2021/12/04 のログ
ご案内:「特能研・ラウンジ」にダリウスさんが現れました。
ダリウス >  
夕暮れ時、特殊異能研究所のラウンジにて──

「資料のまとめご苦労さま。先に研究室に戻っていて」

小柄な、ファミリアと呼ばれる人造の少女の手渡す紙束を受け取り、笑顔でそう告げる
ファミリアは丁寧に一礼し、研究所のあるフロアへと姿を消す

無駄な会話は一切ない
彼の研究室が気づけば彼自身とファミリアだけとなっていたのも、
余計な勘繰りや、気を使うといった仕事以外にリソースを必要としない…彼にとって理想的な研究空間を目指した結果だろう

「さて…っと…」

ラウンジのソファに深く腰をかける
手元には先程自販機で入れてきたホットコーヒー
研究室に閉じこもりがちなのもよくないと、最近はこういった時間を多くつくるようにしていた

…といってもこれから目を通す紙束は、仕事に必要なもの以外の何物でもないのだけど

ダリウス >  
───異能の行使・酷使に伴う脳・肉体、そして精神面への負荷を
魔術的アプローチから軽減する試験的な異能制御薬"メビウス"

こちらは人間での臨床実験も好成績で、既に実用段階にある
漸く本命…異能覚醒薬の臨床実験を本格的に始めることが出来る

「氷架一人じゃ、信頼のあるデータ取りってわけにもいかないからなあ…」

まあ、目立った副作用の報告は今の所娘からはない
最も危険な部分はクリアーしていると仮定して、ともあれ先に進むことは重要だ
もっとも懸念されるリスクエリアを、赤の他人を使って実験するよりは良いだろう

───さて、次の段階に進むには、氷架と同レベルかそれ以上に強力な異能の持ち主が好ましい

異能の力が強大であればあるほど、形はどうあれカウンターエフェクトは発生する筈だからだ
無論、例外も数多く存在するだろうから…こうやってデータを精査する必要が出てくる

ソファに寄り掛かり、珈琲を一口。ゆっくりと、紙束に目を通してゆく

ダリウス >  
この島に生きる者にとって異能の力は非情にデリケートな話題である
隠していたり、偽っていたり…そういう生徒や教諭も多いだろう
当然不透明なものも

──まぁそこは、ファミリア達の情報収集能力をある程度信頼することとする

ダリウス >  
特に思春期であったり、成長途中である生徒の中には…己の異能に悩む者も見られる
はらりと捲られた、紙資料に名の挙がる少女もまた、そんな渦中にいる一人だろうか

「アリス・アンダーソン…3年生。
 …なるほど、客観的に判断するだけでも十分に強力な異能の持ち主だな。
 学園側からは… …うーん、そこまで問題視はされていない、かな…?」

飽くまでも客観的なデータ、穴も多ければ抜けも多い
それらを加味しても十分に興味をひかれる生徒だった

「こういった強力な異能の持ち主は風紀委員や公安委員に多いかなと思っていたけど」

先入観は良くないね、と付箋を留めて次へと進む

ダリウス >  
「水無月斬鬼丸…すごい名前だな。1年生…?
 異能は──斬《チェイン・リッパー》。これは、いや…うーん…」

比較的最近に風紀委員と関わりがあったのか、それなりに色々書かれている、が…

「命名と基礎スペックは兎も角、内容が不十分だなあ…
 書かれてることが本当なら、随分と危険な力な気がするけど」

あまりこの少年が異能を行使しているタイミングのデータが見つかれなかったらしく、資料としはやや不十分なものだった

「本物なら、逸材だね」

ピンクの付箋を止めて、次へゆく

ダリウス >  
「修世光奈…3年生か。異能は…?」

「──へぇ、面白い。光…というよりも光源を操るのかな。興味があるな…」

熱の発生は伴うのか、視覚的な効果以外にも何かがあるのか
"先のステージ"がもしあるなら、どう変化するのか──

「平穏無事な生活を送っていれば触れることのない領域もあるのかもしれないね」

付箋を止め、次へ──

ダリウス >  
「神代理央、2年生」

紅い付箋を貼り付ける
本命の一人だ

「聞きしに勝る。まさに異能兵器だ。
 彼一人が街中で"その気になるだけ"で、どれ程の人が死ぬことになるのかな」

これ程の力を持つ少年・少女がどれほどこの島にいることだろう

「……ん、あぁ…彼が涼子の店のオーナーだったのか…奇縁だね」

クリスマスも近いし、そのうちケーキでも買いに行って顔を見てみるのも良いかもしれない

ダリウス >  
「追影切人…ん。この子は風紀委員の監視対象なのか。…そうなると接触はともかく、難しいな…」

報告されている異能の力も興味深い内容だったが、
秘密裏に事を運ぶには、監視対象というのは如何にも不向きだった

「…ファミリアに任せてもいいけど、鼻のいい子がいるとそこから嗅ぎつけられ兼ねないもんな」

残念、と次の資料へ移ってゆく

ダリウス >  
「次は───と…、ん」

はらりと捲られた紙束に見えた名は見知った…というレベルですらない名前…雪城氷架

「氷架についてはまとめなくても大丈夫だよって言っておかなきゃなあ…」

知らないことがないのだから、無駄といえば無駄なのだが、一応目を通してゆく

「……ああ、最近は異能の講義には、しっかり出席してるんだね」

成績も、以前よりは良くなり…素行も悪目立ちはしていない
相変わらずの暴飲暴食も報告されているけど、それはまぁ…体質的なものだ、仕方がない
そして、自発的に異能のコントロールのために自主演習を行っていることも書かれていた

「……親がなくとも子は育つ、か」

少しだけ物悲しくもありつつ、そばに母親がいるということもあるのだろうと、妻に感謝しておこう

ダリウス >  
「さて次は…園刃華霧。…ん、風紀委員、か…」

客観的なデータの集合体である以上、ある程度異能の行使やその素行が目立つ生徒は情報量が多い
ことさら、風紀委員や公安委員とあればデータは集めやすい、が……──

「(モノによってはフェイクもあるからなあ)」

公表すると問題のあるケース、あるいは秘匿することがメリットとなるケース
一般生徒以上に彼ら組織的な委員会にはそういった類の生徒が多い

「異能は…なるほど。うーん…簡単に説明のつく現象じゃないタイプだな。何かありそうだ」

覚えおこう、と
ピンクの付箋で留めて、次へ

ダリウス >  
「妃淵……ん、この子は名字が…なるほど、出自がそういうことか…。…ん?」

見知った名を見つけ、付箋で留めた前頁へと戻る

「…へえ、風紀委員でもない男子生徒が身元の保証人にね。うーん、若さだね」

うんうん、若い子はそれぐらい勢いがないといけないね
なんて思わず頷く室長だった

それはそれとして──

「異能の内容はそれとして、これは規模が狭いから危険視されていないってだけかな…。
 何かの拍子に次のステージに上がったら、話は変わってくるかもね」

ピンクの付箋で頁を留める

「やっぱり凄いな、この島は。可能性に溢れている」

ダリウス >  
「レイチェル・ラムレイ。 …あぁ。時空圧壊《バレットタイム》の彼女か」

珈琲を口に運び、一息

「"あの時"は色々と活躍してもらって、そのうちお礼も言いに行かないとと思っていたんだけど…」

あの時はあの時で忙しかった
何せあれほどの騒動になるとは思っていなかったし
どうやって"彼女"が氷架の異能のステージを強制的に上げることが出来たのか
そちらのほうに興味が完全に向いてしまっていたから

「"彼女"は退院したのかな。お礼を言わないといけない。
 氷架のフォースステージの可能性、炎の巨人を見れたのは彼女のおかげだ。 …おや?」

「──最近はあまり活躍していないのか。
 うーん…時空圧壊《バレットタイム》は研究してみたい異能の一つだったんだけど、何か理由がありそうだなあ…」

そのあたりも含めて、そのうち接触できたらいいなあ
そんな思いを込めつつ、紅い付箋を留める

ダリウス >  
「ふぅ」

紙束はまだまだ先があるけれど、此の辺りで小休止
眼鏡を外し、眼球を瞼の上から軽くマッサージする
昔はこんなことなかったのに、今は長い時間細かい文字を見ていると…

「歳を取るって辛いなあ」

「まだまだ、やりたいことが沢山あるのに」

ダリウス >  
──目を瞑り、過去の出来事を思い出す

「(懐かしい名前を見たせいだな)」

赤く灼けた、研究区の空

"彼女"…西園寺偲は絶対的な力による秩序と平和を目指し、
その可能性を異能の"ラストステージ"に見出し、あの事件を起こした
数重なった偶然がその被害者としてダリウスの娘である氷架を選び出し、彼女は氷架を暴走状態にすることでそのステージに上げようとした

…時間がなかったのか。それとも別の焦りでもあったのか

氷架の異能はその反動を精神ではなく肉体に及ぼすもの
いかに出力を暴走させようと、脆く薄い器ではその領域には届かない
あの子の異能の、本当のラストステージは───

「──だから、僕は時間をかけましたよ。…しっかりとね」

ダリウス >  
流出した暴走薬と進化の秘薬のデータを集めるのにはそれなりに時間がかかった
なにせ流出した場所が落第街、情報の真偽を確かめるだけでも大変だった

けれど、それらを踏まえても尚、長い長い階段を大幅にショートカット出来ることになった

求めるは"暴走"ではなく、"覚醒"───そして、変化

現実に、自身の生命・その存在までも変貌させてみせたあの"異能の変質"

「(…うん。もう少し、もう少しであの時、君に起こった出来事に追いつく)」

「(そうしたら、それは……大変容以降、自身の"望まぬ力"に悩む全ての人への福音にもなる)」

顔に当てていた手をどけ、眼鏡をかけ直す

「研究は…」

「目標が輪郭を帯びてきてからが、楽しいんだ」

ダリウス >  
「──さて、もう少し目を通しておきたいところだけど」

口に珈琲を運びつつ、資料へと手を伸ばす
あんまり研究室を空けておくのもかなあ、と思いもする
なんだかんだ仕事をするときは籠もっているほうが落ち着くというのが、自分の性分なのかもしれない

ぱらぱら、と流し見る程度に資料を捲くってゆく

ダリウス >  
「…ん?」

ふと名前に目が留まり、そのページをじっと読み込む

「火光雷鳥…異能:紅蓮の支配王<パイロエンペラー>」

首をかしげる
どこかで聞いたような………


「うーん…?まぁ、いいか…よし、続きは部屋に戻ってやろうかな」

ぐーっと背伸びをすると肩甲骨のあたりからポキンと音がする、あいたた

空になった紙コップをくずかごに捨て、大事そうに髪束を抱えて中年の研究者は自身の研究室へと戻ってゆく

戻り際、ラウンジの窓を振り返る
夕暮れ時の紅い紅い空は、あの日の空を焦がした朱を想起させていた

ご案内:「特能研・ラウンジ」からダリウスさんが去りました。