2020/07/26 のログ
羽月 柊 >  


 それ、は。


 男が初めて掴んだ、等身大の……―――。




必死だった。
必死過ぎて、自分が何を"成した"のか。

失敗を繰り返して、一度は諦めた男が……。
遅れて走り出して、走り続けて、繋げた命が、そこにあった。

『葛木 一郎』。

写し鏡のような『欠損』を持つモノは互いに『物語』を見出した。


「あ、おい、葛木……っ。」


デバイスは穴の中へと落ちていく。
彼らにとって"今"は『真理』は遠のき、『死』もまた遠のいた。

 二人と2匹の影の遠くで、蝶が飛んだ。

青年は去っていく。



間違いなく男は最後の最後に、1人の命を救った。
どうにかしたのだ、たった1人。けれど、間違いなく葛木 一郎という青年を。

己の物語を誇ってくれと言われてしまった。
こんなに失敗だらけの人生を、こんなにも『取りこぼしてきた』男の『物語』を。

柊は息を吐いた。――刻限は過ぎた……。
軋む身体が今更悲鳴を上げ、近くの瓦礫を椅子に座り込む。


「……先生では、ないんだがな……。」


そうぼやいたってもう青年には届かない。
見上げる夜空は、今まで見た中でも違って見えた。

後日青年が学園に足を運べば、誰かしらが…柊のことを教えてくれるのかもしれない。



ここから先は、まだ、誰にも分らない物語。

青年の、柊の、そして名も知らぬ君の……物語。

ご案内:「黄泉の穴」から羽月 柊さんが去りました。