2021/02/03 のログ
ご案内:「深淵より呼びて」に松葉 雷覇さんが現れました。
松葉 雷覇 >  
 
     ある人は言った。それは『呪い』である、と。
 
 

松葉 雷覇 >  
明るい照明が室内を照らす。
白を基準とした空間の明るさを彩る、無機質な研究器材たち。
浮かぶビーカーは己の異能の応用。この部屋の重力は実に不規則だ。
とは言え、いる分には一切の問題は無い。
此処は、異能学会。松葉雷覇の研究私室だ。
質素な黒椅子に腰を下ろし、温和な微笑みをモニターへと向けていた。
モニターに羅列された文字を見て、雷覇は安堵の吐息を漏らす。

「そうですか。凛霞さんの目が覚めましたか。それはとても喜ばしい事です。」

目だった後遺症もないと、文字は伝えてくれる。
その安堵に、心配に、心遣いに、一切の嘘はない。
"例え己がした事であっても、寧ろしでかしたからこそ心配していた"。

松葉 雷覇 >  
「……ふむ……。」

退院には時間がかかるそうだ。
それ位の"負荷"は掛けた。そう言う"実験"だった。
無論、ただで人を傷つける程良心を腐らせた覚えは無い。
数多くの理由の中には、"時間稼ぎ"の意味もあった。
行動を起こす前の、最後の"下準備"。

「ええ、凛霞さんは充分役割を果たしてくれました。」

雷覇は静かに、椅子から立ち上がる。

「是非ともまた、お会いしたい。会って、お礼がしたいですね……。」

感無量、そんな雰囲気を漂わせる言動だった。
己の胸元を白い指先が撫で、氷のように冷たい青の眼差しが、モニターを一瞥する。
その眼差しに射抜かれたように、モニターが小さな音を立ててひび割れた。
僅かなショート音、機械は完全に沈黙した。

松葉 雷覇 >  
────……かつて、世界は大きな転機を迎えた。
『大変容』と呼ばれる大きな転機。
全ての『幻想』は『現実』へと変わった。
歴史の『裏側』が『表側』へと裏側った。
人の『無能』は『異能』へと変化していった。
だが、『完全』ではない。

「…………」

『大変容』の"証明"は、確立されていない。
此れが我々人類にもたらしたものの意味。

「……ある者は異邦の旅人。ある者は元より地球の移住者。ある者は星を跨ぐ旅行者……。」

「『大変容』は、多くのものをもたらしました。
 此の"異能"もその一部でしょう。……ですが……。」

正面に翳した手の向こう側、ぽっかりと黒い穴が開いた。
光さえ吸い込みそうな、恐ろしくも暗い"深淵"。

「異能(コレ)を"進化"と呼ぶべきでしょうか?」

深淵に、科学者は問う。

松葉 雷覇 >  
「多くの人々が、異能により賜った"才能"と見るべきでしょう。
 多くの人々が、異能により賜った"病気"と見るべきでしょう。」

海のように深い青は、静かに深淵を覗く。

「……ある者は、これを『己の一部』と言いました。」

……逞しき者。

「……ある者は、これを『異能疾患』と言いました。」

……嘆く者。

「……ある者は、これを『呪い』だと言いました。」

……憎む者。

「まだ証明できない事象が多すぎますねぇ、ですが……これは"希望"の一歩です。」

既に一つの可能性は見つけた。
何時の間にか手元に握られていた、筒状の青銅。
くるりと手を回せば、手品のように消えてしまう。

「……アナタなら……。」

松葉 雷覇 >  
「どう、解き明かしますか?この不安定な『命題』を。」

雷覇は振り返り、訪ねた。
そこには誰もいない。
ただ、その視線は確かに"誰か"を、"向こう側"を見ていた。
その問いは、或いはこれから立ちふさがる者達への────…。

「さて、行きましょうか。此処にいては、皆さんに迷惑が掛かります。」

「私のあるべき場所へ……─────。」

避忌すべき深淵の中に、雷覇は躊躇なく足を踏み入れた。

……白の空間には、何も残らない。
彼のいた痕跡も、機材も。
残されたのは、割れたモニター唯一つ。

松葉 雷覇 >  
 
            『命題:私の描いた数式』
 
 

松葉 雷覇 >  
 
            『南極×告発者×異界』
 
 

松葉 雷覇 >  
 
            『黙示の実行者』
 
 

松葉 雷覇 >  
ひび割れたモニターには唯一残されたメッセージ。
これだけを残し、松葉 雷覇は姿を消した。
風紀委員の証言により、彼自身の証言によって違反組織所属者が明るみに出た結果
松葉 雷覇は、異能学会より除名された。
その行き先は誰も知らない。

松葉 雷覇 >  
──────……然るべき時、深淵はまた訪れるだろう。

ご案内:「深淵より呼びて」から松葉 雷覇さんが去りました。