2021/11/26 のログ
ダリウス >  
自分が異能を持ち合わせない以上、誰かに治験を委ねることになる
当然それは副作用などのリスクとは隣り合わせな、危険なもの

「(見知らぬ他の誰かを危険に晒すよりも…という選択は理解されないだろうね)」

きっと誰も理解はしない
言葉さえ入れ替えれば、印象などいくらでも変わる

仕事に必要なものと
家庭に必要なものは違う

「(──まぁ)」

「(意外と割り切れないものなんだなと思いますね)」

人間は感情面においても中途半端な生き物なのだと納得しておく他ない
このすっきりしない曇り雨の空のように

手の平を空に向ければ、その上に落ちる雨粒は次第に少なくなってゆく

ダリウス >  
「…そろそろ止むかな」

リスクの少ない異能制御薬については、
此処落第街の住人の協力を得て不特定多数の治験を行ったこともある
しかしそれは、メインとなる薬の補助薬に過ぎない

赤い錠剤…異能のステージを強制的に上げるあの薬
かつて在った覚醒薬とは別種のアプローチで製剤され
異能ステージ説、レモンシードメソッドに因み、ブラッドシードと名付けられた

暴走の危険が付き纏うあれの治験だけは、
強力な異能を持ちつつも自身の言葉に従ってくれる協力者でなければならない

それは自分の娘一人では荷が重いことも理解っていた

「(でも、いつまでも足を止めているわけにもいかないからね)」

雨はあがり、雲間から陽光が差す

「(…うん、もう少しで一つの答えが出る気がする)」

順調とは言えないまでも日進月歩
次第に蜃気楼のようだった目的も輪郭を帯びてきた
答えが出た暁には、色々と妻や子にも明かすことになるだろう

「…良い報告になるといいな」

ぽつりと零すように言葉を一つ残し中年の研究者はゆっくりと踵を返し、スラムを歩き去っていった

ご案内:「スラム」からダリウスさんが去りました。