2019/05/31 のログ
ご案内:「黄泉の穴」にステーシーさんが現れました。
ご案内:「黄泉の穴」にエンドテイカーさんが現れました。
ステーシー >  
夜中なのに自然と目が覚め、神刀・旋空が呼ぶ声が聞こえて黄泉の穴まで来た。
何故か、不吉な予感が消せない。
とんでもないことが起きる。そんな気がしてならなかった。

そして、私の永い後日談の終わりが始まる。

 
黄泉の穴は薄暗く、見たことのない蟲が足元を時折通り過ぎた。
それでも、濃すぎる死の匂いが気になってそれどころじゃなかった。

何かがいる。
巨大な気配を隠すこともなく。
尻尾がゆらりと揺れれば、鈴の音が鳴り響いた。

エンドテイカー > 黄泉の穴のその区画をよぎれば、普段とは違っていた。
薄暗いと思って気配をたどったその先は、まるでそこだけ別の世界。
ここに、強力すぎるモノが存在していることを示すように、
何かの力がそこを歪めていた。

巨大な、巨大な大広間。
何かが君臨すべき玉座の様な場所。
死の香りと悲鳴が響き渡り、…極めて強烈な炎の香りが漂っていた。

空間の歪みのせいか、大空を仰ぎ見る事が出来る。
真っ暗な深夜の星空は、不気味な程にぎらぎらと光りを放ち、
夜空の暗さを浮き彫りにしている。

彼女の学園の長かった物語は、ここで終わりを迎える。

「………!!!…!!………ッッ!!」

そこに、待ち受けているのは。

エンドテイカー。
終焉を齎すモノ。
それがそいつの名前だった。

存在する確率があの時、確かに0となった筈の貴種龍、エンドテイカー。
それは、自らが殺めた死体に包まれながら、黄泉の穴の異空間で君臨していた。

その体は、血よりも、炎よりも紅い。
殺戮を欲する化け物、パンデミックと融合して、全身を不死者のソレにつくりかえ、復活していた。

絶対に死ぬ事のないエンドテイカーと、
死して殺戮の為に蘇るパンデミック。

最悪の組み合わせだ。

「………――――!!!!」

討ち、討たれた二者は長い時を経て、己の力を増し。
再びここで巡り合う事となる―――。

ステーシー >  
広大な空間。そこに君臨する存在。
それは、嗚呼。それは。

かつて倒した貴種龍が一体。

「エ、エンドテイカー………!?」

見紛うはずもない。紅の巨体は、以前より色濃くなっているけど。
エンドテイカーの死体は、財団が処分したはず。
そして完全生命は、私の一撃で存在する確率がゼロになったはず。

しかし、目の前にある現実。
在る。確かに存在する。

「黄泉路を迷ったか、エンドテイカーッ!!」

旋空を抜き、白銀の刀身を煌かせる。
私が、本当の龍殺しの英雄ならば。

 
一人でも、龍殺しの幻想を紡げるはず。

エンドテイカー > 相対する二者。

何故、エンドテイカーがここにいるのか?
それは、きっと当人も含めて誰も知らない事。

ステーシー・バントラインがその剣を煌めかせると同じくして、

「……!!!………!!!…ッッ!!!」

エンドテイカーは音にさえならない咆哮をあげた。
真っ黒な夜空は、深紅に染まった。
空が、燃える。

更に、
幾千の魔法陣が、二人を囲い戦いのフィールドを作るように、巨大な円形を作ると…

そこから、次々と炎が噴き出されて紅色の壁…炎で囲まれた戦いのフィールドが出来上がる。
どこへも、逃げることもできない。

「………………。」

エンドテイカーは、ステーシーとの死闘を望んだ。

ステーシー >  
今もエンドテイカーは力の根源を失っていない。
圧縮言語による大規模魔術も使えるし、その気になればブレスも撃てるだろう。

それは人類の脅威だ。

これを放っておけば、より多くの人が死ぬ。
そして犠牲になるのは力なき者。
それを看過することはできない。

「我が名はステーシー……ステーシー・バントライン…」

バトルフィールドに、炎が噴き上がる。

「悪龍を断つ剣なり!!」

腰の黒刀が不吉にカタカタと鳴った。
今は、押さえつける。

駆け抜けて、斬りつける。
まずは足を切り崩す。しかし、しかし。
この巨体を相手に、どこまで。

エンドテイカー > エンドテイカーの脚をたつ一閃。
エンドテイカーは、それに一瞥もくれなかった。

確かに、その脚は切り崩れた。
だが、それはパンデミックというゾンビにとってはダメージではない。
なにより、エンドテイカーという貴種龍は不滅の存在。
その絶対的な存在としてある、自らの存在を維持する力は、今も残り続けている。

なくなった脚はすぐに元通り。
炎を纏うような深紅の体はそこに現れる。

「……!!!…………!!」

そして、この龍の脅威性はこれだけではない。
人の言葉を何十、何百、何千と重ねた圧縮言語による大魔法。

一気にあたりの温度が跳ね上がる。
作り出されるのは、その数5万の火炎弾。それがたったのこれだけで生み出される。
いっそ、芸術ともいえるだろう飽和しきった魔法攻撃が彼女を襲う。

今、彼女と共にこの龍と戦う者はいない。

この龍の禁忌の力は、彼女にのみ振るわれる事がどういう事であるか…その数を以って改めてしれよう。

ステーシー >  
「……!」

攻撃は、通る。しかしこの程度の攻撃では無意味!!
ドラゴンゾンビと化したエンドテイカーに、どれほどの攻撃ならば通じるのか。
――――今すぐプログレスして戦闘レベル危険域限定解除しなければ、戦いにならない。

そもそもできるのか?
人々の願いを束ね、剣に宿る夢の神アルテミドロスに善き夢を見せてもらう。
それが英雄となる絶対条件。

悪しき龍を断つために、願いが足りるのか?

アクセラレイター。身体能力を加速して針の隙間を縫うように火炎弾を回避する。
しかし、回避する場所がない。飽和爆撃にそんな隙がない!!

直撃に足元すら抉れる衝撃の中。
剣気発勝、同時に全身から白の極光が溢れる。

「強制進化(プログレス)……!!」

プラーナによる再生能力で衣服に至るまで再生させ、
白となった髪を靡かせて悪龍と対峙する。

願いが足りるか、足りないか。
やってみなければ、わからない!!

戦闘レベル危険域限定解除。全身のリミッターを外す超機動で、エンドテイカーの前に飛び出す。

一撃で、仕留める。

「終焉を退けし者の聖剣(エンドブレイカー)!!」

白き輝きを収束させて、ドラゴンの両目の間に刃を突き立てた。
相手の存在する確率をゼロに確定させる聖剣。
私の最終能力(ファイネストアーツ)。

エンドテイカー > 5万の火炎弾がステーシーを包み、炎上させていく。

「………。」

終わった。エンドテイカーはそう思った。
あまりにも呆気ない戦いだった。
しかし、本来貴種龍に1人で挑むなど、自殺行為と言って間違いない。
あの飽和攻撃は、数多の力が1つになって、やっと討たれたものだった。
それは、まさしく夢が叶った光景だった。

「―――……???」

強制進化、プログレス。
その能力を以って、一度この悪龍を絶った。
ロマン、希望、願い…夢。
人々がかの悪龍を持つ物語をロマンとして思い描き、
討ってくれと、誰かに希望を、願いを託した。
それは夢となり、そして、ついには現実となる。

夢の力を乗せた、
終焉を齎すモノに対する、終焉を退けし聖剣。

エンドブレイカー。

白銀の髪をはためかせるステーシーの聖なる剣閃は、
その神速により、一切の抵抗の余地をなく、エンドテイカーを切り開いた。

「……………。」

エンドテイカーの深紅が朽ち果て、消えていく。
パンデミックとして蘇った、完全生命が、龍を討つという夢の前に。

そこには、何も残らなかった。
炎で作られた死闘のフィールドは消え、
燃え上がった夜空は真っ黒に戻った。

願いの力は足りたのだ。

終わった。

………。

……………。

…………………。

「―――――――――ッッッ!!!!」

エンドテイカーのいた場所に、急速に力が集まっていく…!!
揺れ、跳ねる地面。広がる威圧感。

永遠にその生が失われる事はなく、
死してなお、蘇る。

脚が、胴体が、羽が…龍頭が、無から現れる。
貴種龍としての完全生命と、パンデミックとしての死者蘇生。
存在確率が0%であるという事実すらも跳ね返し、今ここに再臨する。

エンドテイカーの、エンドブレイカーに対するカウンター。
アブソリュート・エンド(絶対なる終焉)

空は炎に包まれ、死闘のフィールドが再び構築されていく。

ただし、その炎は赤色ではない。真っ青だ。
そして、蘇ったエンドテイカーは、深紅だった体が蒼炎を宿していた。

完全生命は、絶対なる終焉を齎すべくその姿を顕現する。

ステーシー >  
エンドテイカーの体が崩れる。
龍殺しの幻想はここに成る。
人は滅びなんて望まない。
人は人の営みを続ける。その願いは、確かに届いたのだ。

背を向けようとした直後、異変を察知して周囲を見る。

「な、何………!?」

大地鳴動、今すぐ全てを放り出して逃げたくなるほどの嫌悪感、そして悪の気配。
漆黒の空が今はただ、恐ろしい。

 

そして、悪夢は再生される。
蒼炎を宿して、悪龍は黄泉返る。
その異様に、死を覚悟した。

「もう、プラーナが残ってない……ッ!!」

最大最強の一撃を放出した、今はプログレス形態の維持だけで手一杯。
腰の黒刀が不吉に揺れ、存在するための力が失われることで
この世界に存在し続けることが難しくなってきていた。

それでも。

「それでも……負けるわけには…ッ!!」

リボルバースイープ。
切っ先から衝撃波を放つ、その数三条。

エンドテイカー > そこにいるのは、間違いのない蒼炎を纏うエンドテイカーだった。
これは、悪夢。
絶対の生命が、無限の輪廻を得て、人類を滅ぼそうと立つ悪夢の序曲。
彼女はそれを止めることが出来るのだろうか。

「―――――――!!!!!!」

蒼炎を宿す悪龍が吠える。
時空すらもゆがめる巨大な力が発生し、あたりが壊れていく。
こんなものを放ってはまずい。
それは誰が見たってわかるだろう。
しかし、これを止められるのはステーシー・バントラインただ一人。

「―――ッッッ!!!……―――ッッッ!!!!」

蒼炎のブレスが吐き出される。
辺りは炎のフィールドと、炎の天井。
回避は絶対に不可能だ。
仮に回避が可能だったとしても、プログレスの神速を以っても、
この火炎から逃れられるかといえば、否だろう。

プログレスによって進化したステーシーの放つ、3つの衝撃波は蒼炎に呑まれて消え、
更にその炎により、ステーシーさえも呑み込み、終わりを齎そうと燃え広がった。

ステーシー >  
「うう………ッ!!」

地面に刀身を突き立て、足元から剣気を噴出させることで防御を試みる。
既に戦略兵器級の破壊力を誇る蒼炎の奔流。
ドラゴンが力の根源を放つブレス。

それを前にあまりにも無力だ。

プラーナによる再生も追いつかない、体の節々を焦がしながら、その場に膝をついた。

ごめんね、みんな。
私じゃエンドテイカーを止められないみたい。
常世の平和を願って戦ってきたけど。
ここで消えるのが運命かも………

全身を覆う白い輝きが薄れていく。
プログレス形態の維持も限界。
戦闘レベル危険域限定解除なんて、していられない。

エンドテイカー > 「……―――。」

エンドテイカーのブレスが晴れる。

エンドテイカーはひざをついて動かなくなったステーシーを暫く見つめていた。
積年の恨み、因縁の敵を斃したという感傷にでも浸っているのだろうか…。

「………。」

それも、長い間は続かなかった。
ステーシーの足元に、圧縮言語により描かれた無数の魔法陣がシュン…と1つに重なっていく。

ステーシーを包んだ巨大な蒼炎の火柱が地から天へと向かい立ち上った。

ステーシー >  
私は、ずっと違和感を覚えていた。
人の願いを叶えるのが真の英雄なのだろうか、と。
何か、大事なことが欠けているとずっと思っていた。

足元から蒼炎が巻き起こる。
ギリギリまでプラーナで防御して、そのままプラーナが尽きてこの世界から消えるのも運命か。

思考は止まらない。
何かが欠けている。
龍殺しの英雄は、一体何が足りていないのだろう。

 

……たくない。
死にたくない。
生きていたい。

大切な人たちがいるこの世界を、守りたい。

そうか、ようやくわかった。

腕を右に振ると、蒼炎と魔方陣が吹き飛ばされる。
今までにない力が溢れる。

黒刀・雷切を抜く。
自分の中にある生きたいという至純の欲望を認める。
それは最早欲望ではない。願いだ。

英雄に欠けているのは、自分自身の願い。
全身が白と黒の歪光に満ちていく。
強制進化のその先へ。

「我が名はステーシー、ステーシー・バントライン……」

口元に笑みを浮かべて、白黒の獣は二刀を振るう。

「ただのフェルパーよ」

振るわれた十字の刃は世界を断つ。
世界がエンドテイカーを中心に四つに分断される。

すぐに世界が、修復力を伴って元に戻る時。
エンドテイカーの命が、存在が、全てが。
分断されたまま断たれるだろう。

「ディバインスマッシャー。あなたの因果を断ったわ」

二本の刀を鞘に納める。

「どうか、最期は幸せな夢を」

エンドテイカー > 「!!!!!!!!!!!!!!」

エンドテイカーの因果が絶たれる。
炎の中、再び現れたステーシーは2つの刀身を持っていた。

十字の斬撃が、エンドテイカーの体を四つに分ける。
その体は、二度と元に戻ることはない。

エンドテイカーは、根源から、その存在を絶たれたのだから。
それは、人の願い、夢によって。
なにより彼女の抱く願いによって。

終焉の龍の体が、朽ちていく。
不可能が可能へと代わり、
悪夢の物語の序章は、英雄の伝説の終幕へと変わった。

蒼炎の空は綺麗に晴れ渡り、早朝の心地よい空気が流れた。

ステーシー >  
英雄は、膝をつかない。
だから、苦しくても二本の足で立つ。

「エンドテイカー、今度こそ迷わないでね」

宿敵を斬り、外へと向かう。
朝の気配が満ちていた。

私の永い後日談はこれで終わり。
龍殺しの物語は、これでおしまい。

答えを得た朝は。
いつもより透き通った匂いがした。

ご案内:「黄泉の穴」からエンドテイカーさんが去りました。
ご案内:「黄泉の穴」からステーシーさんが去りました。