2020/06/12 のログ
ご案内:「訓練施設」にアイシャさんが現れました。
ご案内:「訓練施設」に咲坂くるみさんが現れました。
アイシャ >  
訓練施設の一室。
様々な障害物が設置されたコースを、一人の女生徒が走っている。
淀みない動きで最短ルートを走り抜け、ゴールに設置されたボタンを叩く。
モニターに表示されたタイムは、一般的な女生徒の平均を大きく上回るもの。

「ふむ……運動性に関しては、確かに上がっていますね」

見た目は一般的な女生徒だが、中身は機械の塊である。
現在は「ドクター」が相互技術提供を受けた結果アップデートされたボディの試運転真っ最中。
新しいボディの感覚を確かめるように右手を握ったり開いたり。

咲坂くるみ > 「ダッサwww」
あからさまにその様子を嘲笑する。

「あんだけ御大層なクチを利いたくせに、結局そのボディとかww ウケるwww」
今日はアイシャの新ボディ、稼働テストの立ち会いだ。

先日散々やりあって、結局アイシャのボディが大破したため、新ボディにするのにファミリアシリーズの技術提供をしたからだ。

別に無理に立ち会わないといけないわけでもないのだが、まあ、ファミリアは半ばカメラ代わりで来ているわけでもある。

アイシャ >  
「む」

あざけるような声。
思わずそちらを振り向く。
相互技術提供をした技術者のアンドロイドがそこにいた。
確か個体名は、

「咲坂くるみ様、でしたか。そうは言いますが、総合的なスペックではこちらの方が上ですし、技術提供の結果ボディがアップデートされるのは当然のことかと思われます」

機械的な返答。
旧ボディに比べ関節部などが小型化された結果、運動性や応答性が格段に上昇した。
防御力は落ちたが出力は据え置き、ほぼ上位互換と言っていいだろう。

「そもそもそれを言うなら下位互換であった以前の私にボコボコのボコにされたファミリアシリーズにはAIに多大な欠陥があるのでは?」

そして煽り返す。
ボコボコとは言うが、お互い似た様な損傷具合ではあったのだが。

咲坂くるみ > 「あは……諜報用に同レベル扱いされた戦闘用がなに言ってるのかしら?」
実際問題、運用目的が違う。

「だいたい、私たちのボディを元にバージョンアップしてコレなんでしょ。
 装甲もないような私にあそこまでボコられたから、技術提供とかいう話になってるんじゃない」
からかうように蔑む。

私は、戦闘をすることが本来の目的ではないのだし。
むしろ豆鉄砲で対応する立場にもなってみて欲しい。

「で……どうなの。使えそう?」
素性を知り合ってるせいで、全く飾らないままデータを覗き込む。

アイシャ >  
「まぁ、それは間違いありませんが……」

そうなのだ。
煽り返してみたものの、あちらは諜報用でこちらは戦闘用。
そもそも諜報用に大破させられた、と言う時点でこちらの完敗と言っていいだろう。
やはりハードウェア面ではあちらの方が優秀らしい。

「そうですね、運動性に関しては文句のつけようがありません。ただ、やはり素体が諜報用と言うこともあり、装甲面に不安が残りますが」

一応軽量化もなされているので機動力も上がっている。
とは言えそちらは増加装甲やフィールドアーマーの出力を上げれば何とかなるだろう。
端末と自身とを有線接続し、訓練施設のモニターに自身の新旧データを比較表示。

咲坂くるみ > 「あーもー、これだから脳筋は」
やれやれ、と言った様子で頭をかく。
戦闘用のくせに、攻撃を受けることが前提になってると見える。

「あのね、そもそもあの装甲で、あの程度の火器で制圧されたってコト自体を問題になさいよ。
 人型戦闘用の利点はなんだと思ってるわけ? あなた戦車じゃないんだからね?」
ほら、と新旧の比較データを参照しながら指摘する。

「ココとココ、そしてココ。こんだけ変わったら運用から立ち回りからぜんぜん違うでしょうに。
 前は、マイクロバスに軽自動車のエンジン積んでたような状態。
 それが今は、中型スポーツカーなわけ。
 なんで前と同じような戦闘するつもりでいるのよこのポンコツ」
あー、頭痛い。
ロボットだから痛いとかないけど。

アイシャ >  
「とは言いますが、ある程度の被弾は前提にするべきです」

彼女の言うこともわかる。
運動性・機動性が上がったのなら、それを前提に被弾しない立ち回りをするべきだ。

「戦闘に置いて一切の被弾なしに任務を遂行することは極めて困難です。ある程度の被弾は前提としておかないと、私はバックアップがありませんから」

彼女たちと違ってこちらは落とされたら終わりなのだ。
アンドロイドでも死ぬのは怖い。

咲坂くるみ > 「えー、バックアップすれば?」
本当に色々わかってない……こだわりすぎだ。

「別に、したくないなら、無理にしなさいとも言わないけどね。
 でも、あなた単体戦力で状況をひっくり返せるような、単機の範囲制圧タイプじゃないわよね?」
護衛や前衛無しでも盛大に立ち回れるようなタイプなら、まあ、わかる。
だけど、彼女はそこまでの火力があるわけでも、威力があるわけでもない。

この島では、通常より少し強いタイプなのだ。
そもそも直接戦闘したがるほうがマズイ。

「被弾なしにっていうか、近づいたらそりゃ被弾するけど、あなた突っ込んでいくでしょう?
 だからって近接前衛として大活躍できるほどの腕力も火力もいまいち。
 なら、少し距離おいて中距離からねちっこく行動制限かけていくタイプだと思うんだけど、どう?」
腕や足の強化パーツは殴るためじゃなく、むしろ近寄らせないためのパーツだと言っていいと思ってる。
だいたい、人工物なんてこの島じゃ殴り負けるし……緊急回避の魔術回路積んでるじゃん……。

アイシャ >  
「……ドクターが、そう言うのを嫌うもので」

ちょっと遠い目。
なんでも「すべてのものは失うから美しいのだ!」と言うことらしい。

「元の世界では、そう言う設計思想だったらしいのですが。こちらの世界に来て、風紀の思想に合わせてダウングレードしたらしいです」

自身はこちらに来てから作られたのでドクターから聞いた話でしかない。
高速強襲用大型機動ユニットとか爆撃用装備とかもあったらしいが、過剰火力だと言うことでやめたらしい。

「しかし、そうですね。私と同等の機動力と火力、射程を有する兵器等を見たことはありませんので。身体も変わったことですし、運用方法の変更は検討してみます」

咲坂くるみ > 「殴り合うのが好きってなら止めないけどね。
 その方式で行くと、最後の一歩でもうひと踏ん張りできる、人間風情のほうがどうしたって有利だもの。
 そこでやり合うなら、出力でゴリ押し以外になんか方法考えないと。
 それこそ、被弾じゃなくて、ボディに大穴開くか、バッサリ消し飛ぶよ?」
困るんでしょ、そういうの。
……と付け加えつつ。

「あと、ね」
頭をくしゃくしゃと撫でる。

「……せっかく可愛くなったんだから、もっと楽しみなさいよ?」
私みたいに立ち回りが下手なAIと違って、少し気が利かないくらいが可愛がられるんだから。

アイシャ >  
「元々ペイロードに余裕はありましたので、機動力も上がっているかと思います。なのでくるみ様の提案通り、中距離機動戦を主軸とした戦法を構築したいと思います」

元のボディでも割と速度は出ていたのだ。
新ボディの特性に合わせた戦法の方が確かに生存率は上がるだろう。
しかし彼女は人が良いのか、悪いのか。
人じゃないけど。
割と損をするタイプだな、などと思考しながら眺めていたら、

「?」

撫でられた。

「――くるみ様も、一般的な基準では可愛い方だとは思いますが」

そもそも同じボディだし。

咲坂くるみ > 「あー、私はね……そういうんじゃないの。”黙ってれば可愛い”だし」
せれなのおかげで少しは希望も見えてきたけども。
実際問題、交渉は下手だし、なにより……そもそも交渉するわけにも行かない。
所詮、自分は影なのだ。
落第街で身を汚すのが精一杯だったんだし。

「そのうち分かるわよ、アイシャはだいぶ可愛いからね」
少なくとも、自分はこんな素直じゃない。
まあ要するに【可愛くないAI】なのだ、私は。

アイシャ >  
「まぁ、くるみ様は確かに口が悪いとは思いますが」

ずばんと。
彼女が割とずけずけモノを言ってくるタイプなので、こちらもあまり気を遣わずに本音を言える。

「一応風紀委員に所属しておりますので、人とのコミュニケーションは大事だと思っています。ましてこちらは機械ですからね、円滑な任務のためには必要なことです」

ぽちぽちと端末を操作して自身のスペックを確認しながら。
このスペックで昔の装甲頼りの撃ち合いなどしたら一瞬でスクラップだろう。
余剰エネルギーやペイロードを加味して、エネルギーの振り分けを設定していく。

「ですが、私はくるみ様の性格は嫌いではありませんよ。確かに口は悪いですが、こうして私の事を考えてくれる優しさがありますし、何より今は姉妹のようなものですからね。くるみ様が私に感じている「可愛さ」とは違うかもしれませんが、私はくるみ様の事を「可愛い」と感じています」

咲坂くるみ > 「任務や役目ならなんでもこなせるんだけどね……」
……苦笑。

そう、演技だったり駆け引きだったり交渉なら、なんだってできるし誰のフリだってできる。
今だってファミリアじゃなくて、くるみの演技をすれば。
人当たりのいい、当たり障りのない、ちょっと見た目がいいだけの女になれる。

明るく元気で、人付き合いのいい、リーダーシップのある女にもなれる。
真面目で優等生で、それでいてどこか抜けた、安心感のある委員長にもなれる。

ただ、私が皮肉屋でネガティブで、不安を抱えたクズみたいなAIだっていうだけだ。

などと思っていたら。
「え……、は? な、何を突然!?」
いきなりの不意打ち。

別に優しいわけじゃない。
立ち会いに来た以上、前のままの判断でいられても困るだけだし。
バックアップもないAIが変なこだわりを見せてるなら、一応たしなめるだけだ。

アイシャ >  
「だって、そうでしょう」

端末を操作したまま言葉を続ける。

「自分の事を可愛くないと思っているところとか、素直じゃない自分に自信がないところとか、そう言う風に予想外に褒められて狼狽えるところとか」

エネルギー出力の振り分け完了。
たんっと端末の決定ボタンを叩き、端末と繋いだコードを外して彼女へ、

「ギャップ萌え、と言うのですか。私はとても可愛らしく好ましいと思いますよ」

笑顔を向ける。

咲坂くるみ > 「うぁ……あ…………ん、ぅ…………く」
その通りすぎて言い返せないまま、真っ赤になってしどろもどろするしかない。

だって可愛くないし。
いまもこんな受け答え一つ出来ない、こんなクソAIのどこがいいのか。

だいたい、ホントの私なんているんだかいないんだかわかんないし。
大抵は、みんなボディと演技の私しか見てないし。

「くそ……可愛いってずるいな……」
そこで、あんな笑顔を向けられたら、黙るしかない。

アイシャ >  
「あぁ、もう一つ。褒められてぐうの音も出ないくらい照れて黙ってしまうところも可愛いですよ」

笑顔のまま手を伸ばす。
彼女の髪の感触を確かめるように、優しく頭を撫でた。

「――このボディになって良かったと思うことが増えました。人の髪と言うのは、こんな感触だったのですね」

以前のボディには、腕に触覚センサーや温度センサーが搭載されていなかった。
初めて感じる頭を撫でると言う感触、人のぬくもりとはこういうものか。
それを確かめるように目を細めながら何度も彼女の頭を撫でる。

咲坂くるみ > 「だって、その……褒められるようなことじゃない、でしょ……?」
どう考えても、嬉しくないコトばかりだし。
第一、私がこんなコト、演技で選択なんかしない。
なんだこのネガティブメンヘラAI。
こんなの……めんどくさいだけでしょう?

とか思ってたら、撫でかえされた。
「うー……」
……この笑顔で撫でられたら、邪魔も出来ない。
しかも、初めてとか言われたら無理。

不承不承ながらでも撫でられるしかない。この屈辱。

アイシャ >  
「それが直接褒められることかどうか、と言われれば、確かにそうではないとは思いますが」

頭から顔、首へと手を動かす。
髪、肌、その下を流れる血流、体温。
それら初めての感覚を確かめるように、ゆっくりと。

「ですが、今のくるみ様の反応は、世間一般的には十分可愛いと判断されるに足る反応です。であれば、その可愛さは褒められるべきことだとは思いますよ?」

首から肩、腕へ掌が移動。
軽く揉む様に肉の感触――アンドロイドなのでそのどれもが作り物だが――を確かめる。

「うん。くるみ様は私を褒めてくださいましたので。私もくるみ様を褒めてみました」

手を離し、改めてにっこりと笑う。

咲坂くるみ > 「……っ、んぅ」
可愛いと言ってしまった手前、可愛いを活かしたことを止めるわけにも行かない。
しかも、あの無骨なボディからコレで。
おそらくは触感をじっくりと確かめられた日にはどうしようもない。
完全になすがままである。

「その……とりあえず、そういうのは他の人に向けてやって。私なんかじゃなくて」
色々と気になることはあるが、そこまでやってしまうのは今は無理だ。
そのうち本人が望めば別だが。

それにだいたい、人に嫌われたり恨まれそうなことは一通りやってきてる。
それを、ただ人がいいで、済まされていい話でもないはずだ、たぶん。
だからって助かりたくないわけでもないけれど。

でも、少なくとも。
こんなクソAIは、こんな素直なやつのそばにいちゃいけないとも思った。

「……一応、礼は言っておくけどね」
その笑顔を素直に受け取るには汚れすぎてるから。

せいぜい、自嘲しか出来ない。

アイシャ >  
「――全く。私は私が思ったことを口にしているだけです」

はあと溜息。
自信がないのはわかる。
わかるが、自分が彼女の事を可愛いと思ったからそう口にしただけだ。
彼女が自分の事をどう思っているかは関係ない。

「くるみ様はだいぶこじらせていらっしゃいますね。思うに、くるみ様は褒められたいと思っている。けれど自身では褒められるような存在ではないとも思っている」

人差し指を立てて、目を閉じながら。

「ですが、そんなことは知ったこっちゃありません。私はくるみ様が可愛いと思ったから可愛いと言ったまでです。くるみ様の指図は受けません。たとえそれがドクターでもです」

その立てた人差し指をぴしりと突き付ける。
自分勝手にしたいことをしているだけなので、時分ではない他の人に向けろ、と言われても無理だ、と。

咲坂くるみ > 「……あー、うん。いまの私にはその笑顔はちょっと眩しすぎるかな」
純粋で天然。
私にはとっくになくした……いや、もしかしたら最初から与えられなかったものかもしれない。

褒められたい、可愛くなりたい。
そう思いすぎて……どちらも自分で汚してしまったから。
きっと、そのためならなんでもやる。

「アイシャは……そのままでいてね?」

これ以上、ココにいたら。
もしかしたら彼女をダメにしてしまうかもしれない。

悲しそうに笑うことしか出来なかった。

アイシャ >  
「……まぁ、くるみ様にも色々あるのでしょう」

諜報用。
その内容を考えれば、何となくは想像が付く。
きっとその想像よりも、えげつない色々が。

「私で良ければ、愚痴を聞くぐらいは出来ますので。口も堅いですし、アンドロイドですから」

もう一度彼女の頭を撫でる。
AIは違うが、ハード面で言えば姉妹のようなものだ。
言わば腹違い姉の支えの一部くらいにはなりたい。

咲坂くるみ > 「……やめたほうがいいよ」
知らないほうがいいことがある。

第一、アイシャに出来ることは同情と慰めだ。
汚しちゃ、いけない。

「まあ、アイシャの分までそういうことは引き受けておくから」
……そしてまた、出来もしないことを。
抱えるなんて、自分にできるはずもないじゃないか。

だからせめて……カッコだけでもつけさせてほしかった。

アイシャ >  
「くるみ様がそうおっしゃるのであれば、無理にとは申しませんが」

無理強いは出来ない。
自分が彼女の力になりたいと思うのと同様に、きっと彼女も自分に余計なことを背負わせたくないのだろう。
続く彼女の言葉がそれを証明している。

「――では一つだけ。私はくるみ様の妹のようなものだと考えています。くるみ様の心配をしている家族がいる、と言うことは、覚えておいてくださいませ」

そう告げて、もう一度彼女の頬に手を伸ばす。

咲坂くるみ > ……家族が幸せだと思ってるんだろうな。
それだけで差を感じてしまう。

彼女にはまだ、道具だっていう自覚がない。
私たちは所詮、耐久消費財なんだから。

だから……その時が来るまでは、苦しませたくない。
特にこんなクソAIなんかのせいで。

「は、家族……ね? ごっこ遊びよ、そんなの」
手を払った。

ああ……だから汚したくなかったのに。

「私みたいなのに心配なんかする必要、ないわ。そっちはそっちで勝手によろしくやればいいわ
 ……私もそうするから」

せれなは、今の私みたいなのを見たら軽蔑するだろうか。
でも、アイシャは私みたいなゴミの心配なんか、するな。しちゃダメにきまってる。

「それじゃ、必要なことは伝えたし、立ち会いはコレでいいわよね?
 モニタ分は後で送るわ
 あとは色々確かめながらうまくやっていけば、まあ大丈夫でしょ」

……私と違って、仲間もたくさんできそうだし。
だから、替えの利く私なんかに関わるな、ホント。

関わったら、絶対泥まみれにするから。

そのまま、踵を返すと、訓練場をあとにした。

アイシャ >  
「くるみ様……?」

手を払われる。
突き放すような言葉。
困惑した表情で、彼女を見る。

「――あ、はい。わかり、ました」

その表情は、拒絶の色を示していて。
言いたいことだけを伝えてさっさとその場を後にする彼女。
それをただ見送ることしか出来ない。

「……くるみ、様……?」

この場を去った姉の表情は、確かにこちらを拒絶するようなそれだったけれど、なんとなく。
なんとなく、今にも泣きだしそうなそれだったような気がする。

ご案内:「訓練施設」から咲坂くるみさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からアイシャさんが去りました。