2020/07/26 のログ
ご案内:「廃棄された研究施設」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 >  
常世島北部にある、今は使われていない研究施設。
数ある異能の研究機関の一つで、その裏では非人道的な実験も行われていたなど黒い噂もあった。
残されていた資料は全て風紀・公安によって回収済みであり、研究機関に繋がる情報はない。

そんな廃墟と化した建物の一室。
職員用の休憩室だったのか、動かない自販機や枯れた観葉植物などが放置されている。
ボロボロになったソファの上に一人の少女が眠っていた。

トゥルーバイツ構成員 > 「んぅ…………」

窓はなく、日光の差さない部屋の中、消えかけの蛍光灯が明滅して眠りを妨げる。
煩わしそうに薄目を開けば、視界に飛び込んでくるのは薄汚れた白い天井。
あれ……私、どうしてこんな所で寝ていたんだろう?

「確か……『デバイス』を起動できる場所を探してて……」

ぼんやりとした頭で思い出しながら服のポケットを探ると、硬い感触があった。
取り出したそれは、私達に配られた『デバイス』と呼ばれる代物。
これを使えば『真理』の声を聞くことができる、とあの人は言った。
近くに人がいると使えないから。誰にも邪魔されない場所に行く必要があったんだ。
だからって、すぐに浮かんだのがこの場所というのは……あんまりにも皮肉だ。

「……そうだ! 今、何時!?」

意識が覚醒したところで『デバイス』には使用期限があることを思い出して、慌てて壁の時計を見る。
……動いてない。当たり前だ。この場所の時間はとっくに止まっているんだから。
『デバイス』が入っていたのとは別のポケットからスマホを取り出して見れば、26日の昼過ぎを示していた。
あと、半日しかない。

トゥルーバイツ構成員 > 「どうしよう……」

どうするもなにも、やるべきことは一つだけ。
すぐに『デバイス』を起動して『真理』の声を聴く。そのためにこんな所まで来たはずだ。
昨夜もそのつもりでいたのに、土壇場になって躊躇いが出てきて……
ここまで歩いてきた疲れもあって、気が付いたら寝てしまっていた。

「私にはもう『これ』しかない……分かってる、分かってるのに……」

『デバイス』を持つ両手が震える。
成功確率はたった1%、自殺同然の無謀な挑戦──それも分かってる。
だけど、私の願いを叶えるには『真理』に頼るくらいしか方法は残されてない。
目を閉じて、私がこの施設にいた時のことを思い出す。

トゥルーバイツ構成員 >  
この研究施設は、表向きは異能の運用に悩む人達のために制御や抑制の方法を調べていた。
だけど、そんなのは資金繰りのための建前でしかない。
本当の顔は、人工的な強化を施された異能兵士を作り出すための実験施設。
身寄りのない子供を攫い、度重なる人体実験によって異能を無理矢理に引き上げられて島外での戦争に駆り出される。
人智を超えた力を振るう異能兵士は戦場で無類の強さを発揮し、どの国も秘密裏にその力を欲していた。

もちろん、子供達に自由意思なんてものは存在しない。
反抗すれば『教育』を施され、より従順な駒として使い潰される。
根っからの臆病な性分が幸いして、逆らおうなんて気を起こさなかったのが幸い。
他の子達はみんな脱走や反乱を企てて、二度と帰ってくることはなかった。

いい子にしていれば、大人しくしていれば、いつかきっと自由になれる。
そう信じてきた。結果としてそれは正しかった。
法を逸した実験を行ってきた研究機関に風紀の手が入り、関係者は全て処罰され私達は保護された。

トゥルーバイツ構成員 >  
風紀委員の保護管理下のもと、学校にも通わせてもらえることになった。
扱いとしては二級学生。それでも、施設にいた頃と比べたらよっぽど好待遇。
定期的な経過観察と奉仕活動という簡単なノルマをこなすだけで人間としての生活が許されるなら安いものだ。
何も考えなくていい。漠然とした第二の人生が始まる……そう思っていた。
──あの人に、出会うまでは。

トゥルーバイツ構成員 > 『本当にそれでいいの?』

あの人は私に、あの場に集まった全ての人間にそう問いかけた。
自分で考えることを止めて、今あるものだけを享受して生きていく。
そんな生き方で本当に満足なのか、と。

……直接そう言われたわけじゃない。
だけど、あれはきっとそういう『問いかけ』だったから。
その言葉に突き動かされて私達は集い──『トゥルーバイツ』の一員になった。

私は失くしてしまった。この白い牢獄の中で、人としての尊厳も、誇りも、何もかも。
そして、多くの命が失われていった。ただの兵器として、使い捨ての消耗品として。
私はそれを取り戻したい……だけど、願ったところでみんなは戻ってこない。
だから『真理』を頼ろうと決めた。決めた、はずなのに。

「どうして……もう時間がないのに……」

『デバイス』の起動スイッチが、押せない。

ご案内:「廃棄された研究施設」に吸血鬼《ヴラド》さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 > 「はぁ……はぁっ……」

何十分そうしていたか分からない。一時間は経ったかもしれない。
ただ『デバイス』を起動する、それだけのことができずにいる。
起動してから『真理』に繋がるまでにも時間がかかるらしく、残された時間はあと僅か。
それなのに、この期に及んで死ぬのが怖いなんて思ってしまう自分の臆病さが恨めしかった。
こうしている間にも、どこかで誰かが『デバイス』を起動しているだろう。
もしかしたら私を残して皆とっくに『真理』に辿り着いているかもしれない。
だけど、もし失敗したら──
全身から汗が噴き出す。息が苦しい。

「うっ、うぅぅ……!」

薄暗い一室に、少女の悲痛な呻き声が木霊した。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「そこまで、だ」


静かな薄暗い部屋に若い男の声が静かに響く。


気がつけば、部屋に黒い霧を纏った黒い狐の面をつけた男がいた。―――欠けた目から覗く、赤くきらめく瞳。
それも近くに。
気が付かないのは仕方がない。
男のつける黒い面にはそういう認識を阻害する術式が組み込まれている。

少女が青年に気づき反応するタイミングで男は言葉を続けるだろう。

「止めておけ、それはそんな優しいものじゃない」

よく見れば、その男の後ろに似たような黒いヒトが数名いる。
どうやら君の葛藤を少し前から見ていたようだ。

トゥルーバイツ構成員 > 「っ──誰……!?」

不意にかけられた声に驚いて肩が跳ねる。
いつからそこにいたのか、不気味な黒ずくめの集団。
先頭に立つ男の欠けた狐面から覗く赤い瞳が、静かにこちらを見据えていた。

「いやっ……!」

思わず『デバイス』を抱きかかえるようにして跳び退く。
怯えた表情で男達を見ながら、兵士としての頭は冷静に退路を計算している。
こんな分割思考、本当は捨ててしまいたかったのに。

吸血鬼《ヴラド》 >  
声をかけた時点でこの施設周辺は既に彼ら―――裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》によって包囲されている。
もし、超人的な察知能力、常人を越える認識阻害すら突破する能力を有しているなら微かな気配に気がつく。
それに、後ろに控えるモノたちは、この男よりも―――強い、と。


「そうだな、俺は《ヴラド》と名乗っている」


少女の反応に苦笑しながら、男は口元だけその顔を顕にする。

「『願い』を叶えるもの、僅かな可能性を叶える可能性があるもの。
 恐らくお前達《トゥルーバイツ》の最後の希望……と思っているもの。
 よく出来ている」

しかし、しかし―――と男は続ける。

「それは、今の所の誰の『願い/明日』も叶えていない」

トゥルーバイツ構成員 >  
少女は異能兵士として様々な強化を施されてきたが、あくまで異能に関わる部分だけ。
前線で使い潰されるだけの道具に気配察知などという便利な能力はない。
ただ、彼らが並外れた存在であることだけは本能的に感じ取れた。

「《ヴラド》……いったい私に何の──」

その疑問は続く彼の言葉によって遮られ、そして打ち砕かれた。
後頭部を殴られたような衝撃が襲い、眩暈を起こしてふらつく。

「う、嘘だ……そんなの……」

震える声で辛うじて紡いだのは、信じられないという戸惑いの言葉。
しかし、可能性としては十分あり得るというのも理解してしまっている。
失敗したんだ、みんなは。

「っ……じゃあ、あの人は……あかねさんは……!?」

聞きたくない。考えたくない。それでも、聞かずにはいられない。
私の目を覚まさせてくれた、あの人も『真理』に辿り着けなかったのか。

吸血鬼《ヴラド》 >  
戸惑う少女に、
冷静に、ハッキリと。

「事実だ」

今は二十六日、本来であれば遅くとも昨晩―――『願い』の難度によっては僅かながら時間は前後するだろうが。


「日ノ岡あかね―――、
 彼女は『真理』に、今回もたどり着けていない。
 彼女は『真理』に、触れていない。
 彼女は『真理』など、手にしていない」


事実のみを告げる。
事の大まかな顛末は、部下より聞いて知っている。
再度、『補習』となった彼女。
彼女を止めることが出来た不器用な男の話。

「『真理』は、今、誰にも生きた明日を与えられていない。

 その上で敢えて聞こう。
 君の『夢』、君の『明日』、君の『願い』とはなんだ?」

トゥルーバイツ構成員 > 「あ、あぁ……っ」

絶望に打ちひしがれた表情のまま2、3歩さらに後ずさる。
その手から希望を失った『デバイス』がこぼれ落ち、カツンと音を立てて床に転がった。
壁に背がついたところで膝の力が抜け、その場にへたり込んだ。

「わた、私は……失くしたものを、取り戻したくて……
 ここにいた、みんなを……私を……」

俯きがちに床の上の『デバイス』を見つめながら、うわごとのように呟く。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「そうか……」

失くしたもの―――子を失った母親がいた。
取り戻したいもの―――持っていた全てを失い絶望した青年がいた。
そして、仲間か友か家族か……この少女もまた『過去』を求めている。

「……『願い』を叶えようとして、
 ただ『幸せ』だったあの日に帰ろうとした奴をみた。
 そいつは、悩んじゃいなかった。
 既に自分はすべてを失っていると思っていたからだ。
 俺は彼の『願い』を止めることは出来なかった。
 そして『願い』を口にして消えた。
 アレは、死んだなんて生易しいものじゃない。
 『消える』んだよ。
 『真理』に『願い』を食われるように、本当に失ってしまうんだ」

「君の『願い』もきっと消される。
 失い、消えたものは―――取り戻せない。

 君の中にいる『みんな』まで消すんじゃない!」

男はそう告げる。
それは男の『祈り』でもある。

吸血鬼《ヴラド》 > 残されたその『過去』を持っているのは君だけなのだから。
トゥルーバイツ構成員 >  
かつて、絶対に自由になってみせると施設から脱走を試みた男の子がいた。
よく笑い、周りまで元気にしてくれる、太陽のような男の子だった。
──彼は『再教育』を施され、最前線でボロ雑巾のように死んでいった。

かつて、こんな地獄を作り出した研究者に襲い掛かった女の子がいた。
物静かだけど誰よりも優しい心を持った、月のような女の子だった。
──彼女は異能を過剰暴走させる実験に使われ、モノとしてその命を散らした。

誰の『願い』も叶うことなく、無かったものとして消えていった。
私はその全てから目を背けてきた。逃げ続けてきた。

──それは今も。
結局、私は彼らのように消えてしまうことを恐れている。
『デバイス』を起動できなかったのは、そのせいだ。

「ごめ……さい……ごめん、なさいっ……みんな……
 私、やっぱり死にたくない……消えたくないよぉ……!」

両手で顔を覆って泣きじゃくりながら、消えていった彼らに謝り続ける。
『真理』に挑んでいった人達に、あの人に謝り続けた。
何もかもを背負えるほど、私の心は強くない。

吸血鬼《ヴラド》 >  
「君は『選択』した。

 ならば、謝る必要はない。
 それを誰にも『間違い』と断言する事はできない。
 するのは傲慢な奴で、
 『間違い』だと決めていいのは、『君』だけだ。

 君は赦されている」


 『選択』することを。
 『間違う』ことを。
 それを、『正す』ことを。
 『自由』を。


だから、
―――男は少女へと近づいて『デバイス』を拾い上げた。

そして、『デバイス/真理』を懐から取り出したナイフで刺し貫く。



「――君は俺に『願い』を砕かれて泣いているのだ」

「君が誰かに『裁かれる』事はない。
 残念だったな」


ナイフを『デバイス』から外して、床に落として踏み砕いた。
デバイスの中から赤い液体が漏れ出し、回路が壊れているだけでなく色々な電子部品もショートさせられている。
今から修理しても制限時間には間に合わない。


ソレ以上男は言うことはなく、ソレ以上男は少女を見ることもなく。
後ろに控える同じ黒いモノたちに告げる。


「行くぞ」


少女がなにもしなければ、男たちは闇となるようにこの場から消えることだろう。

トゥルーバイツ構成員 > 「私……『選択』なんて……」

私はただの一度も『選択』できなかったからここにいる。
自ら『選択』し、消えていった彼らとは違う。
そこに正しいも間違いもない。だって、何も選べなかったのだから。

目の前で『デバイス』が砕かれた。
赤い液体が滴り落ちる。まるで私の代わりに血を流すかのように。

「っ……待って! 私……どうしたら……」

意思を持たない/持てない少女は、縋るように男の背中に手を伸ばした。
これでは以前の状態に戻っただけで、何をすればいいのかも今はもう分からない。

吸血鬼《ヴラド》 >  
足を止めて呟いた。

「……そうか」

彼女は気づいていない。
気づけていない。

ならば、『答え』を知るのを手伝うのも悪くない。
振り返り、赤い瞳で再び彼女の顔を見る。


「君が見えていない『選択』。
 君はもう口にしていた。
 もし、分からないのなら教えよう

 『本当にそれでいいの』か? という悩みに対して
 君は『死にたくない』……生き続ける『明日』を選んだ」


「俺は、この街の『明日/秩序』を守る幻想《もの》だ」


「それでも分からないなら、ついて来い。
 未だ、全ては終わりきっていない。

 見て考えろ、君の『選択』は―――俺の言葉だけではきっと正しくない」


男は左手を伸ばした。
きっと、ついて行ったとしても見るのは君と同じような構成員の『悩み』だ。
一人ではどうしようもない『願い』だ。

トゥルーバイツ構成員 >  
赤い瞳が私を射抜く。私と同じ赤い瞳。
けれど、そこに宿っているものは私よりずっと大きなものに感じられた。

「明日を、選んだ……?」

理不尽に抗うための力でも、奇跡のような『真理』でもなく。
ただ生きていくことを望むのが、私の『選択』だというの?
それは散っていった彼らの信念に対する『裏切り』だ。
──でも、それでいいのかもしれない。

「ぁ…………」

差し出された手に、おずおずとこちらからも手を伸ばして。
不安そうに、躊躇いがちに──それでも、掴んだ。

吸血鬼《ヴラド》 >  
彼女の掴んだ手を握り返して。

「先ずは我々、裏切りの黒《ネロ・ディ・トラディメント》について少し教えよう……
 その前に一つ聞かせてくれ」

そう、『選ぶ』君に『敬意』を持って聞かせて欲しい。
 

吸血鬼《ヴラド》 > 「 君の名前を。 」
トゥルーバイツ構成員 > 「ねろ……? えっと」

掴んだ手を支えに立ち上がり、制服の袖に付けた腕章を取り外す。
およそ黒とは正反対の真っ白な少女は、今まっさらになった。

「……御白。御白 夕花(おしろ ゆうか)です」


『私』が『私』だから『私』を行う話は──ここから始まる。

ご案内:「廃棄された研究施設」から吸血鬼《ヴラド》さんが去りました。
ご案内:「廃棄された研究施設」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。
ご案内:「研究施設・夜」にトゥルーバイツ構成員さんが現れました。
トゥルーバイツ構成員 >  
壮年ぐらいと思しき女が、キャスター付きのチェアーに座る。
『デバイス』と端末をじっと見ている。

トゥルーバイツ構成員 >  
『真理』に挑む。

実に素晴らしい話だ。

トゥルーバイツ構成員 >  
生まれ落ちて、物心ついて以来。
父は、母は。親は、私に賢くあれと言った。
私はそれに応えようと勉強した。
思い返せば、それが親の愛だとでも思っていたのだろう。
あらゆる知識を吸収して、自分のものにしていった。

トゥルーバイツ構成員 >  
10代前半のある時、私はとある試験に落ちた。
親や家庭教師の指導の元、万全の準備をしていたが、運が悪かったのだろう。
知らない問題が並んでいた。
必死に意味を推理して、問題を解いたけれど、結果はダメだった。
知らないものを知るという経験は心地よかった。
次は頑張ろう、そう思えた。

しかし、親が豹変した。
父は母を殴り、教育が悪かったのだと怒鳴る。
母は父を刺し、自分だけを悪者にするなと叫ぶ。
私は……親に応えようという思いが消え失せた。

知識への欲求だけが、残った。

トゥルーバイツ構成員 >  
こっそりと家を抜け出した。
もはや、あんな所に居ても自分に危害が及ぶだけだ。
それからあらゆる手を講じて、生活を構築した。
体も売った。人を騙した。人を殺した。
倫理を知らなかったわけじゃない。
そんな物どうでも良かっただけのこと。
悪いことをしなかったら、それで得られる知識は入ってこない。
お金がなければ、本の1冊も買えやしない。

そうやって生きて数年。
気がついたら、落第街と呼ばれる場所にいた。

トゥルーバイツ構成員 >  
未知だらけのこの島。

ここでも知識への欲求が止まらない。
当然、私は、あらゆる手段を講じた。

人を騙し、頭の悪いやつを騙し、
不法入島者から二級学生になり、あらゆる本を読み、
あらゆる教師に、あらゆる研究者に会い、研究者になり、
ひたすらに貪欲に、知識を吸収した。

トゥルーバイツ構成員 >  
ある時、秘密裏に所属していた違反部活の仲間に、こう言われた。

『……、あなた、なんか老けてない?』

──異能のせいだった。気付いていた。

私は、人よりも時間の流れが早い。しかもそれは、加速度的に増している。
異能疾患と呼んで良いのだろう。

つまるところ……時間の猶予は残されていない。
ああ、なんと嘆かわしい。図書館や古書店街の本の1割も読めていないのに。

もっと、もっと知識を吸収したい。

トゥルーバイツ構成員 >  

そんな時、あの人はすばらしい話を持ってきた。

『真理』に挑む。『真理』に噛み付く。


 

トゥルーバイツ構成員 >  
『真理』とは、つまり、知識の探求の果てに、行き着くゴール。

そこへのショートカット。
それはすばらしい、千載一遇の好機。
 
成功率は1%有るかないか。
しかし、ここで手を伸ばさなければ、100%私は老衰で死ぬ。

トゥルーバイツ構成員 >  
『デバイス』の接続の準備はとうの昔に整っている。

それでも、ぎりぎりまでこうしているのは。
他の願いを持つ人がどう歩んだのかを識りたい。

この期に及んでも、知識への欲求は収まることはなかった。
あの人ははまだ生きているらしい。諦めたのだろうか。
ああ、気になる、気になって仕方がない。

トゥルーバイツ構成員 >  
どうして、諦めてしまったのだろう。
それも真理に挑んで1%に勝てば、わかることだろう。
しかし、負ければ……。

知識への欲求のおかげで、心残りばかりが増える。

1%にかけてここで死ぬか、数年以内に文字も読めなくなって死ぬか。
女は、最後の一歩を踏み出しかねている。

他の構成員の情報を追跡する端末は、殆ど動きを見せなくなった。

ご案内:「研究施設・夜」にバジルさんが現れました。
バジル > 「ボンソワール、マドモアゼル。」

いつの間にか、男がそこに立っていた。
そこにいたるまでの足音もなければ、センサーにさえ反応していない。
季節外れのロングコートで現れた男は、明らかに彼女を目当てにここにやってきたのだ。

「良い夜じゃあないかっ。
 今宵こんなところで、何を待っているのかな?」

男は朗らかな口調で、彼女に話しかけてきた。

トゥルーバイツ構成員 >  
「……誰よ」

ああ、準備は出来ていたのに。
デバイスは周囲に生体反応があると機能しない。
……いや、センサーに反応しない相手。であれば動くのだろうか?
こんな時でも、興味は止まらない。

「何を待っているのか?何も……
 いや……そうね。自分の決心かしら」

バジル > 「決心。」

ふむ、と男は僅か考えこむように俯いてから。
そのデバイスを、指さした。

「それ。
 そのやたらに怪しいそれを動かす…動かさないの瀬戸際で、キミは悩んでいる。そうだね?」

傍までやってくる。
この時ばかりは、足音がした。
興味深そうに、それを眺めている。

「ボクなら"まだ"怖くて使わないねっ。
 キミは…これのことをどれだけ知っているんだい?
 聞かせてほしいんだけれども、構わないかな?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「話が速くて助かるわね」

肯定の意を返す。

「これのこと?時間がないから手短にするわね」

特に警戒せずに『デバイス』を見せる。

「『窓』という小さな『門』を用いて、『真理』と呼ばれるものの声を聞く『デバイス』。
 周囲に人がいれば動かず、そして、あと15分ぐらいで動かなくなる」

そういって、別の端末の横に戻す。

バジル > 「ほぉ!真理!」

真理と聴くや、男は関心しきりな声を上げた。

「あと15分…もう時間がないわけだね。
 じゃあ、折角だ。その分キミから話を聞くことにしよう!うむっ、それがいい!」

両手を広げて、屈託ない笑みを見せた。
言っていることは、かなり強引なのだが。
彼女がそれを拒否しようとも、男はこう続けただろう。

「…キミは、真理に何を聴くつもりだったんだい?」

トゥルーバイツ構成員 >  
「『真理』に聞くもの?」

せっかくだから、と言う相手に、快く返事をする。
女は、識ることを求める人を見るのもまた好きだった。
もちろん、機を逃すつもりなどはないのだが。

「何もかも識りたい、ところだけど。
 そうねぇ……死ぬまでに全てを識る方法、かしら」

寿命を延ばす方法でもなく、真理が持つ知識全てでもなく。
あくまで女は方法を求める。自分で識るために。

バジル > 「…死ぬまでに全てを識る方法。」

その言葉を、復唱する。
同時に、非常に落胆したようにも聞こえる声色で。
男は、また一歩彼女へと近づく。

「……それ、研究者として本気で言っているのかい?
 君を突き動かすのは、全知を得るという目的だったのかな?」