2020/09/14 のログ
■ダリウス >
男の言葉に応えるように、部屋の中のコンピュータがそれぞれ明滅する
…中でも一際、慌てるように明滅を繰り返すものもあった
「──ああいや、あの事件自体は非常に有意義なものだったよ」
背をゆっくりと戻し、珈琲を味わう
うん、安い豆だけど良い味と香りだ
「あの公安委員の彼女の異能、ガウス・ブレインは実に、
対外的に氷架の異能を制御するのに向いていたからね。
氷架はまだまだ、自分の異能の力を完全に制御はできていない」
部屋中のコンピュータは、男の次の言葉を待つように沈黙する
■ダリウス >
「惜しむべきは事件の主犯であるその彼女が、氷架の異能の底を見誤ってしまったこと」
眼鏡の奥の青い瞳が薄く細まる
「炎の巨人が現れ薬物捜査研究所を含む研究区の一部が壊滅」
「そんな程度の規模の力だという想定の浅さが、非常に勿体なかった」
静かに、コンピューター群は明滅をはじめる
■ダリウス >
「異能・数列解析<ガウス・ブレイン>のデータは入手済みだからね。
可能ならファミリアに投影してもう一度あの事件を再現することは容易い」
「まぁ、演算しきれずに自壊させてしまうだろうけどね」
困ったように笑って、大げさに肩を竦めてみせる
そんな男の挙動を見守るように、コンピュータ群は再び沈黙し…
「氷架の異能が本当にラストステージへ至ったなら、あの程度の被害では済んでいないからね。
あんな程度では核攻撃の一撃にすら劣る」
「そんなハズはない。そうであれば、僕の研究を進める意味すら薄れてしまう」
もう一度、眼鏡の位置を直す
「炎の巨人事件のデータが必要なのは、焼け消えた薬物捜査研究所…
『暴走薬』のほうだよ。西園寺偲が開発したという、ね」
■ダリウス >
「その薬のデータが欲しい。島内に展開されているファミリア全てを使おう
風紀委員会、公安委員会、両方のデータベースから炎の巨人事件に関する資料を余すことなく集めて欲しい」
椅子を引き、立ち上がる
それに応え、コンピュータ群は明滅し、動作を高速化させてゆく
「これまで閲覧したデータの中では西園寺偲が最初に暴走薬を使用したのは落第街、
風紀委員であるレイチェル・ラムレイからの逃走を図った時だ。
故に集める情報は、それ前後のものを重点的に…」
「よろしくね。みんな」
■ダリウス >
「あの頃とは公安も風紀も事情が変わっているだろうから気をつけて。
万が一にも何かを勘ぐられるようなことがあったら、即座に自壊コードを使うように」
珈琲を注ぎ足しながら、穏やかな声での、やりとり
「暴走薬を上手に改良できれば、もう少し色々な実験が捗るかもしれないからね」
室長のダリウスはどこまでも穏やかに、笑顔を湛えたままだった
■ダリウス >
「氷架の肉体的な限界はどうにもならないから、そうだね。
実際に実験する場合はファミリアに異能のデータを投影してのシミュレーションになるだろうけど…」
「君たちなら壊れても問題はないからね。存分に実験ができる。
制御薬と組み合わせて、肉体的な限界を突破できればあるいは…」
コーヒーを煽り、薄暗い部屋の天井を仰ぎ見る
その見据える先は、天上にいるだろう何か、なのか
「あるいは、僕の研究の終わりを見れるかもしれない」
■ダリウス >
部屋の中、自分のデスクの上にある写真立てには
今よりも少し幼い氷架の姿と、少しわかい自分と、余り変わらない妻の姿
自身の研究のターニングポイントを迎える、ほんの少し前の写真だ
「──君たちのおかげだよ。本当にありがとう」
優しげな声と視線を写真へと向けて、心からの言葉を呟く
そこに何一つ、嘘偽りはない
科学者には…科学の道を邁進すると選んだからには、最終目標がある
そう、それは説明のつかないものなどない、
全ては解き明かすことのできる理が存在する、という──奇跡の拒絶
──神の否定、である
ご案内:「特殊異能研究所」からダリウスさんが去りました。