2021/10/14 のログ
ご案内:「研究施設群」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
研究施設が立ち並ぶ区画、その建物のひとつ。

長時間の診察、検査、実験、及びそれらによって
確認された異能と体質が齎す実害の軽減、制限の
措置を終えてロビーで書面に目を通す少女が1名。

「うわ、長ぃな……」

今までも散々お世話になった施設だが、今回は
異能と体質の変容があったため、精密な検査が
執り行われた。普段は用紙2〜3枚で終わる筈の
検査結果はその倍近い文章量になっている。

文字を読むこと自体は嫌いではなく、どちらかと
言えば好きな部類に入ると思う。だがデメリットの
強い異能は得てして検査にも負担がかかるものだ。
黛薫も例外ではなく、長時間の検査で疲弊した後に
長文を渡されればげんなりするのも無理のないこと。

黛 薫 >  
まず、異能の挙動と制限措置について。

黛薫の異能は『視線過敏』として登録されていた。
他者の視線を触覚で受け取り、込められた感情が
感触に影響を与えるというもの。

他者からの無自覚、無遠慮な接触に晒され続ける
この異能は極めて大きい精神的負担の原因となる。
事実、黛薫はそれが原因で慢性的な心因性幻触に
悩まされる羽目になった。

しかし常世学園入学当時、この異能に対する
制限、封印措置は行われなかった。

というのも、黛薫は異能に対する理解度が低い
地域の出身であり、異能を理由にした特別扱いは
不公平であるという価値観の中で育っていたから。

入学に際して検査を受けたとき、希望するなら
異能の弱化、制限措置を受けられると提案しても
植え付けられた価値観から措置を固辞していた。

その後違反学生として出奔した所為で学園による
福祉の対象外となり、今に至る。

黛 薫 >  
しかし、先日風紀委員の分署に出頭してからは
状況が変わった。黛薫の異能が何らかの原因で
変質を来しており、我慢や誤魔化しで耐えられる
範囲を大きく逸脱していたからだ。

今まで黛薫に影響を与えるのは『視線』だけだった。
つまり、相手の視界の中心から外れることによって
異能の影響範囲から逃れることが出来たのだが……
変質後は視界の範囲内にいるだけで影響を受けると
確認された。

これにより黛薫の異能は『視界過敏』と改められ、
精密検査、実験による確認がやり直されるに至った。

特に大きく変わったのは、触覚による感知範囲が
視線の『点』から視覚の『面』に変わったこと。

触覚に物理的圧力は無いものの心理的な圧迫感を
伴うらしく、1方向から2〜3人分の視線を受けると
同方向に歩みを進められなくなると判明している。

5人を超える人数からの視線には押し返されるかの
ような反応を返し、壁に押し付けられるような形で
動けなくなっていた。

黛 薫 >  
他者の視覚に起因する触覚の感度は変質する前と
同等。しかし視線の範囲内……つまり変質以前の
感知範囲に入ると更に過敏な反応が確認された。

特別な感情が無い視線が触れただけでも身悶えして
動けなくなるほどであり、違反学生に対する害意を
持つ生徒の視線を受けた際は激痛によるショックで
意識を失ってしまったほど。

これにより、異能制限措置なしでは日常生活を
送ることすら不可能であると認定。特例的にだが
異能制限、簡易封印措置が承認された。

異能効果の持続力を高める異能を持つ教師1名、
他者の異能を弱体化させる異能を持つ医師1名、
他者の感覚を鈍化させる異能を持つ学生1名の
協力を以って、視線による反応を異能変質前と
同等以下に抑えることに成功。

ただし、この制限には各名による定期的な異能の
更新が必要であり、最低でも1週間に1回の出頭が
必要になった。また、その影響によって感覚が鈍く
なっており、物を持つなど一部の行動に軽い支障が
出るようになっている。

更に注意すべき点として、異能持続効果の起点と
なる護符が効果切れ以外の理由で効力を失った場合、
抑え込まれていた異能、感覚は一時的に過敏になり
極めて大きな精神的負担を齎すことが想定される。

黛 薫 >  
次に、異能とは別の体質の変化について。

黛薫は元々霊的存在に憑かれやすい体質だった。
といっても本人に殆ど霊感がないお陰もあって
自覚は薄く、以前の検査記録でもごく軽い言及が
あるだけで問題視はされていなかった。

しかし、異能の変質以降その体質は極端に強化され、
霊的存在だけに留まらず魔力や精気を糧にする種族、
怪異全般に極めて強い誘引を発揮するに至っている。

しかもタチが悪いことに惹き付ける力が強いだけで
喰らったところで人並み以上の糧は得られないと
来ている。誘われた者は喰らったとしても満足など
出来ず、下手すれば余計に餓えるだけ。

その影響(と推測されている)により、落第街に
澱んでいた悪霊の大半を惹き寄せてしまった挙句
魂に傷を残すほどの霊障を受けてしまったようだ。

黛 薫 >  
異能の制限措置だけなら前例もあるしノウハウも
蓄積されているのだが、体質となると一筋縄では
行かない。体質的な影響を封じ込めるというのは
吸血鬼から血液を、夢魔から精気を取り上げて
生かそうとするようなものだ。

考え得る対策は真逆の効果を付与すること……
例えば祭祀局の協力を仰いで対魔、対霊結界を
付与してもらう方法など。

しかし誘引の対象があまりに広すぎる所為で
各々に対策を講じたところで焼け石に水。
掛かるコストや当人への負担まで考慮すると
現実的な手段とは言い難い。

一時的な対策として霊的存在を弾くお札を数枚と
攻撃や捕食行為を躊躇わせる妨害効果が施された
アミュレットを持たされているが一定以上の力を
持つ怪異なら容易に破れてしまうとのこと。

落第街の外でならそれほどの力を持つ怪異とは
遭遇しないだろうという理由で堅磐寮の一室を
借り受けることが出来たが……。

(帰らなかったら心配かけるだろーし……)

一応、書面によるこれらの報告は写真に撮って
同居人に送ってある。今後も落第街を拠点として
活動するか、対策が見つかるまで落第街の外を
中心に活動するかは判断待ちになるだろう。

細々とした内容はまだたくさん書いてあるが……
重要なのはこの辺りか。塗装の剥げた水筒から
水を飲みつつしばし休息を取る。

黛 薫 >  
「どうあれ、まずは慣れねーとだよな……」

幸いにして同居人は異能の影響を排する手段を
講じてくれている。魔術を用いた光の屈折により
黛薫を視界に映らなくする=相手から自分の姿が
見えなくなるという手法なので、不便をかけて
しまうという欠点はあるが。

異能も体質も、対策した上でなお変質前よりも
キツいものになってしまったが、泣き言を言って
何かが改善してくれたりはしない。

渡された書類を丁寧に折り畳み、不備がないことを
受付に報告すると、人目を避けながらひっそりと
その場を立ち去った。

ご案内:「研究施設群」から黛 薫さんが去りました。