2021/12/15 のログ
羽月 柊 >  
ジリ、と、理解と感情の間で意識が焼けつくのが分かる。
まだ、"胡蝶の夢"《レム・カヴェナンター》の発動条件の全容は分かっていない。

それは親しいモノとの間柄に起きる事。
相手の力を契約のように、境界を越えて顕現する契約。
眼前の男と対極だからこそ備わった異能。
覚醒したばかりの男は、感情によって異能暴走の危険性がある。

能力自体を端的に言えば、東山正治と羽月柊の異能は同じコピー能力同士だ。

それでも、東山からすれば、異能が発現したての羽月は"クソガキ"にも等しい。



 こうして感情を揺さぶられることは、苦手だ。



「……俺からすれば間違っている。
 貴方からすれば、間違っていないんだろう。」

護るべきモノがいる。
それは小竜たちで、息子で、部下で、仲間で…友人だ。

子供なら、本当に"クソガキ"なら、喰ってかかっていただろう。
襟首を掴んで、感情をぶつけて、叫んで。

……だが、大人は、それが出来ない。

どろりとした悪意に吐き気を覚えながら、
それでも、言葉を紡ぐ以外に術はない。


「それで、教師をペット扱いしてまで、どうしたい……。」

苦虫を噛み潰して飲み下して、感情を蹴りつけて押し込んで。



小竜たちも、行く末を見守っている。
彼等が独自で戦闘や攻撃行動を取ることはない。

彼等二匹は今までずっとこの羽月柊と行動を共にしてきた。
故に、似たようなペット扱いも受けて来たし、
そこで自分達が行動を起こせば羽月の立場が悪く成る事を理解している。


此処が他の小竜の居る本棟でなくて良かった。

……此処に、日下部やカラスが居なくて良かった。

東山 正治 >  
「────────……」

感情というものが成長を促すのであれば
人間だけが持ち得てきたこの排他的悪意は何だろうか。
これを是とするのであれば、己の感じる人外への嫌悪は。悪意は。
正しくあるべきだとを思う。"法の下"に正しく────……。

「……くっ、クク……どうしたの、羽月ちゃん?」

苦い表情とは対照的に、東山は噴き出すように笑った。
手を出してくるならそれこそ"思うツボ"だったのだが
如何やら少しは弁えているらしい。残念半面、嬉しさ半面だ。
少しは教師としての落ち着きがあるらしい。
咥えた煙草を手に取りふぅ、と吐き出した。

「言ったじゃない。警戒しなくてもいいってさ。
 羽月ちゃんの顔を見に来ただけ。とって食う気はないって、ホントホント」

重苦しい空気を跳ね飛ばすかのようなフランクさ。
此の笑顔の裏には底知れぬ悪意が渦巻いている。
どうしようもない程に、相容れない存在を
"多様性"を許容出来ない、時代と対立し続ける特大の悪意。

「まま、からかったのは謝るよ。ついつい"面白い"反応してくれちゃったからさ」

「けどさァ、安心してよ羽月ちゃん。俺は味方だよ。……羽月ちゃんやソッチの"おチビちゃん"のね」

人間であるが故に法を遵守し、秩序を尊ぶ。
その上で他人の自由を尊重すべきだと学園の秩序に立ったのだ。
だからこそ、東山は羽月にも小竜にも悪意は隠さずとも相応の付き合いはするつもりだ。

……飽く迄彼等が、"教師"。

即ち、学園の側である限りは庇護する。
それが教師のあるべき姿で在り、東山の悪意を"人間"として留めているものだ。

「今日は悪かったね、急に来てさ。今度は"土産"位持ってくるからさ」

「……あんまり"悪い事"はしないように、ねェ?」

本音を押しとどめて飽く迄教師と振舞う男。
大人の付き合いとは言い難いが、張りぼての仮面(ペルソナ)はある種尤も人間らしい。
何処となく上機嫌に煙を吐き出しながら東山は踵を返し、カツカツと足音を"わざと"立てて去って行った。

羽月 柊 >  
対極に在る故の同じ異能、枷付きの無色透明。

男は法を違えるような場に立つこともある。
落第街も、スラムも、男にとっては道の一つ。
それは穏健派ながらも魔術協会に属する故、
違法の場から、竜の子たちを卵から拾い上げる為。

……これが、人間の子供の孤児院と何が違う?

その差が埋められなければ、彼等の間で真の対話は有るか分からない。


「…、……ヒトで遊ぶのは大概にしてくれ。
 俺の異能は、まだ感情に左右されやすいんだ。」

相手が調子を来た時に戻せば、溜息を吐いて感情を蓋の中へしまう。

羽月は多様性を受け入れて来た。
…受け入れなければ、生きて行けなかった故に。
孤独と喪失故に歩んだ道、他者との境界に近付くモノ。

相手が去っていくのに塩を巻きたい気分すらしているが、
揉め事にはしたくない。


自分達は確かに、"教師"なのだから。


相手を見送り、盛大に溜息を吐き、そのまま客間のソファに深く座り込んだ。


「…あぁ、セイル、すまんな……。
 …あぁ、あぁ………良く、我慢してくれた…。」

普段はおさめている感情の発露そのものに疲れたなと天井を見上げれば、
小竜たちに心配され、二匹を労わるように撫で、会話を交わす。


少し落ち着いてから戻ろう。
…日下部にはバレてしまうかもしれんが。


そうしてしばらく感情が治まるまで、じっとしていた。





……その部屋の空気は、男の感情とは裏腹に、冷たかった。

ご案内:「羽月研究所」から東山 正治さんが去りました。
ご案内:「羽月研究所」から羽月 柊さんが去りました。