2020/07/11 のログ
ご案内:「訓練施設」に水無月 沙羅さんが現れました。
水無月 沙羅 > 普段使用している『Glock26』よりも小型の、『Smith & Wesson Bodyguard 380』というかなり軽量の銃を持ち、射撃場二備え付きのイヤーマフを耳に当てる。
訓練用の銃弾を込め、スライドを引き、セーフティーを解除する。
手慣れたもので、多少銃が変わってもこの手順は変わらない、スムーズに前準備を終わらせる。

手元にある射撃訓練用のタブレットを操作して、ターゲットを起こす。
銃を両手で構え、トリガーに手をかける。
反復して何度も、姿勢と手順を体に叩きこんでいる。
この反復トレーニングは、使っている銃が違うだけで数倍神経を使うのは何故だろう。
銃を手に持っている、という緊張感には多少慣れたはずだ。
しかし……実際に、生物を的にするとなると勝手が違う、というのを先日学んだばかりだった。
そこには、『人を殺す』という覚悟が必要だ。

「はぁ……っ。」

べたつく汗がじわりと首筋から胸元へ垂れていく。
汗を吸った服が肌にへばりつき、不快感を与えるまでの時間はそう長くはなかった。
嫌な光景を思い出す。

記憶を振り払うように首を振り、イヤーマフを乱雑に投げ捨てた。
イライラしている。

拳銃の種類を変えたのは、護衛用に取り扱いやすいものを選んだ結果だ。
これからはそれが自分の主な仕事になるのだろうから、道具は慎重に選ばなければいけない。
ただ、やはりこういうものを手にするのには未だに抵抗があるのは拭えなかった。

あの日、少女に撃ちこんだ弾丸、そのトリガーを引いた感触を忘れられずにいる。

水無月 沙羅 > どれくらい、そうして反復の練習をしていたのだろう。
結局引き金を引くことはしなかった。
引き金に手をかけるたび、少しだけ手元が揺れる。
いつから自分はこんなに弱くなってしまったのか、以前の私なら躊躇い無く引き金を引いていたというのに。

原因は明白だ。私は恐れている、人の死というものを。
いつかの少女は言った『死を想うことを忘れるな。』と。
いつかの彼女は言った『怖くて当たり前だ。』と。
しかし、それに甘えて何も守れなくなってしまったのでは意味がない。

「……弱いな。 私。」

もともと、異能を持っている彼女にそんな武器は必要がない。
何ならナイフ一本で自分の手や足でも切裂けば、それだけで制圧は完了するだろう。
自分の異能はそう使うものだ、そう使ってきた。
けれど……それではあの人の役には立てない、それに気がついてしまったから。

『隣に立つのであれば相応の努力が必要だ。』

聴き間違いでなければ確かに彼はそう言っていた。
その通りだ、今のままでは、水無月沙羅は誰かの隣に、戦場に立つには弱すぎる。
精々が自分を盾にすることができるかどうか……。
いや、きっと彼にはそれすら必要ないのだろう。

弱すぎる自分に嫌気が差す。
気付けば唇を強くかみしめていた。 口の端から、赤い血液が流れだす。
しかし、それも見る間に、傷口に吸い込まれるように消えて行った。

『不死』

なんと忌々しい呪いなのだろう。
自分を罰することすら、この身体は許してはくれないのだ。

ご案内:「訓練施設」に柊真白さんが現れました。
柊真白 >  
廊下を歩く。
通りがかった部屋、空いているなら使おうかと思って扉を開ければ、先客が居た。

「――ん」

確かあれは。
病室で見た光景を思い出し、しかしすぐに意識の外へ。
彼女の様子はそれをからかう様な雰囲気でもなさそうだ。
なので無音で近付き、

「どうしたの」

背後から声を掛けてみる。

水無月 沙羅 > 「わっひゃぃっ!?」

驚きのあまりに指に力が入り、的に向かって弾丸は発射される。
それはたった一発、人型の頭部の真ん中を見事に貫いていた。
もともと、沙羅は肉体を強化する魔術を併用することによって、己の姿勢や射撃制度を補っていた節がある。
たまたま、というわけでもないのだが。

「ぁ……。」

穴の開いた的を見て、少女は何かを思い出したが……来客の存在を思い出し、それをすぐさま振り払った。

「あ、あぶないですよ、使用中に急に声をかけたら!」

あくまでも笑顔で、そっと注意を促した。
振り返る目線の先には……自分よりも幼げな……少女?
音もなく入ってきた……いや、自分が集中していたから気がつかなかったのか。
ともかく、暴発した先が、この少女ではなくてよかったと胸をなでおろす。

「えっと……あなたは? 迷子になりましたか?」

如何したの? と聞かれたことは、驚きのあまり記憶のかなたに消えてしまっていた。
それよりも、迷子になったのだとしたら送っていかねばならないなぁと、拳銃を片付ける準備を始める。

柊真白 >  
「おみごと」

声を掛けた瞬間見事撃ち抜かれた標的の頭部。
ナイスヘッドショットである。

「迷子ではない。空いてる部屋探してた」

この身体だ、その扱いには慣れている。
銃を片付けようとする彼女をじいと眺めて。

「もう終わり?」

いつ終わろうとも人の勝手だとは思うが、何となく中途半端な感じがする。
しかしどこかで見たことが、

「――あぁ、こないだのお客さん」

思い出した。
いや一方的な面識自体はあるのだが、それ以外にどこかで見かけた気がしていたのだ。

水無月 沙羅 > 「え……部屋を探してた……んですか? えっと、学園の生徒……でいいんですよね?」

間々ある話だ、この学園には入学に際する年齢の制限がない、子供だって入学することは可能だろう。
次いで、『異邦人』と呼ばれるこの世界以外からの来訪者も存在する。
この施設を使用する目的で来たというのならば、その何方かのはずだ。

「すいません、てっきり子供が迷い込んだものだと思って、送っていかなければいけないかなーと……。
 余計なお世話でしたね。」

あはは、と愛想笑い。 いや、苦笑いと言うべきか。
そんなことすら思考する余裕もなかったのかと、己に落胆する。

「はい?」

はて、お客さん。 何処かであっただろうか。
最近来店した店は……いけない、存外に数が多い。
しかしこんな店員さんをはたして目にしただろうか。

「お会いしたこと……ありましたっけ? 」

柊真白 >  
「そう。二年、柊真白」

ぺこりとお辞儀。
書類上は十四――十五だったっけ?――になっているが、学年は二年。
自分は知らないが、彼女の一つ上の学年である。

「大丈夫、慣れてる」

果たして慣れていると告げることがフォローになっているのかどうか。
多分なっていないけど、慣れているのは事実だし。

「ラ・ソレイユで。騒がしくてアホっぽい風紀委員の人と来てたでしょ」

あの時自分は厨房にいたから彼女から見えていなくても仕方ないかもしれない。

水無月 沙羅 > 「あ、あー。 ゆっき―先輩と行ったあのスイーツ店。」

と、言うことはだ。
二年生、つまり先輩、『ラ・ソレイユ』の従業員、つまり神代理央の知り合い、それも同級生の可能性も。
サー……と、血の気の引いていく音がした。

「せ、先輩とは知らず生意気なことを申し上げてすみませんでしたぁ!!!」

思わず背中がまっすぐ伸び、姿勢が起立の状態で固まる。
なんという失態。

「えっと……ということは、神代先輩のお知合いですか……?」

恐る恐る尋ねてみる。

柊真白 >  
彼女の顔色が悪くなった気がする。
どうしたのかな、と思った直後、直立不動でぴしりと姿勢を正す彼女。

「別にいいのに」

多分――書類的な――年齢は彼女の方が上だ。
自分自身その辺はあまり重視していないし。

「友達。あなた、理央くんの彼女さんでしょ。よろしく」

す、と右手を差し出す。
彼女が彼の恋人だと言うのは「見ていた」から知っているが、そうでなくてもあのうるさい風紀委員の声が嫌でも耳に入っていたから。

水無月 沙羅 > 「あ。あぁー……。」

理央の彼女、と言うと少々むずがゆい感じがする。
次いでいえば、こんな少女にそれがばれているのにも、恥ずかしさを感じる。
おのれゆっきー先輩、許すまじ。
とはいえ、気にするなと言うのであれば、気にする方が返って無粋であるということをなんとなく学んで来た。
であるならば。

「あ、はい、えっと。 水無月沙羅、一年風紀委員です。
 よろしくお願いしますね、柊先輩。」

とりあえずは握手に応じることにしよう。
拳銃の油と、自分の汗を制服で拭ってから、差し出される手を握り返した。

「えっと、ついでに、彼女というのは内密にしてくださるとうれしいです……。」

それは、人前で言われるのはそれなりに恥ずかしい。

柊真白 >  
「ん。わかった」

元より言いふらすつもりもない。
握手。

「――それで、もうやらないの?」

見るのは見事なヘッドショットを決められたダミー人形。
撃ちこまれているのはそれ一発だけで、他には傷一つない。
当たった形跡も、外した形跡も。

水無月 沙羅 > 「あぁ、はい、 今日は、調子が悪いと言いますか。」

握った手を放して、頭に手をのせて困ってますという風に笑って見せる。
銃を握っておいて、銃を撃つのが怖い、なんて恥ずかしくて言える訳もなし。

「集中力も切れてしまったことですし、今日はやめにしようかなと思っていたところですから。」

別に、真白が急にやってきたのが原因ではない、と注釈をつける。
それは自分の都合であって、相手に押し付けるものでもない。

「撃てば当たりはするんですけどね。」

こんな小さな銃で、一体何を守ろうというのか。
少しだけ、自分が小さく見える。
『武器は命を奪うもの』
誰かがそう言っていたのを思い出す。
それは使い手次第だ、と大見えを切った割に、結局使えないのでは笑い話だ。

柊真白 >  
「ふうん」

撃てば当たる。
彼女から離れて、射撃位置の方へ。

「撃つところ、見せて」

先ほどまで彼女が立っていた場所の隣で、彼女の方を見ながら。
じい、とまっすぐ曇りのない眼で。

水無月 沙羅 > 「え? は、はぁ……かまいませんけれど……、あ、イヤーマフは付けて下さいね。
 拳銃とはいえ耳に響きますから。」

少女の耳が悪くなりでもしたら大変だ、と注意だけを促して、片付ける途中だった『Bodyguard 380』を手に取る。

少女の隣、射撃位置に立ち、拳銃に弾を込め、スライドを引いて装填、セーフティをはずして―――――。

大丈夫だ、いつもと変わらない、たかが射撃練習。
人を狙うわけではないのだから。

―――――トリガーに指をかける。

瞬間、腕が戦慄き、震える。
震えは連鎖して、カチカチと歯を鳴らしていく。
息が上がる、軸がぶれ、銃口がカタカタと音を鳴らして揺れる。

何でもない、唯の板切れが、『少女のカタチ』に見える。

「っ……」

思わず息をのんだ。
たったそれだけの事なのに、汗は滝のように流れ出す。
トリガーにかかっている指に、力を籠める。

柊真白 >  
「ん」

室内にあるイヤーマフを付ける。
聞こえる音が小さくなり、なんだかぼんやりしたような感じ。
慣れているのだろう、淀みない動作で弾込めから装填を行い、

「どうしたの」

彼女の動きが止まる。
小刻みに揺れる拳銃――それを持つ手。
冷や汗が滝のように流れている。

「――銃は、手に残らないからね。当たっても外しても、反動があるだけ」

水無月 沙羅 > 「はっ……はっ……はぁっ……っ!」

それは幻だ、幻影だ、本物じゃない、落ち着け、狼狽えるな。
自分に檄を飛ばすも、震えは止まらない。
少女が隣で何かを言っている、イヤーマフ越しでうまく聞こえない。

だめだ、集中しないと。
的を見る、少女を見る、狙いを定める。

血を流して倒れている神代理央の幻影が、少女の代わりに眼前に飛び込んだ。

―――――銃声。

弾丸ははるか上を通り過ぎ、演習場の壁に当たり、貫くことなく床に落ちる。
同時に、沙羅も床に崩れ落ちた。

撃てるわけがない。

両手を抱え、震えを収めようと強く皮膚を握りしめた。
爪が皮膚に突き刺さり、痛みを生む。
右手に持っている銃が離れない。

柊真白 >  
「落ち着いて」

彼女の肩に手を置いて、空いた手で自分と彼女のイヤーマフを外す。
ゆっくり、落ち着かせるように、肩を擦る。

「ゆっくり深呼吸。肺の隅々で酸素を取り込む様に。ゆっくり、ゆっくり」

吸って、吐いてと繰り返し声を掛けて。

水無月 沙羅 > ひゅー……っ、ひゅー……っと、気味の悪い音がする、息ができない。
少女の声が聞こえる、肩を摩る暖かな温度に気がつく。

『深呼吸』

そう聞こえた。 深く息を吸う、深く、深く。

「えほっ……えほっ、はぁっ……!! げほっ……」

詰まっていたような喉が、気管が息を吹き返した。
急激に送り込まれる酸素に咽かえる。
目の前には、唯の板切れが立っているだけだ。

握った拳は緩み、突き刺さっていた爪は離れて、傷はふさがってゆく。

「すみません……みっともないもの、見せちゃって……。」

青くなった顔で、心配をかけないように微笑む。
いや、その微笑みも、恐怖に歪んでいる。

腕は震えて、銃が手から離れて行かない。
まるで、『忘れるな』と呪いの言葉をかける様に。

柊真白 >  
「ん」

呼吸を忘れていたようだ。
咽る彼女の背中を擦る。

「――銃は便利だけど、人の命を奪ってる実感がない。それが良いところでもあるし、悪いところでもある」

淡々と。
まるで人の命を奪った事があるように。
彼女の背中を左手で撫でながら右手を差し出して。

「ちょっと、貸して」

水無月 沙羅 > 「……はい。」

少女に諭される。
ここ最近は、誰かに教えられてばかりで、救われてばかりで、情けなくなる。

命を奪っている実感、とは……なんだろう。
ふと、思い出すのは『素手』で相手を殴った、あの嫌な感触だった。

震える手で、銃を差し出す―――、トリガーから指が離れない。

「す、すみません、今……離しますから。」

腕がこわばって、外れない。

「どうして……っ」

柊真白 >  
「落ち着いて」

拳銃を握る彼女の手に、自身の右手を重ねる。
ガチガチに固まったその指を、こちらの体温で溶かすように。

「大丈夫」

そのまま一本一本指をはがしていく。
左手で手を包んだまま、右手で丁寧に。

水無月 沙羅 > 「っ……はい。」

大丈夫、大丈夫だ、落ち着いて、そう自分に言い聞かせる。

凍り付いたように動かなかった指を、少女の体温は緩やかに溶かしてゆく。
一本づつ、指は拳銃から離れて。

―――ソレは、ようやく沙羅の手からこぼれ落ちた。

「ありがとう……ございます。」

もう、銃も持てないかもしれない。そんな考えが頭によぎる。

柊真白 >  
「ん」

ようやく彼女の手から引きはがせた拳銃。
刀とは違った重さが腕に掛かって。

「銃は引き金を引けば弾が出て人の命を奪う。離れてる相手も殺せるし、返ってくるのは反動だけ」

イヤーマフ付けて、と彼女にそれを渡し、自身も付けて。
スライドを軽く引き、弾が装填されていることを確認し、しっかりと元の位置に押し込む。
彼女の準備が出来たなら、的に向けて引き金を引くだろう。
的の頭に二発、心臓に二発。
立て続けに銃声が四回響き、スライドが開いた状態でロックされた。

「――人の命は軽いってことがわかるから、私はあまり好きじゃない」

水無月 沙羅 > 受け取ったイヤーマフをつけて、少女の射撃を見ている。
たしかに、使っていた銃は女性でも扱えるような軽いものだが……。
その扱いはあまりにもずば抜けていて。

「すごい……。」

それしか言葉に出すことができなかった。

「そうですね……命は、本当は、軽くて……簡単に消えてしまうんですよね。
 わかってるつもりでした。
 でも……。」

わたしは、儚い命ではないから。
きっと、それが今までわかっていなかったのだろう。
失うものを得て、そうして初めて気がついたのだと、実感する。

柊真白 >  
「はい」

弾倉が空になった拳銃を返す。

「沙羅は何になりたい?」

その拳銃と共に、問いも投げかけて。

「簡単に奪える命を奪いたいか、簡単に奪われる命を守りたいのか、それとももっと別のなにかか」

例えば、誰かを守るために誰かの命を奪えるようになりたいのか。
例えば、何者の命も奪わないために武器を捨てたいのか。

「沙羅は、何になりたい?」

もう一度問いかける。

水無月 沙羅 > 「何に、なりたいか……ですか?」

難しい、難しい質問だ。
ううん、本当に難しいわけじゃない。
答えは分かりきっている。
ただ、それは最も困難な道だと、知っているだけ。
あの人が、そうして自分を傷つけたように。

「……誰かを、守れる力が欲しいんです。 でも、殺したいわけじゃない。
 奪いたいわけじゃない……。 奪わせたくもなくて。
 だけど、守るためには力が必要で。
 その両立は……あまりにも難しい。」

自分が、無力だと知っているから。

「わからないんです。 どうすればいいのか。」

如何すれば、それを実現できるのか。

柊真白 >  
「ん」

誰かを守れる力が欲しいと彼女は言った。
それを聞いて頷いて。

「殺さないって言うのは、殺すよりも難しい。誰かを守るのも自分を守るよりも難しい」

殺すだけなら簡単だ。
狙いを付けて引き金を引くだけ。
一回で殺せないなら二回三回と引けばいい。
殺さないなら、そんな単純な話ではなくなる。
まして、自分以外を守るのならそちらにも気を配らないといけないし。

「難しいなら、簡単にしていこう。出来もしない事の両立が難しいなら、ひとつずつ出来るようになればいい」

実現する方法がわからないのは、そこがあまりにも遠いからだ。
方向もわからない、と言うわけではないのだから、一歩ずつ確実に進んでいけばいつか必ずたどり着ける。

「難しいけど。無理じゃないよ」

水無月 沙羅 > 「……近道は、無いってことですね。」

たしかに、その通りだと、頷く。
思い返してみれば、結局自分は、自分すら守れていなかった。
奪うばかりで、奪われるばかりで、守ることをしてこなかった。
結局、それが今ここでわかりやすく表れただけに過ぎない。

「なら、如何すれば、良いんですか? 守るために、何をすれば?」

沙羅にはわからなかった、奪うことしかしてこなかった自分には。
わからない、自分を傷つけることでしか、守れない。

柊真白 >  
「まず自分を守れるようになろう」

人を守りたいのなら、まずは自分からだ。
銃の扱いには慣れていたようだが、戦えるかどうかはまた別の話。

「銃を使えば人は殺せる。じゃあ、敵に銃を使われたら。銃を取られたら。壊されたら。そういう時にどうすれば良いか、そもそもそう言う場面にならないためにどうするか」

だから戦い方を知る。
人の殺し方を知る。
それらは技術であり、道具だ。
使い方ひとつで殺し方にも守り方にも変わる。

「それを身に着けて行こう」

そうして、守れるものを少しずつ増やしていく。

水無月 沙羅 > 「……銃に頼るんじゃなくて、銃を使う。
 あくまでも、主体は自分自身で……。
 あぁ、そっか。 武器にこだわるから、いけないんだ。」

鍛えるべきなのは、自分自身の、経験と、知識と、動き。
武器はおまけに過ぎない。

「自分自身をコントロールできるようになれば、それが第一歩。
 そういうことで……良いんですか?」

身を差し出すのではなく、身を使うのだ。

柊真白 >  
「そう」

何事も基本は身体だ。
武器はそれを補う道具。

「銃を使うと自分が強くなったように思えるから。でも、銃を使うのは自分だし、それで何かするのも自分。頑張って練習すれば――」

立ち上がり、床に転がしていた刀を拾う。
自身の身長ぐらいある長い刀。
それを持って的へ近付き、

「――こういう事も、出来るようになる、かもしれない」

一閃。
鞘から刀を抜き、袈裟懸けに斬り付けた。
刀を振る音もそれが的を両断する音もなく、床に落ちた的の上半身がガランガランと音を立てた。

「私で良ければ体の動かし方と武器の使い方ぐらいは教えてあげるけど」

パチン、と小さな鞘鳴りの音。

水無月 沙羅 > 「……。」

ただ、呆然と、呆然とすることしかできなかった。
その所作は、余りにも自然で、美しく、鮮やかに。
ほんの少しのブレもなく、刃はするりと的をすり抜けて。

あぁ……こんなことができる人もいるのかと、自分は、こんなにも弱かったのだと、思い知らされた。
醜くて、弱くて、小さくて、子供の様な自分が。
蹲っている。

このままじゃいけない。 守りたいのなら、動け。
恐怖と戦え、守りたいなら、強くなれ。
そう誓ったはずだ。

「……真白先生……って、呼んでもいいですか。」

なら、まずはその第一歩から始めよう。
こんなに身近に、差し伸べてくれる手があるのだから。

柊真白 >  
「真白、で良いよ」

先生なんて立派なものじゃない。
自分は彼女に技術を伝えるだけだ。
道を示すわけではない。
彼女が自分で自分の道を切り開くために、ただ道具を与えるだけ。

「立てる?」

彼女の近くに戻ってきて右手を差し出す。
未だ地面に座り込んだままの彼女が立ち上がれるように。

ご案内:「訓練施設」から水無月 沙羅さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から柊真白さんが去りました。
ご案内:「実習試験会場【イベント】」に彩紀 心湊さんが現れました。
彩紀 心湊 > 『次、来い。』と声がする。
魔術学の授業は専攻しているものが行う実習試験の一つだ。
期日までに魔術を習得し、それを講師の前で披露するというもの。

「……(憂鬱……。)」

別に、これと言って苦手意識があるわけではない。
でなければ、数ある内の中から選びはしないし、事実総合の成績が悪いというわけでもなかった。
それでも、どうにもこの時間が憂鬱と感じるには相応の理由あってのものがった。

男子生徒 > 『おい…見ろよ、彩紀だ。』

『"ランク0"さんじゃん。相変わらずだよな。』

卑しく…見下した笑みが聞こえる。
男子生徒は既に実習を終えているのだろう。その光景を見てどこか優越感に浸るような表情を浮かべていたのは理解っていた。

『ちょっと応用入ったくらいでコレだからなぁ。』

嗚呼……煩い。
相手にするのも面倒だ。ここで相手にしたところで、何の意味もありゃしない。

彩紀 心湊 > 『またか、彩紀。』と先生はため息をつく。
嗚呼…ダルい。またと言いたいのはこっちのセリフだ。
また、そんな顔を私に向ける。

「…はい。」

まあ、話は簡単だ。
私は示された魔術を習得できなかった。
算数で示すのなら、(1+1)×3みたいな。基礎の基礎のほんのちょっとした応用。
誰でも学べ習得できる可能性がある魔術において、そんな簡単なものも出来ないのだから周りの反応も納得はできる。

『筆記だけやってりゃ良いってもんじゃないだろう。』と先生は言う。
先生としても、頭痛の種ではあるのだろう。筆記はそれなりの点数を取る生徒が実習になると途端にやる気が無くなったように何も成果をよこしてこないのだから。

彩紀 心湊 > 別に、私だって全く素質がなかったのなら学ぶことはなかっただろう。
一年の頃だったか。
なまじ、基本とも言える魔術だけは容易に扱えたし、それまでは実習もなにか言われることもなかったし、むしろその習得は周りと比べれば速かったと覚えている。

「……失礼します。」

魔術もまた、体質に寄って必ずしも習得出来るものでもない…とはわれているが、そんな体質のものなどそもそも最初からこの授業を受けないし、だからこそ比べられもしない。

去りゆく後ろで声がする。
『あいつ、あんなで祭祀局の方によく入れたなあ』
『見栄でも張りたかったんじゃ?』
なんて。

「……バカバカしい。」

私に対する見下した目は一部の層に限ったものというのは理解っている。
しかし、それも少なくない数ではある。
自分より出来ない人間を見て、安心するのは一つの習性であるからして。

彩紀 心湊 > …元から本が好きには違いなかったし、筆記試験が苦というわけでもなかった。
しかし、そういった者たちは『筆記も出来なかったら落ちこぼれもいいところだろ』と嗤う。
例え、彼らより高い点数を取ったとしてもその対応は変わらない。
体育の授業で筆記だけ出来て、実技は全くな人間が周りから認められるかと言われれば否だろう。

なにより、好きな本を読む時間すらも影では実習が出来ないから悪足掻きをしている。などという物言いをされて。
…2年の頃辺りは、内心穏やかではない日々を過ごしたものだ。

「……。(息抜き…したいな。)」

始まったばかりの試験ではあるが、誰にも言えないような愚痴をココロの中で零す。
ちらりと、ガラスを見て自分の顔を確認する。
僅かに眉をひそめてはいるが、表情は歪んでいない。
ちゃんと、振る舞えていることにちっぽけな自尊心は安堵しながら彼女は今日の試験会場を後にした。

ご案内:「実習試験会場【イベント】」から彩紀 心湊さんが去りました。
ご案内:「実習試験会場【イベント】」に白亜 愛さんが現れました。
白亜 愛 > 筆記試験ーー普通。
実習試験ーー試験中。
運動試験ーー試験中。

異能ーー不明。
魔術ーー回復(常時発動)。確認済み。
特殊能力ーー不明。

瞬発力ーー凡人。
持久力ーー

「先生!!あああと何周走ればいいですかぁ!!も、う数えてないんですけど!!」

不明。

白亜 愛 > 持久力テストのためにトラックをずっと走っている。
今何周目かも忘れたけど。

魔術のおかげで疲れは回復していくので、こんな風にずっと走ってられるのだが。

「終わらないです!!先生!!」

疲れるまで頑張れーしか言って来ないですあの先生。
ある種の拷問では?

白亜 愛 > 「ぅぁーもういいですよね……それなりに点数とれますでしょ……」

体力より精神が疲れそうなので数周してから切り上げ。
運動テストが終われば残りの日は遊んでいいわけだし、さっさと終わらせよう。

「ぇ、シャトルランと、は反復横跳びが残ってる゛……?え゛ぇ」

人によって試験内容は違うっていうけど、これは、ない。
やるけど。

白亜 愛 > 「とりあえず、それぞれ飽きるまでやりますか……ぅ゛ぇ」

とりあえずシャトルランから。
今日の最高記録は259回らしい。
そこ目指して頑張りますか……。

「いち、に、さん……」

うーん地獄。

白亜 愛 > 「……はっ。先生、今何回目です?」

ほぼ無意識で体を動かしていた。
何かを考える気も無くなっていたとも言う。

返ってきた答えは634回。ついでにお昼時だから休めと。
普通に目標を超えていたようで。

「それじゃ購買にでも顔を出しますか……」

え?ということはご飯食べたあとに反復横跳び?死ぬのでは?

「ぅぇ゛……ほどほどで切り上げて遊んでゃる……」

ご案内:「実習試験会場【イベント】」から白亜 愛さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 >  
「ハァあ……ガっ……はっ……!!」

研究生、日下部理沙は呼吸を乱していた。
全身に疲労を感じながら、膝に両手をついて汗を地面に垂らしていた。
普段よりしっかりと結んだ茶髪。
カチューシャまでつけてオールバックにしている。
運動用の軽装に身を包んで、運動靴と室外訓練場のグラウンドに汗で染みを作っている。
それくらいに疲れていた。
理沙は今、飛行訓練中だった。

日下部 理沙 >  
飛行訓練。そう、理沙はそれを望んで受けていた。
とはいえ、理沙の翼は自前とはいえただの重りでしかないので、これで飛ぶことは不可能である。
そのため、理沙の飛行訓練は丙種物理干渉魔術・風種第二階梯魔術を用いたものとなる。
至極簡単にいえば、重力制御である。
それで簡単な物理干渉と操作を行い、何とか飛行しているのだ。
継ぎ接ぎもいいところである。
無論、翼も一応動かしはする。
これで角度をつけること空気抵抗を調節し、より効率的に飛行するのだ。
皮肉にも、背に生えた翼はまるきり無駄なものではなかった。
 

日下部 理沙 >  
しかし、だからといって。

「ほんと……キッつい……!!」

人体が飛行に耐えうる構造をしていないことは既に太古から分かっている。
背に翼が生えたホモサピエンスでしかない以上、理沙の体は飛行するためには出来ていない。
それを無理に飛ばしているのだ、疲弊しないはずもない。
魚を無理に地上に放り出すようなものだ。

「あ、あと……2セット……」

意識を集中させて、コードを組み直す。
これがしんどい。
ただでさえ全身運動で疲れているのに、頭も動かし続けなければいけない。
しかも、ある程度の高度を飛行しなければ訓練の意味がない。
それなりの高度まで上昇したうえで、そこでもずっと身体と頭を動かし続ける必要がある。
そして、そのどちらかでも疎かになれば……待っているのは物理法則にしたがった自由落下だけである。
当然、タダでは済まない。

日下部 理沙 >  
「よし……」

疲れ果てた体と頭でコードを組み、飛行を開始する。
理沙の身体がふわりと浮遊し、翼の羽搏きに合わせて上昇していく。
重力を制御すれば、空気も水と似ている。
大きな翼でそれを捕らえて、魚が水面に向かうように天へと向かう。
そして、5mほど上昇したところで。

「あがっ!?」

しくじった。集中が途切れた。コードが霧散する。
浮力を失った理沙の体はあれよあれよという間に地面へと巻き戻され。

「ぐえっ!!」

そのまま、叩き落された。
軽い打ち身ですむ。
咄嗟に広げた翼による空気抵抗と、地面に予め敷かれたマットが無ければ危なかった。
……まぁ、理沙はこういう怪我も慣れている。
何度も今まで落ちているのだから。

日下部 理沙 >  
「……一回休もう」

ぽつりとつぶやいて、マットの上で天を見上げながら溜息を吐く。
マットに汗が染み込んで気持ちが悪い。
それでも、全然立ち上がる気にはなれなかった。

「……」

周囲の有翼人達から、嘲笑が漏れる。
まぁ、無理からぬ事だろう。
生来飛べる彼等からすれば、理沙の醜態は子供でも晒さないような無様である。
以前、教官にきいたところ、彼等の中で理沙くらいの失敗をするのはせいぜい幼稚園児程度のものらしい。
しかも、彼等は体重が軽い関係と、咄嗟にホバリングして衝撃を和らげることも出来る関係で、例え幼かろうと理沙ほど馬鹿みたいな落ち方はしない。
幼稚園児以下ということだ。
まぁ、失笑も当然だろう。

日下部 理沙 >  
いつものことなので、理沙も気にしない。
いや……まるで気にしないなんて事はないが……気にしても仕方ない。
翼が生えている理沙が悪いのだ。
切り落としても何度でも生えてくるこの翼が悪いのだ。
どうしようもない。
そういう風に「なって」しまったのだ。
憂うだけ無駄である。
……だいたい、努力すれば一応先程のように飛行自体はできるのだ。
見た目相応の実力を身に着ければ済むだけの事。
……一生、身につかないかもしれないが。

「……」

天高く、はるか上空で鳶が飛んでいる。
ぐるぐるとゆっくりと旋回する鳶の優雅な飛行を見ながら、理沙は独り言ちる。

「……まぁ、お前だってそう『生まれた』だけだもんな」

羨みは、しなかった。

日下部 理沙 >  
毎日翼を切り落とすという手もあるが、それをすると恐らく死ぬ。
毎日腕を切り落とせというようなものだ。
そんな度胸も痛覚耐性も理沙にはない。
しかも、この翼は生える時も痛いのだ。
そのくせ、生えてこのサイズになるまで有する時間はせいぜい半日。
やってられない。
血と根性がいくらあっても足りない。
少なくとも、理沙には足りない。

「……」

だから、やはり『飛ぶ』しかないのだ。
嘲笑に……我慢が出来ないのなら。
男として、少しくらいカッコつけて生きるためには。

日下部 理沙 >  
「あ、やべ……」

意識が混濁を始める。
魔術の使い過ぎだ、体も疲弊しきっている。
元々、理沙はどちらも素養があるわけじゃない。
やらなきゃ仕方ないからやってるだけだ。
そこに負荷を叩きこめばどうなるかなんて、わかりきった結果でしかなく。

「……まぁ、マットの上なだけ……マシ……」

意識が途切れる。
微かな寝息だけが、理沙の口から洩れ続けた。

日下部 理沙 >  
 
…… 
 
 

日下部 理沙 >  
大きな、入道雲が見えた。
上のほうが青く霞んでいる山。
カルガモ以外見たこと無い川。
誰も歩いてない土手っぺり。
濃い草の匂い。
死ぬほどうるさい虫の鳴き声。
サイクリングロードのアスファルトの上で干乾びてる蛇。

ああ、これ、夢だな。

他人事みたいに、理沙は思った。
もう何年も帰っていない、故郷の情景を見ながら。

日下部 理沙 >  
へぇ、飛べるんでしょそれ? いいじゃん。

すぐ隣でクラスメイトが笑っていた。
この子は中学校で一方的に好きだっただけなので、喋ったことは一度もない。
当然、こうして土手の上を歩きながら、真夏に話をしたこともない。
だから、やっぱりこれは夢だった。
そも、向こう制服だし。
制服でこんなところ歩くわけないし。
通学路全然違うし。
歩いてたとしても隣は間違いなく理沙じゃないし。

私も翼とか……欲しかったな。

この子じゃない誰かが言った言葉が吐き出される。
誰が言ったかなんて覚えてない。割と何度も言われた。
だから、やっぱりこれは夢だった。

日下部 理沙 >  
虫の鳴き声がうるさかった。
噎せ返るような雑草の青い匂いが苦しかった。
理沙は今の姿のままだった。当時の姿じゃなかった。
まるで、落第したんだからやり直せと言われたような気分だった。
仕方ないとしか思えなかった。
夢だし。

ねぇ、飛んで見せてよ、いいでしょ?

良くないし飛べない。
俺は今疲れてるんだ。
無茶言わないでくれ。
でも、理沙も男なので……まぁ、好きな子の前で位はいいカッコしたいじゃん?
片思いでもなんでもさ。
だから、理沙は飛ぼうと思った。
無理すれば出来ない事もないし。
まぁ、こんな格好なんだから「出来ない」っていうのもアレだし。
前はずっとそう言ってた気がするけど、前は前だし。
今じゃないし。
今は少しくらい飛べるし。
だから、快諾してコードを組み直す。
どうやるんだっけか。
夢だからいい加減だった。
どうでもよかった。

日下部 理沙 >  
で、結果はどうかといえばやっぱり飛べなかった。
疲れてるし。
浮きもしなかった。
なんか、意味深に唸ってるだけだった。
なんだこれ。

……飛べないんだ、残念。

いや、違う、違うんだ。
俺は飛べる、飛べるんだ。
飛べるようになったんだ。

飛べないなら、そんな翼なくしちゃいなよ。

なくせねーよ。
なくせたら苦労なんかしないよ、こんな島に島流しなんてくらわないよ。
なかったらこんなところ来なかったよ。
こんな事しなかったよ。
絶対違う事してたよ、だって俺、将来の夢とか……まぁ、無かったけど。
それでも、なんか、絶対違うことしてたよ。
異能者なんて言われずに済んだよ、異邦人なんて間違われずに済んだよ。

日下部 理沙 >  
 
ダサいね。
 
 

日下部 理沙 >  
「……」
 
理沙は青い空を眺めていた。
滲んだ青い空を。
口内と鼻腔に広がる塩味を感じながら。
ああ、なんか……前にプールで溺れた時、こんな味したな。

「……ダッサ」

マットから起き上がる。
酷く、気怠かった。

ご案内:「訓練施設」から日下部 理沙さんが去りました。