2022/09/19 のログ
ご案内:「スラム」にパラドックスさんが現れました。
■パラドックス >
<クォンタムドライバー……!>
<クォンタムバースト!フィニッシュブレイク!!>
無機質な電子音が、スラムに響いた。
同時に響き渡る轟音と悲鳴。
廃ビルの一部が爆炎と煙に包まれ、辺りは野次馬と悲鳴が上がっていた。
夜空を覆う暗雲に赤い光が乱反射。
廃ビルに倒れ伏すのは武装した数名の人物とその中央に悠然と立つ"怪人"。
全身にデジタル時計のような数字を点灯させ、「0:0」の赤い数字を並べた顔を持つ鋼の怪人だ。
その剛腕には血まみれの頭。最早、その人物の意識はなく、力を入れても呻くのみ。
『……異能者の集まりと思っていたが、ハズレか』
電光鉄仮面の奥で落胆を呟いた。
無造作に掴んでいた男を捨てれば、自身が破壊した壁の向こうを覗く。
熱と光に照らされた怪人が、常世学園の裏側を見下ろしていた。
■パラドックス >
当初の予定とは大きくずれていた。
侵略者は、常世学園に打撃を与え着々とこの島の全てを滅ぼす予定だった。
だが、出鼻は見事にくじかれた。この学園の秩序機構でもない。
"たった一人の少女に、だ"。
『……川添春香……!』
自然と握りこぶしを作り、奥歯を強く噛み締めた。
正しく、煮え湯を飲まされた。この借りは必ず返してみせよう。
だからこそ、収穫もあった。この学園の規模、組織、情勢。
あの少女に追い込まれて以来、この"落第街"に身を潜めて情報収集に専念していた。
未来の電子機能の力。クォンタムドライバーの能力をもってすれば造作もない。
『歪な街だ。学園都市を謳う島でこんな場所を残しておくとは……』
"財団"の連中の意図は見えないが、考えれば考えるほど疑問が浮かぶ。
自然と出来た弾き者の集まりとしては"物が多すぎる"。
少なくとも、街の体を成している存在だ。そして、そこを整備するわけもなく
敢えて残し、犯罪の温床を許している。時に、ここの住人と表の住人の対立は少なくはないそうだ。
腰に巻かれたドライバーをなぞれば、電子光と共に鎧が消えた。
月光と炎に照らされた、胡乱な瞳が暗闇の地平線を見据えていた。
「だからこそ、此の綻びが狙い目だ」
此の島は一枚岩ではあるまい。
滅ぼすのであれば、効率よくだ。
「それに……」
■パラドックス >
「非異能者といえど、侮れないな」
男は振り返り、倒れ伏す武装者を見た。
分厚い軍事武装に包んだ異能者の男たち。
数名、女性もいた。恐らく、違反組織と呼ばれる連中だ。
彼等は一切の異能を使うことは無く、この世界の兵器で対抗してきた。
此のクォンタムドライバーは未来の技術。此の時代の兵器に遅れは取らない。
だが、損傷率は35%を越えた。軽傷、自動修復で即座に修繕可能だが
もう少し数と装備が整っていたら、ただでは済まないという証左に過ぎない。
重傷は負わせたが、全員生きてはいる。
「私は勝てない戦いはしないが……丁度良い」
倒れていた男のドックタグを引きちぎれば、胡乱はスラムを再び見つめる。
「お前達の組織を利用させてもらう。
生かせば、"報復"には来るだろう」
表には表の、裏には裏の秩序がある。
何れにせよ、不文律を犯せば報復あるのみ。
「常世学園」
背中で大きな爆発が起きる。
恐らく、連中の装備に引火した。
「──────……せいぜい、足掻いてみせろ」
滅びはまだ、始まったばかりだ。
爆炎を撒く夜風とともに、男の姿は消えていった。
ご案内:「スラム」からパラドックスさんが去りました。
ご案内:「スラム」に紅龍さんが現れました。
■紅龍 >
歓楽区南東部――いわゆる落第街。
その中でも特に貧困層が集まり、バラックを建てて寄り集まって生きている街。
ようするにスラム街ってところだ。
こんなところで、喧嘩に乱闘、強盗強姦、そんなもんは日常茶飯事。
暴力沙汰には事欠かねえし、それが大した騒ぎになるような事もねえ。
だが――。
「――消火と救助が最優先だ。
子から辰は誘導、残りは消火。
ああ、こっちには戌を回せ」
部員に指示を出して、燃えるスラム街を走らせる。
オレは足元に倒れている、五人の部員を見下ろし、屈んでバイタルサインを確認する。
――幸い、死んだ奴は誰もいなかった。
「――ダメージがデカすぎるな。
平時巡回用の装備とはいえ、これだけやられるか」
五人とも一人残らず重傷だ。
それも圧倒的な力でねじ伏せられたような、そういう負傷の仕方だ。
ある程度でも拮抗した戦闘なら、こうはならない。
■紅龍 >
「遭遇戦だな――だが奇襲じゃねえ。
てーと、正面からやりあってこれか」
五人の怪我に、背後からのものはない。
つまり、全員が正面から潰された――
『――た、たい、ちょ』
「おう、気が付いたか」
『お、おれ、なにも、でき――』
「阿呆、こうして生きてんだ、それで上出来、大したもんだ。
あとは任せて、ゆっくり寝てろ」
『す、すんませ――』
再び部員は意識を失う。
そう、生きてるだけで上出来なだけの大怪我だ。
だってのに、こいつらの背中に傷はねえ。
「坏蛋――逃げるだけならできただろうによ」
逃げるべきじゃない――そう判断したんだろう。
ここで倒れている五人、その全員が。
それが、なにより誇らしい。
「にしても、だ。
痕跡が大人しすぎる――これだけ力がありゃあ、もっと派手になってもおかしくねえ、が。
いや、『あえて』か」
この『敵』は圧倒的な強さを持っている。
少なくとも、常人では抗い様がない。
強力な異能者でもなくちゃ、渡り合えねえだろう。
そんなやつが、うちの部員を一人も『殺していない』。
これは不自然が過ぎる。
恐らく『敵』が本気の暴力を振るえば、あっさりとこいつらは殺されていた。
「――釣りか。
やってくれるぜ」
間違いなくこいつらは、わざと『手加減して生かされた』。
目的は――断言はできねえが、『うち』に喧嘩を仕掛けたいってこったろう。
もしくは、見せしめか――。
いずれにしても、コイツは危険だ。
「ノるのは癪だが――身内がやられて黙ってるわけにもいかねえなぁ」
立ち上がってタバコをふかす。
一息ついて、部員全体へ通信を繋げた。
「総員に通達――病原狩人《アンチボディ》、動くぞ」
ご案内:「スラム」から紅龍さんが去りました。