2021/12/14 のログ
ご案内:「羽月研究所」に羽月 柊さんが現れました。
ご案内:「羽月研究所」に東山 正治さんが現れました。
羽月 柊 >  
定命たる人間には残酷と思えるほどに、日々は過ぎていく。

此処は研究区にある小さな研究所だ。
羽月研究所と個人名を掲げる辺り、規模は大きくない。


竜に関することを研究しており、実際に竜もいるが、
その生体はどれも大きくても大型犬サイズを出ない域である。

この研究所の責任者である羽月柊のは、
親の居ない竜の卵をあらゆる手段で引き取り、孵化させ、
成長阻害などの調整で"小型化"して飼育している。

体よく言えば、竜の孤児院。悪く言えば…いくらでも悪く言える。

それでも小型化した竜の知能は彼ら自身が考えて判断できる程度はあり、
犬猫ほど知能低下は起こさせていない。

此処に居る竜たちは、自分の意志で此処にいる。



《大変容》の起きたこの世で、
彼の行動を善というモノも居れば悪とするモノもいる。

それでも、羽月柊という男はそうして生きて来た。

様々な問題を抱え込み、それでも歪ながらも出来る精一杯で今に至る。

羽月 柊 >  
はじめ、この施設は羽月柊と、
常世学園の生徒であるカラスという合成獣によって管理運営されていた。

しかし最近は日下部理沙という人間の部下が出来たことで、歪が顕在化し、
事故が起きるに至ったが、その部下は未だに此処で働いている。
それどころか、顕在化した問題を共に解消するように動いている。

元々竜の世話をする人員の少なさが一番の問題だったが、
今現在はそこの部分の補充もあったようだ。

少しばかり、研究所は賑やかになり、男も暇が増えた。

兼業している教師業が出来るのも、このおかげだと言える。


「あぁ、その書類はこっちに。
 日下部は休憩時間に入って……。」

研究所の内部、自然が再現されたドーム。
そこで白衣の男、羽月柊は小人ほどの妖精に声をかけていた。

部下の白い翼の生えた青年に休憩を言い渡し、慌ただしく時が過ぎる中、
耳の良い小竜たちが男の元へ駆け寄って来ると、来客を知らせる。

…今日は誰か来るような予定はなかったはずなんだがな。

東山 正治 >  
カツ、カツ、カツ。
実にわざとらしく大きな音を立てるというのは
"存在感"を知らしめているに過ぎない。
廊下を靴底が蹴り飛ばし、気だるげな足取りで男が一人。
口に咥えた煙草がそんな気持ちを表すかのようにゆらゆら揺れて立ち上る。

そう、生憎この男は"アポ取り"なんてしていない。
可愛らしい言い方をすれば"サプライズ"だろう。
残念だが、心身ともにそんな可愛らしいものじゃない。
カツン、広がった来客用スペースで足を止めればニヤリと笑う。

「────はーづきちゃん。いるゥー?」

煙草を手に取り、半笑いを浮かべた口元が名を呼んだ。
何処となくからかうような名前の言い方。
当人の姿は見えなくても"どうせ聞こえている"とタカをくくっている。
聞こえないのであれば仕方ない。
当人に会えるまで前に進むだけだになるだろう。

今暫し、来客用スペースで足を止めて煙を吐いていた。

羽月 柊 >  
来客用の棟。
まぁ、日下部用の部屋だったり、
多少の休憩室だったり応接間がある程度。

この場所に、竜の痕跡は無い。

本棟に繋がる一部を除けば侵入は容易だ。
そちらへは認証魔法のかかった鏡を介さねば入れない。
そして入れるのは、従業員と認証されているモノだけ。

…結構セキュリティには資金を割いている。

今や竜も一般的な種族ではあるが、
魔術に精通するこの男にとっては未だにそれらは希少なモノという位置づけが消えない。
秘匿されてきた技術が公になる前は、彼らの素材は貴重だったからだ。

固定観念と言えばそうだが、教え込まれ学習したモノというのは
なかなかに抜けないモノでもある。



廊下の奥から、カツリと質の良い革靴の音。
くたびれた白衣を羽織り、紫髪に桃眼の男が突然の来客を迎えに来る。
両肩に二匹の護衛竜が乗っていて、
片方がキュイ? と馴染みの無い来客を見て首を傾げた。

学園で何度か見た、同僚だ。
ただ、相手のことを詳しくは知らない。
まだしっかりと話したことの無い教師は多くいる。


「…ようこそ、何か用事だろうか?」

自分より背の高い彼を見ながら、異邦人のような男は言葉を紡ぐ。
色こそ異ではあるが、羽月柊はれっきとした地球生まれ地球育ちではある。

相手の意図が読めないまま、とりあえず客間へ案内しようとする。

東山 正治 >  
さて、少し待てば目的の人物が現れた。
見覚えのある白衣姿に髪色。
隈がトレードマークの淀んだ瞳がくつくつと笑いながら羽月を見下ろしていた。

「よォ、元気?」

相手の態度とは対照的に実にフランクな物言い。
それこそ気心知れたと言わんばかりの態度だが
この東山の"人外嫌い"は同じ同僚なら耳にした事はあるかもしれない。
誰に対しても嫌味っぽく、態度も口も悪い悪評が付きまとう教師。
口元の煙草を指に挟み、挨拶と共に適当に振った。
僅かに灰が床に零れたかもしれないが、気にもかけない。

「何、どうって理由はねェさ。ただ羽月ちゃんの顔がたまたま見たくてね。
 ホラ。おたくも"色々"やってるワケだしさ。俺も少しばかり気になったのよ」

公安委員会に席を置く教師。
本来この学園の動向の多くは生徒に委ねられ、教師はそれの補佐に回る。
その中でも珍しく自ら行動する教師ではあるが真意は不明。
ただ、公安委員会には組織解散の権限がある。
学園の体制を揺るがすような組織があればそれらの解体を率先して行えるのだ。

特に学園側が母体、或いは公共的色合いが強い組織ではなく
"個人の色が強い"場所であれば視察の目も入る。
何処に潜むか分からない影の瞳。それが公安委員会だ。
東山の口ぶりは、まるでその"視察"をあたかも匂わせるような物言いだった。

「どうよ。最近は羽月ちゃんも平和そうだけどさ、何か困りごととかない?」

「……そいや此処、禁煙?」

わざとらしく、肩を竦めて見せた。

羽月 柊 >  
「…色々。…良く知っているようだな。」

正直なところ、どう接したモノかと思っている。
"羽月ちゃん"だなんて呼ばれ慣れない。

頭の中で相手の詳細を思い出すのに少し時間を要したが、
相手からすれば、好んで竜と共に生きる自分は対極のようなモノだろうか。


「…客間は問題なく。少々彼らが煙たがるかもしれん、が。
 
 教師業として未だに難しく思う部分は多いが、
 別段困りごとは……。」

相手を客間に通し、お茶で良いかと聞く。
小竜たちは煙草の煙から逃げるように、
羽月の肩から飛び立つとソファの背もたれの部分に留まる。


困りごとは無いと言えば無いし、あると言えばある。

 
個人の名を掲げる通り、此処は個人色の強い研究所だ。
おまけに出資者の一部は魔術協会が噛んでいる。

調べればそこには行きつくことが出来るだろう。
ただ、派閥は穏健派であり、島をどうにかしたいというよりは、
この大規模な"実験"の行方を見守っている部類である。

学園とも協力体制をある程度は築いてきたつもりであるし、
カラスや日下部といった生徒を抱えているのもある。

島を脅かすほどではないと考えている。

故にこの"視察"に対して、何か焦るような素振りは無い。
…いや、焦りがあったとしても見せる気は無い。

自分は大人だからだ。

東山 正治 >  
「職業上?調べるのが仕事だしな。そのおかげで俺も良く"煙たがられる"よ」

諜報機関と言う仕事上、当然だが個人のプライベート等考慮しない。
法の世界では『疑わしきは罰せず』が基本だが
今の東山は『疑わしきは罰せよ』だ。
特にこんな混沌とした学園生活、逐一性善説など信じていられない。
困っちゃうよねぇ、何て言いながら煙草を咥えて煙を吸った。
充満する煙草の匂いは煙草嫌いがいれば顔を顰められそうだ。

「クク、そりゃいい事じゃないの。
 生徒を"バイト"で雇う位なら結構好かれてるんじゃないの?」

確か研究員は羽月以外にも数名確認できている。
そのうちの一人は学園の生徒であったはずだ。
何処となく言い回しが嫌味っぽいのが東山の性分を顕著に表していた。

「お気遣いどーも。毒が入ってなきゃ水でもなんでも。
 まぁまぁ、そう警戒しなさんな。言ったろ?ちょっと顔見に来ただけだよ」

もくもく煙を立ち上らせつつ東山がゆったりと近づいていく。
煙の軌道。それはまるで、逃げる小竜を追いかけるかのようなわざとらしいもの。
はぁ、と吐き出す煙をわざと上の方にやればくつくつと喉を鳴らして笑った。

「そう言う仕事してるのは事実だけどさ、こう見えて俺も教師よ?
 人を見る目はあるんだって、ホント。……それに、"個人的"には羽月ちゃんの事嫌いじゃないしな」

そもそもその疑いがあるならこんな穏やかな真似はしない。
もっと手早く、賢しく、"黙殺"する。
故に手違いは許されない。情報の取捨選択は何よりも気に掛ける。
指に挟んだ煙草をクルクルと指先で回した。
灰と煙が、辺りに飛び散る。マナーの悪さもぴか一だ。

羽月 柊 >  
適当にお茶と茶菓子を木皿に入れて出す。
茶菓子は適当な和菓子の詰め合わせだ。
見た目こそ洋だが、こういう部分は日本人らしい。


内心、幌川最中とはまた違った厄介さだなと独り言ちる。


囲ってゆっくりと得物を追い詰めるような彼よりは
随分と行動や言葉の意図は分かりやすいが、
その分、理解出来ないと切り捨てることを由には出来ない。

生徒と教師、風紀と公安、その差もあるだろうが。


「…あぁ、部下にはありがたいことに好かれている。」

研究者の羽月、バイトであり研究生の日下部理沙、
そして男が息子と称するカラスという合成獣が手伝いをしている。

この施設の人型は大方その三人だ。

そこに今は多少の手伝いの人員はいるが、人間ではない。


「嫌いじゃない…それはどうも。
 …とはいえ、一応俺も生活はかかっているからな。
 貴方がたの"仕事"に引っかかるような真似はしていないはずだ。

 学園とも相互関係を続けている。
 それを今後も崩すつもりはない。」

警戒をするなと言われても、言葉の奥を見透かせないほど子供でもない。
表面だけを無邪気に信じるような年齢は超えているのだ。

…確かに、相手からすれば年齢は若いが。


そう言いながら、指をパチリと鳴らす。
ゆらりと空気が揺れて、相棒の小竜たちを追いかける煙を少し遠ざける。

これぐらいの抵抗は許されるだろう?

東山 正治 >  
別に何の変哲の無い煙草の煙だ。
魔法でも、それこそ手でも払える代物。
煙は呆気なく遠ざかれば両掌を天井に向けておどけて見せた。

「ああ、悪ぃ悪ぃ。羽月ちゃんの"ペット"はコイツがイヤだったワケね?」

空飛ぶ小竜たちを一瞥すれば携帯灰皿に煙草をねじ込んだ。
彼等が知能を持つ生物であることは百も承知だ。
感情がどれほど理解できるかは知らないが
彼等を見る東山の目は冷ややかで、口元と対照的に笑っていなかった。

「だから言ってるじゃないのォ。そんな警戒しなくてもいいって、さ。
 羽月ちゃんがどういう人間かはわかってるって。ねェ……?」

困ったかのように苦い笑みを浮かべて軽く手を違う違うと振って見せた。
東山はこう見えて己の職務には勤勉な男だ。
人を見る仕事を前職からしていた以上、人を見る目はあるつもりだ。
要するにこうせっつくのは、おおよそ東山の趣味。
"個人的嫌がらせ"である。しかめっ面が手に取るように分かる。

「言ったろ?俺は個人的に羽月ちゃんの事嫌いじゃないさ。
 こんな学園じゃァ珍しく、純粋な"人間"だからな」

今や外人だの肌の色だの、そんなのじゃ効かない位の多様性だ。
枠組みは人間からはてや神やら悪魔やら
左を見ればナマモノに機械に幽霊と……。
そうでもないはずなのに、逆に自分たちの様な純粋な地球人こそ珍しく見えてしまう。
東山的にも、あの職員室(バケモノゴヤ)の中では数少ない地球人だと勝手に一目置いている。

それに。

「────それにさ、ソッチの"トカゲ"。羽月ちゃんが"そうした"んでしょ?」

「いやァ、助かるねェ。そう言う化け物が暴れないように首輪つけんの。
 タイヘンでしょ?アイツ等も大概自分勝手だからさ。俺も教えてほしいモンだぜ」

「……"やり方"を」

鼓膜にへばりつく、どろりとした明確な"悪意"が口から溢れていく────。

羽月 柊 >  


「……彼等は、俺たちの"同僚"は、"理解"しているぞ。」


低い、低い声が応えた。



感情が牙を剥いているのが自分でも分かる。
故に、桃眼がねめつける。

小竜たちは人語を理解している。
特に今此処にいる、羽月と共に"教師"として登録されている
セイルとフェリアは、成人並の知能を備えている。

故に、悪意を理解しているぞ、と、忠告を下す。

どれほどに小さくても彼等は"竜"なのだ、と。

己が部下の日下部理沙が怪我をしたように、
異種の意識の差は、どれほど擦り合わせても足りないぐらいなのだ。

そこに悪意を持って煽るなら、覚悟があるのだな、と。



東山が学園のデータを知っているのなら、
男は本来、本当の意味で見た目も何もかも純正の日本人だ。

今でこそ見た目は変わり、異能を備えているが、
常世学園の生徒時代は"無能力"の生徒だった。

無能力のただの人間のまま異種と今まで付き合ってきた。



己が異能、コピー能力である胡蝶の夢が暴走しないよう、
普段から極力感情はセーブするようにしている。

だがしかし、それでも、看過し難い事はある。

この男は諦観という蓋を持っているが、
それでも封じ込めた熱を失っている訳ではない。


この表しがたい感情は、怒りだろうか。



人間だからこそ、異に馴染む。

人間だからこそ、異と共に歩む。

人間だからこそ、出来ることだと思っている。


この《大変容》後の世界で人間が生きているのは、
ひとえにその適応能力の高さではないだろうか。

東山 正治 >  
確かな怒りの視線を感じる。
ピリピリとした空気が来客スペースに漂い始めた。
しかし、東山は"気にも留めない"。ごく自然と
当たり前のように胸ポケットの煙草を一本取り出した。

「……それで?」

ジッポライターに火を付けた。
白煙が再び客間に立ち上る。
にやけ面のまま、怒りに向き合い眼差しは氷のように冷ややかだった。

「ああ、悪いねェ。そりゃそうか。
 溺愛してる"ペット"をコケにされちゃ、"飼い主"はたまンねェよなァ」

「……で、俺の言ってる事間違ってる?」

何を取り繕い、何を言おうと、東山にとって関係性は"それ"だ。
明確な主従だのなんだのと小難しい話じゃない。
犬にだって多少なり知能はある。それと同じだ。
合意の元であろうとなんだろうと、少なからずそれ"羽月の都合"が混ざっているならそんなものだ。
教師だろうと、羽月の飼う溺愛するペット。
それ以上でもそれ以下でもない。


そこに、"覚悟"だの威圧するのは──────……。

東山 正治 >  
 
         「──────……笑わせんなよクソガキ」
 
 

東山 正治 >  
誇りだのなんだのと言うつもりか。
言葉を、感情を理解するからなんだというのか。
"知っているよ、そんな事"は。文字通りに逆鱗に触れりゃどうなるかも。
だが飽く迄それが許されるのは"法の下"にあってこそ保証される"自由"だ。

東山から見れば、元来いないはずだった生物が我が物顔で宙を飛ぶ。
おまけに"人間と同じように"知能と感情があるから丁寧に扱えという。


"傲慢"だ。


こんなにも世界を混沌とさせた一因が、何を言う。
羽月 柊が如何なる人間か、如何なる経歴かは可能な限り職務上知っている。


"だからどうした"。



人間だからこそ、異を排他し

人間だからこそ、異を拒絶し

人間だからこそ、相容れない。



人外(ヤツラ)の存在そのものが"害悪"だと東山は重々知っている。
寧ろ東山からすれば、どんな都合であれ小竜の姿は"こちら側に住む以上当然の措置"とさえ思う。

貴様らの都合など、知った事か。
逆鱗に触れたならトサカでも爪でも立てればいい。

"視察目的"の"公安委員"が"負傷"された。
その事実一つ拡大させればどうとでもなる。
今度は研究所内の事故では済まさない。


特大の『悪意』が今か今かと"三匹"の出方を伺っていた。
その表情に既に笑顔はなく、鉄仮面の如く凍り付いた無表情がそこにはあった。