2020/07/25 のログ
ご案内:「特殊異能研究所」にダリウスさんが現れました。
ダリウス >  
特殊異能研究所
人呼んで『特能研』

その一際大きな実験施設に、珍しく室長であるダリウスが姿を見せていた

ダリウス >  
「なるほどなるほど。
 随分と異能への理解を深めたみたいだ。さすがだね、氷架」

大きく広い、特殊なガラスで隔てられた巨大な空間
透明な壁を挟んで、父親と娘が、その視線を交差させていた

父親、ダリウスの手には一枚の書類
学園から届いた、試験の採点が表記されたものだ

異能に関する講義の判定は…良
入学時よりも遥かに異能の力への理解と、制御が高まったことを意味する

雪城氷架 >  
「…まぁ、少しくらいは」

一応の称賛を受ける娘の言葉といえば、やや冷めたもの

それもそうだ
異能のことで話がある、と呼び出されたとはいえ…
それを母親には黙っておいてほしいと釘を差されたのである

本当に父親に会いたいのは、自分なんかよりも母…涼子だというのに

ただただ、それが不満だった
別に一緒に来てもいいんじゃないか、と食い下がりはしたものの
『機密に関わるからダメなんだ』の一点張りだった

ダリウス >  
「まだ怒ってるのか…しょうがないな。
 冷静になって挑んでもらわないと、実験にちゃんと結果が出ないよ?」

やれやれ、と小さな笑みを湛えた表情で、肩をあげておどけて見せる
ガラスの向こうにいる娘はまるで逆、肩を落とし憮然とした表情で溜息を付いていた

「と…あまり時間はないからね。
 手早くやってもらおう。これも氷架や涼子…ひいては異能に悩む皆の未来に繋がる大事な実験だからね」

じゃあよろしく、と近くにいるスタッフに指示をし、ダリウスは一歩、後ろへとさがる

雪城氷架 >  
「…別に……で、これを飲めばいいの?」

じっと、小さな手のひらの上に乗る錠剤を眺める

自分の父親のことを信じていないわけではないが、
こういうのはどうしても不安になってしまう…

意を決して飲み込むも、水がないのは少し辛い

薬を飲むと、防護服を来たスタッフが現れ、身体の至るところにセンサーのようなものを貼り付けてゆく

「…変なところ触るなよ」

ぼそっとそんなことを呟くが、彼女達はお構いなしだ

ダリウス >  
「そう、それが改良を施した新型の異能制御薬『ホープ』。
 力に苦しむ、悩む…多くの異能者の特効薬となるべくして僕たちが作り出した『希望』だ」

にこにこと、笑みを深めて我が娘へとマイク越しに言葉を向ける

「脳を基軸とするサイキックに類似した異能の力の完全制御…、
 そして霊魂…いわゆる魂に根ざす力をコントロールする魔法薬も含まれている
 データ通りならきっとうまくいく。この実験で得られる結果は、僕たち特能研の悲願の一つだ」

雪城氷架 >  
「可愛い名前にしてはかなり不味かった」

不平不満に口を尖らせていると、装置を付け終わったスタッフが退去し、
重厚なエアロックの音と共に部屋が完全に封鎖される

『実験シークェンスを開始』

機械的なアナウンス
ガラスの向こうでは、笑顔のまま頷く父親の姿が見えた

ふー…と呼吸を整え、集中する
──ほどなくして、突如…氷架の眼前に煌々と燃え盛る火球が轟音と共に出現する

ダリウス >  
ガラス越しに広大な室内を紅く照らす火球が生み出された

『中心温度は約3000セルシウス度です』

報告に対し、頷きを返す

「わかってるね。氷架。教えた通りだ」

マイクに顔を近づけ、簡潔な指示を送る
火球の熱に揺らめく娘の表情は…やや辛そうに見える

「心拍数のほうは?」

『正常の範囲内です』

雪城氷架 >  
「……ぅ、く……」

自身の異能の力で、自分の周囲の気温と大気組成は常に一定に保たれている
目の前で豪炎が炸裂していようとも、呼吸も行えれば焼け死ぬこともない
集中し、言われたとおりに…異能の力を、出力を高めてゆく

『いい調子だ。以前の氷架ならこの時点で耐えられなかったからね。
 さあ、もっと温度を高めていこう。大丈夫、この施設は融解したりしない』

父親から向けられた言葉、その一節にびくりと身体を震わせる
…大丈夫。父親が大丈夫だと言ったのなら、大丈夫だ

きっ、と目の前を睨めつけるようにして…

「…お父さん」
「薬、ちゃんと出来てたら」
「これからはお母さんと一緒に生活、できる?」

頬から汗を滴らせ、呼吸を浅くしつつ、娘はそう問いかけた

ダリウス >  
「…ああ、もちろん。
 もう寂しい思いはさせないよ。氷架にも、涼子にも…」

穏やかな声で、マイクに向けてそう返答を返す

「温度は?」

『10000度を超えます』

ガラスの向こうの豪炎は白く、華々しく炸裂するような球体へと姿を変える
プラズマ化が起こる程の、熱量の上昇

「早いね。過去の実験から推察した通り、
 氷架のマクスウェル・コードによる熱量の上昇曲線は加速度的にあがるようだ」

『室長、心拍数が……』

氷架の身体に取り付けられた無数のセンサー
その一つが指し示すグラフが激しくブレはじめていた

雪城氷架 >  
「はっ…ぁ、はぁ……ッ……」

父親の返答に安堵する余裕もなく、胸元を押さえ、苦しげに荒い呼吸を繰り返す
自分の耳にはっきり聞こえるくらいに心臓が音を立て、跳ね上がるようにすら感じる

『氷架』

『続けて』

「──……う、ん」

まだやらなきゃいけないのかな、と思った矢先だった
父親の声がスピーカーから降りかかる

わかっていた、これは…実験なんだから

ダリウス >  
「ふむ……」

見るからに、身体負荷は大きい
以前よりは遥かに、異能の力を制御できているように見えはするが…

「別に実験対象の調子が悪かった、とかはないよね?」

かりかり、と頬を掻く
その間にも熱量の高まる火球は、もはや白色の恒星が如く輝きを放っていた
光量と熱、そして放射線を遮断する特殊ガラスの中でなければ、大事故では済まないほどの熱量だろう

『中心温度100万℃を超え……あっ』

「え?」

ふっ、と電気を消したように大部屋が暗くなる

『実験対象が意識を失ったようです』

「…うーん、そうかあ……まだ実用には遠そうだね…」

はー…っと大きなため息をつき、男は肩を落とした様子を見せる

雪城氷架 >  
長時間。かつ集中した力の行使
そろそろかな…とは思っていた

とろ…と、なにか熱いものが鼻孔から唇の上に垂れ落ちるのを感じ、
その後はもうすぐに目の前が真っ白になって───何もわからなくなった

だからガラスを経た実験室の中で膝から崩れ落ち倒れる様子を
実の父親が残念そうな顔で見ていたこともわからなかった


部屋の温度を下げる冷却ガスが噴射され、
しばらくした後、エアロックが開いて数名のスタッフが実験室へと入ってくる

折りたたまれた担架が拡げられ、意識を失った氷架はそのまま乗せられ運ばれてゆく

ダリウス >  
「何が足りなかったかな…もう少し臨床データが必要か…」
「計算ではもうちょっと保つはずだったんだけど、見通しが甘かったかな」
「あんまり彼に借りを作るのも困りものだけど、また落第街あたりで…」

ぶつぶつと今後の改良案を考えながら、男は娘には目もくれず、実験施設を後にする

この実験の失敗からしばらくした後、
再び落第街で『誰でも異能が制御できるようになる』といった名目の薬がバラまかれる

──それは『ホープ』ではなく、副作用として過度なストレスを精神に抱え、自壊する可能性すらもあるモノ
必要な臨床データの確保にはその程度の粗悪品で十分──

人として扱う必要のない二級学生は、モルモットとしても最適なのだった

ご案内:「特殊異能研究所」からダリウスさんが去りました。
ご案内:「研究施設・異能特殊病棟」にさんが現れました。
> ぼんやりと病室の天井を眺めている。

「私のめのまえで」

扉を開いて死んだ女性の資料、無理やりに頼んだのだが、を読んで思い返す。

女性は、深波ひらり
水を操る異能者であった

> 女性の理を求めた理由は、死産した子供を取り戻したい、であった。

生まれ育っていれば、今の希と同じ歳、名前は、望(のぞみ)にする予定だったらしい。

父親は異邦人だったらしく、普通に恋愛して普通に落第街で慎ましく暮らしていた。

ただ、栄養状態と環境の悪さが影響した、なぜ私たちがとなった母親は心を病んだ、父親はそれを見て蒸発した。

病んだ彼女は、誘いに乗り、トゥルーバイトに入った。

そして扉を開けて、希の前で死んだ

> 「生きるってなんだろう、死、ってなんだろう、わたしには」

両親を焼き殺したわたしには分からないよ。

そう、思い出した、わたしは
『ひとごろし』だ

家族となんか暮らせはしない。

わたしは悪いこなのだ。

> 幼女は泣いた、泣き腫らした。

空虚になった、わたしが生きていていいのかと、思った。

扉を開けて希望があるならば

「わたしも、ひらいてみたいよ、悲しいよ」

> 「椎苗ちゃんも、つらいからしにたいのかな」

首に縄を括った友人を思い出す。

あの時はわからないけど、今なら考えてしまう。

> 「わたしは、どうしたいのか、わからないよ」

枕に頭を乗せて泣き腫らして、また、泣き疲れて眠った

ご案内:「研究施設・異能特殊病棟」からさんが去りました。