2022/08/24 のログ
挟道 明臣 >  
「――あ?」

ご機嫌に人の身体で遊んでいた少女が、声を上げて倒れる。
不用意ではあった。
己のそれが痛みの類を感じないからと言って、相手が同じとは限らない。
頭部から伸びるスモモの華。頭部から直接伸びているのだ。
伸びる髪を引っ張るような真似だ。暴力と言っても差し支えない。

落第街の連中ならいざ知らず、ここはそういう場所では無い。
何よりも、無害な少女を怪我させてしまったかもしれないという事に、肝が冷えた。
つい数か月前まで必要とあらば殴る蹴るという事も辞さなかったというのに、
何かを傷つける事に酷く臆病になっている自分がいた。

「お、おい。大丈夫か?」

言いながら一度は手を離したその根を労わるようにして撫でてやる。

紅李華 >  
 
「め、没有――ひぁっ、んっ」

 ふぁ――あたまが、びりびりする――
 はぅ、こしぬけちゃ――

「や、んっ」

 これ――せれねのときみた――

 ――少女に寄生している花はかなり頑丈で、それによって根が傷つく事は簡単にはない。
 しかし、花の根は少女の脳神経に深く絡みつき直結しており、花が受けた刺激は全て少女の身体に影響する。
 当然、青年にそんな事は知る由がないだろうが。
 青年に撫でられるたび、少女は体を震わせ、嬌声をあげる。
 青年の胸元を左手で握り、内股をこすり合わせるようにしながら、青年の顔を見上げる。
 その瞳はしっとりと潤んで、頬は赤く染まり、熱のこもった息が荒く吐かれていた。
 

挟道 明臣 > なんだ? 痛がってるのとは違う。
触れられたときに俺が感じたくすぐったさ、それが近いのか?
触れ、撫でる度にビクリと震える小さな体躯。
不安に駆られて顔を見下ろすと潤んだ瞳と眼が合った。
薄い生地越しに胸にかかる吐息の暑さ、見た目相応に軽いとはいえ身体の上に感じる重さに既視感を覚える。

あれは歓楽街の奥。人目を忍ぶような位置にあるモーテル紛いの違法施設。
曰くリラクゼーション施設、曰くリフレクソロジー、接触療法。
貪欲では無いが、己も無欲なわけでは無いから、その手の施設を知らないとは言わない。
それと被って――

「っっドクタァァアァアッ!」

SOSを叫んだ。叫びながら飛び起きるようにして体を起こす。
おっさんの妹相手に劣情催すために来たわけじゃねぇ!
誰か助けてくれ、ドクターが大変だ。
ドクター相手に俺が変態みたいだ。
臆面も無く叫ぶと一周回っていくらか冷静にもなる……が相手はどうだ?

紅李華 >  
 
「ふぇ――?」

 手がはなれちゃう――やめちゃうの――?

「――ゃぁ」

 あたまがじんじんする。
 おなかの奥があつくてむずむずして――

 ――青年が叫び声をあげても、誰もやってきたりはしない。
 なぜならこの治療室は完全防護防音がなされているのだ。
 実験研究で事故が起きても外に広がらない様に。
 しかし、モニターはされている。
 でも誰も助けに来ないのである――。

 そんな中で少女は、青年を見上げて瞳を潤ませたまま、起き上がった青年の胸元にしがみついている。
 青年の足にまたがるような姿勢になるが、青年の脚には直接、肌の感触――ともすれば、やや湿ったような感触が伝わっている事だろう。
 

挟道 明臣 >  
――――――来ねぇ。誰も来ねぇ。人っ子一人来ねぇ。

しがみつかれた胸元が引っ張られ、伸びた患者着は首から鎖骨までを晒される。
肌と肌の触れる感覚、人の熱。
艶のある唇が向けられて、その隙間から覗く舌は艶めかしく嫌だと囁く。

「やぁ、っじゃねぇ! 落ち着けドアホ!」

ちょっと強めのデコピンを綺麗な広い額目掛けて放つ。
据え膳食わぬは、とは言うがそれはそうとして据えてきた連中の衆人環視の元で遊ぶ趣味はねぇ。
その眼が無ければ手を出すのかという話ではあるがそれは、無い。
可愛らしい、愛らしい。庇護欲を煽るその見た目に手を出す事は無い。

紅李華 >  
 
「――哎呀!?」

 ――いたい。

「うぅ、为什么?
 むずむずするぅ」

 おこられた。
 なんでだろう、きもちよかったのに。

 ――デコピンをキメられると、額を抑えて、別の意味で目を潤ませた。
 なお、モニターしていた408の主任は、頭を抱えていたりするが、いつもの事である。
 とりあえず、痛みで落ち着いたようだが、じっとりと湿った感触はまだ足の上に乗ったままである。
 

挟道 明臣 >  
「何してんだあんた、馬鹿か!?
 診察に来たんだろ、仕事をしろ仕事を」

何してんだアンタも馬鹿かも言われるべきは俺かも知れないが。
人に向かって言えば一貫して平静を保っていた風を装えるかもという思いもあった。
湿り気、いっそぬめりとすら言える感触から逃げるようにその体躯を両脇から持ち上げてベッドの脇に立たせる。

「で?」
わざとらしく咳払いをして、無理やり仕切り直しの構え。
「結局――コイツはどうすんだ?」

右手でコツコツと左腕を叩いて話を元に引き戻す。

紅李華 >  
 
「むうー」

 おろされちゃった。
 でもそーだ。
 おこられちゃったし、ほんだいしなくちゃ。

「对对!
 嗯――切り落としちゃうのと、からすの、どっちがいーい?」

 どっちにしても、けんきゅーしりょーになる。
 けつえきけんさと、れいらいんそくてーとほかにもいろいろしなくちゃだけど。
 

挟道 明臣 >  
「資料にしやすいのはそのまま保管できる方、なんだろ?
 それなら切り落とす方で構わねーさ」

手っ取り早さで言えば、どちらも変わりないだろう。
痛みや恐ろしさなんてのを今更秤にかけて選ぶつもりも無い。
己の四肢を切り落とす。
物騒な話ではあるが、今のこの状態の方が異常なのだ。
植物の根に浸食され続ける状態を、健康とは言うまい。

「まぁ、再生して根を伸ばされるような事さえなけりゃその後は義手なり何なり考えるさ」

疑問が無いとは言わないが、今の俺はモルモットとして此処に居る。
それなら大人しく首を縦に振って資料に為されるままに資料になるだけだ。

紅李華 >  
 
「好的好的。
 んー、いたいけどへーき?
 ますいしないよー?」

 ますいすると、こーたいのこーかも減っちゃう。
 そしたら、ほんとにきせーされちゃうかも。

「什么?
 ちゃんとー、さいせーちりょーするよ。
 じぶんの手、ちゃんとあったほーがいいよー?
 それとも、べんりな手がほしーい?」

 ぎしゅのほーがいいのかな?
 それなら便利なのもつくってあげられるかなー?
 どの子をきそにしたらいーかな。
 

挟道 明臣 >  
「痛みを今更怖がるようならはなっからこんなのになってないさ」

痛いのも怖いのも、当然好きでは無い。
そもそも好き好んでんなもん摂取するような物では無いだろう。
だが、それはそれ。歯を食いしばって痛みを飲み込むのにも慣れてきた所だ。
必要ならそれを選び取るくらいの事はしよう。

「……治せるもんか? 結構ガッツリだぞこれ」

浸食範囲は視認できる範囲でも肩口の辺り。
肘から内側が残っていればある程度不自由はしないという腹積もりで己で切り落とした所よりも
かなり深く食い込んでしまっている。
が、そこは常世の最新技術と言ったところか。違法も無法も使いこなせばできる事は知っている以上に多いのだろう。

「まぁ、治せるってんならそうするに越したこたねぇんだけど」

紅李華 >  
 
「好的!
 それならきっちゃおー。
 あ、そのまえにいろいろけんさするね」

 えーと、ちゅーしゃき、てんてき、そくてーきとー。
 ほかにはなにがひつよーかな。

「对!
 いっぱんかはしてないけど、くろーにんぐも、さいせーちりょーも、じつよーだんかいだもん。
 それくらいなら、嗯、みっかくらいかなー?」

 さいぼーからばいよーでいちにちくらい、くっつけて、てーちゃくするのにふつかくらいかな?

 ――青年に受け答えしながら、デスクまで移動して、端末になにかを入力していく。
 必要な機材や薬品の手配だ。
 

挟道 明臣 >  
「おう、頼むわ」

真っ当な検査という物を久々に受ける。雪の降る時期に一度死にかけて以来か。
そもそもが不法入島者だ。闇医者の世話になるのが常だった。
あの街で過ごしていたからには健康優良体って訳でも無いだろう。
この際精密にでも検査してもらいたいところだ。

「実用段階ねぇ……まぁ、三日程度なら不便もねぇ」

どうせその期間はこの施設の内で絶対安静って所だろう。
暇を持て余す事にはなるだろうが、さすがに端末くらいは返してくれないと暇が過ぎるが。

紅李華 >  
 
「对对、知道了!
 交给我吧、ぜーんぶしらべちゃう!」

 とーってもきちょーなさんぷる!
 ぜんぶ大事にしなくちゃ!

「――あ、人家、りーふあ!
 你叫什么名字?」

 そういえば、おなまえきいてなかった!
 

挟道 明臣 >  
「おう、李華な。お前の兄さんから聞いてるよ。
 俺は明臣。って聞かされてなかったのか?」

モルモット以上の説明を誰もコイツにしなかったのか。
そんな状態で身体まさぐられてたと思うと末恐ろしい。

さて、こっから先にいくつか工程はあるんだろうが腕落とすってのが一番ハードな所だろう。
あぁは言ったが、それまでの検査の内に覚悟を決めるとしよう。

紅李華 >  
 
「对!
 嗯、よろしく?
 あきおみ!」

 あきおみ!
 哥哥が言ってたおともだちって、あきおみだったんだ!

「えへへ、なかよくしてねあきおみ!」

 哥哥のともだちで、きちょーなさんぷる!
 なかよくなって、たくさんじっけんしなくちゃ!

 ――李華は右手を差し出して、花が咲くような満面の笑みを浮かべた。
 そして、それから数日を掛けて、検査と治療が行われることになったのだった。
 その間はほとんど監禁状態になってしまったが。
 不自由な事はなく、その上、李華ほとんど付きっ切りとなったために、退屈する事はなかっただろう。
 もちろん、寄生体の切除は拷問もかくやという苦痛を伴う事になったが。
 治療を終えた頃には、正規の身分が用意され、晴れて表舞台の人間として出直す準備が整えられた事だろう。
 

ご案内:「研究施設 408研究室」から挟道 明臣さんが去りました。
ご案内:「研究施設 408研究室」から紅李華さんが去りました。