2020/07/10 のログ
日下 葵 > 演習場。
風紀委員以外にも異能や魔術の訓練の為に利用する学生も多いが、
この日は随分と空いているようだった。

予め使用申請をしていたおかげで準備は整っていて、風紀委員の手帳とサインを済ませて中に入る。
建物のフロアを再現したこの場所は、設定上では5体の標的が存在することになっていた。
訓練の題目はフロアの制圧。5体の標的の内1体は人質、他はテロリストとして設定されている。
正面のドアからの突入というシナリオで、殺害を含めて人質の安全を設定された時間で確保する訓練。

「準備できました。いつでもどうぞ」

耳につけたインカムに向けて確認を取ると、ゴーサインのブザーが鳴る。
ドアを蹴破って内部に駆け込むと、通路わきから一体。
立ち止まることなく弾丸を3発。うち1発が命中。
通路を突きあたるとまた一体。放たれる殴打をさばいて対象の腹部に一発。
よろめいた対象の顔にさらに一発。
手慣れた動作で対象を制圧しながら、フロアの奥へ奥への進行していく>

日下 葵 > ドアを一つずつ開けながら、中を確認していくが、残り3つのダミー人形が出てこない。
緊張感をもって何個目かのドアをあけると―――あった。
まず人質のターゲットに銃を構えているターゲットに一発。
続いてこちらに向けて銃を向けるターゲットに銃口を移すが―――間に合わなかった。

実弾が容赦なく身体を貫通した。制服と身体に穴を開ける弾に身体が押される。
あとはこの一体を始末すればミッションはクリア。ここで判断を起した。
銃を棄てて走る。想定されていない動作にターゲットの動作が一瞬鈍ったのを見逃さずに、
太ももに忍ばせていたコンバットナイフをターゲットの首に突き立てた。

「……また評価はA-ですか」

鳴り響くブザーに重ねるようにため息を交えてインカムに語り掛ける。
制服は血が赤くにじんでいたが、傷口はすでにふさがっているようだった。

『総合評価、A-
 人質救出、A+
 俊敏性、 A+
 近接格闘、B+
 火器取扱、A+
 作戦遂行における安全性、C-

 総評:自身の安全に対する意識が低すぎます。自身の安全は人質の安全と同様に非常に重要です。
 安全の確保を怠れば仲間も危険に晒す可能性があることを十分に理解しましょう』

アナウンスで流れてくる評価に頭を抱えながら訓練場を出て待合室に移る>

日下 葵 > 「新しい演習の評価基準でも申請しますかね……」

待合室で汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む。
今自分がやった演習プログラムでは、救出する側が被弾したり、
ダメージを負ったりすると評価が下がる。

つまるところ、防御する必要のない者が受けると評価が下がる。
私のように即時回復するような異能を有する者にとって、
防御を考えながら作戦を行うことはとても煩雑なのだ。
無論、評価が下がれば風紀委員の作戦計画時に作戦から外されることにもつながる。

「私みたいな能力持ってる人、少なくないはずなんですがねぇ……
 使い勝手だって悪くないはずなのに」

最悪、人質と私を交換してもらえば、風紀委員は思う存分に突入できる。
私の能力は、そういう使われ方をした方がいいと思うのだが、
そういう視点で評価してくれる人や訓練は恐ろしく少ない>

日下 葵 > 「新しい評価基準を作ってほしいって申請したらその仕事、私に回ってきそうですよねぇ」

言い出しっぺの法則、とでもいうのだろうか。

「何よりも倫理的に許されないとか言われそー……」

私がそういう評価基準と、その基準に沿った訓練プログラムを作ったら、
間違いなく批判される内容になる。そんな自信がある。

「ま、不死身ってわけじゃないから危険に晒される必要がないなら
 私だって平和に風紀委員やってたいですけどね」

誰に言うわけでもない独り言をこぼせば、更衣室に移動して穴だらけになった制服を着替える。
私の身体みたいに制服も元通りになったらいいのに。
そんなことを考えながら新しい制服に袖を通せば、穴だらけになったほうをカバンにしまって、
演習場を後にするのであった>

ご案内:「演習施設」から日下 葵さんが去りました。