2020/07/27 のログ
■トゥルーバイツ構成員 >
「……そうよ。がっかりさせたのなら、悪いわね。
私の時間はもうあまり残されていないの」
研究者としては、失格だろう。
だが、そもそも研究者になった理由も、
尽きない欲求を満たすのに都合がよかったから。
「全知を得る。まぁ、そうね。そうかも知れないわ。
そうすれば、心残り無く、死ねるじゃない」
■バジル > 「何を言っているんだい。」
少し語勢を強めた。
彼女のその言葉に、はっきりと否定の意を示すように。
「君は、教科書を見て、その演習問題を解いた程度で本気で満足できるのかい?
君がしようとしていることは、そんな教科書を得ようとすること…
本当にそれで、研究者として、満足できるのかい?」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……満足するしか、妥協するしかないじゃない。
もとより人ひとりができることなんて限られてるんだから。
そして、私は他の人より時間がないの。」
少し熱くなって、反論する。
「普通の人だって、本を読んで、それで学んで済ませる。
研究者だって、専門外の知識や過去の文献をひとつひとつなぞって実証していたら時間が足りないわ。
『真理』という本を、論文を読んで、満足する。いけないことかしら?」
■バジル > 「…不思議なことを言うね。というよりも…
自分の手で明かしたい、という言葉がキミから聞こえないのも不思議だ。」
さも不思議そうに、男は首を傾げた。
「キミは、これまで満足したことはないのかい?
既存の知識を吸収し、そこから新しい法則を見つけ、それを実証し…結果を得るその過程を、
キミは楽しめなかったのかな………」
とも思えば、男の声は同情…或いは憐みの感情を持つように。
「…だとすれば、それはとても悲しいことだね。
研究者に、時間なんて関係ないんだよ。
少なくとも、探究自体を楽しむ人達…とするならね。」
■トゥルーバイツ構成員 >
「知らないわよ。本番で失敗なんて、許されないんだから。」
問題には正しい答えがあって、間違えたら、撥ねられる。
間違いが許されるのは、学んでいるときだけ。
あの時、あの試験で、知らない問題がなければ、こんな事してなかったかも知れない。
「……私は、研究者失格よ。それでいいわ。
どうせ、全てを知れば必要なくなるんだし」
今も時間の流れが加速し続ける女は、時間の感覚が正しく掴めない。
──『デバイス』が光を失いつつ有ることに、まだ気付いていない。
■バジル > 「おやおやおやおやっ!
失敗だなんて、それは違うだろう?」
男はつい、口を挟んだ。
「本番で、大舞台で、一回限りのチャンスだって、
…それを逃したところで何だと言うのだい。現にキミはここに居る。
それだけで儲けものじゃあないかっ。」
この男は、彼女の事情を知らない。
「命があれば、何度だってやり直せる。
失敗して、落ち込んでしまっても、後は飛び上がるだけだとも。」
それでも、話を繋ごうとするのは。
その光を、失わせるためかもしれない。
「……失格だなんて、言うものじゃないよ。
ここまで来たんだ、もう少し…あがいてみてはいかがかな?」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……私は」
沈んだ調子で言葉を紡ぐ。
「一度の失敗で、完全に足を踏み外したの」
だから、間違えないために、ひたすら識った。
最初こそ親に応えるためだけど。
欲求の根源は、ここだったのかもしれない。
「もう、失敗したくない。失敗するのは、死ぬときだけ」
研究も、失敗しなさそうなのを選んで、失敗しないように必死に組み上げてきた。
もちろん、大きな成果は出せていない。
「そう思って、生きてきたのに……私は、間違ってた?」
■バジル > 「失敗とは、自ら命を絶った時だけさ。
…研究者が、おいそれと自分のやったことを失敗だなんて、卑下するんじゃあないよ。」
男は、彼女の事情を知らない。
「間違っていたっていい。
でも、それを間違いと認識し…正すことは、キミにしかできないだろう?
キミが生涯尽くして残した研究は、その結果は、まだ出ていないんだ。
これから幾らだって、修正できるとも。」
その言葉に、根拠もない。
「君が今まで積み上げてきたものを…
埃塗れで汚かったかもしれない…けれども!君が一生懸命に繋いで、紡いできたものを…
ここで全知なんて下らないもので潰してしまうのは、惜しいと思うのさ。」
この男の言葉は、探究とは何たるものか…
それを自分の中で積み上げてきた経験と言葉で、繋いでいるだけのものだろう。
「失敗じゃない、小さな躓きをたくさんしたまえ。
その中でこそ、成功が光るものなのだよ。
最初から成功ありきの物語なんて、読むに堪えない駄作だとも。」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……研究の道だって、
それで知識を得ながら食べていけるから、って理由で選んだものだわ」
でも、そうだ。
知らないものを知るという経験は心地いいものだったはずだ。
「私が紡いできたものが、惜しい……。初めて言われた気がする」
見てきた本の中に、失敗によって得られた知識というものも、沢山あった。
愚かしいことだ、と思っていた。こうはなりたくないと思っていた。
目を背けていた。
女は、姿勢を直す。
「……私は、おそらく、5年ぐらいしか生きられません。
多分、あなたよりも先に死ぬと思います。」
目をじっと見る。
「もちろん『真理』に挑めばすぐに終わると思いますけど、それをしないとして。
私が紡ぐもの……見届けてくれますか?」
■バジル > 辺りを、きょろ、きょろ。
誰もいないことを確認してから、そっと耳打ちする。
「……これは秘密なのだがね?
僕より先に死ぬ人は、周りにごまんといたとも。
今更、先立たれること自体に動揺はないよ。」
顔を離す。穏やかな表情で、言葉をつづけた。
「執筆したまえ、君の生涯得てきたもの、これから得るものを綴った論文を。
自叙伝でもいい。この際誤字脱字には目を瞑ろう。
おっと、詳細な引用元の記載は必要ないよ。そんなものに時間を囚われるのは勿体ないだろう?」
そうして一つ一つ、指を折る様に、彼女に頼みごとをする。
「ボクは、キミの残すものを視る瞬間が楽しみになった。
最後まで、研究者として、生きたキミの想いの丈を!ボクは識りたい。」
■トゥルーバイツ構成員 >
「……長生きされてるんですね」
小さな声で反応する。
「……わかりました。やってみます」
誤字脱字。これも女にとっては失敗の1つ。
「なにかしら、成果を、残します。
仮に失敗の成果でも、誰かの役に……」
自分もその知識を吸収して今があるのだから。
「そうでなくとも、貴方の役には立てそうですし。
……まぁ、老いが先にきて、それすら失敗したら……
その時は許してもらえますよね」
できる、とは言えないから、先に許しを求める。
「……だから、これはもう……っと。
どうやら熱くなりすぎたみたいです」
すっかり機能を失ったデバイスを手に取って、苦笑いを浮かべた。
■バジル > 「…それは悲しいことだね。
でも、キミがよいと思ったのなら、それでいいじゃないか。
自分の力でやりきったと思うことが肝要だとも。」
この先、彼女はそれすら残せずいなくなるかもしれない。
その可能性は否定できない。だから、その前にやり切ることだと告げておく。
「うむ、うむ。少しお話をと思ったが…存外時間が過ぎてしまったようだ。
……もう、僕も"それ"も、必要はないだろう?」
すっかり光が失せてしまった、デバイス。
ここに来て、初めて安堵したような、そんな穏やかな笑みを浮かべたように見えただろう。
「……じゃあ、最後に。
ちょっと失礼…目をよく見せて、くれたまえ。」
その壮年に見える女性の両頬に、そっ…と両手を伸ばす。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……私自身がそう思うこと……そうですね」
全知は諦めた。
もとより、『人ひとりができることなんて限られてる』のだから。
それは、自分で言い放つぐらいにはよく識っているのだから。
「"これ"はそうですね。
でも、貴方は必要ですよ。見てもらわなくては」
デバイスを机に戻して。
「……なんでしょうか?」
茶色の瞳が、相手の目を見据える。
■バジル > 「……ふむ。」
彼女の高さに、視線を合わせる。
嫋やかな髪がさらりと流れて、
絹のようにしなやかで瑞々しい両手が、彼女の両頬を柔らかく捉えた。
それは、僅かに冷たいと思えるかもしれない。
「…………ふむ、ふむ……」
顔と顔の距離を、狭める。
額を合わせられる程近く、息遣いさえ感じるかもしれないくらいに。
そうして間近に迫った眼は、人のものにしては、異質極まる黄色い蛇のそれ。
…瞬き一つ見せず彼女の瞳を捉えたそれは、どこか深淵ささえ感じるかもしれない。
「……よし。いい眼をするようになったじゃないか。」
暫くそうして見つめ合ってから、するりと抜けるように離れた。
■トゥルーバイツ構成員 >
「……」
冷たい手、人ならざる眼、
文字通り蛇に睨まれたような感じに、ペースを呑まれ、唾を飲む。
目をそらすとよくなさそうで、じっと見返していた。
やがてそれは離れていく。
「……そうでしょうか?」
異能を使われるのかもと思ったが、そうでもないようだ。
緊張したのか、胸をなでおろした。
■バジル > 「少なくとも、会った時よりは未来を視るようになったとも。
…事実、そうだろう?」
ふすんと小さく息を吐いて。
「おっと、邪視の類は用いていないよ?そこは安心したまえ。」
どこか緊張しているように見えたから、そう付け足して。
「……では、そろそろボクも帰るとしよう。
最後に聞きたいこととか、あったりはしないかな?」
すい…と、流れるように彼女から離れていく。
その間に質問があれば、答えるつもりのようだ。
■トゥルーバイツ構成員 >
「未来を……そうかも知れませんね」
少なくとも、目をそらしていたのは事実。
指摘されれば、頷く。
「そうですね。特に……。
あ、名前……識ってますけど、聞いても良いでしょうか、先生?」
■バジル > 「おっと。これはいけないねっ!
自己紹介がまだ、で………あれ、知っているのかい?
意地が悪いようで、探究心に溢れているのだねっ。」
ぴたりと歩みを止めて、振り向いた。
答えるつもりは、あるようだ。
「……敢えてそう聞くのなら、答えてあげるが世の情けというやつかな。
ボクは………」
少し、間を空けた。
迷っているのか、あるいは…
「ボクの名前は、バジレウス。この部分は、オフレコで頼むよ?
公的な名前は学園の職員名簿でも調べれば、幾らでも出てくるだろうしねっ。」
そう、告げる。
彼女の名前は、こちらからは聞かなかった。彼女と同じように、必要がなかったから。
「では、今度こそお別れだ。
キミの作品を、楽しみにしているのだよ。
オルボワール、マドモアゼル。」
ひらひらと手を振りながら、男は部屋から出ていく。
最後まで、飄々とした態度は崩すことはなかった。
ご案内:「研究施設・夜」からバジルさんが去りました。
■トゥルーバイツ構成員 >
「もちろん。研究者ですから」
自分で失格と言っておきながら。
くすりと笑う。
「……はい。
今日はどうもありがとうざいました」
深く頭を下げて、去っていく姿を見送る。
結局のところ、踏ん切りがつかなかったのは、まだまだ未練があったことにほかならず。
女は、デバイスが動かなくなった成り行きとはいえ、『真理』に頼らないことを『選択』した。
残り短い人生では有るが、一人の人間として何かを残す。
届かなかったとしても、見届けてくれる人がいる。
ちょっとした失敗はもう怖れない。目をつぶってくれるのだから、自分もそうする。
失敗は成功のなんとやら、それも識っているから。
これからも、命の限り"新しい"知識を探求しつづけるのだろう。
ご案内:「研究施設・夜」からトゥルーバイツ構成員さんが去りました。