2022/08/23 のログ
ご案内:「研究施設 408研究室」に紅李華さんが現れました。
ご案内:「研究施設 408研究室」に挟道 明臣さんが現れました。
紅李華 >  
 ――408研究室。
 研究施設群の中で、植物研究を主に行っている研究室だ。
 その研究室所有の一室、外部用の診察室は、一見して診察室というより手術室のような様相だ。

 手術台のようなベッドに、デスクと椅子。
 カーテンが引かれた普通のベッドの上には患者着が一式用意されている。
 ここに通される時、着替えて待っているように言われただろう。

 診察と治療をすると説明されているはずだが、その詳細は教えられていないだろう。
 専門の研究者が診察をするとだけしか伝えられず、青年はこの部屋に放り込まれたのだ。
 

挟道 明臣 >  
情報は力だ。金になり、時に命を救い、そして奪う。
――だというのに、だ。
そんな情報の一切を与えられずに俺はここに来ていた。

落第街の縁に導かれて訪れたのは研究施設群の一角。
己がかつて名前を借りていた研究者のあるべき場所にほど近い、
植生研究などを専門に扱う施設が集まる区画の中。

武器は当然のこととして電子機器の類の持ち込みは禁止。
指示を受けて着た患者着の冷たい感覚と、無機質なベッドの感覚を指でなぞる。
包帯も外されて樹木化した左腕も晒されたままだ。
詳細も聞かされないままに診察担当を待てと言われて数十分が過ぎるだろうか。

「……診察ねぇ」

ボフりと、飛び込むようにしてベッドに背中から飛び込み白いシーツにシワを付ける。
天井の染みでも数えようかと思ったが、嫌気が差すほどに清潔に保たれた部屋にはそれらしきものも無く。
男の一人呟く声だけが渇いた研究室に響く。

紅李華 >  
 ――青年を包む静寂な空間。
 その静寂は、勢いよく奥の扉が開かれた事で破られた。

「――你好!」

 ばーん!
 ちりょーしつに入ると、おとこのひとがべっどにねてた。
 おー、おおー?

「吓死我了!
 真棒! 真棒!」

 すごいすごい!
 ほんとに、種ときょーせーしてる!
 なんでこれで生きてるんだろー!?

 ――扉を開けて入ってきた白衣の少女は、頭の上の巨大お団子と、特徴的なスモモの花を揺らしながら青年に駆け寄る。
 飛びつくような勢いで、寝転がった青年に馬乗りになれば、その樹木化した左腕を一切の遠慮なく、目を輝かし、息を荒くして撫で触ってくるだろう。
 

挟道 明臣 >  
「――あ?」

入る、というよりも半ば蹴破るとでも表現するべき勢いに酷い声が出た。
静けさを引き裂く元気いっぱいの甲高い声。
ニーハオ、おっさんの言う本国の方の言葉だった。

「あー、あんたが担当者か―――っておい!?」

向こうの言葉はさっぱりだ。ニーハオってのも字で書かれると怪しい。
音だけを知っている、響きだけが意味とリンクしている。
こちらの言葉も通じていない可能性もあったが、自己紹介くらいはしようとした矢先。
その女は勢い良く落ちてきた。ノーブレーキで、だ。
急に加えられた衝撃に腹の中の空気を全部吐き出して、ひとしきりむせてからその顔を見やる。
色の混じった長い髪、綺麗に澄んだ玉のような瞳。そして何よりも異様なのが、頭に咲いたスモモの華。
恐ろしい、といった感想は無い。そもそも己も人のことを言えるような状態では無いのだから。

寄生されながら共生を維持している左腕に興味津々といった具合で、べたべたと無遠慮にその腕を触られる。
そこには既に神経の類などとっくに無く、肩口に向けて伝わる振動がただひたすらにくすぐったい。
あのおっさん、どういう教育してやがんだ。

紅李華 >  
 
「最棒了~――はぁぅ~」

 ほんとにすごいー。
 こんなじれーはじめて!

「ねーねー!
 いしきは?
 しこーりょくは?
 じゆーにうごくのっ?」

 ぜんぜんくるしそーじゃないし、肩からはふつーだし、なんでこーなってるんだろう?
 本人ともちがうよね?

 ――青年の左腕を抱きかかえるようにして頬ずりをして、恍惚とした表情を浮かべる。
 その手は左手だけじゃなく、その肩、さらに胸の方まで伸びて、青年の身体を無遠慮にまさぐりだしている。
 

挟道 明臣 >  
「意識も思考も至って正常、今ん所はな」

自由に動くかと問われればこれが答えとばかりにその頭を撫でてやる。
神経の類は無いが、自分の意思で動かすと言った事に困らない。
腹の上、一切の遠慮なく乗っかるその小さな体躯をわざわざどけるような真似もせず、
人ひとり分の重さを感じながら天井を見上げる。

紅李華、件の種子を巡って起こった事件の中核。
そして、紅龍のおっさんの妹。
見た目は、まるで似ているとは言い難い。
あの男のような上背があるでも無く、無骨な硬さがある訳でも無い。
寧ろその真逆。

「……おい? センセー? 何してんだ?」

俺の知ってる触診と違うぞ。
何と言うか、後でおっさんになんて話すんだこれ。
そういう冷や汗が出てくる。
落ち着け、そう言いながら頭に生えた華のその根っこを引っ掴む。

紅李華 >  
 
「おぉー――んふぅー」

 ほんとだ、じゆーにうごいてる!
 撫でられるのくすぐったーい。

「んえ、嗯、しんさつ――んひぁっ!?」

 ひぅ、せなかがびりって――ふえ、あたまがくらくら――

 ――スモモの花の付け根を掴まれれば、少女は声を上げて背中を反らし、腰を抜かしたかのように力が抜けて、青年の胸の上に倒れ込む。
 少女の身体は、時折痙攣するように震えて、頬は紅潮し、呼吸がさらに荒くなる。
 見るからに普通ではない様子だろう。