2024/06/01 のログ
ご案内:「研究施設群」に黒羽 瑠音さんが現れました。
黒羽 瑠音 >   
「よろしくお願いします!」
『はい、此方こそよろしくお願いします』

私が頭を下げた相手はまさに"研究者"といった風の白衣のお兄さんである、優し気な顔立ちで少し安心しちゃった
そう、今日は私の異能の評価試験、その記念すべき第一回目なのだ
一応事前の答弁とか軽いテスト何かである程度伝えてはいるんだけど……
之から研究してもらう以上、一度しっかり調べて貰わないとね

「それで、今日は何をすればいいんですか?」
『そうだね、初日だしまずは改めて君の異能について見せてもらおうかな』

ちなみに私たちがいるのは研究室ではなく、研究棟に併設されている広場である
私は特にこの異能を隠すつもりもないし、使うものを選べばそこまで危険性も無いという事で
開けた場所の方がリラックスできるかも、という事で提案されたのをそのままOKを出した感じだ

黒羽 瑠音 >   
『じゃあ、まずこれを』

そういってお兄さんが渡してきたのはリンゴである、うーん瑞々しくておいしそう
ちょっと変えるのが憚られるけど……これもサダメだ、許してリンゴさん

「じゃあ、早速変えてみますね」

そう言って力を使ってみる、リンゴサイズなら十数秒で"変化"するはずだ

「… よし、っと」

問題なく力が発動し、リンゴがみかん… それも見るからに傷んだものに変わる、まだギリギリ食べられそうだ

『成程… 聞いていた通り、同カテゴリの別のものに変わるわけだね』
「はい、あ、これ食べてもいいですか?」

許可をもらってミカンの皮を剥く、べちょりと身が柔らかくなっているが、問題なく食べられるレベルだ
ちょっと酸っぱいのは品種のせいだろうか?お兄さんがカルテのようなものを書いている間にぺろりと平らげる

『じゃあ、後何回か同じもので試してみようか』
「はぁい、りょーかいですっ」

続けざまに三つほどのリンゴが別のものに置き換わっていく
半分サイズのリンゴ(歯形も無い!)、1房のサクランボ、そして潰れかけのイチゴ……
イチゴを出したところで、研究員さんがほぅ、と声を上げた

『イチゴ……』
「え、何か変でした?」
『うん、もしかして黒羽さん……イチゴが野菜だって事、まだ習ってなかったりする?』
「え”~~!?あんなに甘いのに!?」

目を丸くする、後から調べたけど本当だった、他にはスイカやメロンなんかもそうらしい

『それと、黒羽さんは味やにおいの極端な食べ物は苦手だったね、それからすればドリアンなんかもそうだけど…』
「あ~~、でも、ほら、ドリアンって高いじゃないですか」

昔そういった理論でワンチャンドリアンを食べて見れるんじゃないかと友達にせがまれたことがあった
まぁ結局10個以上のみかんが無駄になった結果に終わったけれど

『成程、そういった意味での価値も変化の際の評価基準になる、と』
「そうみたいです」

頷きながら応える私、おぉ、何か本当に研究、してるっぽい!!

黒羽 瑠音 >   
『それと、変化するカテゴリについても黒羽さんの主観が関係しているみたいだね』
『もしこの考えが正しいなら、今後黒羽さんが果物を変化させる時、イチゴに変わる事はなくなるだろう』

ほぇ~~っとした顔で研究員さんの言葉を聞く私、漫然と力を使っているだけじゃ分からなかったことだ
じゃあ、次を試そうか、といって渡されたのは10円玉だ

『この後、神社にお参りに行こうと思うんだけれど、ほら、御縁があるよ、の五円玉が欲しいんだ、変えられるかい?』
「……やってみます」

いやまぁ多分出来ないんだけど、之も"下位互換"のテストである
研究員さんの10円玉にごめんなさいの気持ちを向けながら変化させる

『とりあえず10枚ほど、変えてみようか』
「ジュース一本買えないくらい……!!」

結果としては1円玉が5枚、残高0の実家の商店街のポイントカードが3枚、そしてお札……はお札でも、人生ゲームの子供銀行券が2枚という結果になった

黒羽 瑠音 >   
「わ、懐かし~昔はやったなぁボードゲームのやつ、アナログゲームの一つなんですよ!」
『あぁ知ってるよ、それにしても、之もお金というカテゴリになるんだね』

全部1円玉になるのも覚悟していたけれど、と研究員さんは笑う、楽しそうでちょっと安心
こんな能力だし、調べてくれる人もいやいや……だったらというのが正直不安だったもんね

「じゃあ、今日はテストだしこれくらいで……いや、一つだけ試しておこうか」
『あ、勿論いいですよ!じゃんじゃんやります!』

実際、まだまだ全然能力は使える、良く漫画とかであるような代償みたいなものは殆ど感じた事が無いのだ
まぁ、たまーに疲れるような感覚に襲われる事はあるんだけど……どんな基準なんだろう

『じゃあ之を… 足で踏んでくれるかな』
「足で?」

お兄さんが用意したのはサッカーボール、それを言われるがままに踏む
成程、私もすぐに理解できたぞ

「足で触れてても変えられるか、って事ですか」
『そういう事、試してもらえるかい?』

二つ返事で頷いて変えようと試みる、確かにこれは試したことなかったなぁ
……そう考えてボールを踏む私の足は、直ぐにすかっ、と空気を踏みつける事になった

「ぉ、ぉおっ、とぉっ!?」

女の子らしからぬ声を上げて前のめりになる、そして足の裏は硬い球状のものを踏みつけた
ゴリィッ

「いだぁっ!!」
『だ、大丈夫かい?』

そのままつんのめるように一歩、二歩歩いてから振り返る
自分が踏んだものを確かめると、そこにあるのは一個のゴルフボールだった

『あはは……足でも変化はさせられるみたいだね』
『同時に、素手じゃなくて、靴越し……なら手袋とかでも問題なく"触れている"と判断されると』
「そうみたいです……ぐぐ、いたたた……」

黒羽 瑠音 >   
『今日は此処までにしようか、次からは本格的に君の異能について調べさせてもらうよ』
「よ、よろしくお願いします……」

強制足つぼマッサージの痛みから回復しながら姿勢を何とか正す
ごく短い時間だけど、確かに収穫はあったのがちょっとだけ嬉しい

「あの、研究員さん」
『何だい?』

カルテを仕舞いこむ研究員さんに対して声をかける
すぅ、と一度息を吸い込んで、吐いて……よし、大丈夫

「その、良く分からないし、研究しても、役立つかは正直分からない能力ですけど」
「寧ろ成長するともっと役立たずになるんじゃないかとかすらちょっと思ってますけど……!」
「私、この力をもっとちゃんと使ってあげたいんです、よろしくお願いします!」

大げさかもしれないけど、そういって深く頭を下げる
そう、その為に此処まで来たんだ、この力がどんなものか知るために、そしてちゃんと"使って"上げるために

『……勿論、此方こそよろしくね黒羽さん』
『君の異能がどんなものなのかは調べてみないと分からないけれど』
『君がそうやって自身の異能を"良く"使おうと思っている限り、私は協力する、約束するよ』

あ、やばい、何か泣きそう……ここに来てよかった……!(1日ぶり3回目)
もう一度大きく息を吸ってから、笑顔ではいっ!と元気に返事を返す

黒羽 瑠音 >   
こうして、私の異能研究の一回目は終了した
まぁ、研究というより殆ど確認に近いものだったけれど……

だけど気分的には大きな一歩だ、見てろよ私の"下位互換"
いつか必ず、お前を華麗に使いこなしてやるんだからねっ!
帰り道にそう意気込んでスティック菓子に使い、思いきり齧ってやる
口内に少し生臭い味が広がってうげぇ、となるが、勢いで飲みこんでやる
鼻先に抜ける魚の香りに涙目になりながらも、私の心は晴れやかだった

ご案内:「研究施設群」から黒羽 瑠音さんが去りました。