2020/07/03 のログ
神代理央 >  
「風紀委員では守れないものを、ですか。確かに、我々が守れるものは学園全体の一部に過ぎません。全てを救う、等というのは傲慢で奢った考えですからね。先生の様な方の目が届いていると知れば、救われる生徒も多いでしょう。
…余地、ですか。それはまた、初めて指摘された点ですね。私の異能は、今更悪評など気にする様な余地も余裕も残されていない様に見えますか?」

少女の言葉にへえ、と言う様に目を瞬かせた後、クスリと笑みを浮かべて首を傾げる。
それは、疑問の言葉でありながら肯定を意味するもの。少女の言葉を受け入れ、その事実に笑う様な、そんな笑み。

「それは重畳。夜更かしで怒られる様な年齢ではありませんからね。
……私を、ですか?それはまた…物好きですね」

自分などを見て何か面白い事などあるのだろうか、と今度は本気で首を傾げる。己の周りをとことこ、という様な歩幅で歩く少女を視線で追い掛けて――

「…おや、バレましたか?無遠慮な視線を向けてしまった事は謝罪します。先生の様な可愛らしい方を見れば、誰しもそう思うものだとは思いますけどね」

少女の瞳を見返しながら、小さく肩を竦めて再び笑う。
社交的で、物わかりが良く、多少の冗談を嗜む生徒――という仮面のまま。

ソフィア=リベルタス > 「だって君、実に脆そうだからね。
 いや、別に体が、とか心が、とかそういう意味じゃない。
 鋭い刃の様に磨き上げられ、立ち塞がる敵を悉く両断する。
 そんな美しい『日本刀』のような君の精神や立ち居振る舞いを、弱いと言うつもりはないよ。
 ただまぁ、そうだね。 
 それ故に、横から叩けば折れそうだ、と、思わなくはないが。」

何処か含みを持って、日本刀という言葉を口にする。
その言葉への反応を期待するように、くすりと微笑む。
絶対的火力と、その鉄壁の守りが、さも彼女にとっては脆く崩れる砂の様だと、
そのやわらかく微笑んだ顔を奥に潜む、せせら笑う様な瞳が語っている気がする。

「ふふ、良いよいいよ。
 実際かわいくて子供っぽい、自由奔放で接しやすい。
 それは私の教師としての売りだと思っているからね?
 君にとってもそうだと、うれしいんだが。」

彼女はそう口にする。
しかし、彼女のまとう雰囲気は、普段はどうあれ少なくとも『神代理央』の目の前に立っている彼女から発せられている、
笑顔から感じる気配は、そんな生易しいものではない。
どこか、隙を見せれば頭から喰われてしまいそうな、少なからず普通の人間からは感じえない、得体のしれない、
『異形』としての気配を感じずには居られない。

神代理央 >  
「……私自身が未だ未熟で有り、至らぬ点が多々ある事は重々承知しております。だからこそ『横』から不要な一撃を受けぬ様、精進したいところです」

彼女の言葉に、ほんの僅かに、ではあるが眉を上げてその表情を伺う。それは、彼女が発した単語の意味が。余計な揉め事に至らぬ様にと流布していない筈の何時ぞやの戦闘の経緯を示している様なものだったから。
まして、彼女の表情の奥に潜む己自身を脆弱だと言いたげな瞳が。傲慢な少年の仮面を、僅かに揺らがせるのだろう。

「…御冗談を。少なくとも、今の先生からは子供らしい無邪気さなど微塵も感じませんよ。飢えた獣。蔓延る怪異。先生の発する気配は、ソレらに類似するものだ。
……腹でも空かせたか?生徒にかぶりつく様なはしたない様を、見せないで欲しいとは思うがな」

彼女から発せられる気配。それは、己が散々に。嫌という程感じて来た魔の者。此の世ならざる異形。敵意とはまた異なる、違う理の獣欲に似たナニカ。
それに対する答えは、おざなりの仮面を一つ剥ぎ取って彼女に接する事。尊大で傲慢。己という存在そのものへの矜持に満ちた少年。
ゆっくりと弧を描いた唇が浮かべた笑みは、少なくとも優等生には見えないのだろう。

ソフィア=リベルタス > 「うん、それそれ、その顔が見たかったんだ。
 あの時、君があの場所で、かの『サムライ』と一戦交えた時の表情が。
 いや、別に君のその行いを咎めているわけじゃない。
 私のような存在が、君達の様な秩序を守る存在に口を出す物じゃない。
 弁えているつもりだ。
 誰かに言いふらすよなつもりもないよ、君が居なくなったら治安はさらに乱れるだろうしね。
 そう言った意味では私は君を信頼している。うん、高く評価しているよ。」

剥がれる仮面の奥を見て、『化け物』は微笑んだ。
それが君の本性なんだな、と確認するように、くすくすと小さく、確かに嗤う。

「私が飢えた獣に見えるかい? それは上々、皮をかぶった甲斐があるというもの。
 いや、君と一戦交えたいとか、そういうつもりもない。 私は平和主義なんだ。
 できれば争いなどないほうがいい、そう思っている。本当だよ?」

ふと、ソフィアからあふれる、背筋から汗の流れるような、気味の悪い気配は消えて霧散して行く。
最初からそんなものはなかったかのように、文字道理『化かされた』かのようだ。

「まぁ、公安とやりあうってのはちょっと危ないとは思うがね、怪我をしたようだし。
 無茶をしてはいけないよ? 君は私のお気に入りとも仲がいいみたいだからね、ちょっと様子を見に来た、お節介のついでにね。
 あぁ、それだけだとも、誓って本当に。」

けらけらと、子供っぽく笑いながら、背中をポンポンと叩く。
優等生の仮面がはがれたその顔を、満足げに観察する。

神代理央 >  
「何とまあ趣味の悪い事だ。しかして、教師からの信頼とあらば素直に受け取っておくのが出来た生徒というものなのだろう。
魔術学を履修していれば、単位くらいは強請ってやったのだが、些か残念な気持ちだよ」

嗤う少女を見下ろし、僅かに肩を竦める。
最早言葉遣いも態度も、教師に向けるべきものではない。しかし、それこそが此の場において最も相応しく、彼女と語らうに相応しい様なのだろう、と薄く唇を歪めるのだろう。

「皮を被り過ぎても碌な事は無いと思うがな。癒着した皮が剥がれ落ちず、苦労する事になっても知らぬぞ。
平和主義、ね。まあ、それならそれで構わぬさ。此方とて、教師と……いや、先生の様な体躯の女性に銃を向けたとあっては、中々に目覚めが悪い」

ちっともそんな事は思っていません、と露骨に表情で示しつつ。
掻き消えた宵闇を煮詰めた様な気配が霧散すれば、やれやれと言わんばかりに再び肩を竦める。
己の周囲に現れる者は、どうにも物騒な者が多くないだろうか。

「怪我の一つや二つ、どうという事は無い。
……ふむ、お気に入り?余り交友関係が広いとは言い難いと自負しているが、貴様のお気に入りとやらの名前を伺いたいものだな」

最早貴様呼ばわり。しかしそれは侮蔑や嘲笑の色を含めず、純粋に相手に対する呼び名が。二人称がそうなっているだけという様な自然なもの。それだけ、心に染みついた自尊心が強いという事の現れだろうか。

此方を観察する様な彼女の瞳を見返せば、図らずも同じ意図を含んだ視線を彼女に向けるだろうか。
互いを観察する様に、金と紅の瞳が交じり合う。

ソフィア=リベルタス > 「あぁ、睡蓮、と言ってね、まだまだ未成熟で、君なんかよりもよっぽど不安定な女子生徒だよ。
 身に覚え、あるだろう?」

素直に質問に答えながら、腕や、体つき、先ほどまでのシュミレート、そして、あの日、公安と戦っていた理央の姿を思い出す。
確かに強い、かの剣客が、あれほどの使い手が、一方的ともいえる重傷を負わされたあの戦いを。
しかし、同時にその危うさをも確かに目にしていた。

「なに、君に心配されるまでもないよ。 皮をかぶりすぎた化物は、やがて戻れなくなって化物ですらなくなる。
 その時は君が十全に処理をすればいいだけの話さ。
 なに、私は教師だ、少なくとも教師の間は君に負けるようなことはないね。
 いや、如何かな、以外とあっさり負けるかもわからない。」

冗談か本気かもわからないようなことを言いながら、
既に知っている、とでもいうように、自嘲的に嗤う。

どんな呼び方をされても、不快な顔一つせず受け入れている。
それが当然であるかのように、もう慣れました、とでも言いたそうに、ケロッと笑いながら言葉を返す。

「そう、それでお節介の話を聞いてもらえるかな?
 なに、君の訓練方法を覗いていて、ちょっと気になっただけの話なんだ。」

てくてくと、小さな歩幅で理央から10mほど距離を取る、少女の脚では、少々遠い。
走って近づいても数秒かかるような距離から、理央の瞳を彼女は確かに覗き込んでいる。

神代理央 >  
「……よりにもよって、アイツか。成程、それで私にお節介を、という訳か。不安定、というものが戦力や戦い方にあるというのなら、それは是だ。私は、私に足りぬものを自覚しているつもりだよ」

僅かな舌打ち。それは、此処最近聞き覚えのある後輩の名前であるが故に。彼女から敵意は感じない。お気に入り、というのも恐らく真実なのだろう。
それ故に、渋々といった具合に彼女の言葉を受け入れる。元より、己が不安定な――何が、とは敢えて見ないフリをして――自覚はあるのだし。

「…私は化け物や化け物の成れの果ての処理係では無いのだがな。そうなる前に自決くらいしたまえ。此れでも忙しい身でな。
…まあ、こと魔術の専門家に無益な争いを挑もうとは私も思わない。仲良くしようじゃありませんか、先生?」

自嘲的な笑みを浮かべる彼女に、殊更わざとらしく優等生の微笑み。ニコリ、と模範的な笑みを浮かべるその瞳は、全く笑ってはいないのだが。

「…ほう?ならば伺おう。個人的に、魔術学の教師からのお節介とあらば興味が惹かれる事でもあるし」

これは、嘘偽りの無い言葉。まして、訓練方法を覗いていての発言であれば尚の事。
幾分遠ざかった彼女の姿を眺めながら、一体何をするのだろうかとその華奢な躰に視線を向けているだろうか。

ソフィア=リベルタス > 「うんうん、素直に授業を聞いてくれる生徒というのは実に素晴らしいものだね。
 じゃぁ時に質問だ、理央くん、君が例の召喚物を召喚して、発砲すると仮定しよう。
 この距離およそ10m。
 事前に準備していた魔術や、異能は存在しないと仮定しようか。
 もしこの10m先にいる私が、学園を害するものだったとして、君はその掃討にどれほどの時間を要する?
 あぁ、いや、これでは少々曖昧かな? きみが私に砲弾を当てるまで、何秒ほどかかるかな。」

ソフィアは、トントン、と柔軟するように足を回す、肩を回して、首を回す。
軽く飛んでは、ボクサーのステップのように
『トーン、トーン』と訓練施設の内部に小さく音を立てる。

別段、怪しい気配は感じない、彼女が持っていた銃も、いつの間にか腰に仕舞われている。
強いて言うのなら、質問を終えた瞬間に彼女が目をつぶったこと。
そしてほんの一瞬、彼女が目をつぶった瞬間に背後に第三者の気配の様な何かを感じただけだ。

神代理央 >  
「……事前の準備無し、か。であれば、異形の顕現、戦闘態勢に入るまでにのラグ、発射した弾頭の速度。どう甘く見積もっても、最低5秒は欲しいところだ。状況次第では、もっと時間が必要だろうな」

ふむ、と答えが出る迄には幾分の時間を有しただろう。
元より、事前の準備と中~遠距離での戦闘に特化した異能である。10mという距離は、異能で対応するには余りにも近過ぎる。
弾きだした数字は理想論。現実問題として事前準備無しでの異能発動に至った場合は、当然タイムロスも多くなるだろう。

「だから、ある程度の自衛手段は必要だ…という講義内容になるのかな、先生?」

背後に感じた気配。あやふやかつ、曖昧なものではあるが、確かに感じたナニかの気配。
言葉を言い切ると同時に腰の拳銃を引き抜くと、後ろに視線を向ける事も無く右手を振り上げて銃口を真後ろへ。
既に引き金に指を構え、何時でも撃てると言わんばかりの動作。

そのまま引き金を引かなかったのは、本当に第三者かも知れないという懸念からのもの。

ソフィア=リベルタス > 「残念少し違うよ、うん、ほんの少しだけ、本質的には、ひょっとしたら君にとっては全く変わりのないことかもしれない。」

当然、背後にはなにも居なかった、気配は既にない……否。 おそらく違う。
今までの戦闘で十分に経験してきた神代理央ならば、その気配が、『ソフィア=リベルタス』と【同一化】したのだ、と理解できる。
警鐘を鳴らす。
振り返る、振り返る、少女だったものを、『振り返る』。
ソフィア=リベルタスはもうそこには存在せず、立っているのは、はるか昔の、ウェスタンに居るような、カウボーイハットを被った男性。
腰には、ソフィアが持っていた古式の短銃が一本。

刹那、鋭い眼光で睨んだ男性は。
瞬きの間に銃を抜き。

『パンッ……』

と、理央が反射で動く瞬間にはもう、構え、抜き、放つ、その動作をすべて終えていた。
理央の髪を、何の変哲もない銃弾が掠める。

神代理央 > 気配の移動、等という生易しいものではない。
取り込まれた、同一化した、合体した。呼び方やイメージ等何でも良い。とにかく、先程迄存在していた気配が、離れた少女と交じり合った事を、己の本能と理性が同時に知覚する。させる。

「…随分と面妖な真似をする。変身、とは少し違う様な気もするが、魔術によるものかな。何にせよ、確かに対応は出来なかったな」

銃弾が髪を掠め、背後の壁に命中したとほぼ同時に。金属の脚を昆虫の様に蠢かせ、大地から這い出る様に現れた異形が彼女――今は彼だが――に全ての砲身を向ける。
しかし、全ては遅かった。

「成程、確かにこれでは対応も何もあったものでは無いが…。そう言う事を私に伝えたい訳ではなさそうだな?」

先程彼女が告げた『少し違う』という言葉。
その真意を図る様な視線を向けながら、くすり、と小さく笑みを浮かべた。

ソフィア=リベルタス > ……砲身がすべて向いた、その瞬間に、『カウボーイ』は霧のように霧散していく。
まるでその皮をかぶっていたかのように、少女が姿を現すだろう。物の数秒、たった数瞬の『変化』。
唯それだけの結果に、彼女はひどく疲労し、汗をかき、顔面は蒼白になっている。
理央の異能に恐れているわけではない、もっと別の何か。

「うん、そうだね。 スピード、という点においては、ある意味間違ってはいない。
 あの剣士も、君の戦闘速度をはるかに上回っていたのは確かだ。
 でもそれ以前に、君には足りないものがあった。」

千鳥足をする赤子のように、ふらふらと、理央に近づいてくる。

「思い出してごらん、君に足りないもの、今君ができなかったこと。
 対処じゃない、それ以前の、何か。 身を護る術、という意味では間違いない。
 だが、これは技術や身体的特徴の話じゃぁないんだ。」

ゆっくり、ゆっくりと、少女はそのまま理央の目の前まで歩みを続ける。

神代理央 >  
随分と疲弊したかの様な少女の姿に、怪訝そうな。不可解な表情を向ける事になる。今行われた一瞬の攻防は、結果として弾丸が1発、己に向けて放たれただけ。彼女の性格から、この異形を恐れて等いないことは十二分に理解出来る。
では何故。あの少女はあそこまで。まるで魂すら削りとったかの様に疲弊しているのだろうか。

「……随分と消耗している様に見えるが、大丈夫かね。講義を続ける余力は――あるみたいだな。
しかし、私に足りないものだと?こと戦闘面において、ではなく…?」

その言葉の意味に思考を走らせながら、惚けた様な足取りで此方に近付く少女を見据える。見据える、と言うよりは、見ている事しか出来ないといった具合だろうか。

「……私に、出来なかった事だと?馬鹿な。私は最善を尽くした。技量や術式に至らぬ点がある事は認める。しかし、それ以外の事で、私に足りないものなど――」

己の眼前まで歩み寄った少女。疑念と困惑の色を灯した瞳が
幽鬼の如き足取りで眼前に立つ少女を見下ろすだろうか。
彼女の問い掛けに明確な答えが出せぬ儘、構えた拳銃は下ろされ、静寂だけが二人を包み込む。

ソフィア=リベルタス > 「……こういうことだよ、理央君。」

理央が銃を収めたその瞬間に、ソフィアは指先を理央の胸に当て、
足を踏みしめ、軸を回転させ、握り拳を作る。
『寸勁』
青い顔のまま、息を切らせたまま、それでも力強く、ソフィアの拳は突き刺さった。
理央の『油断と傲慢』に漬け込んだ、奇襲。

放った直後に、前のめりにソフィアは倒れこんだ。

神代理央 >  
「……が、ぐっ……!?」

華奢な少女から放たれた、重い一撃。
魔術による肉体強化も無い己の体に突き刺さった拳は、己の胸を強く打って一瞬呼吸を止める。
見た目よりも重い、内部に浸透する様なその拳は、踏鞴を踏ませた挙句に、危うく膝をつきかける程。奇跡的に膝を折らなかったのは、召喚していた異形による回復のバフがほんの僅かにではあるが発動していたからに過ぎない。

「……かはっ……!き、さま……、よくも………っ!?」

吐き出す、というよりも押し出された様に肺から酸素が漏れる。
それでも、突然の一撃は己の闘争心に火をくべる。獰猛な色が瞳に浮かび――かけたのだが、倒れ込んでくる彼女にその色は掻き消える。

「い、ったい、何だと言うんだ…。おい、大丈夫、か!」

此方も余り大丈夫では無いのだが。
咄嗟に発動した肉体強化の魔術で、己の体勢を強引に立て直し、身体を軋ませて彼女を受け止めようと一歩踏み出すが――

ソフィア=リベルタス > 「……それだ、わかったかい? 君の強さには称賛しよう。
 その自信は正当なものだ、誇っていい。
 だが、君にはそれゆえの驕りがある。
 自身が負けるわけがないという驕り、相手が何をしようとも対処できるという、油断。
 もう動けるはずがないと、見下すその目だ。」

膝をつき、震える脚で立ち上がりながら、受け止めようとするのを手で制する。

「あの時もそうだった、剣士から放たれた、一本の剣の投擲。 君ならば、気がつけたはずだ、どんな事態も予測していれば、君の異能ならば防げていた筈だ。
 わかるか理央君、それが君の弱点だ。」

粗く息を吐きながら、それでも理央の瞳を見据え、胸に指をトン、と指し示す。

「まだ、講義は必要かな?」

まだ、苦しんでいる表情で教師は尋ねた。

神代理央 > 受け止める事を制止されれば、素直に伸ばしていた手を戻す。
というより、此方も中々に無理をした体勢だった為、それで漸く立ち上がる事が出来た、という有様。

「…驕り、油断か。ああ、くそ。認めよう。貴様の言う通りだ。蹂躙し、制圧し、踏み拉く側の私には、間違いなく貴様の言う感情がある。手負いの獣を甘く見る様な慢心を抱いていたとも」

ぜいぜい、と荒く息を吐き出しながら彼女の言葉に応える。

「…そうだな。防げただろうさ。守りは固めていた。攻撃の手数もあった。防ごうと思えば、幾らでも防げた。
だが、結果はあの有様。無様に左腕は貫かれた。
だから認めよう。それが私の弱さなのだと。他者を見下し、同じ土俵に上がってくる事は無いだろうと嗤う。土俵から蹴落とした相手が、再び牙を向けるとも思ってはいなかった」

そして、胸を軽く叩く少女の指先を見つめ、再びその瞳に視線を向けて。

「……いや、大丈夫だ。御教示頂き、感謝の極みだよ。
――ところで、貴様も随分と苦しんでいる様に見えるが、その、大丈夫か…?」

苦し気な表情を浮かべる少女に。思わず気遣う様な声色で彼女に問いかけるだろう。

ソフィア=リベルタス > 「はは、君にそこまで心配されるとは、いや、教師冥利に尽きる。
 血も涙もない少年かとも思ったが、いやまったく、そんなことは無いようで安心したよ。
 大丈夫。 数時間もあれば回復する、ちょっと、無理をしただけさ。
 自分の存在を根元から書き換えるなんて芸当、そう長時間できるわけないからね。」

もしも、自分が全く別の存在になったとして、そこに自分の意識は存在するのだろうか。
もし戻れたとして、それは本当に自分自身なのだろうか。
それはきっと誰にも分らない、ソフィア自身にもわからないのだから。
恐怖に、少しだけ自己が揺らぐ。

「君は、真似しちゃだめだぜ? できやしないとは思うがね。
 あぁ、もう一つ、命は大切に。 睡蓮が悲しむ。
 君を慕う、生徒たちもね。」

ははは、と安心したようにソフィアは笑った。
いや、安心させるように、生徒に笑いかけたのかもしれない。

神代理央 > 「……中々に物騒な事を言っているな。魔術とは、そういう愉快な事も出来るのか。来期では、是非魔術学で教えを請いたいものだ。
自分を書き換える、か。という事は今の貴様は、今日初めて会った時mp貴様と同一人物なのかね。それとも、あのカウボーイを経て書き換えられた貴様は、最初に会った時とはまた別の存在なのかね」

ほお、と感心した様に聞き入りながら、冗談めかした口調で言葉を紡ぐ。
己からすれば冗談、軽口。彼女の魔術の本質を理解していないが故の、思い付きの様な言葉だった。

「真似など出来ぬし、したくもない。私はあくまで私であって、他者に成り代わる必要など微塵も無いのだからな。
……どうだか。群千鳥も含めて、私を慕う者など早々居るとは思えんがな」

フン、と憎まれ口を叩きながら笑みを浮かべる彼女に少しだけ。ほんの少しだけ歩み寄る。

「未だ若輩の身ではあるがな。そういう表情は、私に何かを隠す様な、胡麻化す様な表情は何度となく目にしてきた。
不愉快極まりない。辛いのなら素直にみっともなくすれば良い。別に貴様の心配なぞせぬ。精々苦しんでおけば良かろう」

己を安心させるように、と笑みを浮かべる彼女に幾分剣呑な声色で。辛いのなら、それを隠すのは止めろと仏頂面を浮かべて告げるだろうか。

ソフィア=リベルタス > 「やめておいた方がいい、これは、魔術は魔術でも、人の身に余るものだ。
 事実、君の言う通り、今いる私が、数瞬前まで君と一緒にいた私であるのか、そのことに確信は持てない。
 もう全く違う人物が、自分をソフィア=リベルタスであると、そう思い込んでいるだけかもしれない。
 そんな危険な代物を生徒に教えるわけにはいかないだろう。」

深呼吸をしながら、おのれを落ち着けるようにしながら、目に隈をのせて教師は答える。
だれにもこの力を扱えはしないと。

「もちろん、普通の魔術学ならいくらでも教えさせてもらうが。」

その言葉を最後に、『教師』の顔は崩れ去った。


「では、君の前ではお言葉に甘え、本音の顔を見せるとしよう。
 あぁ、疲れたよ。 教師というのは本当に疲れる。
 生徒の成長は、実にうれしいものではあるがね。
 できれば、異邦人街まで送ってもらえるかな?」

どこか震える手で恐れていることを隠さずに、理央の服の裾をつかんだ。
毅然とした教師の姿はそこにはなく、恐怖におびえる少女の姿がそこにはあった。

神代理央 > 冗談の様に告げた言葉に彼女が見せた反応は、予想とは違うものだった。深く息を吸い込み、目元に隈をのせて、否定の言葉を紡ぐ姿なぞ、どうして予想出来ただろうか。
超常的な雰囲気さえ纏っていた"彼女"が、まるで唯の少女の様な。寧ろ、怯える様なその姿は、弱々しささえ感じる様な。

「……ああ、勿論。そうやって、偽らぬ姿であれば、手を差し伸べる事も吝かでは無いさ。
……私には貴様が何に怯えているか、何を感じているか等という事は分からん。だが、その恐怖は。怯えは。紛れもなくソフィアというモノの持つ感情だろう。
自信を持って怯えていろ。送り届けるまでは、責任を持ってやるから」

そう投げかけた言葉は、尊大ではあるが穏やかな。決して慰めようとも、落ち付かせようとするものでもない。ただ、彼女の素顔を晒す時間を否定しない。そんなものだったのだろう。

そうして、怯える彼女の手を掴み、何時もより少しだけ穏やかな歩調で彼女を送り届けたのだろう――

ご案内:「演習施設」からソフィア=リベルタスさんが去りました。
ご案内:「演習施設」から神代理央さんが去りました。