2022/01/09 のログ
ご案内:「スラム」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「スラム」にキッドさんが現れました。
■レイチェル >
毎日のように足を運んでいた落第街。
近頃はめっきり訪れなくなっていたところだった。
今日、こうしてまたここへ訪れているきっかけは、
年末に有志として行った炊き出しだった。
この街に対して、風紀委員としてでなく、個人として
与えられるものがあればと。そう思って参加したボランティア。
そこからできた縁があって、今日こうしてレイチェルは落第街にやって来ていた。
落第街、スラムの一角。
スラムの中ではまだ『浅い』場所であるそこだったが、
瓦礫は散乱している。
その瓦礫の上に腰掛けているレイチェルと一緒に居るのは、
落第街に住む子ども達であった。
炊き出しを行ってからというもの、少し懐かれてしまい、
オフの日の今日は、一緒に遊ぶ約束をしていたのだ。
1時間ほど一緒に縄跳びをし、
今は談笑をしているところだった。
子ども達は10歳前後といったところだろうか。
時折、もっと幼い子どもも混じっている。
身なりは上品なものとは勿論言えないが、
少なくとも、瞳に輝きはあるようだった。
「だから、やめろって~。これ大事なもんだからさ」
子どもの一人が、気を引きたいのかレイチェルがつけている
赤いリボン――後輩から近頃プレゼントして貰ったものだ――
を引っ張る。
それに対して、レイチェルはやれやれと内心思いつつも
笑顔を見せながら対応をしているようだ。
■キッド >
「────そうそう、その姉ちゃんは怒ると何するかわからねぇからな」
「怒ると笑顔で角が生えるタイプのオニさ」
そんな何処となく気取った声音は茶化し気味。
瓦礫を踏み鳴らし近づく姿は
キャップを目深に被った少年。
目立つと言えば腕に巻かれた風紀委員の腕章に
腰に煌めく黒鉄の大型拳銃と言ったところだ。
そんな少年がレイチェルの背後から歩み寄り
先ずは子供たちの方に一礼。
続いてキャップの隙間から碧眼がレイチェルの方を見やった。
「しかし、驚いたな。机に齧りつく以外にも仕事があったのかい?レディ」
白煙を吐き出せば、出てくる言葉は気取った冗談。
とは言え、少しばかり驚いているのは事実だ。
前線を退いてからの彼女は、浅瀬とは言え
"こんな場所"に顔を出す機会はほぼなかったはずだ。
彼女の周りで何が在ったかは、別に実際に立ち会った訳じゃない。
言葉の齧り、風の噂程度だ。"今"のレイチェル・ラムレイが
"歓楽街の奥地"へと足を踏み入れる理由等、とは思ったが
まぁ、合点はいった。
「将来の夢に保育士でもあったのかい?」
いけ好かないクソガキは、減らず口を続けざまに叩いた。
■レイチェル >
さて、そんな談笑の最中に耳に入ってきたのは、
レイチェルにとって聞き慣れた同僚の声だった。
近頃はあるとしても事務的な話くらいで、
なかなか話ができていなかった相手だったが。
「角が生えるだぁ? 突然現れるなり好き放題言いやがって――」
声の主に対して、声は荒らげぬままじっとりとした目を向ける。
言葉や視線に反して、その声色は満更でもなさそうな様子だ。
この場に来ることを拒まず、歓迎しているかのようである。
「こいつは仕事じゃねぇよ、今日はオフだし。
少し前に炊き出しに来てからこいつらと知り合ってな。
で、今日は遊んで欲しいって話だったから――」
そんな話をしている最中に、
子どもの内の一人――5、6歳だろうか。
そんな年頃の男の子が、
レイチェルの肩にしがみついて頬を引っ張る。
「――おひ、やめろって……」
しっしっ、と手を振りつつ、レイチェルは立ち上がり、
一礼の代わりに頷きと笑顔を見せてキッドの方へと近寄る。
「はっ、どうだろうな。今までは考えてもなかったが……」
減らず口に対しては、気にせず笑いながら返す。
そうして、子ども達の方を少し振り返る。
子ども達の何人かが、目を輝かせながらレイチェルとキッドを
見ていた。
さて、子どもの一人――12歳前後の女の子が、キッドの方へと
近寄ると、目をきらきらと輝かせながら問いかける。
彼が、腕や腰につけているものもある。
少々、いや結構びくびくしつつではあったが、
近寄ってこう口にした。
『……レイチェルお姉ちゃんの恋人さん……?』
キッドの周りを遠慮がちにくるくると回りながら、
女の子は自分の胸の前で両手を合わせている。
■キッド >
くつくつと喉奥を揺らして笑う悪ガキ。
正直これ位軽口叩ける相手も最近中々いないもので。
「コイツは失礼。角よりは牙か。
いやね、アンタの元気な姿を見ちまったら、ついつい口が回るってもんさ」
一時期彼女の周りでは結構ごたごたが多かったはずだ。
こうして子どもと遊ぶ余裕が出来ている。
そう言う事実が見えただけでも十分だ。
これは、悪ガキなりの敬愛なのだ。
煙草を二本指で取り、煙を上に吐き出した。
まぁ、子どもに掛からないように精一杯の配慮。
元々匂いも味もしないけど、煙たいのは変わりない。
「それで、付き合ってやってる、と。
アンタも律儀なモンだな。今度は風紀を引退して生活委員会にでも行くかい?」
半分冗談、ちょっと本気。
あそこなら人の面倒を見るにはことを欠かない。
特に、年端も行かない子どもの面倒を見るのもあそこだ。
特に、炊き出しと言えば連中の仕事だろうし
これ以上彼女に、憧れの人に鉄火場の匂いは相応しくない。
尤も、それを決めるのが当人次第なのもわかっている。
だから、子どもに群がられる姿を見て一言。
「お似合いだよ」
なんて、おどけて見せた。
そんな矢先。
>『……レイチェルお姉ちゃんの恋人さん……?』
「…………ンン」
急に爆弾飛んできたな。
最近の子どもってそう言うの興味あるんだ。
ある意味凄いな。とりあえず咳払い。
人差し指を立ててチ、チ、チ。と右へ左へ。
「まぁ、その赤い糸をプレゼントしたのは俺だが
恋人とはまた違うな。もっと遠くて、尊いもんさ」
要するに憧れである。
彼女の見つけてくれている赤いリボンを一瞥すれば
相変わらず気取った言い回しなんだが、果たして子供に通じるのか……。
■レイチェル >
「うるせぇ。確かにまぁ、牙は生えちゃいるが……。
相変わらずペラペラと要らねぇこと喋りやがって。
……でも、まぁ――」
はぁ、と溜息をついて自らの腰に右手をやる。
空いた左手で己の唇をつんつん、と突けば
肩を竦めて見せる。
「――元気そうで何よりだ」
その一言は、この上なく柔らかな笑みと共に送られたことだろう。
そうして煙に配慮する彼を見れば、感心したように頷くのであった。
子どもらはと言えば、
自分たちの遊び相手であるレイチェルと自然に話していることで
警戒も薄れてきたのか、
女の子以外の子ども達もキッドの方へと少しずつ近寄り、
銃の格好良さに目を輝かせたり、煙を放つ煙草を見て、
思わず背伸びをしてみたりしているのであった。
「こいつは……委員会としての仕事じゃなくて、
オレ個人がやりたくてやってるだけだからな。
まだ風紀委員は続けるつもりだぜ。
……こっち来た時、オレを拾って貰った恩もあれば、
育てて貰った恩もある。それから……大切な仲間も居るしな。
なに、今のオレにできることをやるだけだ」
冗談半分の問いかけに対し、柔らかくも真剣な声色で返す。
おそらくは、色々と案じてくれているのだろう。
冗談を飛ばしつつも、彼が心優しい性格なのはよく知るところだ。
だからこそ、その気遣いも、憂慮するところも、何となくは察する
ことができた。だからこそ、そこは真剣に返したのだ。
そうして。
指を振りつつ子どもたちに対応するキッドであったが、
そう。子どもたちはなかなかその意図が伝わらないようであった。
『恋人よりも遠い……? とうとい……?』
『赤い糸って、好きな人と好きな人を繋ぐうんめーの糸なんだよ』
『それって……恋人より凄いってこと……?』
『え、レイチェルお姉ちゃんの結婚相手……!?』
ざわざわ、と子ども達のざわめきが広がっていく。
「そんな訳あるかっ! ただの後輩!
大事な後輩、ではあるけどな」
思わずバシッと一言放つレイチェル。
変な噂が広まっても申し訳ないところだ。
そうして、少しだけ声のトーンを落として。
「……悪ぃ、二人で話してくるから
ちょいと抜けるぜ。その辺で遊んでな。
危ないことすんじゃねーぞ」
そうして、首を振りつつ、瓦礫の中で何とか形を保っている
建物の残骸――キッドの方を見た後に、その壁を指さした。
■キッド >
「……ソッチこそ」
それは同じく此方の台詞。
最近そこまで真面目に顔を合わせた覚えはないが
こうして子どもと遊ぶ元気があると知っただけで十分だ。
さて、周りを囲むちびっ子たちにと言えば
悪ガキ自身から何かする気はない。
ただまぁ、銃にだけはあんまり触らせるものじゃない。
憧れを抱くのは勝手だ。子どものうちは自由にさせるべきだ。
ただ、こういうものに憧ればかりだと
ロクな事になりはしない。凶器は凶器。
見る分に留めておくべきなので、触れさせないように
それとなく腰に手を添えておいてある。
「フン、生涯現役とでも言っておくかい?
しわくちゃの婆さんになっても同じことが言えるか楽しみだよ」
それこそ風紀委員と言うのは
わざわざ"留年"を選んでまで留まる選択肢も選べるような場所だ。
最高キャリアがどんなものかは知らないが
年配の風紀委員も少なからずいる。ただ、余り見た事は無い。
職業上、そうなる前に"引退"か"殉職"するかどちらかだ。
床の上で死ねれば幸せ、なんて言うのは誰の言葉か。
彼女がそう言うのであれば、何も言うまい。
ただ、何処となく言い知れぬ一抹の不安は覚えてしまったけれど。
「……フ、残念。後一年早かったら考えたかな」
確かに一目見た時似たような感情はあったかもしれない。
憧れが愛や恋に変わるなんてのは、良くある話だ。
残念ながら浮気性では無いと言う事だ。
軽く両肩を竦めておどけて見せれば、彼女の指す方へ頷いた。
「ま、そう言う事さ。後で遊んでやるから大人しくしてな」
軽く子どもたちへと手を振れば、一足先に建物の残骸へと足を向ける。
要するにサシでの話し合い。さて、何と言われるかな。
キャップのツバを掴み、目深に被りなおす。
■レイチェル >
ちびっこ達の様々な声が飛び交う中、
瓦礫の壁の方へとやって来た二人。
まだこちらの方を気にしている子どもも居るようだが、
それでも二人で話す、という言葉を受けてきちんと近寄らないように
しているらしい。
「なーにが、『後一年早かったら考えたかな……』だよ。
ったく……相変わらずキザかましてんな、お前」
キッドの後に続いてやって来たレイチェル。
壁に背中を預けた後、
キッドのキザな声色を真似しつつ、冗談っぽくそんな風に返す。
「……悪かった。すまねぇな。付き合わせちまって」
すっかり巻き込んでしまったようで、申し訳なく感じていたのだ。
子ども達の騒ぐ声を遠くに聞きながら、レイチェルは
キッドの方へ向き直ると困ったように笑って頬をかく。
「メッセージでも伝えたが……
居場所、ちゃんと見つけたんだなって。
……ほんと良かった。こう見えて、心配してたんだぜ?
おめでとな」
写真の中のキッド――ジェレミアの顔。
そして、隣に座っていた少女の顔を思い浮かべた。
とても幸せそうな二人だったから、見ているだけで
笑顔が溢れたものだ。だからこそ、まずは祝福の言葉を
直接送る。
送るのだが。
「ただ、そういうことあんだったら
もっと早く教えりゃいいのに……ったく。
心配し続けて損したぜ」
冗談の色たっぷりに、ちょっとだけ悪態もつくのであった。
■キッド >
似てるような似てない声音に
ハ、と思わず鼻で笑い飛ばしてしまった。
「強ち嘘でもないさ。強さと美しさ。アンタの苛烈なやり方も
アンタの在り方にも憧れを抱いたのは事実さ。……初めて見た時に、だがね」
初めてこの学園に訪れた時に
初めて見た風紀の活躍。
そこで見たのは紛れもなく、バレットタイムのレイチェル・ラムレイの活躍だった。
自分と歳も其処まで離れていない少女が悪党を裁く。
当時はその意味なんて考えていなかった。
悪党は裁くべくして裁かれる。
弾丸の断罪は、そう言うものだ。
その程度しか考えていなかった。
尤も、本当にその程度だ。初恋と言うのは程遠い。
加えた煙草を取れば、くしゃりと携帯灰皿にねじ込んだ。
「────そんなに謝るような事ですか?そうでもないでしょう、先輩」
"少年"は柔く微笑み、言った。大した事では無い、と。
彼女がわざわざご指名したんだ。
だったら、悪ガキのままと言うのもばつが悪い。
キャップの隙間から碧眼は真っ直ぐと彼女の事を見やっていた。
「まぁ、確かに別件で此処には着てましたけど
急ぎの用事ってワケじゃないですよ。それに……」
「思ったより意外な一面が見れたので、十分です」
あのレイチェル・ラムレイが子どもと戯れる…と言うのは
流石に言いすぎか。彼女だって、そう言う優しい人だって知っている。
ひとしきりからかって見せれば、いえいえと軽く首を振った。
「どうも。先輩のおかげでもありますよ」
今の自分が幸せでいる為に必要な事。
少年の顔のままでいられるようにいる事。
許されざることではない咎を背負ってでも生きる価値を示した。
その居場所を示してくれた人と、許してくれた人。
何方も居てくれたから、意味がある。
それを示してくれた人だから、最早感謝はしてもし足りない。
「ハハ、ごめんなさい。色々忙しくて……。
そう言うアナタも、色々あったみたいですけど」
「最近は、どうなんですか?」
■レイチェル >
「……へぇ。そりゃ、言われて悪い気はしねぇが。
悪ぃな、憧れの先輩で居続けられてなくて」
まだ前線に自分が立っていた時の話だ。
今では殆ど、前線に立つことがない。
だからこそ、
ちょっと申し訳無さそうに笑ってそう口にするのだった。
ただ、レイチェルとてこのままで腐っていくつもりも毛頭ない。
だからこそ、冗談っぽく口にするのだ。
「ったく。ようやく仮面を外したか、ジェレミア。
その顔が見たかったぜ」
本心だった。
かつて対話した"少年"が顔を覗かせれば、
レイチェルは目を閉じてふっと笑う。
「何だよ意外な一面って。
子どもの面倒見るのが好きじゃ、悪ぃかよ。
……まぁ、オレも最近気付いたんだけどさ」
かつてのイメージからは程遠いのかもしれないが。
何だかんだ言いつつ、
レイチェルは子どもの面倒を見ること自体が好きらしかった。
「あの子。今度、ちゃんと紹介してくれよ」
礼を言われて少し照れくさそうな笑みを見せる
レイチェルだったが、最後は真剣な眼差しを送りながら
そう口にした。
大事な後輩を支える相手のことは、気になるものだ。
「最近か……まぁ、そうだな。
それなりに元気にはやれてるよ。
知っての通り、一時期は死にかけてたが……
今は少しずつ回復してきてるし。
ま、無理さえしなきゃどうってことねぇさ。
近い内に、昔みたいに元気になってやらぁ」
近頃は前線に出るのは難しくとも、
後輩育成の為に戦闘訓練の指導も行っている。
「そんな風に……みんなに心配かけられねぇからな」
相手を見る、紫色に輝く瞳が細まった。
目の前の相手もそう。他の後輩たち、同僚。
そして想い人も、勿論。
心配などかける訳にはいかなかった。
■キッド >
「いいえ、今でも十分に憧れの存在ですので」
その憧れの意味は少しだけ変わってしまったけれど
替わってよかったとまで思える事だ。
鉄火場の憧れよりは、人として尊敬できる人。
日常へと目を向けている今だからこそ
彼女の"生きる"事の強さを知っている。
だから、今でも尊敬する人には変わりない。
「レイチェル先輩も、悪ガキ(キッド)は余り好きではないですかね?」
少年が被り続ける役割(ロール)の仮面。
小説の主人公。ニヒルでクールな憎まれ役、キッド。
どうしても弱い少年では悪を裁く事など出来ない。
だから、己の罪をおっ被る為に作ったもう一人の自分。
二重人格と言う大層なものじゃない。
もっと単純に、ただそう言う人格を演じてるだけに過ぎない。
こうして、人前に本来の少年としての素顔を出せるようになったのだって
つい最近に過ぎないのだから。紹介してくれ。
そう言う割れると、少しはにかんで肩を竦めた。
「え、普通に恥ずかしいですよ」
紹介しないとは言ってないけど、素直に恥ずかしい。
まぁ、でも世話に成った先輩には紹介しておきたい所はある。
彼女の身の上話を聞いていれば、何気なく帽子を目深に被った。
「……そうですか」
本当に元気なら、それでいい。
そう、本当に"元気"なら、だ。
「────でも、いいんじゃないですか」
「心配かけれない、って言いますけど。ある意味、"潮時"ですよ」
彼女の活躍は良く知っている。
彼女がどんな人間かまで、深く知っている訳じゃない。
だけど、そこまでして"風紀"にこだわる必要がどこにあるのだろうか。
そう、心配をかけるのはお互い様だ。
此の職業は、心配をかけて"当たり前"だ。
特に自分のように、犯罪者を率先して取り締まるなら尚の事だ。
少年は帽子を目深に被り、言葉をつづけた。
「そう思うなら、止めるべきだと思います。
アナタは一度死にかけて、その……異能だって今は使えない」
「どうですか?ご自慢の銃の腕。"通用"しますか?」
仮想敵を何とするかは敢えて言わない。
その銃口は、犯罪者であればだれにでも向けなければならない。
キャップの隙間から、鋭い"鷹の目"が少女を見やる。
「すみません、侮ってる訳じゃありません。
ただ、アナタはここ最近違反者を自ら相手にする機会はほとんどなかったのでは?」
「そんなアナタが、"今更"戻ってきてどうなります。レディ?」
実際にどうなのかは知らない。
鍛錬を怠らないなら体は鈍っていないとは思う。
だが、実践と訓練はどうしても決定的に違う。
少年は敢えて、少女と対峙するように体を向けた。
腰に添えた大型拳銃の手を添えて、キャップの底は瞬きもしない。
少年の背は歓楽街の更に"奥深く"。
風紀委員として身を置くなら、『黒鉄の戦塵』等と呼ばれたままなら
何時かは避けて通れない、深淵の奥地。
決闘の作法、早打ち。こんな若造<ルーキー>の早打ちに反応出来ないなら
少女<アマリア・アンドール>のまま、腐っていく事を望むのみ。
■レイチェル >
「そうかよ。ま、好きにしな」
彼の放つ言葉に、余計な色は感じない。
つまり本心で言っているのだろうということは、
それとなく理解できた。
「……いや、好きじゃないって訳じゃねぇさ。
仮面は誰だって持ってて当然だと思ってるしな。
お前にとってまだ、必要だってことも……理解してる。
ただ、オレはできればジェレミアと話したかったってだけだ」
仮面のその先に居る少年。彼のことを知っているからこそ、
レイチェルは放っておけないと思ったのだった。
「"潮時"ね、そう言われても仕方がないのかもしれねぇな。
確かに……眠っちまってたようなもんだからな」
彼がかける言葉に、反抗することはない。
一つ筋が通っている。
それでも。
以前ほど満足に戦えない身体だとしても、
風紀委員に居る理由――それは、数多くある。
そこへ恩を返したいこと。
そこに想い人が居ること。
この島を愛していること。
他にも、沢山の想いがある。気持ちがある。
しかし、それらを言葉にする必要はない。
「お前の言うことは最もかもしれねぇな」
■レイチェル >
「だが、退くかどうかは――」
彼が向けている視線の意味を解さぬレイチェルではない。
対峙する姿勢に向けて、彼女もまた姿勢を作る。
そしてクロークの内――拳銃のしまわれている領域に右手を伸ばした。
「――オレが此処で決める」
そうしてただ静かに一言だけを、放つ。それだけだ。
二人の間に流れる空気は、真剣そのものだ。
身体は朽ちかけているとて、光を失わぬ瞳が、
未だ彼女が牙を持つことを物語っている。
スラムの一角で、静寂の戦場を作り出していた――。