2021/11/16 のログ
ご案内:「研究施設群」に逆瀬 夢窓さんが現れました。
ご案内:「研究施設群」に東山 正治さんが現れました。
■逆瀬 夢窓 >
ジークムント・ラボ。
人類の夢を研究する施設。
眠っている検体にセンサー各種をつける程度のぬるい人体実験をしている研究所だ。
今回の事件のグラウンド・ゼロはここだ。
彼らは夢の世界を踏み荒らしすぎた。
演算機器を通して悪夢が現界している、というのが今回の事件のはじまりだ。
夢の世界の住民は大激怒というわけだ。
彼らの手によって人死にが出る前に、このジークムント・ラボ悪夢漏洩事件を解決しなければならない。
……俺の、探偵の仕事ではない。
だが、避けがたい理由がある。
あの研究所の近くには、知り合いの家がある。
■逆瀬 夢窓 >
空間が著しく歪んだ研究所を前に煙草を吸っている。
「いいのか?」
短く、隣にいる男にそう聞いた。
それだけで十分だ。
この言葉に含まれている意味がわからない男ではない。
風紀が物量作戦で解決する前に。
この中にいる悪夢の魔を祓う。
■東山 正治 >
「なぁ、逆瀬ちゃん」
隣にいた男は名を呼んだ。
くっきりついた眼の隈。気だるげな表情のまま研究所を見てはくつくつと喉を鳴らして笑ってる。
「皮肉なモンじゃないの。夢ってのは、良くも悪くも最後の逃避行だってのに……。
よりにもよって、悪夢の方が漏れだしてきやがってさ。可哀想な話じゃないの」
夢心地、人が耽る最後の理想。
それがまさに、儚く崩れ去った光景が目の前にある。
どうにも好きに夢を見る事さえ許されないらしい。
或いは、夢を人が好き勝手見れると言う事さえ、人間からすれば"驕り"なんだろうか。
とは言え、東山にとって悪夢と言うのは日常茶飯事だった。
静かに頭を振れば、肩を竦める。
「いいも何も、大事になる前に対処すんのが公安の職務だからねェ。
メンドくせェけど、教師ってのは仕事は真面目にこなしてナンボって事よ」
「それに、あんまり風紀に金集ってるとさ。逆瀬ちゃんも豚箱行くかもよ?」
冗談交じりにポケットから煙草を取り出し、口に咥えた。
ジャケットから100円ライターを取り出し火を付ければ、何の変哲もない煙が立ち込める。
そう、何時もと変わらない仕事に、今回は"楽できる"相手がいる。
東山は、使える人材を持て余すようなことはしない。
逆瀬 夢窓が動くのであればそれに乗らせてもらうだけだ。
■逆瀬 夢窓 >
「笑うのか……」
ほう、と息を漏らした。
今から悪夢の只中に突っ込んでいくというのに。
この男は、皮肉だと状況を笑っている。
「夢は夜に見るものだ」
「四六時中、現世を食んでいる悪夢など夢とは呼ばんさ」
頭痛がした。
さっきまで睡眠薬を飲んで4度寝していた。
予知夢の彩度を高めるためとはいえ、無茶をしたものだ。
ズキ、ズキ。
まるで柱時計が刻む音のように。
頭痛はこの頭を蝕む。
「なぁ、東山……」
煙草を指先で弾くと、足元で踏み消した。
「ム所は禁煙と聞いたが、本当か?」
紫煙を吐いてジョークを口に。
風紀が飛び込んでくるその前に。
ゆっくりと歩を進めていく。
入ると、そこは見たことのない蟲が所狭しと這い回っていた。
ズボンに入るでもなし。
靴を避けるでもなし。
ただ軽快な音を立てながら踏み潰して歩く。
「生理的嫌悪感を煽るのは奴らの常套手段だ」
残った煙草は3本か。買い足す時間があればよかったが。
■東山 正治 >
「へぇ」
感心、と言うより興味の声だ。
「それじゃ、逆瀬ちゃん的にソイツは悪夢じゃなくて、なんて言うんだ?」
これを悪夢と呼ばずして何というのか。
目の前に広がるどす黒い悪意の様なドロッとした空気。
忌避したくなるような嫌悪を悪夢とは呼べない代物らしい。
吐き出す白い煙は、ゆらゆら登って儚く消える。
「地下に煙草なんて持ち込んだら、"自習"は後5年は増えるな」
品行方正。矯正施設に煙草なんていい度胸だ。
半分適当を言いながら、吸いかけの煙草をポケット灰皿にねじ込んだ。
共に歩を進める研究所の先。
人様の夢を研究していたと言われる文字通り夢の研究所は
今や、その面影すらない。這い回る蟲は、兵共が夢の跡でも言いたいのか。
「芸がねェよなァ、こう言うのは」
怪異と言う奴は、如何にも恐怖心を煽る事しか能がないらしい。
踏み潰し蟲に視線さえ向けやしない。
果たして、この程度の不快感は何とも思っていないと言う事だろうか。
「それで、逆瀬ちゃん。お約束通り元凶は奥かい?」
■逆瀬 夢窓 >
「……三年前だ、悪夢そのものを概念抽出で召喚しようとした奴らがいた」
「彼らはその計画をアバドーン・プロジェクトと呼んでいた」
蟲を踏み潰しながら歩く。
ただ、歩く。
「だから俺は悪夢の世界の住人をアバドーンと呼称している」
“自習”。終わりのない、地下での自習。
それは死ぬより苦しいのだろうか。
それは……俺の罪にとって罰になり得るのだろうか。
「ああ、奥だ。全部夢に見ている」
俯いたまま、それでいて安いホラー映画のように肋骨が露出したナースが奥から現れる。
彼女たちは肋骨を引き抜いて武器のように構える。
天井に備え付けられた放送機材から歪んだ声が幾人分も折り重なるように聞こえてくる。
『約束、してくれる?』『ナースと水商売の女には気をつけろ』『ねぇ、約束』
『苦しいよぉ』『彼女たちには初対面の男に触ることに躊躇いがないってね』『死んじゃう』
『約束してよぉ』『ねぇ……約束して…』『死にそうだぁ』
最後に、老若男女の声が重なる。
『もう二度と夢の世界を荒らさないって』
ナースの怪異が肋骨を短剣の要領で振りかぶる。
「知らん」
それを紙一重でかわす。この軌道も予知夢で見た。
「この建物の責任者に言え」
生きていればな。折りたたみ式の警棒で怪異を叩き伏せた。
■東山 正治 >
「アバドーン・プロジェクト、ね。逆瀬ちゃん、結構詩人?」
蝗害の顕現、奈落の底。
仄暗い悪夢を奈落と称するなら、人の夢は儚いなんてものじゃない。
それこそきっと、泥沼の様に嵌って抜け出せないんだろう。
「──────……笑えねェな」
思わず、苦笑いだ。
さて、そうこう歩いている内に目の前に怪異が蠢いていた。
臓器や骨が飛び出た死人の怪異。
どうにも、"死"と言う概念を系用するならああいう姿になってしまうのか。
或いは夢と言う想像の世界故の安っぽさか。何にせよ、哀れなものだ。
「おー、容赦ねェ」
叩き伏せられる怪異を尻目に進む二人。
雑魚に構ってる暇はお互いに無い。
まだまだ奈落の底は深いんだ。二流ホラー映画に足を止める暇はない。
足を止めるとすれば、それは……。
「…………」
見たくも無い、とびっきりの悪夢なんだろう。
突き進む二人を遮るように、怪異の影が姿を現した。
先程とは違い、確かに人の姿をしていたが、その顔か陰った遺影。
それを見た東山の足が止まると同時に……。
「……『無断出現』及び『霊障罪』により……『月喰むの狼』の刑に処す」
東山の懐に現れた一冊本。
異能の顕現、罪には罰を。東山が左腕を振るえば、見えない獣が食いちぎるかのように怪異はバラバラになった。
何も言わない。抵抗もしない。ただ、バラバラになった遺影は無念を訴えるように、東山を見てる。
「……なぁ、逆瀬ちゃん。俺って夢見が良いように見える?」
歩みを再開すれば、静かに尋ねた。
■逆瀬 夢窓 >
鼻で笑って奥にいるナースの怪異を懐から取り出した拳銃、
FS-0020『ルシッド』で撃つ。
「俺が詩人ならアバドーンはきっと天使だろうな」
我ながらジョークのセンスが足りていない。
これも過眠で脳が働いていないからだ、とこの場にいない誰かに言い訳をした。
「ああ、笑えないとも」
夢とは何か。幾重にも議論がなされた今でも、結論は多岐にわたる。
だから。だから。だからだからだから。
こいつらが夢そのものという顔で出てきているのが、気に入らない。
不可視の獣がアバドーンを解体すると。
奥から2メートルほどの巨大な赤ん坊が這ってきた。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
真言と共に現代風に翻訳された不動明王の利剣……特殊な銃弾を撃ち込む。
額に風穴を空けた赤子の口から漏れる空気が、
倒れ込む寸前に喃語から野太い男の声に切り替わる。
『約束しろぉ』
それを無視して東山の問いに答える。
「お前は俺と同じだろう」
煙草に火をつける。残り2本。
「ロクな夢なんか見ちゃいない」
開けた場所に、巨大な頭がある。
角があり、瞳に空いた虚ろから小さな小さな人間の手が何本も伸びている。
「……夢ではここで詰んだ」
火がついた煙草を投げつけると、巨大な頭を貫通して向こうの空間に落ちた。
「アレには実体がないからだ」
「そしてこの後、呪詛としてリドルを幾重にも掛けてくるわけだ」
「解けなければお前は、お前たちは死ぬ……というスフィンクスの謎掛けだよ」
■巨大な頭 >
男のくぐもった声で巨大な頭は呪詛をかける。
「アルファベット一文字で自分自身、アルファベット三文字で世界を見渡すもの」
「そして漢字一文字で世界を支えてるものなァんだ」
「自分一人では決して見れないものなァんだ」
「夜に視るものと書いて夜視(ヤミ)ってなァんだ」
連ねられた呪い。
これらの答えを解けなければ、魂魄を肉体から剥がされる。
■逆瀬 夢窓 >
………ッ!!
予知夢と、リドルが違う!?
「東山ッ!! 時間稼ぎを!!」
■東山 正治 >
「天使、ねェ……ククッ、違ェねェや」
そう、言い得て妙だ。
人では決して理解しえぬ存在。
思考も、姿も、在り方さえも。理解できない不気味な存在。
そう、悪夢と呼ぶには相応しい。まさに人が夢見た無慈悲な存在だ。
そうこう言えば、今度は赤子の天使殿がこんにちは。
泣きわめくのは、不都合だからか、それとも俺達が不快だったからなのか。
何にせよ東山は関与しない。こういう手合いに、不要な言葉を掛ければ"呑まれる"からだ。
「ぐうの音もでねェや」
そうとも、きっとお互い夢見は良くないんだろう。
その証拠にほら見ろ。逆瀬に見えているかはわからないが
東山はずぅっと聞こえている。傍聴席からの罵詈雑言。
無慈悲で、冷徹で、何処までも公平な木づちの音が、背筋を寒撫でしてくるのだから。
「……ご自慢の予知夢って、もうちょっと便利にはァ────……」
「……────ならねェよなァ」
最期の門番。奈落のアバドーンが彷徨い人を見定めている。
ねっとりと鼓膜を嬲るのは呪いの御霊か。
確かにこれは、下手を打てば拙い。じんわりと額に脂汗が滲む。
「想定通りにはいかないってねェ、ハイハイ……」
楽な仕事になるかと思ったが、そうはいかないらしい。
呪いを吐く巨頭を前に、東山は冷やかな目線を向けた。
「『塞翁の本<ブックオブメーカー>』」
呼び名に応じるように、抱えた本が風に捲られたかのようにページを開く。
■東山 正治 >
『塞翁の本<ブックオブメーカー>』
東山 正治の異能の顕現。
その手に収まるのは信奉していた法と正義。
"人"を護るために定められた、"人成らざる者"を縛り付ける為の悪法。
「『無断顕現』『無断呪詛』『無差別霊障行為』により──────……」
その刑罰を定めるのは、"秩序"に並び立つもの達の異能。
即ち、『異能のコピー』だ。
「──────……法令『時空圧切』を発令する」
判決の一声。
同時に、逆瀬と東山の周りに"亀裂"が走る。
ガラスが割れるような音を立て、周囲の"時間"を破壊し"一時的"に分断する。
要するに、今二人の時間と周りの時間は流れが違う。
まぁ、申告された異能とは本来違った用途、応用だ。
「因みに、もって数秒なんだけど……さ。間に合う?」
言った傍から、空間に入った亀裂は傷口がふさがる様に徐々に消えていく。
全て消えれば、今度こそご対面だ。
苦笑いを浮かべたまま、東山は試すように逆瀬を見やった。
■逆瀬 夢窓 >
空間が破砕される。
分断、寸断、いわば的外れの概念の生成。
「……十分だ!!」
あと2秒でリドルを解いて見せる。
『アルファベット一文字で自分自身、アルファベット三文字で世界を見渡すもの』
『そして漢字一文字で世界を支えてるものなァんだ』
答えはアイ。
『自分一人では決して見れないものなァんだ』
答えは自分自身。
『夜に視るものと書いて夜視(ヤミ)ってなァんだ』
夜に視るもの……夢、いや違う。
目蓋だ。
人は眠っている間、瞼の裏を見続ける。
そして問いかけられていない第四の問い。
これらを踏まえた上であの頭の本体はどこか。
これを解かない限り、あいつには勝てない。
待て…夜視………夢の、目蓋…
「う………」
護身用というにも大きな刃物を抜く。
「う、お………!!」
俺は自分の右目にナイフを向けた。
■逆瀬 夢窓 >
右目の瞼の皮を薄く切る。
すると、そこから黒い……闇を凝縮したような存在が溢れ出てきた。
どういう仕組みかはわからない。だが。
こいつはずっと俺の目蓋に隠れていたんだ。
闇は足元に落ちてヌタヌタと蠢いている。
俺はそれを煙草の火を踏み消すように躙った。
■巨大な頭 >
「当たりだ」
巨大な顔はニタァと笑う。
「次は……こっちへおいで」
巨大な頭はどろりと溶けていった。
それは地面に染み込むように。
そして最初から存在しなかったように消え果てる。
■逆瀬 夢窓 >
空間の歪みがなくなり、静寂を取り戻した研究所。
そこで俺たち二人は倒れ伏し、魘されている研究所の人間を見下ろしていた。
「……まさに悪夢だ」
右目を手で押さえながら、俺はまたどうしようもないジョークを口にし。
バツが悪そうに煙草をくわえると、火を付け
「最後の一本だ、要るか?」
と、メンソールの煙草を一本、東山に差し出した。
■東山 正治 >
「そりゃありがてェ」
その言葉を信じてやるよ、相棒。
亀裂が徐々に修復されるたびに、体に強烈な違和感が走る。
内臓全部が重力で押しつぶされるような反動。
今発動した異能自体が、"無理矢理"時間に干渉しているようなものだ。
よくSFで『Gが掛かる』とか言っていたが、こういうものなんだろうか。
「ッ……ゲホッ……!」
そう考える余裕さえ、すぐ塗りつぶされた。
吐血。中年の、ただの人間の体には堪えるものがある。
東山は戦士ではない。風紀委員の様に正面切って戦うように鍛えてはいない。
飽く迄人並み、何処にでもいる不健全中年だ。
どす黒い腸を絞り出されるように、圧縮された血液が口から溢れてくる。
「(金輪際使わねェぞこんなもん)」
後で当人にはいわれのない八つ当たりをしておこう。
後はもう、時間との勝負だ。
「逆瀬ちゃん」
断絶された景色が徐々に"同期"を始める。
東山の視界も赤くなる。眼球まで回ったか。
「そろそろ……ッ、ちょっとおじさんもキッツいなァ……!」
圧縮された血液が、目元から垂れる。
景色が、悪夢が徐々に同じ色に……。
「─────逆瀬ェッ!!」
張り上げた声と同時に、視界が反転した。
気づけば二人揃って、雑魚寝状態。
如何やら、事なきを得たらしい。息が苦しい。これは暫くは休暇が必要かもしれない。
「くっ……くくっ、男からの贈り物は受け取れねェなァ」
煙草を見て、東山は笑った。
何処かで「閉廷」の声が、聞こえた気がした。
「……なァ、逆瀬ちゃん」
■東山 正治 > 「おたく、"正義"って言葉どう思う?」
■逆瀬 夢窓 > 「“正義”は夢魔と同じだ……どちらも今のご時世、就職先に苦労はなさそうだ」
■逆瀬 夢窓 >
報告。
ジークムント・ラボ悪夢漏洩事件において。
東山正治に再び協力を要請した。
こんなものは全く、探偵の仕事ではないが。
早期解決のおかげで旧知、マダム・アレーナの家に被害が及ぶことはなかった。
マダム・アレーナ……彼女は加齢による衰えのため、ここ半年寝たきりだった。
そして今朝、眠るように息を引き取ったらしい。
大往生、しかし…………本当に悪夢漏洩事件と関係がなかったのだろうか。
そこに推理の介在する余地はない。
追記。
東山正治は。
特異点である疑いがある。
■逆瀬 夢窓 > 以上でジークムント・ラボ悪夢漏洩事件(あるいは、夢の目蓋)の報告を終える。
ご案内:「研究施設群」から逆瀬 夢窓さんが去りました。
ご案内:「研究施設群」から東山 正治さんが去りました。