2020/07/14 のログ
ご案内:「訓練施設」に東雲 七生さんが現れました。
東雲 七生 > 訓練施設の片隅、ジャージにタンクトップというラフな格好で東雲七生は訓練施設をうろついていた。
正確にはうろついているのではなく、
実習試験を終えて明らかになった自身の課題と向き合っている生徒をこっそり覗き見しつつ回っているのである。
様々な異能、様々な魔術、様々な生徒。
中には知り合いの顔もあり、そう言う相手にはこっそりと手を振って挨拶して次の部屋へ。

特に目当てがあるわけでもない。
一訓練終わったから気紛れに回っているだけである。
そう言ってしまうと、ただうろついているだけになりそうだが、本人は見学と言い張るので、これは見学なのだ。

そんな風にして、東雲七生は訓練施設内をうろついていた。

東雲 七生 > 「はー、やっぱすげえなあ。
 何年も居るけど、毎年見た事ない異能とか出てくるもんなー」

ほへー、とか、はへー、とか気の抜けるような感嘆を漏らしながらとっとこ歩いていく。
東雲七生、二年生。学校に籍を置いてもう5年近く経つが二年生。
学年が上の後輩も、年齢が下の上級生も、わりといっぱいいる二年生だ。
その辺の事情は複雑なのであんまり本人は語りたがらないし、
周囲も察して詮索しようとしてこない。なので今日も、東雲七生は二年生として常世学園に在籍している。

東雲 七生 > 『あ、シノノメせんぱーい。』
「お前らもう四年じゃねえか!先輩はお前らなの!」

七生が最初の二年の時に後輩だった面々に手を振られた。
釈然としないものを覚えつつ、軽口を飛ばしながら手を振り返す。
二学年上の後輩。そっか、順当に進級してたら俺もう卒業してんのか。

「……いやまあ、あと三年くらいは居たいし、居るつもりだけどさ……」

まだまだ学び足りない事がある。
ゆえに七生は、今年の進級も蹴るつもりで居た。単位も十分足りているにもかかわらず、だ。

ご案内:「訓練施設」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
東雲 七生 > 「うーん、異能の試験かー……」

自分の異能について思いを馳せながら、空き室の前で七生は足を止めた。
誰も居ない部屋の中に、ジャージの上着が脱ぎ捨てられている。
その周囲には複数のスーパーボールが転がっており、一見子供の遊び場めいていた。

「異能の試験なー……」

実のところ試験自体は毎回受けているし、毎回合格判定を貰っている。
今年も難なくパス出来るだろう、とは七生自身も分かっていた。
──学校に申請している分、は。

紫陽花 剱菊 > 同刻、同じくして訓練施設を歩く男が一人。
男は教師ではないが、其の技術を飼われて訓練試験官を命じられていた。
公安からの通達と在れば、此方は断る理由も今は無い。
一通りの実技試験は見届けた。異邦人である男の顔は浮かない。

「……学び舎と言うよりは、養兵場だ……。」

乱世の世、己のいた世界でも似たような光景を見た事が在る。
試験と称して、自らの異能を披露させるこの試験。
異能の訓練とは強化以前に、制御の名目も在る。
戦闘向けでない異能も、専用の試験官を用意して見定める。
だが、果たして必要以上に異能の開花が必要なのか……。
乱世に生き、そして民草を愛するからこその憂い。
そんな男の静かな足取りは、少年東雲の前で足を止める。

「……どうも、生徒の方と見受ける……試験の方は、如何かな……?」

会釈。
そして、東雲へと声をかけた。

東雲 七生 > 「んぁっ、ど、どうも。」

ぼんやりと考え事をしていたら近くに人が居た。
ハッと我に返りながらも、軽く会釈を返す。
……えーと、誰だったかな?と首を傾げて、相手をじーっと見つめる。
相手の口ぶりだと、どうやら初対面の様だ。だよな、そうだよな、と一人納得して。

「試験?……あー、流石にもう慣れて来たから、そこまで苦戦はしてない感じ!」

座学も、実技も。優秀とはいかなくとも平凡よりは少し上くらいの成績を残してはいる。
全く素養の欠片も無い魔術周りはそもそも履修していないけれども。

「えっと、其方は……先生…じゃないよね?」

教師だったら粗方顔を覚えてる。でも見覚えが無いとくれば。
生徒か生徒以外か、赴任したての教員かのいずれかだ。
ゆるやかに首を傾げたまま、声を掛けてきた男へと訊ね返す。

紫陽花 剱菊 >  
「左様か……ともすれば、学園に居て長いと見受けられる。」

見た目だけで言えば些か若く見えるが、其の明るい声音に嘘は感じない。
見る限り自らの担当した生徒ではなさそうだ。
そもそも、其の赤毛、目立つ色は印象に残るだろうし。

「……重畳、研鑽を怠らぬ其の姿勢は賞賛に値する……。」

少なくとも虚勢で無ければ、良き成績を残していると判断した。
そして、男は其れを信じた。
静かで、不愛想な仏頂面だが穏やかな雰囲気を醸し出している。
東雲の問いかけに如何にも、と一礼。

「公安委員会所属、紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)……如くも無き男で在り、試験官の一人……。」

東雲 七生 > 「あ゛ー、うん、まあ。割と長いこと居るね。」

1年ほど休学してみたり、かと思えば自主的に留年してみたり。
それでいて委員会にも部活にも属さず、一般生徒を地で行く日々。
風体以外にはこれと言って目立った行動も最近はしていないので、模範的な生徒に片足を突っ込みつつある。
そんな二年生。東雲七生。

「あはは……まあ研鑚と言うほど大したことはしてないけど。
 普通に授業受けて普通に試験受けて、普通にパスしてるだけだから。」

せめてもう少し、成績上位に食い込めないかなとは常思う。
ただそうすると目立ってしまうので、結局今のままでも良いかとも。
そんな内心の葛藤を眉間の辺りに表立たせつつ、七生は苦笑した。

「へ、へえ!公安!……そうなんだ、アジバナさん。試験官の。
 なるほど、試験官。へー、公安の人が試験官することもあるんだ。」

生徒でも無かった。教員でも無かった。
それでも学園の関係者であったし、しかも試験官ならば。

「じゃあ、そのうち試験の担当になったりするかもしれないんだ。」

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

「怠惰に成らぬ程度に、程々にな……。」

人間息抜きも大事なので、そう言う事ならそれはそれ、と言った具合だ。
其れでも釘は差しておく。怠惰は学生のうちの敵。
口うるさい、お節介だ。

「其れが出来るから良いと言うもの……与えられた課題をこなす事こそ、学生の本分……。
 己が本分を出来てこそ、とは言うが、褒められない理由には成らない……。」

出来た事に対しては褒美を、労いを掛ける。
人として在るべき形と男は思う。
其の苦笑いに、男は小さく頷いた。

「……其れより上を目指すので在れば、己が力を研磨するより他成らず……近道は無い。」

自らを高め、心身ともに鍛え上げる。
物事はハッキリと、口にするタイプのようだ。

「……偶然だ。試験官の数合わせ……人より多少武に精通しているだけだ……。
 手放しに褒められるほどの技量は持ち合わせていない……。」

頂きと比べるのであれば、一合目に至ったかも怪しいものだ。
溜息交じりに、男は静かに首を振る。

「……実技、実戦的ものであれば、或いは……其の程度しか、本分としないが故に……。」

東雲 七生 > 「そりゃあ勿論。
 毎年幾つか違う授業受けたりしてマンネリにならないようにしてんだから!」

へへん、と胸を張る。
お陰で様々な教師に顔を覚えられてしまって迂闊な事が出来ない身体になっていたりもする。
まあ、性根が性根なので素行不良に走ったりとかはしないけれども。

「え、えーっと……ありがとう、ございます?」

どうにもアジバナさんは言い回しが独特だなあ、と首を傾げる。
おまけに表情もさほど変わらないものだから、一体何を言われたのかと聞き逃しそうになる。
ともかく、今のは謙遜するなという意味合いだろうと捉えて、七生は小さく頭を下げた。

「あはは……まあ、地道にってことね。」

学業で頂点を狙いたいと言う気持ちは不思議と湧かない。
ただ、自分の目標の為にはある程度の学力も必要なのだろうな、と思った次第で、
どうせ勉強するなら少しは良い成績を残したい、程度のつもりだったのだが。
やっぱり何事も楽な道は無いって事かー、と分かっていたことながら小さく肩を落とす七生。

「あ、そうなんだ。たまたまかぁ。
 まあ、うん。なんか武芸者って感じはするけど、なるほどね。」

試験官の数合わせまでするとは公安も大変だな、と密かに同情する。
日頃風紀や公安といった委員会とは極力関わらないようにしてる七生だったが、こういう時くらいは良いかもしれない、と。

「実技かあ……うーん、じゃあ異能の実技試験とか、諸々の護身術の試験とか、その辺かなあ。」

球技の試験とかなら流石に試験官しないだろうし、と笑みを浮かべて。

紫陽花 剱菊 >  
「…………。」

"其れよりも卒業はしないのか?"
と、口に出かかったが止めておいた。
此の学園の仕組みがわからない以上、下手な口出しは無用。
だが、男の中でもしや、留年が当たり前なのか……?と言う疑念が浮かび始めた。コラ。

「……うむ……。」

其の通りだと言わんばかりにまた頷いた。
男もまた、何方かと言えば地道な研鑽を積んだようにも見える頷きだ。

「……武芸者だが、端くれに過ぎず、武士(もののふ)と言うには私に覇気は無い……。」

言葉通り本当に物静かで、武人らしい猛々しさとは無縁の風体。
謙遜か、或いは言葉通りなのか。
男にとっては、言葉通りだ。

「然り。……時に……。」

黒い双眸が、相手の瞳を覗き込む。

「……気のせいで在れば流してくれ。時に、何か悩みでも……?」

彼を見かけた時、何か試験に対して引っかかりを持っているように見受けられた。
大よそ勘と言ってしまえば其れ迄だ。
ただ、武を修めたものの機敏か、何かしら彼の中で燻ってるやも知れないものを感じ取ったのだ。
男の、水底の様に暗い瞳が、じっと其の赤を見据えている。