2019/03/09 のログ
ご案内:「魔術学会第三分科会」に獅南蒼ニさんが現れました。
■獅南蒼ニ > 『魔力貯蔵技術を用いた魔術学の持続可能な発展について』
漠然としていながら大袈裟な題の付けられた獅南の発表には,思いの外に人が集まっていた。
旧来の魔術師らには煙たがられ,新鋭の魔術師には軽んじられる。
そんな彼の発表に人が集まったのも,ヨキの入れ知恵によるこの大袈裟な題に拠るところが少なくはないだろう。
これまで彼が付けた題など,あまりにも無機質で,それを見ただけで眠気を感じそうなものばかりだったのだから。
「……このような場に呼んでもらえたことには感謝しよう。
だが,私はどうもこういう場所にはあまり慣れんのでな,いつもの調子でやらせてもらうとしよう。」
禁煙。という張り紙を無視して煙草を取り出し,しかし火は付けずに指先で弄ぶ。
「まずは聞かせてもらいたい。
今,私の声を聞いている者の中に…“異能者”はどれくらい居る?」
この男の異能者嫌いを知る者も多い。正直に手を挙げたのは,数名だった。
「手の内を明かす正直者が数人と,それから,爪を隠しているのがその何倍か。
お前たちは何らかの“チカラ”を持っている。それは後天的に,そして己の努力や研鑽とは何ら関係なく与えられたものだ。」
そこまで喋ってから,獅南は火を付けぬまま,煙草を咥えた。
静かに息を吐いて,
「これでは誰も付いて来ないと,友人に言われたのを思い出した。
……では,少しばかり,無駄話をしよう。」
■獅南蒼ニ > 「かつて,世界は不平等だった。
どれほど努力を重ねようと,生まれた人種に,国に,家に縛られた。
しかし,やがて人々は気付く……人は,誰でも平等だ,と。」
「それは建前でしかなかったかもしれない。理想論でしかなかったかもしれない。
だが,世界がその道を歩み続ければ…努力と研鑽によっていかなる人物でも力を得ることができる世界が,やがて到来する……はずだった。
そのような世界では,やがて我々のような魔術師も淘汰されていっただろう。」
「……だが,そうはならなかった。
お前たちもよく知っているだろう《大変容》によって,全ては一変した。
我々魔術師にとってそれは,歴史の表舞台へ立つ大きな転換期であったに相違ない。
異能や怪異に対抗し,弱者を守る盾として我々は重宝された。
そうだ……そこには確かに守られるべき“弱者”が生み出された。」
「“弱者”だ。それがどういう意味だか,分かるか?」
■獅南蒼ニ > そこまで喋ってから,獅南は煙草をポケットに戻した。
「当時,弱者とは,魔術学的知識や技術を持たぬ者,いわゆる一般人全般を指す言葉だった。
だが今日においては,この島を初めとして魔術学を学ぶ場は増加し,それは個々人の努力と研鑽に拠るものとなった。」
「では,弱者とは誰のことか。」
呟くように言いながら,掌を天井に向けて,小さな炎を作り出す。
「……私は魔力親和性に乏しい。お前たちの言い方を借りれば,体内の魔力量が著しく少ない。
先天的なものか遺伝的なものかはこの際どうでも良い。だが私は,お前たちの殆ど全員が行使できる魔術の多くを,単純に魔力の欠乏によって行使することができないだろう。」
「旧来の魔術師,魔女らは遺伝的に魔力量の多い体質であったのだろうから,あまり意識したことも無いかも知れんが…
…神秘から遠ざかっていた社会に生きていた我々人間の中で,魔力親和性に乏しい者は決して少ない数ではないだろう。」
■獅南蒼ニ > 「異能,怪異はもはやこの世界の一部となりつつある。
だがそれは無秩序に発現し,我々の制御を受け付けることはないだろう。」
「唯一の対抗策である我らが魔術学も,現状では魔力親和性に優れた者にのみ許された武器でしかない。異能も魔術も持たぬ者は,異能者の,時に魔術師の力に対抗することができないだろう。
かつての世界のように,あまりに不平等で,あまりに残酷な世界だ。」
「それだけではない,《大変容》以前の社会の名残は我々魔術師を,弱者を救済すべき選ばれた存在として扱うだろう。
我々は常に弱者のために力を使い,制御することを強要される……やがてそこには不和が生まれ,いずれ破綻する。」
■獅南蒼ニ > 「……本題に戻ろう。
《大変容》によって変わりながらもかつての社会の名残を残すこの複雑な社会において,魔術学が持続的に発展するために必要なことは何か。」
「……それは単純に,弱者を一掃することだ。
そんな顔をするな…殺すわけではない,最後まで話を聞け。」
ポケットから指輪を取り出す。
それは淡く光りを放っており,この場に居る者なら,それが魔力を湛えていると分かるだろう。
「…あくまでも試作品だが,これは天然の魔石ではない。
魔力をループさせ,損失をごく微小なものとして維持することができる。
言うなれば,これは電池のようなものだ…これがあれば私にでも,この会場を丸ごと消し去ることができる。」
■獅南蒼ニ > 「この人工魔石に関する資料を用意しておいた。好きに使ってくれて構わん。
だがこれは,まだ黎明期の電池でしかない……純粋な魔力を充填し,その都度術式を刻む必要がある。」
指輪をポケットに戻して…
「…『魔力貯蔵技術を用いた魔術学の持続可能な発展について』…だったか,私の解答はこうだ。
魔術学が健全に,そして持続的に発展し続けるためには,その恩恵を全ての人間が受けられる環境を整える必要がある。
全ての人間が魔力親和性の優劣に関わらず,己の努力と研鑽によって魔術を得て,それを行使することができる世界。
それこそが,私の言う『魔術学の持続可能な発展』に繋がる,唯一の手段だと,信じている。」
煙草を取り出し,掌から燃え上がらせた炎で火を付ける。
しかしそれを吸っても,煙はおろか匂いさえ周囲には感じられず…
「禁煙,と書いてあるからな…魔術学を応用すれば,こんな芸当もできる。
…この中から,魔術学を全人類に広めた者として名を残す魔術学者が現れることを切に祈っている。」
■獅南蒼ニ > この日の獅南は,別人かと思えるほどに饒舌であった。
…それもそのはずである。
直前に“某美術教師”から,あまりにも話が面白くないから,せめてウィスキーを3杯飲んでから行け。と冗談を言われ,獅南はそれを実行してしまったのだ。
獅南としてはこの発表の場を軽んじていたからこその暴挙だったのだが,結果的に功を奏してしまったわけである。
「何か質問があれば答えよう。」
ご案内:「魔術学会第三分科会」に白鈴秋さんが現れました。
■白鈴秋 > こういった場に置いて率先して手が上がらない。というのは比較的往々にして存在する事であろうと思う。
今回もそういった場のひとつ。周辺では隣の知り合いの博士や教師、学生同士などで会話する事はあれど手は中々上がらない。完成度その物が非常に高いからというのもあるかもしれない。
実際完成度は非常に高いし言っている事も筋は通っている。人工魔石に関する資料も目を通したが穴らしい穴は見えない。
だが、それ故に……ある意味同じ議題と戦い続けてきた自身はこれを正解だとどうしても認められない。いくつもの問題が浮かんでいたからだ。
「質問よろしいでしょうか」
ヒソヒソとした空間を引き裂き、一人の生徒が手を上げる。教師であれば知っているかもしれない。
魔術分野においては非常に高い成績を出している生徒ではある。その為噂ぐらいならば聞いたかもしれない。さてその生徒は手を挙げ。相手の許可を待つ。
その目は雄弁に相手に語りかける。”異論がある”と真っ向から構える視線であった。
■獅南蒼ニ > 質問が上がらないのはいつもの事だった。
だが,今日は違う。一人の学生…獅南もよく知る顔だった……が手を上げる。
貴方の視線を真っ直ぐに見詰め返し,獅南は小さく笑んだ。
その奥底にあるものが,自分と同様に努力と研鑽によって積み上げられたものであることを,感じさせるような瞳だった。
「…無論だとも,その為の時間だ。」
獅南はそうとだけ答えて,手にしていた煙草を携帯灰皿へ入れる。
■白鈴秋 > 「ありがとうございます」
許可を受けると会場のスタッフがマイクを彼に手渡す。そちらにもお礼を言うと静かに席を立つ。
「白鈴秋と申します。まず今回の発表、とてもすばらしい出来であると思います。魔術において大きな問題のひとつである魔力の親和性。魔力量の問題。それに一石を投じる起点となりえる発表であったと思います」
と、話の切り出しとしてまずそう述べる。流石にいきなり相手の意見に反論をズバズバと述べるわけには行かない。
それだけいうと”ですが”と付け加えある意味で本題をはじめる。
「今回の発表に置いて、気になる点が2点ございます。一度にしては当事者である我々以外が混乱してしまうのでひとつずつ質問させていただきます」
指をひとつ立てる。ひとつめ、声には出さずそう意図するジェスチャーを行った。
「まず、魔術の発動には色々な過程がある事は周知の事実でございます。簡単に言えば魔力を術式を解して放出する。それが魔術の極一般的な形式です」
周りには自身より年上も多いというのに一切遠慮も自信の揺らぎも無く話し、腕も動く。
それだけ色々と積み重ねがあったのだろう。
「そして魔術の発動が出来ない人物には今回議題となった魔力親和性の不足の他にその放出の不安定、例えば常時漏れ出してしまうといった場合や。本人の性質により術そのものが乱されてしまう。といった場合もあります。そういった場合には今回述べられた方法では持続的な発展を行うのは困難になるのではないか。と思うのですが、その点についてはどうお考えでしょうか」
■獅南蒼ニ > 貴方の言葉を静かに聞くが,この男にとっては切り出しの世辞は不要だった。
その部分は聞き流し,貴方が“気になる”と述べる点に移れば,僅かに目を細める。
「……ほぉ。」
貴方が1つ目として語った内容は,獅南による“弱者”の定義への反論だった。
その切り口に,小さく声を漏らしてから…頷き,
「魔力親和性と同様に,遺伝的ないし先天的な形質による出力,術式の不安定さ…か。
非常に鋭い観点と,分析力だ……まずは,体内魔力の放出に障害がある者について語ろう。
非常に稀なケースだが,確かに常時魔力を漏出させる症例が無いわけではない…過去にも,徳の高い僧に触れるだけで病気が治る,なんていう話があるくらいだからな。」
「そういった人物が魔術を行使するにあたって,2つの点に留意する必要がある。
まず,放出された魔力が指向性を与えられていないという点だ。単純な魔力として空間に存在する以上,そこにはエネルギーはあっても何ら現象は現出しない。故にそれは,不安定な力場を形成し,術式構成を阻害するだろう。
次に,空間魔力には追随性があるという点だ。術式によって指向性を生み出せば,ダムを決壊させたように魔力が流れ込み,術式を破綻させるだろう。」
「私がそういった障害を持つのであれば,私はこの魔石の術式を修正し,それを服に仕込むだろう。
私から放出された魔力は非常に有益な資源となり,魔石に蓄積される……そして魔術を行使する際には,蓄積した魔力を解放し,術式を構成すればよい。
つまり,当人の努力と研鑽によって,魔力の放出に障害がある例に関しては,解決が可能だと考える。」
そこまで答えてから,一呼吸おいて…
「次に,本人の性質により術そのものが破綻する…という例だが,これは,確かにお前の言う通りだ。
私の友人にも,半ば無限の魔力を内包しつつ,魔術言語による術式を一切行使できん男が居る。
当人に学ぶ意欲が無いわけではない……だが,彼は魔力を感覚的にしか扱うことができん。
…感覚的にしか扱えぬ魔術では,その出力や指向性が,本人の精神状態に大きく左右される。これは時と場合によっては由々しき問題だ。」
「逆に聞こう……当人の知識量ではなく,術式の構成に障害がある場合……お前には,何か代案はあるか?」
■白鈴秋 > 「……」
真剣な表情をして、1つ目の問題、即ち放出に問題がある場合を聞く。先生の言い分は凄まじく筋の通っている内容である。
なぜ放出に問題があると術が発動できないのかそれらをわかりやすく噛み砕いてくれているばかりか、それに対する方法までを答えてくれている。
「なるほど、放出してしまったものをそのまま資源に」
マイクがあるというのに独り言のように声に出してしまう。一瞬彼の視界の中には壇上の教師と自分以外の全てが消えていたのだろう。
思い出し失礼しましたと述べ、続く話を聞いた。
そして逆に質問を受けると数分間を置く。
「……そうですね、私であれば。外部に頼ります。それこそ今先生が仰った内容で、魔石の術式を変えそれを服に仕込むと言ったのにイメージとしては近いです。そうですね例えばですが」
と少し考えた後。
「子供っぽいですが。失礼します」
そういうと親指と人差し指を立てる。所詮小さな子供が行う鉄砲の指。
「実物は用意できないのでこれで失礼します。銃器というのはトリガーを引けばハンマーにその動きが伝わり、火薬を叩き、そして鉄が飛ぶ。これが銃器です。例えばこれを少し改造し、ハンマーの部分と銃弾にあたる部分に術を仕込んでおきます。それが触れたとき術が発動するように。そうして発動した魔術は銃弾にのって飛んでいく……そうしておけば本人に問題があろうと魔力を流し込みトリガーを引けば魔術が発動する道具が完成します。指向性の問題も銃弾がカバーしてくれるでしょう」
ハンマーの代わりに親指を動かしながら説明する。薬莢というのは自身の人差し指だろうか。
「勿論この場合でも問題は有ります。一つ目は先ほど自分でいった通りの内容。即ち魔力その物が影響をしてしまう場合これでも術の発動は出来ない可能性があります。ですが、先生の意見をお借りしてしまいますがそれこそ魔石などで魔力を代用すればその問題は解消できます。二つ目の問題は……次に控えている質問と同じになるのでその時の問題を想起させていただきます」
自身としてもこれが正解かなどわからない。というよりもし正解にたどり着けるのであれば今頃こんな場で周りが静寂に落ち込んでいるのに議論など交わしては居ない。
だからこそ自分が正解に近いと思う答えを言う他無かった。
■獅南蒼ニ > 貴方の呟きには特に反応することなく,自分の投げかけた質問への答えを静かに聞く。
そしてそれは,確かに目の前に現れている問題を,見事に解決していた。
「魔導具か…古来から我々の定義するところの“弱者”が魔術を扱うための方法として発展してきた技術。
確かにお前の言う方法を取れば,先ほど述べた私の友人であっても容易く魔術を行使することが可能だろう。」
だが,と獅南は僅かに笑む。
それは貴方に反論を述べる高揚感の表出などではなく,貴方という学生がこの場に居るということへの,喜色。
「それならば,敢えて魔術である必要はない…銀の弾丸を装填した銃でも構うまい?
そもそも魔術と言うものは,一人の魔術師が行使する限り,ミニガンや核弾頭には逆立ちしても威力で及ばん。
だが,ミニガンを持った悪漢を魔術で撃退することは容易いだろうし,核弾頭すら様々な方法で消し去り,止めることが可能なのが魔術学だ。」
「…簡単に言ってやれば,術式や指向性まで設定された魔導具では応用が利かん,というのが問題だな。
だがこの点に関しては,我々魔術学者よりもむしろ,魔導具技師の領域だろう……彼らには今後の,さらなる努力と研鑽を期待したい。」
貴方の出自を知ってか知らずか,そのようにまとめて…
「…良い質問だった,私の発表より余程な。時間が迫っているが,2つ目を聞くくらいの時間はあるだろう?」
司会者にそう確認してから,貴方に続きを促す。
■白鈴秋 > 「はい、応用性が利かないのが問題です。勿論あらかじめ用意しておけば……例えば銃弾の変わりに火球を飛ばす事は出来ても相手に合わせて道具を用意しようとすれば100や200を用意しなければなりませんから。ならば先生の仰るとおり銀の弾丸の方がおそらくは効率的です」
相手に指摘された点は素直に受け取る。それはある意味で自身の一家における最大の命題とも言える問題点であったが故だ。
「いえいえ、そんな。先生の発表があったからこそ出せた意見でございます」
それは偽りも無く本心であった。先生の言う意見は的を得ており、尊敬するに値する人物であると深く刻み付けられている。
構うまいといわれ話す前に流石に少し周囲を見る。自分ひとりで時間を使いきってしまって良いものかと思っていたが。思う以上に静寂、構わないと判断し続きを述べた。
「……二つ目の質問は結局の所それでもいずれは破綻が見えてしまうという事に対してそれを防止する方法はなにかありますか。というものです」
かなり言いづらそうに述べる。ある意味で今回の発表を根幹からひっくり返す意見にもなりえてしまうが故だ。
「今回の場合表現として魔力が弱い人物を弱者、そうでない者を魔術師として表現しました。そしてそれを打開する術として魔石を投じ、魔力の弱い人間でも魔術の知識を受けられるようにすれば持続的に発展する……と簡単に解説してしまえばそういった内容です」
今回の発表の内容を簡単に噛み砕き自身が理解した内容で述べる。さっきまでと違い少し自信は無さそうに。というよりある意味で答えの無い答えを求めるのが申し訳なくとも取れる態度で続ける。
「ですが、先ほどの私の出した道具とも被る問題点。即ち……作る側と受け取る側で結局は強者と弱者という構図は変わりません。そしてそれが発展し、一般化すればするほど渡す側の力は強くなり受け取る側の力は弱くなる。それが行き着けば。現代に魔女狩りが復活することになるでしょう。即ち先ほど先生の仰ったとおり威力では魔術ではかなわない武器を使った100人で1人の魔術師を集中攻撃する強者への虐殺です」
発表会の会場の空気が一気に重くなる。少しだけザワつくような空気もあるだろう。
それでも少し下げていた視線を前に持ち上げ。
「これらに関しての意見をお聞かせ願いたく思います」
■獅南蒼ニ > 貴方が素直に指摘を受け止めれば,僅かに目を細めて微笑した。
素直なばかりが良いわけではないが,その瞳には確かな熱意も宿っていたから…
「…謙遜する必要は無い,それだけの価値がある時間だ。」
…普段は生徒をこうして言葉で褒めることは殆どない。
これもある意味ではウィスキーの功績だが,それ以上に,予想以上に鋭く熱意に溢れた貴方の質問が,この白衣の男を楽しませたということだろう。
「…なるほど,一つ目に比べれば具体性を欠き,条件も指定されない質問で答え難くはあるが……」
煙草を取り出し,先ほどと同じように禁煙を守りながらそれを味わう。
長く,長く息を吐いて…
「…実を言えば,私は魔術師を守るためにこの魔石を作ったのではない。弱者を守るためにこの魔石を作ったのでもない。
強者たる“作る側”になるつもりも,弱者たる“受け取る側”にただ力を授けるつもりも一切無い。」
獅南の言葉には,一点の迷いも無かった。
それはある意味で恐ろしささえ感じさせるほどに,この男の言葉は真っ直ぐに,貴方に向けられる。
「私が言う“持続可能な発展”とは,魔術師個人のものではなく,魔術学そのものをいかに昇華するかという次元の話だ。
もう一度解説しよう…現時点ではどれほどの“努力と研鑽”を積み重ねようと,そこには間違いなく“才能”の優劣が存在する。
であれば,劣った者はいくら努力と研鑽を重ねようと優れた者に及ばず,同時に優れた者は常に劣った者へ配慮せねばならん………これでは健全な発展など,望むべくもない。」
「私は才能の優劣に関わらず“学ぶ意欲のある者”が“努力と研鑽”に応じて力を得,それを己の成しうる限界まで昇華させることを望んでいる。
それを為さずして,お前の言うような対立構図が生まれれば,確かに悲劇も起きるだろう。
だが,これが電池と同じように,消費財の如く生産され,理屈も分からぬ一般人の手に渡る頃にはもう,魔術学は完成の域に達していると言えるのではないか?」
獅南が電池を例に挙げたことには意味があった。
黎明期の電池は,全てハンドメイドのものであろう。それが研究者たちの手にわたり,やがて商品化され,そして大量生産されていく。
確かに一般人は電池を買うことしかできないが,その工場を破壊しようとは思うまい。
そして,その根源たる科学を全否定しようとも思うまい。
「そうなれば,強者は“魔術師”ではない。“魔術学”という学問こそが強者となる。
1億の弱者が揃っても,虐殺できるほど生易しいものではないだろう。」
「……それまでに犠牲は出るかも知れんがね。」