2022/12/16 のログ
ご案内:「スラム」にサティヤさんが現れました。
サティヤ > 「…随分と小さな綻びですね。破れるでしょうか…?」

仕事を終え、報酬を受け取って帰る道に、それはあった。
スラムの片隅、崩れたバラックの積み重なった住民達ですらそうそう足を踏み入れないようなそこに、その綻びはあった。
綻びは、隠蔽系の魔法や魔道具によって現実にズレが生まれることによって発生する現象である。
即ち、綻びがある場所には何かしらの隠蔽が考えられるというわけだ。

元いた異世界でも何度も見かけたものだし、このスラムや落第街にも時折見かける比較的ありふれたものなのだが、この綻びは少々引っかかるところがあった。
綻びの周辺には、大きな歪みや、何かしらの異常な状態が発生することが多い。
それは検知できるものから出来ないものまで、さまざまであるがどうしても発生してしまうものなのである。
しかし、その大きさは可能な限り小さくなっているはずである。
何故なら…

「こうも、綺麗に歪んでいると逆に怪しくないのでしょうか…」

膨大な魔力を含む身であったからこそ、その効果を多少なりとも打ち消せたのだろう。
身に感じるこのすさまじく精密に、外側に行くほど薄く、弱くなっていく歪み。
相当高位の魔法か魔道具なのだろうが、それならば綻びが発生しているのは、どうにも不自然な点であった。

サティヤ > 「それに…この辺りは何度か通っている筈です…いつからこんなレベルの隠蔽があったのでしょうか」

綻びに手を掛けて、搔きまわす。
本来綻びとはいえそう容易に触れられるものではないのだが魔力を含むこの身であれば可能である。
小さな綻びを搔きまわし、少しずつ綻びを大きくしていく。

「…おかしいですね。これほど高位の隠蔽なのに随分と脆いです…もしかしてですが、魔力が不足しているのでしょうか…?」

こんなに容易に綻びが大きくなることはない。高位の魔法にしろ、魔道具にしろ膨大な魔力で構成されていることが多い。
なのにもかかわらず、掻きまわすだけでこんなにも綻びが大きくなっていくのは異常なのである。
ごり押し程度で容易に対処できるものではないのだ。
首をかしげながら、綻びをもっと大きくしていく。

反撃が来る可能性を踏まえて、慎重に広げていく。

「これぐらい大きくなれば…反撃が無いのもおかしいですが、ここまでこれば恐らく大丈夫なのでしょう…」

特に周囲を確認したりはせず、綻びを蹴って隠蔽の術式にヒビをいれる。
本来なら、こんな芸当は難しいのだが、この隠蔽を構成する魔力の量が少ないお陰で、隠蔽の術式に大きなヒビ、さらにいうのであれば小さな穴をあける事が出来た。

「…毒を喰らわば皿までと言います。入ってみましょうか。」

穴の中へと視線を落とした。

サティヤ > 「…腐った肉…ではないですね
何の匂いでしょうか、これは…血の匂いはしますが、この異臭は…」

綻びが解けた事で侵入することの出来たそこは、何者かが住んでいた形跡のある洞穴だった。
魔法によって補強された洞穴の中には、土で汚れ、埃をかぶったケースと、それに入れられた本や武器、衣服の数々がある程度整理されて置かれていた。
しかし、食料とみられる物やその残骸はほとんどなくここが人間が居住していた場所ではない事を示していた。

「怪異の隠れ家…でしょうか?」

160cmの背丈でも余裕のある洞窟内を周囲を注意深く進んでいく。
空気は澱んでおり、血と謎の異臭が充満する。
この異臭が怪異の放つものであると仮定すれば、この謎の匂いにも多少は納得がいく…かもしれない。
少なくとも、この匂いは長らく生きてきて嗅いだことのない匂いである。

「こちら側ではありませんでしたか…おや、この拳銃は…これだけケースに入っていませんね」

入り口から左右に分岐した洞窟の右奥に到達したそこに打ち捨てられるように捨てられていたそれは、拳銃だった。
作りのしっかりした、それでいて新品ではない品…だがまあまあ悪くないモノに見える。
拳銃の上の壁には黒ずんだ痕があった。
その痕は入り口の方まで続いていた。

「自殺…でしょうか?
この痕、反対側にも続いていましたね」

自殺だとしたら、随分と愚かな事をしたものだなどと思いつつ、引き返す。

「…これは、持って行った方がいい気がします」

何故か、そうした方がいい気がした。
拳銃を拾い上げて、両手で包み込んで入り口の方へと引き換えした。

サティヤ > 「よく見ると、いろんなところに変な跡が残ってますね…
これは…なんでしょう…?筒でも投げた…いえ、魔法でしょうねこれは」

補強された壁には、筒で削ったような跡が沢山残っていた。
斬撃でも、銃撃でも打撃でもなく、綺麗な筒状に削り取られた跡は何で作られたものなのか全く思い当たるものがない。
しかも、模様などではなく、地面壁天井構わず乱雑に跡は残されていた。

「暴れたのでしょうか?にしては…他の跡が全く…」

入り口まで戻ってきた。
周囲を見渡しても、残された跡は一種のみで、戦闘の形跡というよりかは、自暴自棄にでもなっていたかのような、そんな風に考えたほうが辻褄があう。
特に他の誰かが侵入してきた形跡はない事を確認し、そのまま反対側へと歩みを進めていく。

「おや…随分といい品に見えますが…勿体ないですね」

数m進んだところで、ケースの裏に打ち捨てられた対物ライフルにも匹敵し得る長さの銃器を発見した。
ただし、4つほどに折られいるが…。

「修理すれば使えるのでしょうか?少々厳しいでしょうか…魔力まで籠ってますし…」

金銭には困っていないが、これを売却すればまあまあの額になり得る。そうすれば、しばらくは何もしなくとも困る事はないだろう。
帰り道にでも拾っていこうか、そんなことを考え、今はほおっておく事にした。

サティヤ > 「段々と異臭が濃くなってきましたね…」

洞窟を奥に進むにつれて、異臭が強くなっていく。
血の匂いは最初からずっと変わらないのだが、謎の腐臭は一歩、また一歩と進むほど強くなっていく。
どれだけ近づいても、何の反応もない辺り、寝てでもいるのか…それとも…

「これは…死んでいますね」

それも、恐らくだが自殺だ。
右奥の黒い痕から続く黒い痕は、時折吐血をした後のような痕を残しながら続いていく。
この黒いものも、恐らく怪異の血なのだろう。
それか、酸化してしまった赤い血液か。
どちらにせよ、この奥で眠っているであろう何者かの血痕だとみて間違いないだろう。
こちら側にも並べられたケースは、埃をかぶっていたり、中身を散乱させて地面に散らばっていたり。
実に多岐にわたる物品が置かれている。
『魂の禁忌』なんてタイトルの明らかに禁書らしきものから、『常世島の歩き方』なんていうものまで。
服だって男物から女物まで、小物含めて様々である。

「もしかして一人ではないのでしょうか?複数の怪異の拠点として活用されていた可能性も…ああ…」

置かれている物を観察しているうちに、ついに奥に到着した。

「やっぱり、死んでいましたか」

背丈は私より高く…170弱と言ったところか。
地面に乱雑に伸びた銀色の触手が生えた人型を保った黒いタールのような塊…
おそらく怪異の死体らしきものが、そこにはあった。

サティヤ > 「どういう怪異だったのでしょうか。こうなってしまってはもう知るすべはあまりありませんが…
好奇心が旺盛だったのは、なんとなくわかります」

ここに来るまで、あれだけ大量の本や衣服、武器があったのにもかかわらず、死体の傍には何もなかった。
…そもそも、本当に死んでいるか同課は確認していないのだが、こんなに近くに居て喋っている相手に全く気付かず、一切の反応を示さないのだから、死んでいると考えても妥当だろう。


…ここに眠る怪異は、かつて落第街やスラムを中心として暴れまわったかの有名な怪異『黒触姫』であるのだが、サティヤにそれを知るすべはない。
彼女も、その名前ぐらいは聞いたことはあるが、数年前から全く活動しなくなった怪異であるが故に、その詳細までは知らない。

「…もしかして、姿を変える異能でも持っていたのでしょうか。
人間の外見を持っていたのなら死んでもこうなりはしないでしょうし
もし姿を変えられたのだとすれば、あれだけ衣服があるのもおかしくはないですね」

どれだけしゃべっても何も動きを見せないソレに対して近づいてみる。
近づいても、やはり何一つ動きは見られなかった。

「怪異の遺体は…何かに活用…いえ、やめておきましょう。死者の冒涜は愚かです。
…これ、ここにおいて置きますね」

モンスターの遺体が貴重な素材になったり、怪異の体が何かしらの触媒になることはよくある事だが…
なんだか、少し手を出すのには抵抗を感じたのだ。
死者を冒涜するのは愚か…だなんて言い訳で、実際は少しだけ、哀れに思っただけかもしれない。
思いついたように、両手で包んでいた拳銃を、死体の手の部分に沿えた。
拳銃が少しタールのような死体に沈んだ。
手向けの花…という訳ではないが。
もし、この拳銃が死因だとすれば…きっと、これを選んだ理由はあったのだと思ったから。
何の確信も持てないが、きっとそうだと思ったから。

サティヤ > 「ここは…このままにしておきましょう
せめて、安らかに眠ってください」

死者を悼むことは、愚かだと思う。
何故なら、そんなことをしても無意味だから。
だが、今だけは愚かさなんて考える必要はないように感じた。
それが、たとえどれだけ愚かだったとしても。

「ここの隠蔽は、きっとこの怪異が維持していたんでしょうね。
死んで時間が経って、魔力が不足したから露出した…といったところでしょうか」

洞窟を出、綻びの外へと戻る。
誰でも気づきさえすれば入れるようになってしまったそこに少々後ろめたさを覚えたが、修復などして、目立つ痕跡を残すのは流石に愚かすぎる。
そっと、スラムの影へと、姿を消した。

ご案内:「スラム」からサティヤさんが去りました。
ご案内:「スラム」にサティヤさんが現れました。
サティヤ > 【補足欄に記載した「No19」ですが「Pc16」の誤りでした。No19のPCのPL様、見てくださった方々、他の利用者の方々、申し訳ございませんでした。】
ご案内:「スラム」からサティヤさんが去りました。