯様な手合いに、ましてや風紀の人間が使うとは考えづらい。
考えづらい、が……嫌に合致してしまう。

「……捨て置けるものでは無い事も確かだ。
 如何なる理由と言えど、凶行を止めねばまた犠牲者が出る」

「……其れは、誠。由々しき事態だ」

名も知らぬ影の住人と言えど、其れを踏みにじられては心も痛む。
己も戦人、民草を気づかぬ内に踏みつけるような輩で在る時も。
故に、其れを悼む事は誠、許されるものではないかもしれない。
然れど、人である心を忘れぬ以上、咎としてでも思わずにはいられない。

「物のついで、とは言わぬがな。惨事の犯人を捕らえると言うのであれば、私も手を貸すのも吝かではない」

住む世界が違い、何れ刃を交えるかもしれない間柄やもしれぬ。
公安に属する以上、孤狼がそうであるなら、然もありなん。
然れど、惨事を悼む心は同じのはず。
故合っての申し出である。

『虚無』 >  
「ああ、だが同時に他の事件を見るに確実に無差別とも言い切れない……それこそ無差別に攻撃するならここにおあつらえの舞台がある。違うか?」

 と眼下のスラムを見る。奥へ行けば良くほどこの街の魑魅魍魎は多く、強くなる。つまり無差別に苦しめたいのならここのように弱者が集う場所を襲うのが速いのだ。
 強者を狙った犯行……となると今度は無差別にも見える攻撃が不自然なのだ。
 つまり無差別に見えるだけで何らかの意図があるのではないか。そんな事を言い放つ。

「……協力か。お互いに名前を明かすのは少し問題だ。特にこの街ではな」

 というと少しだけ考える素振りを見せる。そして。
 ドンと地面を踏みしめる。

「だからこそ、ここを情報交換の場にする。わざわざスラムの近くの建物の上を見に来る奴はほぼいない……お互いに話したい事があればここに相手を呼び出したい事を記したメモなりなんなりをおいておけばいい。俺は影とお前を呼ぶ……お前は孤狼と呼べ」

 現在そう呼ばれているからそれで良いかと適当に決める。
 話をまとめれば歩き出し、直前に立つ。

「とはいえ、俺から呼べる事は少ないだろうな……たぶんお前の方が情報の手は早い。俺よりはるかにな。それじゃあ俺はもう行く。あまり力を使いすぎるなよ、バレて襲われても俺はしらん」

 というと今度は甲高い音と上げ、その姿はどこかへと飛び去って行くことだろう。
 後にはへこんだ地面が2つ残るだけである。