2022/01/15 のログ
黛 薫 >  
「それはあーしも考ぇた。実際にそーゆー研究も
 出てたから論文も読んだ。技術的はまぁ出来る」

渋い顔。そう、出来るには出来るのだ。
予算の潤沢な一握りの研究機関なら、だが。

「とりゃえず、コレ読んでみ」

ホロモニターに表示されたのはかなり最近の論文。
これもまだ未移行なので、スマホ画面の代わりに
モニター表示しただけだが。

論文の内容を噛み砕くと、大前提として完成した
『機械』は物理法則の中で最適化されており、
それを崩さずに別の法則、つまり魔法で成り立つ
ファクターを組み込むのは難しいとのこと。

つまり機械的な記録媒体に魔法術式を書き込むには
設計段階から考える必要がある。この論文ではまず
比較的容量の少ないUSBを例に設計を論じていた。

そして実用レベルの容量を持たせるには親魔法製の
材質で組み上げるのが必要とされている……のだが。
はっきり言って材料費も工費も非現実的なレベル。

企業が巨費を投じて1つ作成し、それがギリギリ
実用レベルの記憶容量というのだから、とても
個人で作れる予算には収まらない。

「フィールから魔力貰ぇばそりゃどーにかなるよ。
 でもそれじゃ意味ねーじゃん。結局あーしには
 扱ぇねーモノを代わりに使ってもらってんのと
 一緒なんだから。

 もしあーしがフィールみたぃな粘体だったら
 身体ん中に埋め込んで持ち運べたのにな」

あり得ない仮定を持ち出す辺り、この問題に
突き当たってから解決策が見えていないらしい。

フィール > 「………なるほど。コストパフォーマンスが絶望的ですね。」

論文を読み、唸る。
それは、宝石で魔導書を作るようなもので。
そのコストパフォーマンスは言わずともがな。

「うーん……この案は没ですね。あまりにもコストパフォーマンスが悪すぎます」

資金は限られている。需要も限られている。
そう考えると、コストパフォーマンスは無視できない。

「……粘体なら、ねぇ」
薫の体内に埋め込むことは、可能といえば可能だ。
しかし問題は結晶の成分と、薫の脳にある。

結晶は麻薬成分にて出来ており、薫の脳に多大なる影響を与えてしまう。
万が一でも溶け出す事があれば、薫は依存症に陥ってしまう。

そして、薫の言う粘体化。
実を言えば、可能である。
薫の中で進んでいる苗床化…それを発展させれば、薫の体組織を置き換えるということは出来る。

しかし、それはもはや人から外れることであり…負担も計り知れない。
何より置き換えしている間に絶命する可能性も十分にありえる。

それは、絶対に犯せない。

「……粘体………」

薫の胎には、自分の分身が居る。薫の体を、異種族である自分の子を孕めるように作り変えている。

そして、一つの案として、思いつく。

「…此処に、溜め込むというのは?負担があるのは、変わりありませんが。」

薫の胎を撫でながら、言葉にしてみる。
今この中にいる自分の分身は、薫の粘液によって存命し、それをエネルギー源として動いている。

「私の魔力発現は少ないですが…この中にも、フィーナの因子があります。上手く行けば、ここから魔力を取り出す…ということも可能かもしれません」

黛 薫 >  
「あーしも読んだとき何のギャグかと思ったもん。
 USBの端子に純ミスリル使おぅとか言ぃ出した
 発案者は頭のイィ大馬鹿者だと思ぅ」

それから、胎に触れる貴女の手を目で追って。
呆気に取られたように目を見開いた。

「……その案、イケるかもしんなぃ。そっか。
 あーし自身の素質が低くても、この中身は
 フィールからの貰ぃ物で、しかもその源流に
 フィーナがいるから……うん、有りだ」

その案は、現行の研究の行き詰まりの解決に
留まらない利があった。自分の胎内に魔力を
蓄積出来るなら、魔力量の低さも誤魔化せる。
つまり、黛薫の魔術適正の低さを補う一助にも
なり得るのだった。

「元々フィールの身体の一部だったってコトは
 結晶との親和性も高くて。胎内の性質をそれに
 近付ければ……手元の結晶も触媒に使えるし、
 うん、なるほど?出来そーな気ぃしてきた。
 フィール、ありがと。今の案、すごくイィ」

興奮気味にフィールの手を握りしめる。

「きちんとしたお礼も後ですっけぉ、今ちょっと
 嬉しくなってっから、フィールの分の飲み物も
 奢らせてくんなぃ?」

今更気付いたが黛薫が購入した飲み物はまだ
自販機の取り出し口の中。思い出したように
取り出したのは缶入りのおしるこである。

フィール > 「…ミスリル使えばそりゃそうなりますね。水晶とかあの辺りの安いのじゃ駄目だったんですかね?」

魔力を込められる宝石も、ピンからキリまである。
中でも水晶は魔術に留まらず呪術や巫術等、用法は多岐に渡り、それでいて安価で入手出来る。

純度の問題もあるが…それでも、それを現代の機械工学で加工すれば、それなりの容量にはなりそうな気はするが。

「…まぁ、元々は自分がやったことの副産物ではあるんで。気にしないでください」

そう言いながら、薫が手に取るおしるこを見る。
見たことは無い…ことはなく商店街で見たことはあるが、飲んだことはない。

「私もそれもらっても?」

同じものを飲みたい、というわけではなく興味本位。どんな味なのだろうか、と。

黛 薫 >  
「それだとUSBとして機能しなくなっちまぅから。
 端子部分は金属じゃねーと。そーゆー物理的な
 前提を崩さずに作るのが如何に難しぃか、って
 話だよな。シリコンすら使えねーってんだもん」

逆に言えば、普通の機械には魔法と親和性のない
材質、材料がふんだんに使われているとも取れる。
両立が難しいのも然もありなん。

「ん、あーしが買ったヤツ先に飲んでみる?
 気に入ったならもー1本買ぇばイィし」

身体強化を起動しておしるこ缶のプルタブを開け、
貴女に手渡した。すっかり置き忘れていたのが功を
奏して、ちょうど飲みやすい温度になっている。

フィール > 「…うーん、じゃあ端子と記憶領域を刻む部分を機械化してみてはどうでしょう?
水晶、今の機械にも組み込まれてるんで使えそうかな、と思ったんですが。
記録媒体として使ってるのは………あ、あるみたいですね」

スマホで調べてみると、ある企業が記録保存のために水晶に着目して技術開発をした旨が書かれていた。
この技術を応用して魔法陣の層を作るだけでも、相当な圧縮になるのではないだろうか?

「いいんですか?じゃあ、いただきます」
受け取って、一口。

液体だと思って飲んだそれは、小豆の澱粉と、潰されていない小豆が混じっていて、思っていたのと違い…

「げぶふぁ」

思いっきり吹き出した。
幸い缶のお陰で前に飛ぶことはなかったがフィールの顔がひどいことになってしまった。

黛 薫 >  
「材質的な話をするなら、使ぇなぃって言った
 シリコンも水晶と同じケイ素化合物なのよな。

 宝石が魔力の蓄積媒体として適してんのは
 生成段階……地中で作り上げられる過程が
 気の長ぃ儀式みたぃなもんだから。

 長ぃ年月をかけて煌めきを形作る成分とマナが
 凝結して生まれた結晶。だから、加工の仕方を
 間違ぅと、成分的には宝石のまんまでも魔術的
 用途には適わなくなるだろ?場合によっちゃ、
 割れただけでも使ぇなくなんだから」

杖に組み込んだ宝石が割れると交換が必要になる、
というのがよく聞く例だろうか。用途に適う形で
加工するのは決して簡単ではない。

「って、うゎ。フィール、だいじょぶ?
 口に合わなかった……っつーワケじゃねーか。
 大方フツーの水みたぃな感覚で飲んだんだろ。
 とろみがあっから喉詰めるぞ、もぅ」

ひとまず取り出したハンカチで貴女の顔を拭う。

フィール > 「あー…確かに。生成過程を間違うとそうなる可能性もあるのか。勉強になる…」

魔法陣が魔法陣として機能するのは、そこに魔力が通るからである。

魔力が通らなければ唯の奇っ怪な紋様でしかない。

なるほど確かに機械的な加工をした水晶だと魔力を通さないという可能性もあるわけだ。

無論、ミスリルを用いた研究者もその可能性については考えたはずだ。
その上で使わなかったということは、用途に耐えなかったのだろう。

「エフッ…え、えぇ、大丈夫です。こんな飲み物初めてです…熱々じゃなくてよかった。
あ、でも美味しいですね」
顔面に弾けたおしるこを舐め取りながら、薫に拭かれる。
熱々のままだったら、人前で顔面が溶けるところだった。

黛 薫 >  
「ただ、フィールの着眼点も的外れじゃなぃのな。
 機械としての用途に適ぅよーに加工したお陰で
 魔法との親和性が損なわちまぅのが問題なら、
 それを損なわなぃ設計とか加工方法さえありゃ
 安価な材料で作れるっつーコトでもある」

それさえ可能なら、フィールが考えた通り
魔導書に記すような大規模な術式を丸ごと
記憶媒体に詰め込むことも現実的になる。

「あーしも、落第街暮らしの頃からおしるこは
 ときどき飲んでたのよな。とろみがあっから
 空腹誤魔化せたし、糖分も糖質も多めだから
 生きるための栄養摂るにはイィ感じで」

それから、じっと貴女の顔を見つめている。
綺麗な顔が汚れた、というどうしようもない
きっかけで思い出してしまったのもどうかと
思うが……伝えるべき話があった。

「そいぇばさ、年末にフィールと一緒にあーしの
 お気に入りのお店行ったろ。以前からあの店の
 店主を『受け入れたぃ』って話はしてたけぉ。
 つぃ先日、正式に契約してきたよ」

フィール > 「効果的そうなのは、それこそ魔術による刻印…………そういえば、フィーナの刺青、あれのやり方が判れば応用が可能かもしれないですね」

人体に刻印を行うという手段は実際にある。それを応用すれば、もしかしたら魔術的記録媒体にも革命が起きるかもしれない。

恐らくその革命は、下手をすれば血を伴うモノになる可能性があるが。
技術の進化は、必ず闘争に持ち込まれる。

「確かにこれは糖分が多くて…この白いので腹持ちもいい感じですね。

あぁ、それは…おめでとうございます?でいいんでしょうか。」

調香師さんとの仲が進展したのなら、良いことだ。
調香師さんが与える薫への影響は良いものだと知っているし、向こうからは嫌われているが、フィール自身は調香師さんのことを良く思っている。

なので、悪感情があるわけではなく。純粋に祝福している。疑問符はついているが。

黛 薫 >  
「フィーナと比べちまぅと、この世界の魔術刻印は
 児戯みてーなもんだからな……流石にフィーナの
 身体の刻印から学ばせてもらぅのはアレだけぉ、
 刻み方とかは習っとぃてもイィかもしんねーな?
 さっき話した、あーしの魔力蓄積の話にしても
 刻印は役立ちそーな気ぃすんのよな」

例えば夢魔の類は生殖器に影響を及ぼす魔術を
刻むために、対象の下腹に紋を描くこともある。
作り替えられた胎内を利用するならそういった
分野の学びも有用だろう。

「入ってんのはお餅、っつーか白玉だな。
 白玉ならよっぽど問題ねーと思ぅけぉ、
 お餅を食べるときはよく噛むよーにな。
 毎年喉に詰めて死ぬ人いるから」

祝福には短く「ありがと」と返答するだけ。
フィールは価値観の差異もあり気にしないと
言ってくれたが、やはり『好きな人』の前で
別の『好きな人』について話しすぎるのは
どうかと思ってしまうから。

「どーする?気に入ったならもー1本買ってもイィよ」

フィール > 「フィーナが持ってる魔導書もとんでもないからなぁ…。普通に禁書に分類されるやつでしたよ」
フィールの魔術知識の殆どがその魔導書から得たものだ。
フィールの使う魔術の危険性を考えれば、禁書に分類されるのもさもありなん、だろう。

「…………怖いですね」

確かにお餅は人間を死に追いやる。

スライムは詰まっても無理矢理そこで溶かせるので大丈夫だったりする。

「いえ、流石に自分で買います。此処の人達からもらいましたし」

そう言って自分で自動販売機のスイッチを押し、おしるこを買う。
缶を手に取り…熱すぎて手を溶かしながら缶を取り落とす。

「熱い………」

ゆっくりと手の形を戻しつつ…小さくなった手でつかもうとして、溶けて失敗する。

黛 薫 >  
「自販機の中で温度を保つよーに出来てっからな。
 フィールにはさっきあーしが取り忘れてたヤツが
 ちょーどイィ温度だったのかもな?」

貴女の代わりに缶を拾い上げ、代わりにさっき
開けた缶を差し出した。魔術で細工したらしく、
おしるこは味見したときより温かくなっていて。
しかし貴女の手でも掴める温度だった。

「奢るつもりだったのに、結局買わせちまった。
 ま、外は寒ぃし、今から帰れば丁度あったかぃ
 飲み物が欲しくなった辺りで適温になんだろ」

魔術と現行の研究を話題に選んでしまったお陰で
すっかり話し込んでしまった。打開策も見えて
逸る気持ちもあり、そろそろ帰ろうと貴女を促す。

「今はすぐに取り掛かりたぃ気持ちで一杯だから
 フィールが出してくれた案のお礼、少しばかり
 遅れるかもだけぉ。何がイィか考ぇといてくれ。
 うまく事が運んだら、色を付けんのも吝かじゃ
 ねーかんな、期待してイィよ」

フィール > 「自販機使ったこと無いんで知らなかったです…」
実を言えば自動販売機を使うのは初めて。

冷ましてくれたおしるこを拾う頃には腕まで細くなっていた。

「構いませんよ。そもそも薫はもうおごってくれましたし…何より薫がまだ買えてないじゃないですか」

時折薫は自分が食べたり飲んだりすることを忘れてしまう傾向がある気がする。
落第街でいた頃を考えればそうなっても仕方ないが…今はそうじゃないし、何より栄養を必要とする時期でもあるのだ。

「お礼なんて要らないですよ。礼をしたいなら自分の事考えてください。
今の優先順位は薫が一番なんですから」

黛 薫 >  
「むぅ」

フィールは恋情や愛情を自覚して以降、自分より
黛薫を優先しがちだった。胎を捧げてからはなお
その傾向が強くなっている気がする。

手を伸ばし、やや強引に小さくなった手を握る。
貴女の顔を見上げる黛薫はやや膨れっ面。

「フィールの中では、フィール自身よりあーしが
 優先度上なのかもでーすーけーぉー。あーしも
 フィールのコトが大事なの。お分かり?

 最近のフィールはあーしばっか優先してっから、
 こーゆーきっかけにでも託けなきゃ、お礼すら
 ロクにさせてもらぇねーんだもん。

 だから、ちゃんと欲しぃモノ考ぇといて。
 あーしもフィールに喜んでもらぃたいんだわ」

どれだけ貴女を大切に思っているか示す為に
手の甲に軽く唇を落として。少しだけ強引に
手を引いて帰路に着くのだった。

ご案内:「研究施設群」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「研究施設群」からフィールさんが去りました。