2020/06/25 のログ
ご案内:「離島東部・学生農業区域」に武楽夢 十架さんが現れました。
武楽夢 十架 > 暖かくなってくると本格的に面倒になるのが、畑を襲う害虫だ。
益虫も多く存在するが同じくらいに害虫も存在する。

土を弄って種まいたり苗を植え替えたりして、様子見で終わってくれるだけならまだマシだと言える。

俺たちは野菜が害虫にダメされないようにと朝早くから畑にやってくる羽目になる。
ちなみに、俺は虫が苦手な方だ。
体力もこの二年ほど頑張ってみたがついた気はしない。
農業には向いてない、そんな気がしてくる。

「今日も先ずはやっておくか」

そう言って赤い液体が入った瓶と農薬と書かれたプラ製の容器を手に未だ同級生たちも来ていない畑へと踏み込む。

赤い液体――赤い染料を農薬の容器に落として軽く容器を振った。
そして何も構うことなく、赤く染まった農薬を畑へとぶち撒けた。

武楽夢 十架 > バラ撒かれ、畑を赤色に無茶苦茶にするはずだった農薬は未だ想像された惨状を作り出さない。
地面にも付着した音もない。

では、撒かれた液体はどこへ―――……未だ宙空に。

落ちることなく、揺れることなく待機するように、
意思を持ってその場にあるようにして、
赤く染められた農薬はあった。

「片付けよう―――」

――統率者の命令に従うように青年の言葉と共に液体は明確な意図を持って動き始める。

命令を受け、彼の前に広がる畑を超々低空で液体が走る。
規則的に、ただ一つ《害虫を駆除》するという明確な意思を持って青年の歩みと共に赤い線となって足元を進軍する。

武楽夢 十架 > よく見れば、青年の視線は機敏に動き回っている。
視線の先は――作物に張り付く虫。

そもそも青年の持つ異能に、命令を与えて自動で動かす能力はない。
彼の異能は『赤色系統の液体を操る』だけの能力でしかない。

自由自在に意思を持って動いているかのように見える液体も単純に青年が力技で制御して動かしているだけだ。

―――液体は、葉に張り付く虫を飲み込む。
―――飛び去ろうとする虫が、上下左右から襲いかかる赤に飲み込まれ。
―――土の中に逃げた虫を追いかけ槍指すように赤い一本の線は消える。

そうして害虫を飲み込んだ液体はプラ製の容器へと帰ってくる。

武楽夢 十架 > 圧倒的。
一切の抵抗を許さない。

視界に入れば、どんな相手だろうと無事では済まさない。

この場を荒らすありとあらゆる害を配する絶対者としてこの場にある。

赤は―――鋭く、
冷たく―――正確に、

悲鳴すら上げる事を許さず、その生命を刈り取る。

ご案内:「離島東部・学生農業区域」に日ノ岡 あかねさんが現れました。
武楽夢 十架 > 気がつけば、世界の終わりまで来てしまった。
脚を止めて一息ついて手元のソレをみた。

「うわっ、まだまだ動いてる……」

プラ容器に再び集まった液体と害虫をみてげんなりした。


とまあ、少し気持ちを盛り上げないと苦手な虫を直視するのは辛い。

日ノ岡 あかね > 「へぇ、すごいじゃない」

楽しそうな感嘆の声が届く。
声の主は……常世学園制服に身を包んだ、ウェーブのセミロングの女。
黒いチョーカーと……風紀の腕章をつけたその女は、後ろで軽く手を組んで、笑いながら小首を傾げた。

「それ、アナタの異能?」

武楽夢 十架 > 声があるとしても野太い声だと思っていたので驚いて、そちらに顔を向けた。

「え?あ、まあ、数少ない取り柄……かな?」

驚きつつも自分の異能は見た目よりも知ってしまえばしょぼいと思っている能力なので苦笑しながら答えた。
農業科の女子生徒だろうか、と思ったがその身につけている腕章から所属を理解する。

「こんな時間に農業科以外の生徒と会うとは思わなかったよ。少し前にも風紀の人が来てたって噂は聞いてたけど」

珍しいですね、と言うように青年は言う。

日ノ岡 あかね > 「ちょっと散歩してただけよ、散歩は私の趣味だから」

人懐こい笑みを浮かべて、女は気安く近寄ってくる。
黒い瞳が、少年の相貌を覗き込んだ。

「私はあかね。日ノ岡あかね。アナタは?」
 
少年の顔を見上げながら、女は笑った。

武楽夢 十架 > 「それなら確かにこの辺はいいですよ」

静かだし、と笑みを返す。

名乗られた名を、心のなかで復唱する。
アカネ……最近何処かで聞いた気がするが、『風紀委員』だし聞いた覚えがあってもおかしくないか、と自身を納得させて、

「俺は農業学科専攻三年の武楽夢 十架。畑いじりが趣味だよ」

と名乗り換えしてつい吸い寄せられるようにその黒い瞳を覗き返した。

日ノ岡 あかね > 「よろしくね、トカ君。ふふ、私は二年生だから……トカ先輩の方が良いかしら?」

お互いに目を合わせながら、農園の中で顔を合わせる。
風に揺らされて、豊かな青い穂波が緩やかに揺れた。

「まぁ、ダブってるだけだから同い年だけどね」

軽く舌を出して、悪戯っぽく笑う。

「素敵な趣味ね。今はどんな作物を育ててるの?」

武楽夢 十架 > 「同い年から先輩はちょっと慣れないな」

風紀委員でダブりって事故にでもあったのだろうか、と思わず手足に視線が一瞬泳ぐ―――欠損しているようには見えない。


「好きに呼んでくれていいよ、あかねさん」

野菜のことを聞かれれば、少し屈んで足元の葉っぱを軽く摘んで微笑みつつ言う。

「今の時期、ここはサツマイモだね。向こうの水田はご存知お米だ。農業学科のいち員としては他学科の人に興味を持ってもらえるのは嬉しいよ」

日ノ岡 あかね > 「じゃ、トカ君って呼ぶわね」

嬉しそうに笑みを向けて、十架の話をゆったりと頷きながら聞く。
そして、一緒に屈んで、興味深そうに葉っぱを見る。

「そりゃあ私達の食べるものですもの。興味は尽きないわ。それに私、食事は大好きだしね」

楽しそうに笑って、一緒にサツマイモを見る。

「御芋なら私、学生街のスィートポテトが好きよ。もしかして、これもそこに並ぶのかしら?」

武楽夢 十架 > 「―――…ああ、なんか名前で呼ばれるのも久しぶりだな」

どうぞどうぞ、とはにかみつつも少しだけ視線を逃した。

「メインは西にある大型の畑の方だけどね。個人経営のお店なんかだとここで育てたのも取り扱ってるかな。学生の昔ながら畑の野菜は直売所販売がメインだからね」

どこでどう売られてるかまでは把握しきれてない。

「どこかで君の食事にも混じってれば生産者として嬉しいかな」

日ノ岡 あかね > 「これからは私が一杯呼ぶから、久しぶりなんて思わなくて済むわよ?」

軽く手の甲を口に当てながら、くすくすと可笑しそうに笑う。
風に吹かれて、静かにセミロングの髪が揺れた。

「まぁ! 直売所まであるなんて素敵ね! 帰りに何か果物でも買っていこうかしら? 折角鮮度がいいんだし、その場で食べられるならなおいいわね」

両手を合わせて嬉しそうに笑って、目を細める。

「トカ君は、誇りを持って趣味に取り組んでるのね」

どこか、愛おし気にあかねは緩やかに笑って。

「素敵ね、そういうの」

そう、呟いた。

武楽夢 十架 > 「ははは、それならそれは嬉しいけど余り思わせぶりな言葉はよくないよ」

茶化すように手をそちらに向けて続ける。

「女子からそう言われうと恋に焦がれる男なら勘違いするよ」

男の勘違いってのは厄介で面倒なものだ、とちょっと距離感の近い少女に対して冗談交じりに注意はする。
それが趣味と言われたらどうしようか、とそんな漫画みたいなと思考を一蹴する。

「あんまり知られちゃいないかも知れないけど、一応、施設が広いから西側でまとめて売ってるよ。知らない人はこっちまで足を運ぶ人もいるけど。あとは一応、詳しくはないけど商店街でも卸してる八百屋があるって話は聞いた覚えがある、かな」

興味を持ってもらえるのは幸いとちょっと嬉しくなって少女の手を軽く取って
笑みを浮かべて言う

「嬉しいよ、一緒にこの畑の世話をしてるあいつらにも聞かせてやりたいくらいだ!」

そして、少し遠くをここではない何処かに思いを馳せて、

「皆が俺の作った野菜で笑顔になってくれてるだけで生きてる甲斐があるよ」

と少し抑揚がなくなった声で続けた。

日ノ岡 あかね > 「ふふ、是非伝えておいて。少なくとも……一人の女子は、此処で働くみんなに心から感謝してるってね?」

嬉しそうに緩やかに微笑んで、軽く十架の手を取って立ち上がる。
風に流れる自分の髪を、軽く片手で抑えながら。

「情報提供ありがとね、トカ君。そっちにも喜んで立ち寄らせてもらうわ。それに……」

くすくすと、あかねはどこか楽しそうに笑いながら……口元に人差し指を当てて。

「『勘違い』してくれても……別にいいわよ?」

悪戯っぽく笑う。

「恋なんて、最初はそこから始まるものでしょ?」

とても楽しそうに……笑いながら。

「どんな華だって、手に取らなければ始まらないわ」

そっと、身を離して、踵を返した。

「私、そろそろ行くわね。お喋りできて……楽しかったわ。また会いましょうね? ……トカ君」

そのまま、猫の尻尾のように後髪を揺らして……あかねは去っていく。
それこそ、野良猫のように……足音一つさせないで。

ご案内:「離島東部・学生農業区域」から日ノ岡 あかねさんが去りました。
武楽夢 十架 > 「あいつらも喜ぶよ」

そう返答して笑みを浮かべていたが、
少し目を丸くしつつも少女の返答に苦笑した。

「まったく……――」


立ち去る彼女の背を見て、一度視界を閉じて息を吐き捨てた。

武楽夢 十架 > 「…――危なっかしい子だ」

もう、周囲には誰もいないけれど
彼は誰かと会話するように、

「どっちの意味でかって、両方だよ、両方……」

何度目か分からないため息を吐いて

「君がいたらきっと友達になろうとするんだろうなぁ」

自分のことを名前で呼ぶのは母か、彼女くらいだったから。
つい思い出した。

「日ノ岡あかねさんだったか、何処で聞いた名前だったかな……」

思い出そうとしてうちに同じ畑を世話する仲間たちがやって来たので十架は一度思考を切り替えた。

ご案内:「離島東部・学生農業区域」から武楽夢 十架さんが去りました。