2022/01/14 のログ
ご案内:「研究施設群」に黛 薫さんが現れました。
■黛 薫 >
両脇の手摺を掴み、慎重に足を前へと踏み出す。
靴底が床と並行になるようにゆっくり下ろして、
重心を前へ移動させながら逆の足を持ち上げる。
黛薫、違反学生。現在は身体、及び精神状態の
検査を兼ねたリハビリ中。午前中は復学希望に
際しての素行監査やカウンセリングもあった。
1歩、また1歩足を前へ。足の角度の調整が甘く、
足首が曲がる形で身体が沈む。足首を捻る前に
手摺を掴んだ手に力を込め、上体を持ち上げる。
脇で補助に当たっていた生活委員が手を貸すより
早く体勢を整え直し、休憩を兼ねて深呼吸しつつ
また歩き出す。
■黛 薫 >
黛薫は現状、運動機能の大半を喪失している。
『身体操作』『身体強化』を併用してようやく
不自由なりに身体が動かせる、といったレベル。
習熟のペースは努力した一般人の域でしかないが、
魔力量が少ないにも関わらず決して腐ることなく
欠かさず練習を続けている。継続は力なり、とは
よく言うもので、目に見えた成果が挙がっていた。
『身体操作』は所要時間1時間、自己保有魔力を
概ね使い果たした上で50音の書き取りが出来る
くらいの練度。魔力を多めに注ぎ込み、時間さえ
かければ精密動作も何とか行える範囲になった。
『身体強化』は瞬間的に10kg弱の握力、30kgに
満たない物を何とか持ち上げられるくらいの力を
発揮できるくらいの練度。課題は無駄な消費を
抑えての維持が上手に出来ない点。
手摺の補助無し、魔力消費を度外視した場合の
自立歩行可能時間は4〜50秒。手摺に頼って
最低限の魔力で強化を維持した場合は3分近い
歩行が可能だが、一定の出力で維持するのが
難しくて度々バランスを崩す。
■黛 薫 >
車椅子での生活にはやっとこさ慣れてきたが、
魔術に頼ってでも身体を動かさないと筋肉が
落ちて良くないのだとか。これは魔術の師(?)
からも指摘された話である。
『動かない身体を動かす』負担は存外大きくて
リハビリの途中で心折れる患者も多いと聞くが、
黛薫の場合は身体を動かす苦痛より魔術を扱う
楽しみが上回っていて、不平も不満も溢さない。
医者から見れば目的と手段が逆転しているような
話だが、結果としてうまいこと収まっているので
特に指摘されたりもしていなかった。
「……ふぅ」
リハビリが終わった後はすぐにシャワーを浴びて
汗を流す。もちろん身体を冷やさないようにする
意図もあるが、それ以上に大きいのは『怪異』を
誘引する彼女の体質が芳香に近い性質を有する為。
汗に溶け出した彼女の『薫り』は危険物の域。
魔力や精気を糧にする種族はシャワーの補助に
当たらせず、シャワールームの床に残された
お湯もすぐに洗い流す対応が取られている。
■黛 薫 >
研究施設のロビー。ベンチに座って一息つく。
同じようにロビーに佇む人々は自分と同じように
身体の問題か心の問題か、それとも異能の問題か、
何かで悩んでいるのだろうか。
……物事が順調に進んでいる実感がある。
それが却って恐ろしく思えてくるほどに。
ずっと焦がれていた魔術の適正が得られた。
過去になく復学訓練を長く継続出来ている。
異能や体質に関する福祉も受けられている。
後ろ暗いところのない知り合いが増えてきた。
魔術の研鑽、研究も躓かず上手く進んでいる。
かねてより求めていた相手にも手が届いた。
気が緩んでいる自覚もある。呆けていたお陰で
午前中のカウンセリングは半ば上の空だった。
軽度の栄養失調も相まって、とうとう精神が
限界を迎えたかと要らぬ心配をかけてしまった。
ご案内:「研究施設群」にフィールさんが現れました。
■フィール > 「疲れた………」
研究施設の奥、薫とは違う方角からロビーへと歩いてくる。
その表情は、とてもげんなりしている。
本来は薫の付き添いであった……はずなのだが。
どうにも自身の出自についても知られてしまっていたのか、強制的に精密検査やら問診やら色んなことに付き合わされてしまった。
受付で自身に関する資料と、金銭を受け取る。
怪異が公的機関に協力的なのは珍しく、その調査をさせてもらった報酬、ということらしい。
受け取った後、ロビーを見渡して、薫を見つける。
「済みません、待つつもりが待たせることになってしまいました」
隣へ座って、溜息を吐く。
「そっちは、どうでした?」
■黛 薫 >
「フィールがそんなに疲れてんのは珍しぃな?
ま、コレも人との関わりか。毛色は違うけぉ」
滅多に見ないフィールの表情に忍び笑いを漏らす。
黛薫の方もリハビリ直後で疲労の色が濃く見えるが、
精神的には多少余裕を残している様子。
「あーしの方は、大きぃ進展は無かったかな。
午前中はカウンセリングと、抜本的な対処法が
見つかってない体質の方のサンプル採取とか。
んで、午後から身体動かすためのリハビリ。
復学訓練の相談にも乗ってもらったけぉ……
今は休み明けで学生が増ぇてんのもあって、
以前より慎重なペースで、って言われた。
リハビリの方は、もーちょぃで自立歩行時間が
1分届きそう。瞬間的な強化は掴めてきたけぉ、
継続強化と精密性はまだ難アリって感じ」
■フィール > 「こっちは色々調べられましたよ。MRI?とかいうのに放り込まれたり、長い間質問攻めに遭ったり。代わりに自分に関する資料と金は得られたけども」
今まで誰にも拘束されたことがなかったフィールにとって、長時間の拘束はとても苦痛であった。
MRIの検査に至っては数時間寝たきりであり、これがとてもストレスであった。
「科学者連中の見解ではスライムの構成物質で人の組成を真似ている、らしいです。今まで通りコアが弱点なのに加えて、頭部の損壊も致命的になりえる…らしいんですよね。人格の大部分を脳に当たる器官に依存してるとかなんとか」
フィールはスライムとエルフの間に産まれた怪異だ。
その体質はスライムに近く、その組成をエルフの遺伝子に学び、人としての人格を得ている。
フィールがフィール足り得るのは、人の形をしている故なのだ。
「中には人型から離れることを危惧する人もいましたね。四肢を無くしたり人の形から離れてしまうと人間性?というのが失われるんじゃないかって」
これに関しては仮説の域を出ないが…フィールが人として接せられるのは人型であるが故であり。その組成が人に近いからである。
人としての行動をすれば人として。スライムとしての行動をすればスライムに近くなる。そんな仮説だ。
「まぁ、それは置いといて…飲み物、いります?」
お互い違う理由で疲労を抱えており、一休みしたいところ。
自動販売機に目線を移して、提案してみる。
■黛 薫 >
「てことは、完全な粘体の状態と比べたら弱点が
増えてるコトになんのか。人に限った話じゃ
ねーけぉ、知的生命体の脳って大きさの割に
優秀な演算装置だもんな。それを再現してりゃ
デリケートになんのも致し方なし、か。
スライムの生命力って生命維持に必要な働きを
コアに集約してるからこそで。仮にフィールが
今の人格やら何やら、全部維持したまま粘体に
戻ろうとしても、重要な部分を丸ごとコアには
詰め込めねー気ぃするよな。
そーなると結局人型形態の頭部に当たる弱点が
残ったまんまになるか、致命傷は避けられても
ダメージがそのまんま内面の欠損に繋がるか……。
後者になったら怖ぃし、フィールもそのうち
人格残したまんまスライムに戻る訓練?とか
した方がイィのかなぁ。コアを2つ作る的な、
そーゆー形式になんのかな」
黛薫は考え甲斐のある話題になると口数が増える。
貴女にそれだけの思考リソースを割く価値がある、
要は大切に考えていることの裏返し。
「それを抜きにしても、カタチが意味を持つのは
正しぃワケだし。有名な例だと、人狼なんかは
姿が変わると本能もそっち寄りになるし。
あ、飲み物買ぅならちょっと待って。
試してみたぃコトがあんだわ」
自動販売機の前に移動し、パネルの前に手を翳す。
白い半透明のシンプルなホロスクリーンが浮かび、
何らかの処理が表示される。見た目は科学技術で
構築された代物、しかし実態は改造した魔法陣。
「……よし、いけたいけた」
がこん、と音を立てて取り出し口に缶が落ちる。
魔術を用いての電子決済。
■フィール > 「そも生物としてはスライムってめちゃくちゃ特異ですからね。単細胞生物だからこそ出来る耐久性なんですよ」
単純な作り故に、失っても簡単に作り出せる。
高度な組成を保持するフィールは、これに該当しない。
手足を失っても復旧は可能だが、高度な機能を保持する内臓や脳の代替は出来ない。
場合によっては生命維持出来ずに死ぬ可能性もある。
「コアの中に脳を移せたら良いんですけど…コアは遺伝子情報の塊で移す余地がないんですよね。失ったら作り直せばいいっていう感じなんですよ、スライムって。
まぁ、そもそも人が危険を避ける感覚で避けてればそうそう死ぬことはないですよ」
弱点が増えたことを鑑みても、フィールは人と比べれば相当に耐久性は高い。人として危険を避ければ、早々死ぬことはないはずだ。
「…へぇ。見たこと無い魔術……魔術、なんですか?それ」
魔力が発されたのは感じ取れた。しかし術式が全くわからない。
今まで知り得た術式の構築とは全く違うものだというのはわかる。
■黛 薫 >
「単純だからこその耐久性。代えが効くからこその
シンプルな組成。だから今のフィールはそれに
当てはまらなくなってんだな」
納得したように頷くと口元を緩め、一度消した
ホロモニター、ウィンドウとでも呼ぶべきモノを
見やすいように再度展開する。
「そ、魔術。つってもやってるコトはスマホの
単純な機能を移植しただけなんだけぉ。
あーしの素質じゃ、単に魔術を収めたトコで
それこそ代えが効く。だから新しぃ技術……
魔術と科学の融和に最近凝っててさ。
まだまだ発展途上だけぉ、割とイィ感じ。
スマホの充電忘れても魔力で代用出来っし、
それに魔術ばっか詳しぃ相手に見られても
再現出来ねーかんな」
指先でスワイプしてウィンドウを動かす。
画面にリアルタイムでフィールの顔が映った。
■フィール > 「脳なんか経験の積み重ねによって成熟するものですからね。遺伝子情報だけじゃ再現出来ないですよ」
知識は勉学の積み重ね。人格は経験の積み重ねによって形成される。
遺伝情報だけでは再現し得ないもの。
薫に対する恋心も、魔術の知識も。頭部を失えば全て失うことになる。
人としては死と同義というわけだ。
そんな中、薫の魔術をまじまじと見て。
「…………薫の知識はすごい、と思いましたが。この魔術を見て確信しました。天才ですよ、薫は。
一体どれだけ緻密に魔術組んだんですか、これ。光学術式に…演算回路…え、魔力を電波に転換して受送信までやってるんですか?」
パソコンの黎明期。今ではスマホで簡単にできる決済や映像出力。それは大きな機材を用いてでしか成し得なかった時代だ。
薫は、それを経ず。今、目の前で成している。
参考になるものがあるとしても、だ。
『人の手では作り得ない精密機器』の代替を、彼女は行っている。
スマホの半導体は人の手ではなく、機械に頼っている。その世界はナノメートル…すなわち100万分の1ミリ、人の目では見えない精度で作られるものだ。
それだけの代物を、薫は作り上げている。大型な魔法陣を使うのではなく、身に付けられるだけの魔法陣だけで。
■黛 薫 >
「大仰に褒めてくれてるトコ申し訳ねーけぉ。
流石に全部独力で代替したワケじゃねーかんな」
軽く肩をすくめ、術式とスマホの接続を切る。
それから操作のコアになっているウィンドウを
表示して見せた。
「順番に代替してんのは事実だけぉ、それ以外の
部分はまだ『魔力で機械を動かす術式』頼り。
演算もスマホの方に任せてんだわ。
機械的な精密性は魔法を形作る法則が物理法則と
異なるのを利用して、サイズ誤魔化してるだけ。
ま、見た目スマートになるように小細工した結果
っつーコト。ハッタリにはなるけぉ」
ウィンドウに表示された機能の大半は未接続により
現在使用不可能となっている。更に見えないように
バックグラウンドで動いている術式も可視化すると
これがなかなかのサイズ。
とはいえ、貴女の認識も全てが間違いではない。
足りない素質を補うために最低限の消費で組んだ
術式は規模の割に消費も軽く、動作も精密。
それこそ機械の如き緻密さで編み上げられていた。
「ただやっぱ問題もあって。この調子で全部の
機能を再現すると、結局あーしの魔力量じゃ
快適に動作しねー見込みになんのよな。
その為に魔力を外付けにするとか、それ以前に
今はスマホで代用してる発動媒体を別の何かに
収めようとか考ぇ始めると、結局分厚い魔導書
1冊分くらぃになりかねなくて。
そーなったら結局スマホ使ぇばイィじゃんって
オチになっちまぅんだな、コレが」
■フィール > 「…それでもすごいですよ。これ、スマートフォンのバックアップとしてめちゃくちゃ有用じゃないですか。売れますよ、これ」
スマートフォンのバッテリーは有限であり、非常時にはその使用を制限せざるを得ない場合もある。
そのときに、自身の魔力をバックアップとして使えるのは、非常時には大助かりだ。
それに―――――
「これなら、フィーナもスマホ使えそうですね?」
フィーナは魔力干渉により電気系統の殆どを使うことが出来ない。
しかし、魔力によって機械を動かすのであれば話は別だ。
彼女の魔力操作は頭一つ抜けており、複数の魔術を行使することが出来るほどだ。
スマホの機能の一つ一つは、魔術で代用は出来る。
しかしそれを、スマホをベースとして少ない魔術で行使ができるのなら…………それは、とても便利なのではないか?
「魔力消費に関しては課題ですが…それでも実用範囲なのはすごいですよ。代替出来るものは代替してしまえばいいんです。いやぁ、すごいな…私は現代にあるものを使って魔術を行使する、っていうのを考えたんですが…こういうアプローチがあるとは」
■黛 薫 >
「そそ、代替が完全に終わればフィーナも使ぇる。
つっても、スマホの全機能を移植しよーとすっと
今のペースじゃ余裕で半年から1年かかんのよな」
スマホとの接続を再開する。ホロモニターには
スマホから取得した明日の天気予報が映った。
「さて、実演も済んだトコで改めて現状の説明。
・あーしは魔法と科学の融和につぃて研究中
・その一環で魔術を使ったスマホの機能再現、
及びそれに必要な機能の移植の真っ最中
→移行が済んでなぃから、終わってない部分は
スマホから取得した情報を表示して擬似再現
それを踏まえて、課題もまだ山積みで。
・完全に移行した場合、発動媒体が大きくなる
→スマホと比べると持ち運びやすさで劣る
・同じく完全に移行した場合、消費魔力が多い
→フィーナならイィけぉ、あーしじゃ使えなぃ」
「あーしにとって1番深刻なのは魔力量の問題。
バッテリーの用途に最適なのはフィールから
貰った結晶だけぉ……アレを持ち歩ぃてたら
間違ぃなくしょっ引かれるかんな。バレずに
持ち歩くイィ方法が欲しぃよな」
■フィール > 「なるほど……………私の方で、一つ考えついたのですが。
携行性の問題、あれも機械で解決できないですかね?
魔術の書き込みを、機械の記録媒体…ハードディスクとかフラッシュドライブに書き込むとか。
コストの問題はありますし、専門的な分野になりますけど…どうでしょう?
やってみないとわからないですが…やってみる価値、ありそうじゃないです?」
今まで術式の簡易化には魔導書やスクロールなどが用いられていた。
その携帯性はスマホに比べれば劣悪。スクロールに至っては使い捨てである。
しかし、それは媒体が『紙』であるが故である。
それを、『機械』にしてしまってはどうだろう、という考えだ。
現代に於いて機械技術は相当に発展しており、電子書籍の登場により紙媒体が駆逐されつつある、というのが現状だ。
その圧縮性を、魔術に活かせないか、と考えたのだ。
「この仮説が通れば、魔術を使う者の装備が一気に近代化出来そうですよ」
■フィール > 「っと、それと…魔力量の問題ですが。私の中で効率が良いのはやはりあの結晶なんですよね。そうじゃないとなると…体液を通した魔力譲渡、もしくは薫との『縁』を用いた魔力譲渡ですかねぇ。後者は効率が劣悪ですけど」