2021/11/17 のログ
ご案内:「特能研・ロビー」に雪城 氷架さんが現れました。
■雪城 氷架 >
「あ゛ー………」
ロビーのソファーにもたれてぐてーーーっとなっている華奢な女の子一人
普段なら美少女として絶対に見せない姿だけど、人通りないし受付からは柱の陰になってて見えないから許せ
父親との定期的な、異能薬のテストが終わると、だいたいいつもこんな感じだ
…いや、正しくは少しずつだけど、マシになってきているかもしれない
全身に激しい倦怠感と、眠気の襲来だけで済んでいる
■雪城 氷架 >
これまで異能を行使しすぎると心臓に負担が掛かりすぎて倒れたりしていたことを考えると…
「……ちゃんと、効いてんだな」
気怠げにポケットから取り出した手のひらには、カプセルに入れられたタブレット型の錠剤
便宜的に『制御薬』と名付けられたそれはかつて落第街にて不法に治験がなされた、
制御不能な異能を制御可能にするといった触れ込みの薬…ということを、氷架自身は知らない
無知な氷架はなぜその薬を内服すれば異能のコントロール領域が拡がるのかさっぱりわからない
知っているのは、父の研究が異能の暴走や、制御が難しい異能に覚醒してしまった生徒達にとっての救いになる…ということだけ
■雪城 氷架 >
そのための試験や実験を自分の娘でするのは倫理的にどうなのか…と、思わなくもない
けれど目的のために他人を実験体にするよりは、余程良いとも思っていた
あくまでどちらかといえば、といった程度の天秤。実際にはどちらも許されないことだろうけれど
氷架は父親にその話を持ちかけられた時には二つ返事でOKをした
父は多忙である。ほとんど家族とも会えないくらいに
この研究が完成を見れば、それも解消される
そうすれば、母が寂しい思いをしなくなるだろう
そう思って
氷架には、自分がこれまでこの世界の誰よりも家族からの愛情を受けて育てられたという自負がある
だから、自分が目覚めたこの異能は、きっとそれに報いるために与えられたギフトなのだと考えた
父の研究に協力できる、父を多忙から開放し、母との時間を増やしてあげることができる
母、涼子は大変な愛夫家だ。父に満足に会えない環境が、寂しくないわけがない
──この話は、母にも、姉にも秘密である
間違いなく心配されるから
結果が出たら、ごめんなさいと言いつつ告白しよう
■雪城 氷架 >
手のひら上の錠剤。異能制御薬…
正式な名前は、完成した後につけられるのかもしれない
体感している効果は、異能を行使した際の自分の身体への負担が軽減されていること
そのおかげで、普段なら気を失ってしまうレベルにまで、自身の異能の出力をあげられる
それはつまり、自分で制御できる範囲が大きく拡大されていること
……と、頭のあまりよくない氷架でもそれなりに理解はできる
自分の場合は元々、異能の制御がある程度出来ていた
…昔、学園でとある不良に絡まれた時につい怒って、普段は絶対に使わない領域まで異能の力を開放してしまったことがある
ああいったことが少しでもなくなるなら、安心できる生徒はきっと学園に多いことだろうと思う
その後には、もっと大きな出来事も、起こった
あんなことは二度とゴメンだと思った
「…どうせ手に入れた力<異能>なら、何かの役に立ってほしいもんな」
少なくとも、誰かの迷惑にだけはなって欲しくない
きっとそれは…異能に目覚めた少年少女は、大体考えるだろうと思う
色々と噛み分けられる大人と違って、不安に振り回される生徒だってきっと多い
「(大丈夫。お父さんやってることは間違ってない)」
心の隅に僅かに芽生えていた不安を握り潰すように、その手を握り締める
■雪城 氷架 >
少しずつ、薬はアップデートされているらしい
こうやって研究区に出入りしてテストをすることも、もうそんなにないのかもしれない
完成して、量産されて、異能の発露・暴走に苦しむ生徒に行き渡るようになったら
今よりも良い世界になることに間違いはないのだ
そうなったら、自分がこの力に目覚めた意味も、ちゃんとあったと言える
もちろんそれだけでなく、家族にとっても良い方向に向かうはず
「よっ」
反動をつけて、ソファからすっと立ち上がる
気怠さもある程度収まった、今日は頭痛もしない
これは、薬の副作用というよりは限界近くまで行使した異能の反動だろうと思う
「(……そういや副作用ってあんのかな)」
反動のほうが強すぎてあんまり気にしたこともなかった
薬なのだから何かしらはありそうだけど、この様子なら気にする程度のものでもないのだろうと
■雪城 氷架 >
さて帰ろうと歩きはじめて、脹脛に触る髮の感覚に違和感を覚える
あれ、前に少し切ったはずだったけど、と
もうこんなに髮が伸びてたか、なんて少し首を傾げ
まぁいいかと細かいことは考えない性格の氷架は、そのまま気にせず施設を出ていった
ご案内:「特能研・ロビー」から雪城 氷架さんが去りました。