2020/08/02 のログ
ご案内:「演習施設」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
ご案内:「演習施設」に227番さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
実習区演習施設。
夏の日差しの炎天下の日差しが未だ照り付ける夏真っただ中。
暇の刻、在る少女との約束を果たす為に少女と共にこの広いグラウンドへとやってきた。
雑木林と青々と生い茂る草木。日照りに晒されて地面はすっかり乾ききっている。
「……此の辺りで良いか。なな、暑くは無いか……?」
少女、227の手を引く剱菊が足を止め、静かに尋ねる。
鉄の如き冷たい体温は、この猛暑の中ではより一層冷たさを感じるだろう。
■227番 > 手を引かれ知らぬ土地にやってきた少女。
興味深げに周りをきょろきょろと見回している。
今日は探偵ルックではなく、ワンピースにキャップ。
つまるところ、いつもよりも薄着だ。麦わら帽子は動きづらくなるのでやめたらしい。
「……暑いけど、へーき」
もともと落第街にいた頃は冷房どころか扇風機すら無かったのだ。
数年あそこで暮らした少女は、慣れている。
まぁ、ひんやりつめたい手をきゅっと握ってるのは、
快適な場所を求める猫の習性によるものかもしれない。
■紫陽花 剱菊 >
しかし、如何にもこの島の夏は蒸し暑いと言うべきか。
この様な環境でよくよく暮らせて行けたものだ。
気温を考えると、ほんの少しばかり故郷が恋しくなるものだ。
「……左様か。此度は訓練故、在る程度実践想定、在りのままで動いて頂くつもりだが……。」
「倒れてしまっては元も子もあるまい……此れを使われよ。」
懐から取り出したるは、常世学園で配布されている冷符。
此の一枚で快適な涼しさがやってくる便利なものだ。
道具程度、此の程度なら何時でも持ち歩けるので誤差の範囲だ。
そっと227へと、符を差し出した。
「さて……先ずは如何様に教えたものか……私もまだ未熟の身故
教え子を其方を含め二人預かるのも、大概だと思うが……。」
力の使い方。言うは易し、行うは難し。
さて、と指先に顎を添えて思案を巡らす中、ふと思い出す。
「嗚呼……そう言えば、言いそびれていた。」
なんだかんだ、ごたごたしていた。
"あれ"を言われた以上、返すのが道理。
227へと向き直り、水底のように暗い瞳が青い瞳を見下ろす。
「……"ただいま"、なな。」
送り出してくれた人の一人として、此の礼節は弁えるべきだ。
穏やかな表情で微笑み、一礼。待っていてくれて、ありがとう、と。
■227番 > 「……?つめたい」
よくわからない物を手渡され、しばらく眺めた後、
これの機能を理解して、ぺたぺたと触って。
おもむろに胸元を少し広げて懐に入れた。なんともまぁ無防備。
腰部分に絞りのあるワンピースのため落ちることはないようだ。
「ふたり?」
自分以外にも居るのか。頼りになるなぁなんてちょっとずれた事を思いながら、
続く言葉にはこう返す。
「わたしも、言って、なかった……"おかえりなさい"」
見つめ返す青い瞳は細められ、体を少し傾けた。
■紫陽花 剱菊 >
「ん……。」
先ずは一つ使命を果たした安堵感。
約束を一つ、此処に果たされた。
「……学園からの賜物。猛暑を防ぐには最適かと……。」
一応学園関係者には配られる物らしい。
剱菊は使う必要がないので使わないが
此れから動く相手には必要なものだろう。
「…………。」
見てましたね。思いきり、黒い双眸がじっと見てましたね。胸元。
「……まな板……。」
おまけになんかぼやいたぞ。
今日の失言大将はコイツで決まりだな。
「……成り行きでは、あるがな。さて……なな、先ずは其方の能力を把握したい。
如何様にまで動けるか……"あれ"で試してはくれまいか?」
ともあれ、訓練とも成れば気持ちは瞬時に切り替える。
二本指を立て、一つ念じれば数十メートル先に現れる人型の木偶。
施設の機能だ。ある程度魔術に精通していれば大よそのものには対応し
仮想敵を作り出す事が出来る。
見た目は木偶だが、重さは人と相違無く
「……あれを全力で"取り押さえて"みてくださらないか……?」
■227番 > 保護者的にはクーラーのある家に居て欲しいはずなので、
持たされていないのだろう。多分。
「まないた?」
猫の耳はしっかりとそれを拾うが……よく分かってないぞ。
言葉の意味も、自分の無防備さも。
「……あれって?」
と言うより早いか、木偶が目の前に現れた。
他に誰も居ないと思っていたため、少し跳び上がって驚いてから、
それが人形であることがわかり、ふうと一息。
「"取り押さえ"……?」
どういうことだろう。
この間教えてもらった、肩や足を狙えということだろうか?
「殺すのは、取り押さえ、とは、ちがう……よね」
確認を取る。
■紫陽花 剱菊 >
「……まな板……。」
頷いた。復唱した。
此の場に第三者がいれば今頃逮捕されている。してくれ。
さて、ともかくとして、思ったよりも彼女は物を知らないようだ。
己の大概人の事は言えないが、"其の区別"もつかないか。
ふむ、思案を巡らし頭を振った。黒糸のような髪が細かに揺れる。
「如何にも……生かしたまま、取り押さえる。
此れは、力を御する訓練で在れば
其方が如何様迄動けるか把握しておく必要が在る……。」
静かに木偶を指差した。
「……例題だ。"あれ"は此方に気づいていない。
即ち、不意を突ける。但し、見ての通り幾何か距離が在る。
即座に近づかねば、"不意打ち"は成立すまい……。」
「"不意打ち"が"不成立"成れば、殺さねば止まらない相手と仮定せよ。
……油断する人間は取り押さえるのは、易い事。
あれを"乗りかかる様に倒せば"良い。」
「其の上で、突きつけるのだ。己の"刃"を。
優位性を取り、刃で戦意を削げば、余程阿呆ではない限り抵抗はすまい。」
「……出来るか?なな。」
■227番 > 危険からはとにかく逃げることを選択していた少女は、
不意に思い出すことになった"殺し"の方法しか、戦い方を知らない。
「生かした、まま……」
先手を打つ攻撃など、したことがない。
前述の理由により、そうなることはまず無かった。
真剣な表情で、話を聞く。
「わからない……とりあえず、やってみる」
手を爪を立てる形にして、姿勢を低く構える。瞳孔が丸くなり、木偶を見据える。
さながら、獲物を狙う猫のように。
それから音もなく地面を蹴ると、ひと跳びで目標に取り付く。
キャップが勢いについていけず落ちる。耳が顕になる。
勢いで倒すことには成功するだろう。しかし、そこからどうすれば良いのかわからない。
言われたとおり"爪"を突きつけてみるも、
それは小さな少女の手としか見えないだろう。
困ったように、剱菊に視線を向ける。
■紫陽花 剱菊 >
後は事の経緯を見守るのみ。
獣の様に跳ね上がる少女の体躯。
成る程、此の辺りの機敏は獣と相違無く
ともすれば速さと柔軟性には目を見張るものがある。
勢いをつければ、大抵の人間はあの木偶と同じようには出来るはずだ。
……力ばかりは、少女の見た目相応か。
瞬きする事も無く、水底からじっと少女の一挙一動を見逃さない。
そして、困った視線を向けられるとはにかんだ。
そればかりは、"知らなければ致し方ない"。
「……重畳。」
静かな足取りで227へと近づき、道すがら拾い上げたキャップを優しく頭にかぶせた。
「……天晴な動きだったが……其れでは直ぐに抵抗される……。」
227の傍へと寄り添うように、膝を付き
いつの間にか握られた銀の小太刀の切っ先が、素早く木偶の首元に向けられる。
「……こうだ。其方のような嫋やかな女子に教えるのは
憚られるが……"脅かす"成れば、"分かりやすさ"が何よりも……。」
■227番 > 正確に飛びかかる距離の目算。音もなく飛びかかる隠密性。
蹴った勢いをそのまま使える脚力。高くは跳ばない無駄の無さ。
……何かを目的とした場合に有用なものが、体の機能や身のこなしに揃っている。
「……」
剱菊が持ってきたのは小太刀……つまり、武器。
持っているだけで威圧が可能なもの。自分だって警戒するものだ。
自分の武器は、目には見えない。ただの手に見える物を見せつけても、意味がなかった。
「わかりやすさ」
なるほど。
見せても意味がないのであれば、見せなければ良いのか。
見様見真似で、木偶の首筋に爪を当ててみる。
■紫陽花 剱菊 >
「……うむ。」
悪くはない。
此の状況なら、とりあえず取り押さえる形にはなった。
「……武器のみ成らず、目で、口で、圧で、『己の優位』を示すと良い……。」
其れを示す様に剱菊はわずかに目を見開いた。
獣の様に細まる瞳孔、蒸し暑い空気を押し返すような冷ややかな殺意を
木偶へと注視して向けている。間近にいる227にも其れは感じる事が出来るだろう。
明確な脅し。……もし、其の辺りの機敏に敏感で在れば
特に剱菊は『躊躇いが無い』今は脅しだが、もし一つ何か違えれば瞬時に『殺す』準備は在る。
そう言う価値観、機敏。其処に一切合切の史上は無く、機械のように過程を得て結果を導くだけ。
隣にいるのは確かに人だが、紛れもない『異邦人』
決定的に、通常の人間と『何か』が違う。
故に、今は其れを自覚するからこそ
「……が、此れは飽く迄『脅し』通じぬ相手は、逃げた方が穏便に済む……。」
"其処まで"真似されぬように、憂いを帯びたように釘を刺した。
立ち上がり、小太刀を一振りすれば霞となって消える。
「……さて、今のは飽く迄不意打ちで在る。
不意を突ければ、今の機敏を忘れぬ事だ。
必要と在らば、武器を見せるよりも"当身"も必要だが……。」
227のつま先から頭頂部までじ、と見回す。
大よそさっきの憶測通りだとは思うが…一応、確認してみるか。
「……なな。思いきり打ち込んでみてはくれまいか?」
掌を227へと向けてみせた。
■227番 > 「ゆうい……」
言葉で聞いてもわからないが、目を見て理解する。
……何処かで知っている目だった。何処かはわからないが。
自分に向けられていれば竦んでいたかもしれない。
木偶に視線を戻し、自分ならどうするかを考える。
「……、」
口で何かを示すのは苦手だ。であれば、目で訴えるしか無い。
"お前を殺す事ができる。今はそれをしないだけ"
そう意識するために、"殺し方"をイメージする。
一瞬だけ、少女の目が金色に変化した。もちろん本人はそれに気付かない。
剱菊が立ち上がると、意識は木偶から離れる。
続くように自分も立ち上がると、手のひらを見せられる。
「……打ち込んで?」
首を傾げて、説明を求める。
教えてもらえれば、グーで思い切りやるだろう。
それは体の特性上勢いの力が乗っている分、同じ見かけぐらいの少女のものよりは
衝撃はあるものの、やはり少女相応のものだろう。
大人相手には通用しない、弱々しいものだ。
ご案内:「演習施設」に雨見風菜さんが現れました。
■雨見風菜 > 普段訓練施設に足を運ばない風菜。
だが、今日はなんとなくやって来れば。
「ふつなちゃん……と、男の人?」
見知った少女と見知らぬ男性を見つけた。
どうやら訓練中のようだ。
■紫陽花 剱菊 >
一度瞬きすれば、水底の黒が戻ってくる。
ふと、横目で見やった時に見えたのは"金"。
艶やかな金色。本当に獣の様な底冷えする"何か"。
「なな……?」
思わず、眉を顰めた。
其れは何だ、という前に弱々しい拳が撃ち込まれた。
矢張り、力だけは及ばず。
脚力だけなら、あの跳躍力を鑑見れば在るだろう。
蹴られれば十分な威力は発揮する。
其の上で爪は鋭利。
獲物を仕留めるには速さも在れば十分か。
大よそ、彼女の戦力の見積もりは付いた。
「…………。」
叩かれた手を軽く握っては開く。
「……なな、体力に自信の程は?」
■紫陽花 剱菊 >
と、訪ねた矢先誰かがやってきた。
見た目相応からして、学生か。
風菜の方を向けば、口元に二本指を立て、一礼。会釈だ。
「……どうも。」
■雨見風菜 > 「あ、どうも」
会釈してきた男性に、こちらも返す。
豊満な胸が揺れる。
■227番 > 「……?」
名を呼ばれれば、いつもどおり首をかしげる。
その瞳はいつもの青。
本当に一瞬の出来事である。
「たいりょく? あんまり……」
猫の筋肉は瞬発力に優れるが、持久力に掛ける。
部分的とは言え、その特性を持っているために消耗は激しい。
……とはいえ、路地裏の頃もこっちに来てからもずっと街を歩いて鍛えられているので、年相応程度はあるのだろう。
と、剱菊が誰かに声をかけるのを見れば。
「ふーな?」
頭の上で大きく手を振る。
■紫陽花 剱菊 >
「……知り合いか?」
現れた少女は、227の反応を見るに知り合いと見て、227に尋ねる。
さて、ともすればどうしたか。
余り知り合いに見せるような事でも無いが、一応実習区。
隠す事も無いと言えばそうだ。
両腕を組んで、肘を軽く人差し指で叩きながら思案中。
「成る程……。」
体力の程に自信は無し。
聞けば聞く程、"ますます正面から加減できる技量"とは言い難い。
かといって、心湊のように必要以上に力を与えるのは
彼女の場合些か抵抗がある。
さて、どうしたものかと思いつつ、風菜の方を向き直ればもう一度会釈。
「……失礼。見ての通り、訓練中だ。
……私は紫陽花 剱菊(あじばな こんぎく)。其方は……?」
■雨見風菜 > 227が手を振ってくるのでこちらも手を振り返す。
「私は雨見風菜と言います。
ふつなちゃんとは仲良くしてます。
まあ、ここに居る以上は訓練ですよね」
苦笑しつつ。
風菜自身、特に何をしようと思ってやってきたわけではない。
■227番 > 「うん、あっちに、いたときから、知り合い」
あっち。つまり落第街の事。
何やら考えている剱菊を見上げたり、
ふーなの方に視線を向けたりとせわしなく動く。
自己紹介は不要なので、二人の様子を見ながら、
爪をぶんぶんと振り回したりしている。風切り音がなる。
■紫陽花 剱菊 >
「……然り……。」
然もありなんだ。
訓練以外と此処を利用すると成れば偵察か
或いはもう多分死ぬ程実習区が好きな人かもしれない(偏見)
「…………。」
物凄く爪を振り回している。
227 は やるき に みちあふれている !
さて、かくも鋭利な爪で在れば狙おうと思えば狙えるか。
『何処』を『どの程度』の力で切り裂けるか。
ともかく、先ずは『加減』を覚えてもらえれば其れで良い。
「……左様か。然るに、風菜と言ったな?多少、動けるだろうか?
問題無くば、ななの訓練に付き合って頂きたく思う……。」
■雨見風菜 > (ふつなちゃんはやっぱり可愛いなぁ)
のんびりそう思っていると。
「訓練に、ですか……。
あまり自信はありませんが」
逃げ足には自信があるが、身体能力はさほど高いわけではない。
同年代の平均程度で異能が使えるというだけだ。
だが、まあ227のためだと思えば付き合ってみようかとは思えて。
■227番 > 「ふーなが……?」
その手が得意そうには見えない。
というか、227の中では一般学生でもかよわい方の認識である。
大丈夫なのかな、と首をかしげる。
■紫陽花 剱菊 >
「……此れも何かの縁……本来であれば一対一を想定していたが
余り見せるだけ、というのも忍びない……。」
即ち剱菊なりの歓迎である。
やり方はともかく、見知った顔と共に砂を噛んで頂ければやる気も沸くだろうという打算だ。
「……さて……」
改めて二人へと向き直れば、人差し指で己の体を指していく。
「……人体の急所は幾度にも渡る……人相手であれば、狙いやすく、最低限の傷で動きを抑制できるのは即ち……。」
指先を肩口へ。
「此処か……。」
指先を腿へ。
「此処……。」
肩口は損傷を与えれば腕の動きの抑制。
腿は同じく損傷すれば足の動きの抑制。
特に、足側には其れ以外にも多くの急所は多い。
人体とは、即ち理解すれば急所だらけ。
狙いやすさだけで言えば胴体だが、同時に死に至りやすい。
故に先ずは、狙いを絞る。
「……狙いづらいなら胴体を執拗に狙うのも良いが、加減を間違えれば即座に死……。」
「……先ずは加減無しで良い。私を二人で……どうぞ、如何様にでも襲うと良い。」
静かに、告げる。
■雨見風菜 > 「なるほど……」
剱菊の講釈に聞き入る。
そうして訓練の内容を伝えられれば。
「二人がかりで」
敵いっこない、と言うのは簡単。
じゃあどうするか。
227との連携ができればいいが、こちらはド素人もド素人。
(……あれ、でも)
自分の異能の特性に、把握していない部分があるんじゃあないだろうか。
そう考えて。
「ふつなちゃん、前をお願いします」
言って、『糸』を使い。
227の頭上へと『糸』を放ち、剱菊の足元に放つ。
そうして、中空にピン留めするイメージ。
そのイメージ通りに、『糸』が張られる。
張られた先は227が足場にしやすいように。
そして剱菊が進めば足を引っ掛けるように。
「やっぱり、できた」
■227番 > いわゆるぶつかり稽古だ。
そんな言葉は227は知らないが。
「……こんぎくに……?」
正直、ちょっと怖れがある。やりすぎてしまわないかという、怖れ。
しかし相手を信用もしているので、大丈夫なのだろうと思い……
「わかった」
爪を立てる手を作り、姿勢を低く構え、青い瞳でじっと剱菊を見る。
後ろから、糸が伸びてくる。それを視界に入れつつも、相手から目は離さない。
「前、分かった」
……しかし、飛びかかれない。
青い瞳はじっと相手の隙を探している。
本能か身に染み付いた経験か。
今行っても確実に往なされる事を感じ取って、動けずに居た。
■紫陽花 剱菊 >
教育とかされた側から受け継がれるもの。
武芸百般。乱世の世で育った剱菊にされた教育とは"此れ"だ。
体で覚えるのが手っ取り早いと言えばそうだが、女性相手には中々。
そんなんだからもう一人の弟子にも怒られるのだが、そんな事には気付かない。
「……私には『やりすぎ』で丁度良い。
飽く迄、加減を覚える訓練成れば、上から下げていくのが私なりのやり方……。」
心底を見透かすように、静かな声音が告げる。
瞬きもせずに、じっと二人を見据える黒。
行住坐臥を武に置く男成れば、加減はすれど手は抜かない。
如何に打ち込んでこようが、此の体は"動く"。
張り巡らされる糸に動じる事無く、其の場の景色に溶け込みように剱菊は佇む。
静かな気配だ。227の機敏には感心するが、此れでは訓練に成らない。
では、『動かそう』
剱菊の方から、糸があるにもかかわらず前へと大きく踏み込んだ────!
■雨見風菜 > 動かない227。
『糸』があるにも関わらず進んでくる剱菊。
「っ!?」
嫌な予感がして横っ飛び。
もっと距離を離して挟み撃ちにできればいいけれども、それでも難しいのは言うまでもない。
227の足場用の糸は張り終えた。
剱菊の動きを妨げるようにも張ったが、効果は薄い気がする。
二本の『糸』を一度切断し、今度は『糸』の貫通力で攻撃を狙う。
一本に針を付け、二度軌道を曲げて剱菊の足を狙う
227が動くんじゃないか、という方向を開けて、剱菊の左肩を注視して『糸』のみで狙う。
果たしてこの素人考えが通るかどうか。
■227番 > 「──」
動いた。
反射的に体が動く。獲物を狙っていた猫のように。
227にはまだ連携というものがわからない。もうひとりが合わせてくれているとは気づきもしない。
地面を蹴り足場の方へ跳び上がり……さらに足場の下側を蹴る。
糸の弾力さえも活かして、勢いをつけて急降下。
加減無しでいいと言われているのだから、全力で──"脚を殺す"つもりで、狙うは脹脛。
その瞬間、またも一瞬だけ見える金色の瞳。
狙いは正確。ただ、それが届くとは限らない。
■紫陽花 剱菊 >
戦場とは、戦いとは常に不条理なもの。思い通りには行かぬもの。
其の中で常に最善手最善手、出来る事を一手一手詰めていく。
動きを制限されるなら、其の中で出来る事をする。
文字通り、其の合間を素早く縫うように、剱菊の姿が迫る。
当然、狙い通り向こうも動いてきた。
風菜の視線を肩で感じるが、この目に映る糸の軌道とは違う。
耳に聞こえる風切り音は227の音か。
─────成る程。
「…………。」
先ずは足を狙う其れを地面を蹴り飛ばし僅かに飛んで回避し
"予想通り、其の金色の瞳と目が合った"。
否、一つだけ違うとすれば目の色。
獣の瞳。成る程、"良くはない"。
だが、とりあえず良いだろう。
急降下する其の小さな体を、右手を添えて僅かにずらした。
『回避の為の動きではない』
結果、狙い通り脹脛を爪が切り裂いた。
鮮血が噴き出し、辺りに散らばり地面を、糸を赤く染める。
但し、ずらした結果"致命傷"には成らず、かといって"軽傷"とは言えない。
溢れる血もどくどくと溢れ、『脚として機能を削いだ』
放っておけば大事に至る程度の傷。
『実戦の空気で、其の手にしかと傷の感触を残させた』
余りにも『手っ取り早く、体に覚えさせる方法』
即座に戦力を、感覚を覚えさせる危険な訓練。
才なくば片側は無事では済まないが、剱菊は其の獣の力をある種、信用していた。
鮮血を踏みつぶし、無傷の右足を軸に体躯を僅かにずらす。
重心を右へと傾けて、即座に足を庇った。唯の癖だ。
「─────なな。」
凛とした声音が熱した空気を震わせる。
獣の"奥"の少女へと呼びかける。
「……"今の"感覚を、覚えられたか?」
■雨見風菜 > あっさり『糸』を避けられた。
やっぱり熟練者は違うと思ったのもつかの間。
227の攻撃で鮮血が迸る。
「えっ、大丈夫ですか!?」
慌てて『糸』で傷口を縫おうとする。
■227番 > 赤が飛び散る。
振り下ろす頃には青に戻った瞳が、驚きを湛えて見開かれる。
避けると思っていたから。
相手の体の捌きを見て、後ろに跳ねる。
過去の少女なら、そのまま体を捻って警戒しつつ、
二の撃を狙っていたかも知れないが、そうはならなかった。
「そ、んな」
衝撃を受ける。
どんな形であれ、信用している知り合いに爪を立てた……というより、殺意を込めて傷をつけてしまったことに。
「……覚えてる、けど、血……」
知っている感触と、少し違う。
手のひらに一度目をやって、剱菊の足を見やる。
■紫陽花 剱菊 >
「……問題無い。死に至るには浅い。」
そういう問題ではないのだが、剱菊にとっては『其の程度』の問題でしかない。
訓練程度の怪我など些細なもの。戦場で在れば、少なくとも
己の世界では死なねば一矢報いるも、逃げるも、可能性が在れば実行している。
余りにもずれの大きな異邦の価値観。一重に、『己の命』を軽視している結果に過ぎない。
少なくとも前よりは大事にしているが、其れでも充分過ぎる程軽んじている。
「……忝く。」
"そんな事"よりも、風菜の手を煩わせる事に申し訳なさが立つ。
かといって、厚意であれば無碍にも出来まい。
抵抗することなく、手当てをさせ、227へと向き直った。
「……なな。」
何も変わらない。
静かで、穏やかな声音で其の名を呼んだ。
震える少女の声音の意味は、何となく分かる。
「……如何許りか。戦いとも成れば、"そうもなる"。」
少なからず殺さずと言えど、殺意無くば人は傷つけられず
無傷のまま相手を無力化するのは、余程の技量差か例外が無ければ、必定。
身を以て、というが、少女にやるような事ではないと気付かない。
だが、わかるとも。そう、一時自分が麻痺させていた感覚の一つ。
「……『其の痛みを忘れるな』」
人を傷つける痛み。
人を殺しかけない痛み。
心に人在れば、誰もが其処を痛めるはず。
「……故に、加減に至ろうと、互いに痛み分けは必然……
だからこそ、『畏れ』を忘れず、必要と在らば爪を研ぎ澄ます覚悟を持て……。」
「其方が『守りたい』と真に願うので在れば、『己が傷つく』事を心得よ。」
ままならない事だが、大小少なかれ、そう言う事になる。
余りにも、余りにも不器用で……。
「……おいで、なな。私は大丈夫だ。其方は、怪我はないか……?」
……余りにも不器用で優しい教え。
穏やかな微笑みを浮かべ、227へと手招きする。
■雨見風菜 > 「いや、死ななくても血がいっぱい出てるから心配はしますよ」
風菜はよく分かった。
この人、生きてる世界が違う。
この世界で戦うとかいう世界じゃなく、戦乱の世の人だ。
「これで良し、と」
傷口を『糸』で縫い終わる。
自然治癒力の一助になり、いずれは彼の肉と同化するだろう。
なお、傷を直接埋める『触手』は激痛があるため相手の了解を得ない場合は使わないのが風菜だ。
■227番 > 「……痛みを、忘れるな」
大時計塔で、他ならぬ眼の前の彼前に教えてもらった
殺したことへの向き合い方と同じ。
それはつまり……。
必要であれば。相手を止められなければ。
「かくごを持つ……」
殺すことも仕方ない。そして、受け入れるしかない。
何かと"戦う"ということはそういうことなのだろう。
「……わかった。」
少女は深く頷く。
いくらか歪んだ形で、その教えを受け取ってしまった。
それから、大丈夫の言葉と手招きを受ければ、
「よかった……ふーなも、ありがとう」
と、安堵の表情を浮かべながら寄ってくるだろう。
■紫陽花 剱菊 >
「……そうなるように、仕向けた。故に、心配無用。」
死ななければ良いという訳では無く
訓練は得てして怪我をする。
当たり前の事を心配する必要は無い。
現代で言えば、余りにも無茶苦茶な考えやもしれない。
「……済まない。手を煩わせた。しかし、便利だな……。」
止血を終えた風菜の『糸』
攻防一体の動きだけでは無く、治療にも使えるようだ。
興味深そうに、血の止まった己の傷口を一瞥。
寄ってきた227の方に視線を移せば、静かに見据える。
「然り……然れど、『先ずは己が目標を忘れるべからず』……。」
戦う以上、剱菊にとって『覚悟』を持つことは当然。
だが、其の覚悟は『活人』か『殺人』か、或いはもっと別の意味か。
ともかく、斯様な覚悟は一緒くたには出来ない。
ともすれば、227が最初に願った事は何か。
先ずは、彼女に其の教えを一つ。
「そして、『己に呑まれるな』」
「其方は、其方……思いを馳せると良い。其方の"周り"を……。」
戦人故の機敏か。227の見せた"あの目"。
……嫌にかつての己と既視感を感じる。
杞憂で在れば、其れで良い。
だが、其れは確かに彼女の中に『居る』
故に二つ目の教え、『修羅に非ず、己も人』
護ると決めた根源こそ、今の227を繋ぎ留めるものだと
其の縁の意味をしかと、釘を刺す様に教える。
些か、真摯だが不器用で口下手、おまけにこの喋り方。
伝わるかはともかく、心意気さえ汲めれば伝わるやもしれない。
「……理解してくださるか?」
そっと、右手で227の頭を撫でようとする。
「……風菜も、忝く存じ上げれば……何か、お礼を……。」
と、左手で風菜の頭を投げようとする。
ついつい227と接するかのような扱いが出てしまったのだ。
■雨見風菜 > 本当スパルタだなぁと思いつつ。
「いえいえ、これが私の異能の本来の使い方ですし」
もしかしたら最初から居合わせていたら『触手』を使っていたかもしれないが。
流石にまな板二連発言は見過ごせないだろう。
無論、居合わせていなかったから知りようもないが。
そしてそのままおとなしく頭を撫でられる。
「えへへ……あ、お礼ですか?
では……また後日にでも、甘いものを奢ってもらうくらいで」
普通なら遠慮するところだが心配させられた分遠慮なく。
■227番 > 相変わらず言葉が難しいが、これにはもう慣れたもので、
少し時間はかかれど頭を回転させて意味を考えながら聞く。
「……わかってる」
今日、少女から失われたのは、どうであっても"絶対に殺さない"という選択肢。
しかし、"できれば殺したくない"ことには変わりない。
今回の訓練の目的であるそれは忘れていない。
今後も不必要な殺しは避けることだろう。
「……まわり?」
たしか……時計塔で『縁』と言っていたものがあったはずだ。
強い力を持つ、大事にすべきもの。
つまり、この爪を何のために振るうかを考える、ということだろう。
何となく理解出来た。
"刀"からの教え。むべなるかな。
「……うん。大丈夫」
撫でられれば、目を細めて体を揺する。
それから、訓練が終わりと感づいたら、冷符を取り出そうとする。
胸元から。
■紫陽花 剱菊 >
「……後は、其方次第……。」
教えるべきは教えた。
後は力を蓄えるのみ。
「……此度は、此れ迄。次回もまた……。」
護る為の戦い。
ともすれば、手を貸さない理由はない。
己如きで良ければ、幾らでも戦い方の訓練は行おう。
「ふむ……然るに、私も食べたいから丁度良い……。」
未だ見果て辿りつけぬ抹茶ババロア。
今度こそ食べられる時が来るだろうか。
では、此れ迄と解散しようと共に帰路へと向かおうとした矢先。
「…………。」
普通に227の胸元みちゃうんだなぁ~~~これが。
■雨見風菜 > 「そうですか、それは良かった」
剱菊さんも甘い物好きで良かった、と思えば。
その本人は227の胸元へ視線が向いている。
「ちょっと剱菊さん?
流石にふつなちゃんみたいな小さい子の胸を見るのはどうかと思いますよ。
私ならともかく」
おい最後。
■紫陽花 剱菊 > 「…………。」
■紫陽花 剱菊 > 「何か違いが……?」
訝しげに言い放った。
いうに事欠いてそれか???
■227番 > 「……?」
冷符を取り出し終わって手に持ったまま、首を傾げてやり取りを見ている。
■雨見風菜 > 剱菊の発言に。
「剱菊さん、ちょっと眼科に行ったほうが良いんじゃないでしょうか」
流石にバスト三桁16歳とまな板と称した10歳少女との違いがわからないなら大問題だろう。
誰だってそう思うはずだ。
■紫陽花 剱菊 > 「…………。」
「なら、そうしよう……。」
「参ろう、なな……。」
……なんか真に受けちゃったーーー!!
そしてそのまま227の手を引いてきっと実習区を後にした……。
■227番 > 「……???」
よく分かってなかった。完!
ご案内:「演習施設」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
■雨見風菜 > (あ、それで良いんだ……)
風菜、何も言わず見送って、遅れて訓練施設を後にするのだった。
ご案内:「演習施設」から雨見風菜さんが去りました。
ご案内:「演習施設」から227番さんが去りました。