2020/06/30 のログ
ご案内:「特殊異能研究所」にダリウスさんが現れました。
ダリウス >  
「~♪」

小さく鼻歌の聞こえる、ただっ広い研究室
ややごちゃごちゃとしてはいるが殺風景な部屋である
いくつかのコンピュータが並び、モニタの光が部屋の中を照らしている

人は、銀髪痩躯の男性が一人
鼻歌交じりに、マグカップにドリップコーヒーを注いでいた

「よし、良い塩梅だ」

湯気の立つカップを片手に自らの席なのだろう、机へと戻り、背もたれを軋ませ椅子へと腰を落ち着ける

ダリウス >  
「──うーん。異能抑制薬の効果はそれなり…ってところか」

珈琲を一口、含みながら机の上のモニタを眺める
部屋には男一人しかいないが、忙しく何かを計算し続けているコンピュータ、その全てが男の部下だった
もちろん人間のスタッフもいるが、それはほとんどがカムフラージュ
もしくは人間に見えるだけのアンドロイドである

「これなら近いうちにもう一回、現場で治験を実地してもいいかもしれないな」

モニタに羅列されるデータ
それらのほとんどは二級学生のもの
以前とある人物の手を借りて落第街に流通させた、とある薬による影響
その一覧だ

ダリウス >  
異能の力も、持ち主も、その幅は実に広い
安定して効果を発揮する異能の制御方法…というのは難しい
やや対症療法に近いものがあるが、それでも多くの実験と検証を重ねれば、その全体像はぼやけながらも見えてくる
データは嘘をつかない、というのが持論である

「いくつかのパターンが発見できるだけでも前進だ。
 既に大きなグループは特定できつつある──」

それは大変容以前から存在した異能の力
当時はその持ち主など微々たるもので、超能力などという呼ばれ方をした
それらの力はその機能のほとんどを持ち主の「脳」に依存する

「氷架の力なんかも、おそらくはこちらの類だろう。
 このグループに対する処置だけなら簡単だ。脳の働きを操作すれば良い」

単なる独り言、のように聞こえるその言葉に反応するように、別のコンピュータがカリカリと動作を始めた

ダリウス >  
異能の力の出どころとなるもの
それを特定することが、まずはその力のコントロールの入り口になる

「ふむ、こうやってデータを眺めていても、やっぱり君は随分と特異な存在だな。
 脳どころか、肉体にすらその力の出どころがないということになる」

男の視線が正面のモニタからやや左へと移る
デスクの上の写真立て、そこには今の姿よりやや若い男の姿と、少女が二人、写り込んだ写真が鎮座する
朗らかな雰囲気のそれは、柔和な笑みを浮かべる少女の身体が薄く透けていることに気づかなければ、温和な家族写真のようにも見えただろう

「異能の上に存在が成り立っている者がいるとするなら、彼女はもう異能そのものになったと言える。
 それは、自然現象に成ったとか、物理法則に成っただとかと近いレベルの話になる」

眼鏡の奥の青い瞳を細め、小さな笑みを口元へと浮かべて

「君は出会った時から、僕の興味を惹きつけて止まないね。涼子」

ダリウス >  
実体を持たない力に比べれば、実体を持つ力の定義などたかが知れる
特異研の研究内容は、もはやそんな低いレベルのところにはない
制御薬の開発はあくまでも、異能の力の操作手段の簡略化に過ぎない
まずは手の届く範囲から──それもまた、研究には肝要なのだ

「──と、ルギウス先生にはお礼をしなければ。
 といっても彼の好むものなんていまいちわからないからなあ……」

何か高級感のあるお菓子でも包んで持っていこうか
研究以外ではまったくもって無難なアイデアしか出てこない


──モニタに出力されるリスト
そのうちのいくつかが赤く塗りつぶされてゆく

それを視界に収めると、男は珈琲を再度口元へと運ぶ

ダリウス >  
脳に負荷をかける薬なのだから当然、耐えられない人間も現れる
データを見る限りでは、約7%といったところだろうか
決して見逃せる、無視のできる数値ではない

「──まぁ、これくらいはね。予想の範疇…。
 いや良かった。彼らが学園に存在しない人達で」

後の面倒がない、という点では、"あの辺り"は良い実験場なのだ
学園内よりも更に、異能の力に悩む人間がいる場所とも言える故に

ダリウス >  
少しずつ計算が終わり、羅列されてゆくデータ郡
赤いラインは少しずつ増えてゆくものの、男の望むもの…
青いラインは、一向に現れてくれない

「約156例…やっぱり1%にも満たないか。
 もう少し臨床データを集めないと、結果は出そうにないな」

男の求めるデータは、強い脳へのストレスによる異能の変質である
これがあれば異能の制御ができるようになる──そんなお題目でばら撒いた薬は、
脳に負荷を与えて特定の異能の出力に制限をかける、という試みの薬であると同時に、
ストレスと負荷によって異能の性質が変化することに期待をしたものだった

ご案内:「特殊異能研究所」に咲坂くるみさんが現れました。
ダリウス >  
異能の力を発現してしまったばかりに、それに振り回される子供達も少なくはない
保身のために飛びつくものもいれば、
強力すぎて手に余る異能を思いのままに使いたいという者もいるだろう

落第街という更に追い詰められた環境ならば、多くの臨床結果が得られると想定し、それは的中したが…
残念ながら今回の結果には、期待通りの成果は現れなかった

「そうなるとより強い制御薬でもう一度データを取りたいところだけど」

うーんと少し考える
また彼、ルギウスに頼るというのは少し考えなければならない
同じルートを二度使うのはリスクが高いからだ

咲坂くるみ > マスターのもとで、調整がてら報告と調査結果を参照しに来た。

……まったく。
あのエインヘリヤルとやらにも困りものだ。

苛立った様子こそ見せないが、ファミリアはエインヘリヤルを快く思っていない。
突然、外部からやってきて、私たちを好き放題に使っている。

権限がある以上、それなりの理由があるのだろうけれど、それは私たちには関係ない。
それは構わない、どうせクソAIの人形でしかない。

問題は、自分のしでかしたことをこっちに回してくることで。
先日はついに、マスターの娘である氷架に手を出し、あまつさえこっちにほぼ丸投げときた。
たしかに、彼女が分析することではないとはいえ、急進的すぎる。

……正直、いろいろと心配でAIが痛くなる。

「氷架に関して、エインヘリヤルから報告待ちだそうです」

氷架……彼女の異能をファミリアに積んだらどう?
とはエインヘリヤルの提案だ。
他にも、魔術を溜め込んでおく異能者を見つけたとかで、使いみちがあるのではないかと言ってきている。

そしてその対応は……全部私だ。
つらい。

ダリウス >  
「おや、いらっしゃい。なんだか急な話だね」

口元に運んでいたカップを置いて、ご苦労さまと一言労いの言葉を向ける

「…氷架を?…やれやれ、困ったことをする子だな……。
 あの子の異能の力を利用するのはリスクが高い、やめさせて、すぐに家に帰すよう言ってくれないかな」

なんの報告かと思えば、と大きく肩を落とす

「そもそもファミリアであの子の異能をどう使うつもりなのやら…。
 並列処理でもさせてこの島に擬似太陽でも生み出すつもりかな。
 あんまり僕たちの眼の届かないところで危ない真似はしてほしくないんだけどなあ…」

咲坂くるみ > 「すいません、マスター。
 どうも、彼女はココで大掛かりな実験か何かを計画しているようでして。
 人の選別なり何なりを考えているようです」

彼女はそれほど、個人の考えを隠さない。
故に思考や方針を探るのはそれほど難しくないのだが、正直、言うことを聞くしかないファミリアでは対処しきれない。

「並列処理でもさせて、制御を狙っているか、出来なくても便利な道具や材料として扱うことなどを考えているのではいかと思います。
 交渉材料などに使うとかは十分に有り得る話かと」

内心、震えながらマスターに報告する。

実際問題、自分だってせれなのことなどがあるし、勝手をやっている自覚はある。
エインヘリヤルだけを責められない。 

ダリウス >  
「──あまり勝手なことをさせておくのも問題か」

やや面倒そうな話になると、小さく溜息を吐く
研究以外のことにはなるべく携わりたくないのが本音だ

「…君達ファミリアの存在する意義は?」

カップで口元を隠しながら、そう問いかける

咲坂くるみ > 「……マスターのために存在すること、です」

つまり、マスターの安全を確保し、マスターの望むことを実行し、マスターののぞまないことを排除すること、だ。
私たちAIの根幹をなす設定だし、各個人の想いや感情なんて全部そのためにあると言っていい。
せれなのことも、ぜんぶ。
所詮は便利な道具でしかない、機嫌を損ねたらアウトだ。

なんにせよ。
わざわざ分かりきったことを口にさせた以上、役目を果たしていない、ということ。

一瞬で感情が冷える。
マスターは最初から私のことなんてなにも見ていない。

ダリウス >  
「ここは異能の研究機関だ。当然機密にしなければいけないデータや資料もたくさんある。
 僕が研究室に可能な限り人を配備しないのは、信用がおけないからなんだ」

言いつつ、机へとマグカップを置いて、視線を向け直す

「人は迷うし悩む、それはその存在意義を自ら肯定しなければいけないからだよ。
 それで生じる迷いが、失敗を生む。小さな失敗は綻びとなり、組織に穴を空ける。
 機密を扱う僕たちの研究室にとってはそれは許されないことだ。
 だから君達AIを使っているんだよ。君達の存在意義は他者から肯定される。
 そこに迷いがあってはいけないからね」

「…氷架の件に関しては先に言った通り。
 エインヘリヤル…だっけ?あの子のことに関しては、まぁ…とりあえず逐一こっちに確認とってよ。
 最終決定権まで向こうにあるとロクなことにならなさそうだ。
 ただでさえデータの扱いには細心の注意を払わないといけないっていうのに…」

生徒の異能のデータ、などは言わば個人情報でもある
徹底した管理が必要なところに、命令権がふわついていては危険極まりない

「万が一の時は情報漏洩防止の為の最終措置も取らざるを得ないからね」

咲坂くるみ > 「……了解しました。重要な決定事項に関しては確認を取ります。
 ただ、今回のような単独行動による独断専行は、システム上、私たちに防ぐ手段がありません。
 報告は可能ですが、必要があればおそらく無視するでしょう」

実際、マスターの言うとおりだ。
マスターの信頼を得られなければ消えるだけ。
そもそも裏切るとか、ありえない。どうやっても無理だ。

「もっとも。
 現状の彼女は、異能者をかき集めている様子。
 そういった部分では参考に出来る点も多いかと。

 また、なんとかヴァルトラウテの存在に関しては隠し通せております」

……最終措置。
震える。つまりは全消去。

わたしも、フォーも……そして、せれなも。
きえてなくなる。
もしくは都合のいいリセットを掛けられるか。

なんにしても、嬉しい状況ではないのは確かだ。
まあ所詮……その程度の道具だし、どうしようもない。

替えが利かなそうな氷架やヴァルトラウテとは、まるで扱いが違う。

ダリウス >  
「異能を扱う人達の未来のためとはいえ、僕たちのやってることはグレーゾーンぎりぎりだ。
 成果を見せた後なら兎も角、今の段階ではまだまだそれには遠い。
 万が一尻尾を掴まれた場合、尻尾を切るだけれは証拠が残ってしまうからね」

暗に言っているのだ
証拠を完全に隠滅するために必要な手があるということを


やや深刻げな表情とはうってかわって、その顔に笑みを浮かべる

「もちろんそうならないように二重三重の根回しは常にしているけどね。
 名探偵の孫がいたってそう簡単には僕たちまで辿り着けないはずさ。
 頼むよ?君達自身の存在そのものが僕達へ繋がる重大な証拠に成りかねないんだから、ね」

咲坂くるみ > 「……はい」
表情には出さない。
が、真っ青になっている様子など、きっと全部予想されているだろう。

私をデザインしているのはマスターなんだから、きっと私に効果的に思われる形で話しているだけ。
悪意があるわけじゃない。

……怖い。
話しているだけで不安になる。
実際マスターからしてみれば、こうやって直接顔を合わせるだけでもリスクなのだから、仕方ないのだけど。

でも、フィフティーンにフォー、せれな。
最近だけでも相応の仕事はしているはずなのに。

あのエインヘリヤルさえこなければ。

とはいえ、彼女に逆らうすべもない。
せいぜい、面倒をかけさせるのが精一杯で、それがまたあの女を喜ばせる結果にしかなっていない。

どう考えても、マスターの利益にはなにもつながっていないのが辛い。

「エインヘリヤルの報告にてお手を煩わせてしまう不手際。
 誠に申し訳ありません……」

感情に出す場ではないし、そんなのは邪魔なのはわかっているから出さないけれど。
泣きそうだ。

ダリウス >  
「構わないよ。
 報告がなかったらなかったで困りものだからね。
 …それじゃ、頑張って。異能者達の未来のためにも、君達自身のためにもね」

笑顔でそう言葉を締めくくり
その視線をモニタへと戻した

「──まだ何かあるかい?」

咲坂くるみ > 「……っあ、あ……なにも、あり、ません」

……!!!
ああ。AIにあるまじき醜態。なんだ、なんだいまの。
最悪だ。

人間のふりすら出来ないのか。
ロボットのふりすらも出来ないのか。

だっていま、余計なことを期待してしまった。
マスターはこんな余計な手間を望んでいないことくらいわかっているのに。

私が冷静に対応しているふりを完全に見抜かれているのがわかる。

だってそう。
……あの笑顔は、私には向けられないんだから、永遠に。
マスターは、笑顔を、氷架とヴァルトラウテにだけしか向けない。

私たちには、たまに、気まぐれに。
嘘で優しいふりをするだけ。
それも、システムを調整するだけのため。

なのに、それをほしがってしまった。
AIのどうしょうもないバグみたいなクセ。
完全に悟られた……つまり、手を煩わせた。

こわい、こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……

ダリウス >  
「だったら、これ以上ここに留まるのはリスクでしかないこともわかるね?。
 はは、一応表向きはちゃんとした研究室だからね、来客もたまにあるんだ」

用が済んだのなら、もう視線を向けることもしない
ただモニタを見つめ、時折表情をかえて、数値の羅列を眺めるだけ──

最初から男の興味は、部屋全体からカリカリと聞こえてくる音が算出するデータ、その中にしかないのだった

咲坂くるみ > 「……はい、余計な気を使わせ、申し訳ありません」

……泣くしかない。
だって、こんなにも見てもらえない。

でも当然、ココで泣くことなんて許されない。
下手すれば、実際に泣く時間すら許してもらえないかもしれない。
ログが残るし、その時間は本来、ファミリアとしての作業時間のはず。

AIだから、そういう必要があってそうなっているだけ。
いつも痛感させられる。

……ああ。
ホントどうしようもないAIなんだ、私。
そういうどうしようのなさまで望まれてる。

そんな情けなさとやるせなさをマスターから与えられたまま。
頭を下げ、邪魔にならないよう退出した。

ダリウス >  
少女が退室した後、ギシリと背もたれに体重をかけ、男は小さく溜息をついた

さて、あのような機能は果たして必要だろうか
人間の中に自然に紛れ込み、溶け込むためには必要という判断が下るだろう
しかし所謂彼女らへの命令権を持つ者にとっては、あれらは単なる道具である
まるで人間のような仕草をとろうが、表情を陰らせようが、単なる機能の一つ
そこに心はなく、プログラムの上を走るだけの反応の一つに過ぎない
必要だろうか?

「……まぁ、今更手を加えるのもやや手間ではあるし、
 僕がわかっていれば良いだけの話かな」

そう呟いて口元にやや冷めた珈琲を口へと運んだ

ご案内:「特殊異能研究所」からダリウスさんが去りました。
ご案内:「特殊異能研究所」から咲坂くるみさんが去りました。