2020/09/27 のログ
ご案内:「廃研究施設」にアストロさんが現れました。
アストロ >  
此処は廃研究施設。地上部分に人の気配はない。
そう、偽装されているだけだ。予測は確信に変わった。

施設の前に立つ少女は、水たまりの上にいる。

水面を経由して、この建物の地下の方に水の動きを感知した。
転移しようと思えば出来そうな水もある。

ご案内:「廃研究施設」にクロロさんが現れました。
アストロ >  
魔術的な防御も施されているのか、覆い隠されていて感知できない部分もある。
見える範囲の配管を調べて、建物の構造を読み取っていく。

「……」

この液体は……培養槽だろうか。
何らかが内側に封じられているようだ。良からぬ者の予感はする。
水としては純度の低いものであるため、その中身までは読み取れない。

「……」

こっちの水槽は……ただの水だ。こっちは利用できそうだ。
何に使う水だろうか。配管を辿れば……ああ、冷却用水か。
どうやら発電設備も中にあるらしい。電気を封じる手は使えない。

クロロ >  
研究区。此の島の北側。
クロロにとっては忌々しい場所だ。
別に自分が目が覚めたのは此処ではなく、落第街だが
如何にも研究者と言うものには、いい思い出が無かった。
では、何故こんな場所に訪れたのか。
……半分は仕事、半分は"虫の知らせ"だ。
手元に握った仮面をクルクル指先で回しながら闊歩している最中
その脚は気づけば、慣れた気配の方へと向いていた。
自分にとっては嫌な水気。水たまりの中央に佇む少女の姿を目視出来た。

「…………」

敢えて、声は掛けなかった。
集中しているのを邪魔したくは無かった。
だから、黙って事の成り行きを水面に触れないように見守っていた。

アストロ >  
「ッ……!」

火の気配。集中しているが故に、それが何なのかを感づく前に、思わず身構える。
手には何かを握っているようにみえるが、その形は見えない。

                 ・・・・
「って、なんだ、クロロ君か。こんな何もないとこに何用?」

構えを解いた少女は、笑っていない。

クロロ >  
「お前こそ何してンだ、アストロ。
 何もない場所で、ンな大掛かりな事すンのか?」

何時もと違う雰囲気なのは、火を見るより明らかだ。
訝しげに眉を顰め、金色の瞳は少女を見やる。
何をしていたか、まではわからない。
だが、彼女に限って"何もしていない"なんてことは、ありえない。

「何もねェ、な。コレが?よく知ッてンな。つか、何持ッてンだ?」

視線を少女の手元へと落とし、それを見やった。

アストロ >  
「何って、下調べだけど」

これ以上は言う必要もない。伝わらなければ、それまでだ。
相手は阿呆ではない。伝わると思ってはいるのだが。

「そして、これは……切り札だよ」

軽く空を切るように振るうと、風切り音と、水しぶきが少し飛ぶ。
魔術的に光の屈折をいじって見えなくしているが、
それが刃物であるとわかるかも知れない。

「それで?私の質問の答えは?」

鋭い目つきの金が、金を見据える。

クロロ >  
「……で、下調べの成果は?」

大よその事は理解した。多分、彼女と因縁深い研究所の事か。
だとすれば、此処が連中のいる場所だろうか。
だが、彼女は"何もない"と言った。
言葉のままに鵜呑みにすれば、ここはもぬけの殻と言う事になるが……。

「……、……何時になくお前、キマッてンな。ガキが持つモンでもねェ」

文字通りの懐刀か。いや、わからない。
魔術的なもので姿を見えなくしている獲物か。
深く聞くつもりは無い。ただ、何時になくその態度は攻撃的。
それに気圧される事も無く、平然と手に持った仮面を軽く浮かしたりと弄び、涼しい顔をしていた。

「オレ様は半分は仕事だよ。"ジョーホーシューシュー"だ」

弄んでいた仮面を指先で回転させ、ポケットにねじ込んだ。
何時もと変わらない。煌々と輝く金がアストロを見下ろしている。

アストロ >  
「6割」

ここは敵地。しかも自分の感覚を忍ばせている。
察知されれば無駄になってしまう可能性もある。
いくら気がしれた相手だろうと、油断はしない。

「……こればかりは遊びじゃないからね」

見えない形とはいえ、切り札を表に出している。
不意の自体にも対応できるように。
それだけ全力で事に当たっているのだ。

「そう、それじゃ、仕事を続けていいよ。
 こっちの情報はあとで分けてあげるから」

仮面なんて付ける趣味あったのかな、とは思うが。

クロロ >  
「ほォ、中々じゃンよ」

思ったよりもスムーズに進んでいるようだ。
何時から此処にいたかはわからないが
6割もとれていれば、十分だろう。

「ソレもそーだな。……アー、どーせ此処も調べる気でいたし
 ついでだ、手伝わせろよ。オレ様だッて、一通り色々使えンだぜ?」

職務放棄と言う訳では無いが
気に掛けた相手をこのまま放っておくのも気がかりだ。
それに、後で情報を分けてもらうよりも、こっちで手伝うついでに確かめたい事もある。
腐っても魔術師の端くれ、探知位は使える。

「つーか、此の研究所……もしかして、ケッコー広かッたりすンの?」

アストロ >  
「そうでもない。肝心な所は魔術で阻害されてて見えない」

6割は面積であり、各設備を重み付けしてみれば4割も行っていない。
破ろうと思えば破れる魔術ではあるが……その選択はできない。

「別にいいけど、干渉して感づかれるかも知れないから気をつけてね。
 折角のチャンスが台無しになったら、いくらクロロ君でも許さないから」

視線をを外し、集中する。
違う属性の気配を考慮して、魔術を最初から綿密に組み直す。
廃施設に見える敷地監視カメラも多数ある。それが魔術を読み取らないとも限らない。
それにすら気づかれてはならないのだ。

「地上部分と同じぐらいはある」

見える施設は2階建て。それなりに広い。

クロロ >  
「……流石にそうトントンビョーシッてワケにはいかねェか」

流石にそう言う連中の守りは硬い。
常世学園、と言うよりは財団のお膝元だからか
或いは余程見られたくない事をしているのかはわからないが
思ったよりも難航してそうだ。気だるそうに後頭部を掻いた。

「ンなヘマするかよ、オレ様を誰だと思ッてやがる」

確かに綿密な行動は面倒臭がるが、出来ない訳では無い。
普段の印象ならそんなものか。彼女は……水を媒介にして探っているようだ。
監視カメラに見つからずに、魔術阻害にも"バレないように"動く。
……まずは、確認だ。

「広さは大体わかッた。阻害魔術の強度と、読めなかッた場所はどの辺だ?」

「それと……お前、なンだ。怖いものとかある?」

また突拍子の無い質問をしたが、表情は真剣だった。

アストロ >  
「出来ないと思ってるわけじゃないよ」

……会話しながらではやはり最大の精度には出来ないか。
ギリギリを攻めるのはやめておこう。

「昔牢ががあった区画、それから最奥。
 発電設備はまだ見つけられてない。それから入り口」

目を閉じる。周囲の気配にも気を巡らせる。
接近するものがあれば、対処しなければならないから。

防護魔術は例えるなら回転する網。突破しようと糸を伸ばせば絡まることだろう。
見せないことよりも、侵入を検知するためのもののようだ。

「怖いもの?別に思い浮かばないけど」

目を閉じたまま答える。

クロロ >  
「出来てねェなら同じだろ。慎重になッてる手前、一人で強がンなよ」

何れ不可能では無いだろうけど、これは相当時間がかかりそうだ。
相当集中しているのは見ればわかる。
障害となる魔術も動く侵入検知となれば、中々厄介だ。
針穴に糸を通すよりも繊細だ。……だとすれば、"アイツ"か。
記憶にある深淵の知識。記憶は全て、定かではない。
"使い方を知っているだけ"だ。フルで使うには、ここは"狭い"。
彼女は特に思い浮かばないと言った。
……一応、信じておくか。神妙な顔つきのまま、両腕を組んだ。

「……誰にもバレずに、1……いや、2ヵ所ぐれーなら、多分見つけられる……と、思う」

若干歯切れの悪い言い方だが、その言葉に"嘘"はなかった。

「お前にとって重要なのは何処だ?」

アストロ >  
「ちがう。クロロ君が出来ないと思ってるわけじゃないって話」

相変わらず集中を乱される。
概ねマッピングは終えたから、失敗を防ぐべく一旦止めることにする。

「なにか策があるんだ」

水に関わらない魔術も使えないことはないが、効率が悪い。
知らない魔術もまだまだ沢山ある。

「そうだね……入り口と。
 生き物が検知できるなら牢を、
 そうじゃなければ相手の心臓部である発電を、
 最奥はまぁ……なにもないかもしれないからパス」

クロロ >  
「……そりゃ、悪かッたな」

少し言い過ぎたか、ばつが悪そうに自身の首を撫でた。
その辺りの失態は行動で示すとしよう。
まずは、深呼吸。金色の双眸が、施設の方へと向いた。

「オレ様に"見れないものはない"が……一つだけ頼みがある」

宙で指先が大きく円を描く。
もう一度、呼吸を整える。
既に、余り顔色がいいとは言えない。
正直、"あれ"の手は借りるな、と本能が警告している。
だが、背に腹は代えられない。

「オレ様にちょッとでもおかしい所が見えたら、"殺すつもりで殴れ"」

彼女の言葉を聞けば、それだけ言って強く目を見開いた。


『淀みの底<Abyss down>』

詠唱が、始まる。

『次元の角<Dimension acute angle>』

何時もと違う声だった。
何故か、鼓膜を揺らすクロロの声には"ノイズ"のような雑音が混じる。

『悪意の大君主<Malice lord>』

辺りに嫌な静けさが漂う。
此の世にないとは言えない、あらゆる"角"から"視線"が蔓延る。
それは、明確な悪意と薄ら寒さを以て、クロロとアストロを覗いている。

『外なる一柱<Outer god>』

呼吸が、乱れる。自分でも理解している。
自分でも触れてはいけない深淵を呼び起こしている事を。
自分の中の白紙の記憶が、何かが警告している。
それでも、今更止める気は無い。
風すら吹かない静けさのまま、悪意の視線がクロロへと集中した。

『招来<Call──さァ、オレ様の呼び声に従え──>』

見開いていた右目が、赤く、赤く、血のように赤く、染まっていく……────。

クロロ >  
 
         『──────猟犬の王<Mh'ithrha>』
 
 

クロロ >  
その名を、呼んだ。赤く染まった右目の瞳孔が、獣のように細くなる。
瞬間、クロロから何かが飛び出した。本当に一瞬だった。
もし、それを視認出来たのであれば、かろうじでそれが"狼"の姿をしていたのは理解出来るだろう。
但し、皮は腐り果て、悪臭を撒き散らし、針のような舌とかぎづめを持った不浄の存在。
その精神が人に近しいのであれば、本能的に"居てはいけないもの"だと理解出来るはずだ。
"ソレ"は施設の"角"へと消えただろう。クロロは膝を付き、頭を抑えた。

膨大な情報が、脳内で渦巻く強い頭痛に声なき嗚咽を上げ
みっともなく舌を出し、何も出ない真似た口内から見えない何かを吐き出すように、嗚咽を繰り返す。
……そのクロロの右目は、ある"存在"とリンクしている。
鋭角に潜む、次元の悪意。それを統括する者。
魔術の網には恐らく引っかからない。文字通り、違う"次元"から施設の中を見ている。
向こうにも"同じ力"を行使できる連中がいたらわからないが、クロロが知る限り
この"悪意"を探知するのであれば、同じ別次元にいなければまず誰も探知は出来ないだろう。
目まぐるしく移動する"ソレ"を操り、施設の中を直接的にみるという算段だ。

「ッ……まずは、入口……と、牢、だな……?発電施設は……」

集中力を切らすな、魔力を巡らせろ。
これは、呼び出したものを"縛る鎖"だ。
アストロの望むものを、映し出せ。
さて、その目には一体何が映る────?

アストロ >  
「……そういうのを使うんだ。分かった」

その言葉にも怖じることはない。
自分だって使うものだ。どういうものかは知っているが──

「ッ……」

"次元の角"と聞いた時、反射的に自分を水球で覆った。
魔術としては知らないが、思い当たる存在はある。即席で出来る対策を行ったのだ。
視線は感じる。まだ潜っていたら、不意の事態に大きな失敗をしていたかも知れない。

「……」

飛び出したものは、見なかった。見る必要がなかった。知識として持っているから。
それは"使役"できるものではない。尋常じゃない負担がかかっていることだろう。
しかしここで止めたところで、呼び出すのに使った"コスト"は取り戻せない。
彼のやったことを無駄には出来ないだろう。

アストロは静観を選択した。

まず入り口だ。
正面に見えているものは偽物で、真の入り口は正反対側にある。
正反対の入り口も魔力の網が張り巡らされているようで、
普通に侵入を試みれば当然のように察知されることだろう。入り口の情報は、これだけだ。

そして牢。
10ある部屋に6人ほどの人間の姿が一人ずつ居るのが確認できる。
男女バラバラ、子供から青年まで。部屋の入口には3桁の数字が書かれている。

そして発電施設を探すのだろうが──

「欲張らなくていい。コントロールを失ったらもっと困るから」

そこでアストロの声が割り込む。水球はすでに切っている。

アストロ >  

そして、牢に居る子供の一人と視線が合ったような気がする。

 

クロロ >  
「……ッ、カッ……!」

この体は、飽く迄炎が人の形を模しているだけだ。
人間としての機能はほとんどない。
機能を呼び戻すには、"裏技"位しかないが、それでも尋常ない程"持っていかれる"。
下っ端ではない、確実性を期すために王を呼んだ。
それが如何なる存在かわかっていようとも
彼女の為なら、身を削る位安いものだ。
奥歯を食いしばり、渦巻く魔力を必死に制御する。

「────ッ……ゥ……」

見えてきた。入口はこっちじゃない、向こう側。
魔力の網も、当然ある。牢屋の方には老若男女。
6人ぐらいか?よくわからない。発電施設は────……。

「……!」

アストロの声が、意識に割り込む。
同時に、子どもと視線が合った。

『────退散!<カエレ!>』

それは、一種の反射だった。
指先で空を切り、退散の節を口にする。
視界のリンクが切れ、周囲に普段通りの静けさが戻ってきた。
もう、角に潜む悪意は何処にもない。

「ハッ……!ハッ……!」

息を切りながら、其の場に膝を付いた。
あの子供は、一体何だったんだ。
ともかく、彼女に報告しよう。

「……入口は、向こう側。当然防護魔術も貼られてたな。
 牢屋もあッたぞ。ガキから男まで色々いたわ。なンか、三桁暗い数字あッたけど……」

「……一人、ガキと目が合ッた。まさか、バレたのか……?」

アストロ >  
「……無茶しちゃって」

しかしそれを責めるつもりはない。それ以上は何も言わなかった。
"帰ってきた"クロロをじっと見る。相変わらず笑っていない。

「反対側……?正面はフェイクだと思ったけど、そうか……」

むしろ単純すぎるとまで思うが、まぁ場所は重要ではないのだろう。
当然のようにセキュリティは張り巡らされているらしい。
正面からも裏からも堂々と入る気はないのだが、経路の存在は把握しておきたい。

「そう、6人……恐らく全部被検体だね。私にも番号があった」

まだ研究は続いているらしい。少しだけ悲しい気持ちになった。
しかし、6人。自分の時は4人だったが、安定した個体が増えているのだろうか。
そうなれば厄介だ。敵には回したくないが……

「目が合った……?アレが見えるの?──偶然……とは思わないほうが良いか」

にわかには信じがたい。
信じがたいが、その研究内容を鑑みれば、どんなのを持っていてもおかしくはない。

「少しだけ、話してあげる」

クロロ >  
呼吸を、整える。酸素を送り込まないと、"鎮火"する。
送りすぎもだめだ。人の形を保てない。
ゆっくり、ゆっくり、呼吸を整え、大きく吐息一つ。

「ウルセーな。テメェがマジになッてンだ。オレ様だッて、マジになる」

そうでなきゃ、"スジ"が通らない。
彼女が本気なら、それに手を貸すし
その道が危うければきっと正し、助言もする。
右目を片手で抑えながら、アストロを見やった。
未だに右目が妙に痛む。痛み何て感じない体だったのに、嫌な話だ。

「……嫌な後輩が出来ちまッたッて事か。連中は、敵だと見た方が良いのか?
 それとも、お前みたいに全員反抗心とかもッてンのか?」

一応、聞くだけは聞いておいた。
何処まで進んでいるかは知らないが、クロロが研究員の立場なら
"洗脳"でも何でもして、手ごまにしておいた方が安全だ。
敵の数は少ない方が良い。気だるそうに、溜息を吐いた。

「冗談キツいな、バレねェようにトップ呼ンだのによ……」

偶然であってほしかった。
仮にも"神"とも言える存在だ。完全ではないとは言え
それを見破られるとは思いたくはない。

「…………」

アストロの言葉に、耳を傾ける。
聞けば聞くほど、眉間に皺が寄る。

「気に入らねェな」

憤りを吐き捨てた。喧嘩するには、十分な理由だ。

「……なァ、アストロ。お前はその、"外で売られたガキ"なンか?」

アストロ >  
「……ありがとね」

小さくつぶやいた。

「そんなとこだね。敵かどうかは……どうだろうね。
 私もかなり昔のだから、何処までいってるかわからない。
 これだけ魔術をつかってる所だから操り人形の可能性もある」

コントロール出来ないものが兵器として成立するとは考えにくい。
自分は失敗作だったので、それを受けていないだけの可能性が高い。

「まぁ、何であるかが分かったとも限らない」

何かが見ている、という感覚は別におかしいものではない。
そもそも、アレを直視したら、平気では居られないはずだ。
それで相手の手駒が減ってると助かるが、複雑な気持ちにもなる。

「私は孤児院で買われたものだよ」

クロロ >  
ニヤリと口角が釣り上がった。

「ヘッ、何時になくしおらしいじゃねェか。その方が可愛げがあるぜ?」

なんて、からかい言葉を言ってやった。
ゆっくりと立ち上がれば、衣服についた埃を払う。

「ま、兵器としちゃそうだろうよ。オレ様だッてそうする」

奴等の事を許容した訳では無い。クロロは魔術師だ。
"効率"を考えれば当然行き着く思考だ。
軽く空を仰げば、ふぅーと一息吐いてアストロを見やった。

「それもそーか。とりあえず、後でメンドーにならなきゃいいか」

軽く伸びれば、何時ものように手を伸ばした。
水面に浮かぶ少女。そこは、決して自分が立ち入れないような場所。
深淵から、生ける炎が手を伸ばす。

「そーか。ま、その辺の詳しいのは後で聞かせてもらうけどよ……。
 この辺は、オレ様が好きで協力してる事だから何も言いやしねェ。
 けどな、"ケジメ"付けたら、あとは自由なンだ。後ろ暗い事に囚われンなよ?」

お互い決して、いい御身分とは言えない。
それでも、彼女には、彼女にも、過去に囚われるような真似だけはしてほしくなかった。
だから、何度でも手を伸ばす。例え光の差さないような場所からでも
彼女の"先"へとなる、暗闇を照らす"篝火"に成ると信じてるから。

「行こうぜ、"リルム"。今日もベッド貸してやるよ」

敢えて、その名で呼んだ。
今日も歓楽街のホテルが待っている。

アストロ >  
「……そこは私らしくないって言って欲しいな」

はぁ、とため息をつく。

「まぁ、可能性は捨てないようにするとして」

意識の片隅には置いておかねばなるまい。
失敗する要素は極力避けなくてはならないのだ。

「気持ちはありがたいけど……どうだかね。
 此処が本体だとは限らないんだから」

そもそもここが壊滅しても、繋がっている組織が関わってこないとも限らない。
何処までも過去は追ってくるものである。

そして、伸ばされた手を取ろうとして。




「バカっ、ここでその名前を──」



言葉が終わる前に、少女の姿は水たまりに引き込まれた。

クロロ >  
 
「……ハ?」

思わず、素っ頓狂な声が漏れた。
何が起きたか一瞬わからない。
ただ、慌てて手を伸ばした。その水面に手が触れ
音を立てて消火されて消え失せても
水面を見下ろす、金色の瞳が震えていた。

「オイ、オイ!?アストロ!?リルム!?オイッ!!」

声を張り上げても、水面に映るは波紋ばかり。
虚しさだけが、響き渡った──────。

ご案内:「廃研究施設」からアストロさんが去りました。
ご案内:「廃研究施設」からクロロさんが去りました。